藍沢湧太郎(夢色キャスト)
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7.心に蓋をして
一歩足を踏み入れると、コツンと固く冷たい音が微かに響く。
大好きな場所だ、この場所に来ることを、毎日楽しみにしていた。
しかしこの日、ここに自身を運ぶ足は、拒絶するように重かった。
やっとの事で到着すると、いつも通りにドアは咲哉を受け入れ勝手に開く。
数週間ぶりにアートシアターつばさの床を踏んだ咲哉は、途端に体が凍り付いたように固まった。
「綺麗…」
思わず感嘆の溜め息と共に声が零れる。
蛍光灯を反射して輝く床、指を這わせばキュッと気持ちの良い音が鳴りそうなカウンター。
人々を受け入れる準備が万全に済まされた会場だ。
劇場に入るまでの身近な道程にすら胸が躍る。これから自分は劇団ジェネシスの舞台を見るのだ、と浮足立つ気持ちを後押しするよう。
ここに俺がいなくたって。
「あ、咲哉くん!」
咲哉を呼び止めた声は、疑う余地もなく藍沢湧太郎のものだ。
視界に映すことなく彼を特定した咲哉は、ゆっくりと首だけで振り返った。
「藍沢さん、おはようございます」
「おはよう。やっぱり君がいると違うな。朝から元気が出るよ」
格好良い大人の男性である藍沢が、にっこりと可愛らしく微笑む。
その姿に引き寄せられるように振り返った咲哉は、うっとりとしたまま口を開いていた。
「…俺も、藍沢さんといると…」
幸せな気持ちになる。嬉しくて、緊張して、でもやっぱり嬉しくて、ぽかぽかする。
しかし、咲哉はその感情とは裏腹に、言葉を詰まらせ藍沢を見上げた。
「…、」
「あれ、疲れてる?」
「い、いえ!その、ちょっと久しぶりで…緊張しちゃうなって思って…」
「兄でも友人でもいい。気軽に思ってくれていいんだよ。俺だって、もうそのつもりだしね」
藍沢は本心でそれを言っているし、咲哉はそれを感じている。
それでも、咲哉は心なく「有難うございます」と頭を下げた。
教授に頼まれたから優しくしてくれるだけ、その前提は覆らない。それに、咲哉の恋心の行く宛のない状況も同じだ。
「会えて良かったよ。君にこれを渡したいと思っていたんだ」
藍沢はそんな咲哉の様子に気が付いてか、ジャケットのポケットから一枚の紙を取り出した。
「君を招待させてほしい」
咲哉は彼の流れるような所作に呑まれ、思わずそれを受け取っていた。
はがきサイズのそれに書かれた「劇団ジェネシス」の文字。その下に書かれるのは、もうすぐ初日を迎える舞台の名目と、日時と座席。
「…ッ、今度の舞台の…!い、いいんですか…!?しかもこんなに良い席で!?」
「勿論。君に見て欲しいんだ」
「っ、嬉しいです…有難うございます!」
咲哉は自分の胸にそれを抱き寄せ、腰からがばと頭を下げた。
勿論、自分でもチケットは取っているが、何度だって見たいし、取れた唯一のチケットは決して良い席ではない。
歓喜のあまりに、咲哉の目がキラキラとそのチケットを見つめる。
藍沢はそんな咲哉を見下ろし、クスと肩を竦ませた。
「良かった、少しは元気になってくれたかな」
「え…っ」
「あ、いや、勿論そういうつもりじゃなくて…ついでに、元気になってくれたらと思っていたんだ」
藍沢の掌が、優しく咲哉の頭を撫でる。
咲哉の視線は恐る恐ると藍沢を映し、その笑顔の眩しさに目を細めた。
「…、藍沢さん…俺…」
続く言葉は、咲哉の頭にはなかった。
ただ自然と彼を呼び、ただ彼の瞳に自分が映るのを見たかっただけ。
「あ、あの、有難うございます。そろそろ、行きますね」
「…あぁ。今日も頑張ってね」
「はい、藍沢さんも!公演楽しみにしていますね」
咲哉は逃げるように藍沢に背を向けた。
ドキドキと高鳴ってる胸が何を訴えているのか、咲哉は既に理解している。
嬉しいのに悲しい、楽しいのに苦しい。対の感情に襲われ、彼の前に立っていられなかった。
これが、あんなにも求めた恋だというのか。
咲哉はスタッフルームに逃げ込むと、ロッカーに額を預けて項垂れた。
・・・
稽古の合間、藍沢はぼんやりと窓の外を眺めていた。
吹き込む風が額に滲む汗を冷やす。それが心地良いのは、体が火照っているから…だけではなかった。
「あの少年の事、随分と気にかけているようですね」
「え、…あぁ、咲哉くんの事ですか。素直で良い子なので…どうしても気になってしまって」
隣に立った灰羽拓真はそう唐突に話を切り出したが、恐らく藍沢の頭の中を、知られざる手段を用いて覗き込んだのだろう。
眼鏡の奥の瞳がギラリと光る。まるで、観察対象として藍沢を見るかのように。
「最近元気がないようですが…」
「そう、なんです。最近大変なのか、疲れた様子で」
「違いますよ、藍沢くん。貴方の事です」
藍沢は意表を突かれて目を開いた。
元気がないという意識は、藍沢の中にはなかった。強いて言えば、気に病むことがあったという程度だ。
「あまりプライベートの事に口出す気はないのですが…このところ上の空が目立ってきていますよ。まぁ…芝居へ影響はないようなので、話したくなければ構いませんが」
「はは、まいったな…」
見事なものだ、と藍沢は灰羽から目を逸らして笑った。
人の心理を探る事だけでなく、話を切り出すこのタイミングはさすがだった。
「何でもないよ」と言って話を終わらせることも出来たはずだ。しかし、今の藍沢にはそれが出来なかった。
「最近、彼に嫌われてしまったような気がしていて…情けない話ですが、何というか歯痒くて…」
「あの彼が?随分と突拍子もない話ですね」
「俺自身、身に覚えはないから、余計にどうしたらいいのか分からないんです」
藍沢は灰羽のように人の心を読むのに長けてはいない。
今この状況を打破するのには、灰羽の意見が必要だ。
灰羽は「なるほど…」と顎に手を当てると、間もなく何か納得した様子で頷いた。
「…思うに。もしかしたらあの日…朱道くんが、彼に何か言ったのかもしれませんね」
「え…?」
「鈴木くんが稽古を見に来た日ですよ。朱道くん、少々彼を毛嫌いしているようでしたから。彼を入口まで送るのを買って出た事に違和感を覚えたんです」
藍沢はまさかと半信半疑で彼の声に耳を傾けた。
朱道岳は、少し捻くれたところがあっても、性根はしっかりとしている大人の男性だ。
「…まぁ、根拠のない話ですが。と、ああ、いいところに」
藍沢の態度に、灰羽も取り繕うようにそう続ける。
そして丁度良く二人の傍にやって来た朱道を、灰羽は迷うことなく手招いた。
「なんだよ」
「あの学生の話ですよ、藍沢くんお気に入りの」
「岳、咲哉くんに…何か酷いことを言ったりしてないか?」
藍沢の口から出た直球に、朱道の目が怪訝に細められる。
暫く続いた沈黙は、朱道がその「酷い事」を思い返すのにかかった時間。
しかしその時間も然程長くはなく、朱道は腕を組んで少し仰け反った。
「ああ、あれのことか?湧が気にかけてんのは教授に頼まれてるからだって話ならしたぜ」
藍沢は大きく息を吸い込んたまま呼吸を止めた。
怒りとは違う、ただ沸々と言いようのない熱が頭に上っていく。
「そ、それをあの子に言って、何になるって言うんだ。そんなの、…あの子に余計な気を遣わせるだけじゃないか」
「分かっていないのは湧、お前の方だぜ」
「どういう意味だ…?」
藍沢の声が微かに震えた、その要因は焦燥だった。
今朝に見た彼の姿、どこか逃げるように立ち去った小さな背中。罪悪感があったのだろう。
可哀そうだ。そんなつもりで声をかけているんじゃないのに、本当に、弟のように思っているのに。
「あの少年のことを思うなら、優しくしないことだな」
「…どうして、そんなことを言うんだ」
「だから分かってないって言ってんだよ。俺は忠告したからな」
朱道は人差指で藍沢の胸をとんと押し、興味もなさげに藍沢の前を通り過ぎる。
藍沢は呆然と悪意の見えなかった朱道を見つめ、視線を灰羽に移した。
灰羽なら分かるのではないか、その答えは『イエス』だと、灰羽の目が言った。
「どうやら、外野が口を出す問題ではなさそうですね」
「灰羽さんは、岳が何を言いたかったのか、分かったんですか」
「…さて、どうでしょう」
はぐらかすように微笑んだ灰羽の手が、ぽんぽんと藍沢の肩を叩く。
分かっていないのは自分だけ。しかし自分には、それを追求する時間も心の余裕もない。
藍沢はふっと強く息を吐き、掌で自身の頬をぱしと叩いた。
「何にせよ、今は公演を成功させること以外を考えている場合ではないよな」
「その通りです。さ、切り替えますよ」
朱道くんも、と灰羽が声をかけると、不服そうに膨れた顔が「俺はいつも通りだ」と返した。
朱道は冷静だ。間違いなく、朱道は何か意味のある事を言っている。しかし、その意味が分からない以上、それを受け入れる事も出来ない。
…あぁ、駄目だ、まだ余計なことを考えている。
藍沢は片手で窓を閉めると、咲哉へと向く心にも蓋をした。
(第七話・終)
追加日:2018/09/17
一歩足を踏み入れると、コツンと固く冷たい音が微かに響く。
大好きな場所だ、この場所に来ることを、毎日楽しみにしていた。
しかしこの日、ここに自身を運ぶ足は、拒絶するように重かった。
やっとの事で到着すると、いつも通りにドアは咲哉を受け入れ勝手に開く。
数週間ぶりにアートシアターつばさの床を踏んだ咲哉は、途端に体が凍り付いたように固まった。
「綺麗…」
思わず感嘆の溜め息と共に声が零れる。
蛍光灯を反射して輝く床、指を這わせばキュッと気持ちの良い音が鳴りそうなカウンター。
人々を受け入れる準備が万全に済まされた会場だ。
劇場に入るまでの身近な道程にすら胸が躍る。これから自分は劇団ジェネシスの舞台を見るのだ、と浮足立つ気持ちを後押しするよう。
ここに俺がいなくたって。
「あ、咲哉くん!」
咲哉を呼び止めた声は、疑う余地もなく藍沢湧太郎のものだ。
視界に映すことなく彼を特定した咲哉は、ゆっくりと首だけで振り返った。
「藍沢さん、おはようございます」
「おはよう。やっぱり君がいると違うな。朝から元気が出るよ」
格好良い大人の男性である藍沢が、にっこりと可愛らしく微笑む。
その姿に引き寄せられるように振り返った咲哉は、うっとりとしたまま口を開いていた。
「…俺も、藍沢さんといると…」
幸せな気持ちになる。嬉しくて、緊張して、でもやっぱり嬉しくて、ぽかぽかする。
しかし、咲哉はその感情とは裏腹に、言葉を詰まらせ藍沢を見上げた。
「…、」
「あれ、疲れてる?」
「い、いえ!その、ちょっと久しぶりで…緊張しちゃうなって思って…」
「兄でも友人でもいい。気軽に思ってくれていいんだよ。俺だって、もうそのつもりだしね」
藍沢は本心でそれを言っているし、咲哉はそれを感じている。
それでも、咲哉は心なく「有難うございます」と頭を下げた。
教授に頼まれたから優しくしてくれるだけ、その前提は覆らない。それに、咲哉の恋心の行く宛のない状況も同じだ。
「会えて良かったよ。君にこれを渡したいと思っていたんだ」
藍沢はそんな咲哉の様子に気が付いてか、ジャケットのポケットから一枚の紙を取り出した。
「君を招待させてほしい」
咲哉は彼の流れるような所作に呑まれ、思わずそれを受け取っていた。
はがきサイズのそれに書かれた「劇団ジェネシス」の文字。その下に書かれるのは、もうすぐ初日を迎える舞台の名目と、日時と座席。
「…ッ、今度の舞台の…!い、いいんですか…!?しかもこんなに良い席で!?」
「勿論。君に見て欲しいんだ」
「っ、嬉しいです…有難うございます!」
咲哉は自分の胸にそれを抱き寄せ、腰からがばと頭を下げた。
勿論、自分でもチケットは取っているが、何度だって見たいし、取れた唯一のチケットは決して良い席ではない。
歓喜のあまりに、咲哉の目がキラキラとそのチケットを見つめる。
藍沢はそんな咲哉を見下ろし、クスと肩を竦ませた。
「良かった、少しは元気になってくれたかな」
「え…っ」
「あ、いや、勿論そういうつもりじゃなくて…ついでに、元気になってくれたらと思っていたんだ」
藍沢の掌が、優しく咲哉の頭を撫でる。
咲哉の視線は恐る恐ると藍沢を映し、その笑顔の眩しさに目を細めた。
「…、藍沢さん…俺…」
続く言葉は、咲哉の頭にはなかった。
ただ自然と彼を呼び、ただ彼の瞳に自分が映るのを見たかっただけ。
「あ、あの、有難うございます。そろそろ、行きますね」
「…あぁ。今日も頑張ってね」
「はい、藍沢さんも!公演楽しみにしていますね」
咲哉は逃げるように藍沢に背を向けた。
ドキドキと高鳴ってる胸が何を訴えているのか、咲哉は既に理解している。
嬉しいのに悲しい、楽しいのに苦しい。対の感情に襲われ、彼の前に立っていられなかった。
これが、あんなにも求めた恋だというのか。
咲哉はスタッフルームに逃げ込むと、ロッカーに額を預けて項垂れた。
・・・
稽古の合間、藍沢はぼんやりと窓の外を眺めていた。
吹き込む風が額に滲む汗を冷やす。それが心地良いのは、体が火照っているから…だけではなかった。
「あの少年の事、随分と気にかけているようですね」
「え、…あぁ、咲哉くんの事ですか。素直で良い子なので…どうしても気になってしまって」
隣に立った灰羽拓真はそう唐突に話を切り出したが、恐らく藍沢の頭の中を、知られざる手段を用いて覗き込んだのだろう。
眼鏡の奥の瞳がギラリと光る。まるで、観察対象として藍沢を見るかのように。
「最近元気がないようですが…」
「そう、なんです。最近大変なのか、疲れた様子で」
「違いますよ、藍沢くん。貴方の事です」
藍沢は意表を突かれて目を開いた。
元気がないという意識は、藍沢の中にはなかった。強いて言えば、気に病むことがあったという程度だ。
「あまりプライベートの事に口出す気はないのですが…このところ上の空が目立ってきていますよ。まぁ…芝居へ影響はないようなので、話したくなければ構いませんが」
「はは、まいったな…」
見事なものだ、と藍沢は灰羽から目を逸らして笑った。
人の心理を探る事だけでなく、話を切り出すこのタイミングはさすがだった。
「何でもないよ」と言って話を終わらせることも出来たはずだ。しかし、今の藍沢にはそれが出来なかった。
「最近、彼に嫌われてしまったような気がしていて…情けない話ですが、何というか歯痒くて…」
「あの彼が?随分と突拍子もない話ですね」
「俺自身、身に覚えはないから、余計にどうしたらいいのか分からないんです」
藍沢は灰羽のように人の心を読むのに長けてはいない。
今この状況を打破するのには、灰羽の意見が必要だ。
灰羽は「なるほど…」と顎に手を当てると、間もなく何か納得した様子で頷いた。
「…思うに。もしかしたらあの日…朱道くんが、彼に何か言ったのかもしれませんね」
「え…?」
「鈴木くんが稽古を見に来た日ですよ。朱道くん、少々彼を毛嫌いしているようでしたから。彼を入口まで送るのを買って出た事に違和感を覚えたんです」
藍沢はまさかと半信半疑で彼の声に耳を傾けた。
朱道岳は、少し捻くれたところがあっても、性根はしっかりとしている大人の男性だ。
「…まぁ、根拠のない話ですが。と、ああ、いいところに」
藍沢の態度に、灰羽も取り繕うようにそう続ける。
そして丁度良く二人の傍にやって来た朱道を、灰羽は迷うことなく手招いた。
「なんだよ」
「あの学生の話ですよ、藍沢くんお気に入りの」
「岳、咲哉くんに…何か酷いことを言ったりしてないか?」
藍沢の口から出た直球に、朱道の目が怪訝に細められる。
暫く続いた沈黙は、朱道がその「酷い事」を思い返すのにかかった時間。
しかしその時間も然程長くはなく、朱道は腕を組んで少し仰け反った。
「ああ、あれのことか?湧が気にかけてんのは教授に頼まれてるからだって話ならしたぜ」
藍沢は大きく息を吸い込んたまま呼吸を止めた。
怒りとは違う、ただ沸々と言いようのない熱が頭に上っていく。
「そ、それをあの子に言って、何になるって言うんだ。そんなの、…あの子に余計な気を遣わせるだけじゃないか」
「分かっていないのは湧、お前の方だぜ」
「どういう意味だ…?」
藍沢の声が微かに震えた、その要因は焦燥だった。
今朝に見た彼の姿、どこか逃げるように立ち去った小さな背中。罪悪感があったのだろう。
可哀そうだ。そんなつもりで声をかけているんじゃないのに、本当に、弟のように思っているのに。
「あの少年のことを思うなら、優しくしないことだな」
「…どうして、そんなことを言うんだ」
「だから分かってないって言ってんだよ。俺は忠告したからな」
朱道は人差指で藍沢の胸をとんと押し、興味もなさげに藍沢の前を通り過ぎる。
藍沢は呆然と悪意の見えなかった朱道を見つめ、視線を灰羽に移した。
灰羽なら分かるのではないか、その答えは『イエス』だと、灰羽の目が言った。
「どうやら、外野が口を出す問題ではなさそうですね」
「灰羽さんは、岳が何を言いたかったのか、分かったんですか」
「…さて、どうでしょう」
はぐらかすように微笑んだ灰羽の手が、ぽんぽんと藍沢の肩を叩く。
分かっていないのは自分だけ。しかし自分には、それを追求する時間も心の余裕もない。
藍沢はふっと強く息を吐き、掌で自身の頬をぱしと叩いた。
「何にせよ、今は公演を成功させること以外を考えている場合ではないよな」
「その通りです。さ、切り替えますよ」
朱道くんも、と灰羽が声をかけると、不服そうに膨れた顔が「俺はいつも通りだ」と返した。
朱道は冷静だ。間違いなく、朱道は何か意味のある事を言っている。しかし、その意味が分からない以上、それを受け入れる事も出来ない。
…あぁ、駄目だ、まだ余計なことを考えている。
藍沢は片手で窓を閉めると、咲哉へと向く心にも蓋をした。
(第七話・終)
追加日:2018/09/17