ナツ(フェアリーテイル)
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1.光の魔導士
フィオーレ王国、マグノリアに位置するは、魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)。
この日新たに仲間として迎えられたルーシィ・ハートフィリアは、心底興奮した様子でナツの腕を乱暴に振り回していた。
「あっちにも、あっちにも…あ!あそこいるのミラジェーンじゃない…!?」
「耳元でうっせぇぞ、ルーシィ」
「だって!皆雑誌で見た有名な魔導士よ!?ミラジェーンなんて、生で見ても超美人~…」
まるでファンのように歓喜しているルーシィは、魔導士になりたい一心で、偶然出会ったナツ・ドラグニルを追いかけここへやって来た。
昼間だというのに酒を飲んだり、賭け事をしたり、ついには乱闘を始めたり。一見荒くれ者の多いギルドだが、仲間を家族として大事にする気の良い奴等だ。
と、ルーシィに説明したナツも例に漏れてはおらず、喧騒をかき分け近付いてきた男を目にするとガタッと立ち上がった。
「おいナツ、お前ついにロアを諦めて女に走ったか?」
「っ、グレイ!てめ、頭掴むな!」
グレイ・フルバスター、彼もフェアリーテイルの一員で、兼ねてからナツとはライバル関係にある。
グレイは乱暴にナツの桃色頭を鷲掴み、それを跳ね退けたナツは今にも殴りかかりそうな勢いでグレイを睨みつけた。
「んだよ、やんのか?」
「いや?別にそういうつもりじゃねぇよ。よお、ルーシィだったか。ナツのこと宜しくな」
にこりと目を細めた上裸の色男に、ルーシィは「はぁ」と意味もわからず頷く。
しかしその意味を理解するよりも前に、ルーシィの大きな目が更に大きく見開かれた。
「待って、ロアって、光のロア!?」
「ん?まぁ、そう呼ばれてるな」
「っ!ナツ、知り合いなの!?先に言ってよ!」
声を高くしたルーシィは、その有り余る感情の昂りをナツの背中へばしばしとぶつける。
されるがままに背中を強く叩かれたナツは、勢いよくテーブルに突っ伏した。
「な、なんだあ!?急に!?」
「光のロアといえば、綺麗、格好良い、強いを兼ね備えた超エリート魔導士じゃない!どこにいるの!?」
きょろきょろと辺りを見渡すルーシィに、思わずナツとグレイの視線がぶつかる。
その二人の視線はゆっくりとギルドの奥にある階段へ移動した。
「ロアなら、まだ上で寝てんじゃねーか?」
「上?ってギルドの2階?」
「ロアは変な輩に目ェつけられやすいからな、最近はずっと上に引きこもってるぜ」
二人の視線の先を追えば、吹き抜けがあり、辛うじてその奥にあるドアが見える。
ルーシィはそこを見上げ、感動した様子で溜め息を零した。
光のロア…雑誌で稀に特集されるその人物は、その通名の通り光を起源とした魔導士だ。
生まれながらにその力を持った彼の金の瞳と金の髪は特に美しく、魔導士ファンの間では有名な一人として知られている。
「なぁに?ロアの話?」
話が聞こえていたのだろう、ミラジェーンが優雅な足取りで近付いてくる。
興奮モードとはいえ本人を前にし一瞬口を噤んだルーシィだったが、その手は再び意味もなくナツの腕を叩いた。
「いって!痛ぇよ、ルーシィ!」
「あら、随分と仲良しなのね。ふふ、ちょっと待っててね」
コツコツとこれまた優美に、ミラジェーンが階段を上がっていく。
それを見送るルーシィの口からは嘆声が零れていた。ついでに何を整えるのか、数回咳払いして背筋を伸ばす。
「なんかドキドキしてきた!あの光のロアに会えるなんて…」
「ロアってそんなに有名なのか?」
「そりゃそうよ!実在するの?ってくらい綺麗で、実際のところ目撃情報も全然ないでしょ?実はCGなんじゃないかって、噂されるような存在よ!?」
鼻息荒く訴えるルーシィに、ナツは首を傾け、グレイはうんうんと首を縦に振った。
「確かに、ロアは綺麗だよな。あの目には何度見たってドキドキさせられる」
「そーか?綺麗ったって、ンな特別なもんじゃなくねぇ?」
「テメェは見慣れてるだけだろ。ずりぃんだよ、いっつもロアを独占しやがって」
やけに突っかかるグレイに、ナツも「喧嘩なら買うぜ」と迎え打つ。
慌ててルーシィが割って入ると、そのナツの顔の向こうに、キラと光る金の糸が見えた。
「ほら、叩き起こしてきたわよ」
ミラジェーンの声に、ルーシィはナツを片手で押しのけた。
なびく金の髪。揺れる白いワンピース。…え、ワンピース?
思わず二度見した後、ミラジェーンの腕にもたれかかった人の足先から頭の上までじっくりと凝視する。
明らかに女性物の服の下に、ぴったりとしたズボンを履いている。金の髪が肩にかかる様は一見女性だが…ルーシィは雑誌で彼の上裸を見た事がある。間違いなく男性だったはずだ。
「まだ寝てたから、適当に服着せてきちゃった」
「おいおい、せめてもうちょっとマトモなの着せてやれよ…」
「ほら、ロア起きて。フェアリーテイルに新しい子が来たのよ」
ミラジェーンの手がとんとんとロアの背中を叩く。
どうやら、この人が本当にあの”光のロア”らしい。見た目のイメージに反し、眠そうに唸ったその声は、低く掠れていた。
「もう、ロア?ナツが連れてきた子よ。ちゃんと挨拶した方が良いんじゃない?」
「え、ナツが…?」
唐突にばっと顔を上げたロアは、そのボサボサ髪を片手でかき上げた。
指通りの良い髪は、一度掌で撫でるだけで整い、サラサラと金糸のように光る。
開いた瞳はまるで宝石を埋め込んだように輝き、ルーシィは言葉を失ったまま彼の動向を観察していた。
「何…ナツが?ナツが連れて来た…って、一体どういうことだよ」
「へ?」
「へ?じゃねぇだろ!お前、こんな可愛い子連れ帰ってなんだ、何様だよ、ナンパしたのか!お前が!?」
端正な顔立ちで、色白な肌に、低すぎず高くない声。中性的な雰囲気纏う彼の細腕は、乱暴にナツの顔を掴んだ。
むぎゅと頬を挟まれたナツは、唇を尖らせたまま「違う違う」と左右に振った手で表現する。
「は?何言ってっか分かんねーよ」
「だ、だっから、違ぇって!ルーシィがギルドに入りてぇって言うから…!」
「一丁前に言い訳か?つか仕事引き受けんなら俺に声かけろっつったろ!それも含めて後でみっちり聞くかんな!それよりお前…」
ナツから手を離したロアの目が、ルーシィへと移る。
角度が変わった瞳の色が変わる様は、まさに光を反射して光った宝石だ。などと感動している場合ではなく、ルーシィは思わず背筋を伸ばして「はい!」と緊張気味に返した。
「っと、ごめん。名前なんだっけ?俺はロア。気軽にロアって呼んでくれ」
「あっ!は、はい!私はルーシィって言います!」
「え?はは、そんな堅苦しくなくていいよ。宜しくな」
にこっと微笑んだロアは、これまでの雰囲気から一転してあどけなく映る。
ルーシィは少し照れながらロアの手を取り、思わず乗り出してロアの瞳を覗き込んだ。
「本当に綺麗…こんなに綺麗だなんて、信じられない…」
ただ色素が薄いだけではなく、深い色がグラデーションを作っている。
ベージュ、黄色、茶色、薄い緑や、オレンジもその中にある。
「ほらナツ見てよ!この綺麗な色!」
「は?んなの、知ってるって」
ルーシィはナツの腕を執拗にぺしぺしと叩き、ナツはそれを振り払うこと無く苦笑いを浮かべた。
まるで付き合いの長い友人のような二人に、ミラジェーンは微笑まし気に目を細める。
一方で、ロアは困惑を露わにして二人から目を逸らした。
「なんだよ…、よ、用はそんだけか?それじゃあ、俺は部屋戻るから」
「ロア、どうせ暇なんだろ?この後付き合えよ」
「は?やだよ、もう疲れたし寝る…ってか何だよこの服、俺だってこんなセンス悪くねぇぞ」
ロアは自身の頭をぽりぽりとかき、肩に置かれたグレイの手を払いのけた。
ぴらっとスカートを揺らし背を向けると、ロアの顔を見たギルドメンバー達が嬉しそうに声を上げる。
「よお久しぶりだな!」「こっち来て呑もうぜ!」そんな声も払い退けたロアは、のっしのっしと二階に戻っていった。
「も、もしかして…私、何か良くないこと言った…?」
「いや?アイツ、綺麗って言うとスゲェ照れるんだよな。それじゃね?」
「い、言われ慣れてそうなのに!?」
驚き隠せず息を呑むルーシィは、ぼんやりと階段の上を見つめていた目を自身の手に移した。
思いの外、力強く大きな手だった。握った手は熱く、鼻先は爽やかな香りがくすぐった。その口調だとか態度だとかは、ちょっとイメージとは違ったけど。
「…いや、言われ慣れてはねぇ、と思う」
今見た光景を頭の中で整理していたルーシィは、ぽつりと何かに気を遣うような声に顔を上げた。
ナツはどこか遠くを見て、息苦しそうに顔を歪めている。
「な、ナツ?」
「あー…気にすんな。コイツ、ロアがフェアリーテイルに来た時の事、思い出してるだけだから」
「あの子、あの見た目で苦労してたみたいなの。まぁ、さっきの態度はそれと関係ないと思うけどね」
ルーシィは喉まで出かけた「聞きたい」の一言を、ごくりと飲み込んだ。
家を出て魔導士ギルドに所属する…その理由は人それぞれだ。ルーシィのそれもまた、人に語れるものではない。
ナツに引っ張られる形で落ち込んだルーシィに、ミラジェーンの手がとんと背を擦った。
「それはともかく。ルーシィ、生で見たロアはどうだった?」
「あっ…えっと、全然イメージと違くって…びっくりしました」
「そうね。ナツやグレイに挟まれて、口悪く育っちゃったから」
ミラジェーンの何気ない言葉に、ナツとグレイが睨み合う。互いに「テメェのせいだ」と押し付け合う二人は、ロアにとって兄弟のような存在だ。
そしてロアのことを優しい顔で語るミラジェーンは、姉のような存在。
ルーシィは彼等の深い関係を察し、噛みしめるように息を吸い込んだ。
「でも…仲良くなれそう。これから、皆と…!」
魔導士ギルド、フェアリーテイルは変わり者が集まる場所だ。それぞれの過去も未来も、認め受け留め、共に歩んでいく。
これから始まる物語は、夢と希望に溢れているのだ。
…という感動が、ルーシィの胸に満ちる。
その時、ガタガタと物が落ちる音が天井を揺らした。
「あらら、荒れてる」
「だから…さっきロアの態度はそういうんじゃねぇだろって。気付かねぇとこも腹立つ」
続いて響いた音は、恐らく枕を壁に叩きつけた音だ。
はーっと溜め息を吐いたグレイは、毒気を抜かれた様子でその場を去り、ミラジェーンはフフと笑いながらギルド奥のバーカウンターへ戻っていく。
各々の態度と未知の2階。ルーシィは順番に目で追った後、探偵のように顎に手を当て、訝し気に眉を寄せた。
(第一話・終)
追加日:2018/10/07
フィオーレ王国、マグノリアに位置するは、魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)。
この日新たに仲間として迎えられたルーシィ・ハートフィリアは、心底興奮した様子でナツの腕を乱暴に振り回していた。
「あっちにも、あっちにも…あ!あそこいるのミラジェーンじゃない…!?」
「耳元でうっせぇぞ、ルーシィ」
「だって!皆雑誌で見た有名な魔導士よ!?ミラジェーンなんて、生で見ても超美人~…」
まるでファンのように歓喜しているルーシィは、魔導士になりたい一心で、偶然出会ったナツ・ドラグニルを追いかけここへやって来た。
昼間だというのに酒を飲んだり、賭け事をしたり、ついには乱闘を始めたり。一見荒くれ者の多いギルドだが、仲間を家族として大事にする気の良い奴等だ。
と、ルーシィに説明したナツも例に漏れてはおらず、喧騒をかき分け近付いてきた男を目にするとガタッと立ち上がった。
「おいナツ、お前ついにロアを諦めて女に走ったか?」
「っ、グレイ!てめ、頭掴むな!」
グレイ・フルバスター、彼もフェアリーテイルの一員で、兼ねてからナツとはライバル関係にある。
グレイは乱暴にナツの桃色頭を鷲掴み、それを跳ね退けたナツは今にも殴りかかりそうな勢いでグレイを睨みつけた。
「んだよ、やんのか?」
「いや?別にそういうつもりじゃねぇよ。よお、ルーシィだったか。ナツのこと宜しくな」
にこりと目を細めた上裸の色男に、ルーシィは「はぁ」と意味もわからず頷く。
しかしその意味を理解するよりも前に、ルーシィの大きな目が更に大きく見開かれた。
「待って、ロアって、光のロア!?」
「ん?まぁ、そう呼ばれてるな」
「っ!ナツ、知り合いなの!?先に言ってよ!」
声を高くしたルーシィは、その有り余る感情の昂りをナツの背中へばしばしとぶつける。
されるがままに背中を強く叩かれたナツは、勢いよくテーブルに突っ伏した。
「な、なんだあ!?急に!?」
「光のロアといえば、綺麗、格好良い、強いを兼ね備えた超エリート魔導士じゃない!どこにいるの!?」
きょろきょろと辺りを見渡すルーシィに、思わずナツとグレイの視線がぶつかる。
その二人の視線はゆっくりとギルドの奥にある階段へ移動した。
「ロアなら、まだ上で寝てんじゃねーか?」
「上?ってギルドの2階?」
「ロアは変な輩に目ェつけられやすいからな、最近はずっと上に引きこもってるぜ」
二人の視線の先を追えば、吹き抜けがあり、辛うじてその奥にあるドアが見える。
ルーシィはそこを見上げ、感動した様子で溜め息を零した。
光のロア…雑誌で稀に特集されるその人物は、その通名の通り光を起源とした魔導士だ。
生まれながらにその力を持った彼の金の瞳と金の髪は特に美しく、魔導士ファンの間では有名な一人として知られている。
「なぁに?ロアの話?」
話が聞こえていたのだろう、ミラジェーンが優雅な足取りで近付いてくる。
興奮モードとはいえ本人を前にし一瞬口を噤んだルーシィだったが、その手は再び意味もなくナツの腕を叩いた。
「いって!痛ぇよ、ルーシィ!」
「あら、随分と仲良しなのね。ふふ、ちょっと待っててね」
コツコツとこれまた優美に、ミラジェーンが階段を上がっていく。
それを見送るルーシィの口からは嘆声が零れていた。ついでに何を整えるのか、数回咳払いして背筋を伸ばす。
「なんかドキドキしてきた!あの光のロアに会えるなんて…」
「ロアってそんなに有名なのか?」
「そりゃそうよ!実在するの?ってくらい綺麗で、実際のところ目撃情報も全然ないでしょ?実はCGなんじゃないかって、噂されるような存在よ!?」
鼻息荒く訴えるルーシィに、ナツは首を傾け、グレイはうんうんと首を縦に振った。
「確かに、ロアは綺麗だよな。あの目には何度見たってドキドキさせられる」
「そーか?綺麗ったって、ンな特別なもんじゃなくねぇ?」
「テメェは見慣れてるだけだろ。ずりぃんだよ、いっつもロアを独占しやがって」
やけに突っかかるグレイに、ナツも「喧嘩なら買うぜ」と迎え打つ。
慌ててルーシィが割って入ると、そのナツの顔の向こうに、キラと光る金の糸が見えた。
「ほら、叩き起こしてきたわよ」
ミラジェーンの声に、ルーシィはナツを片手で押しのけた。
なびく金の髪。揺れる白いワンピース。…え、ワンピース?
思わず二度見した後、ミラジェーンの腕にもたれかかった人の足先から頭の上までじっくりと凝視する。
明らかに女性物の服の下に、ぴったりとしたズボンを履いている。金の髪が肩にかかる様は一見女性だが…ルーシィは雑誌で彼の上裸を見た事がある。間違いなく男性だったはずだ。
「まだ寝てたから、適当に服着せてきちゃった」
「おいおい、せめてもうちょっとマトモなの着せてやれよ…」
「ほら、ロア起きて。フェアリーテイルに新しい子が来たのよ」
ミラジェーンの手がとんとんとロアの背中を叩く。
どうやら、この人が本当にあの”光のロア”らしい。見た目のイメージに反し、眠そうに唸ったその声は、低く掠れていた。
「もう、ロア?ナツが連れてきた子よ。ちゃんと挨拶した方が良いんじゃない?」
「え、ナツが…?」
唐突にばっと顔を上げたロアは、そのボサボサ髪を片手でかき上げた。
指通りの良い髪は、一度掌で撫でるだけで整い、サラサラと金糸のように光る。
開いた瞳はまるで宝石を埋め込んだように輝き、ルーシィは言葉を失ったまま彼の動向を観察していた。
「何…ナツが?ナツが連れて来た…って、一体どういうことだよ」
「へ?」
「へ?じゃねぇだろ!お前、こんな可愛い子連れ帰ってなんだ、何様だよ、ナンパしたのか!お前が!?」
端正な顔立ちで、色白な肌に、低すぎず高くない声。中性的な雰囲気纏う彼の細腕は、乱暴にナツの顔を掴んだ。
むぎゅと頬を挟まれたナツは、唇を尖らせたまま「違う違う」と左右に振った手で表現する。
「は?何言ってっか分かんねーよ」
「だ、だっから、違ぇって!ルーシィがギルドに入りてぇって言うから…!」
「一丁前に言い訳か?つか仕事引き受けんなら俺に声かけろっつったろ!それも含めて後でみっちり聞くかんな!それよりお前…」
ナツから手を離したロアの目が、ルーシィへと移る。
角度が変わった瞳の色が変わる様は、まさに光を反射して光った宝石だ。などと感動している場合ではなく、ルーシィは思わず背筋を伸ばして「はい!」と緊張気味に返した。
「っと、ごめん。名前なんだっけ?俺はロア。気軽にロアって呼んでくれ」
「あっ!は、はい!私はルーシィって言います!」
「え?はは、そんな堅苦しくなくていいよ。宜しくな」
にこっと微笑んだロアは、これまでの雰囲気から一転してあどけなく映る。
ルーシィは少し照れながらロアの手を取り、思わず乗り出してロアの瞳を覗き込んだ。
「本当に綺麗…こんなに綺麗だなんて、信じられない…」
ただ色素が薄いだけではなく、深い色がグラデーションを作っている。
ベージュ、黄色、茶色、薄い緑や、オレンジもその中にある。
「ほらナツ見てよ!この綺麗な色!」
「は?んなの、知ってるって」
ルーシィはナツの腕を執拗にぺしぺしと叩き、ナツはそれを振り払うこと無く苦笑いを浮かべた。
まるで付き合いの長い友人のような二人に、ミラジェーンは微笑まし気に目を細める。
一方で、ロアは困惑を露わにして二人から目を逸らした。
「なんだよ…、よ、用はそんだけか?それじゃあ、俺は部屋戻るから」
「ロア、どうせ暇なんだろ?この後付き合えよ」
「は?やだよ、もう疲れたし寝る…ってか何だよこの服、俺だってこんなセンス悪くねぇぞ」
ロアは自身の頭をぽりぽりとかき、肩に置かれたグレイの手を払いのけた。
ぴらっとスカートを揺らし背を向けると、ロアの顔を見たギルドメンバー達が嬉しそうに声を上げる。
「よお久しぶりだな!」「こっち来て呑もうぜ!」そんな声も払い退けたロアは、のっしのっしと二階に戻っていった。
「も、もしかして…私、何か良くないこと言った…?」
「いや?アイツ、綺麗って言うとスゲェ照れるんだよな。それじゃね?」
「い、言われ慣れてそうなのに!?」
驚き隠せず息を呑むルーシィは、ぼんやりと階段の上を見つめていた目を自身の手に移した。
思いの外、力強く大きな手だった。握った手は熱く、鼻先は爽やかな香りがくすぐった。その口調だとか態度だとかは、ちょっとイメージとは違ったけど。
「…いや、言われ慣れてはねぇ、と思う」
今見た光景を頭の中で整理していたルーシィは、ぽつりと何かに気を遣うような声に顔を上げた。
ナツはどこか遠くを見て、息苦しそうに顔を歪めている。
「な、ナツ?」
「あー…気にすんな。コイツ、ロアがフェアリーテイルに来た時の事、思い出してるだけだから」
「あの子、あの見た目で苦労してたみたいなの。まぁ、さっきの態度はそれと関係ないと思うけどね」
ルーシィは喉まで出かけた「聞きたい」の一言を、ごくりと飲み込んだ。
家を出て魔導士ギルドに所属する…その理由は人それぞれだ。ルーシィのそれもまた、人に語れるものではない。
ナツに引っ張られる形で落ち込んだルーシィに、ミラジェーンの手がとんと背を擦った。
「それはともかく。ルーシィ、生で見たロアはどうだった?」
「あっ…えっと、全然イメージと違くって…びっくりしました」
「そうね。ナツやグレイに挟まれて、口悪く育っちゃったから」
ミラジェーンの何気ない言葉に、ナツとグレイが睨み合う。互いに「テメェのせいだ」と押し付け合う二人は、ロアにとって兄弟のような存在だ。
そしてロアのことを優しい顔で語るミラジェーンは、姉のような存在。
ルーシィは彼等の深い関係を察し、噛みしめるように息を吸い込んだ。
「でも…仲良くなれそう。これから、皆と…!」
魔導士ギルド、フェアリーテイルは変わり者が集まる場所だ。それぞれの過去も未来も、認め受け留め、共に歩んでいく。
これから始まる物語は、夢と希望に溢れているのだ。
…という感動が、ルーシィの胸に満ちる。
その時、ガタガタと物が落ちる音が天井を揺らした。
「あらら、荒れてる」
「だから…さっきロアの態度はそういうんじゃねぇだろって。気付かねぇとこも腹立つ」
続いて響いた音は、恐らく枕を壁に叩きつけた音だ。
はーっと溜め息を吐いたグレイは、毒気を抜かれた様子でその場を去り、ミラジェーンはフフと笑いながらギルド奥のバーカウンターへ戻っていく。
各々の態度と未知の2階。ルーシィは順番に目で追った後、探偵のように顎に手を当て、訝し気に眉を寄せた。
(第一話・終)
追加日:2018/10/07
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