一話完結系
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・氷(木吉鉄平)
からん、と音を鳴らすコップを片手に、背中を壁に預ける。
快適ではない部屋。それもそのはず恋人の家は風情をも感じる平屋だ。
窓を開けて、微かに入ってくる風は生ぬるく、扇風機によって作られる風も決して気持ちの良いものではない。
今手に持っている冷えた麦茶にすら、至福を覚えるほどだ。
「サクヤ、お前良い顔するなあ」
「ん?」
「麦茶、そんなに好きじゃないとか言ってたよな」
「おい、それ覚えててこれ出したのかよ。まあこの暑さじゃ何でも飲むけど」
木吉鉄平、日本人離れした大柄な男は構わずサクヤの横にどっしりと座った。
暑苦しい、そう訴えるべくべしと彼の腕を叩き距離を取るが、きょとんとした顔には何も伝わっていないらしい。
「ん?」
「何だよ」
「どうして離れるんだ?久しぶりに二人きりになれたのに」
サクヤの予想通り、木吉は開けた距離と同じだけ近付いてくる。
互いに高校二年生ではあるが、この男はのんびりしている上、天然発言に時折エロおやじ感を乗せてくる。17歳の仮面被ったおじさんだ。
サクヤはとんと肩をぶつけてきた男を横目で睨むと、コップを床に散らばる新聞の上に置いた。
その水滴で濡れた手を木吉の首元へ差し込む。
「お、おお?」
「鉄平、お前にはこの扇風機で適温かもしれないけどな、俺の部屋にはクーラーっていう時代の進歩があるんだよね」
「おお」
「暑いからくっつくなって言ってんの」
サクヤは自分の冷たい手で驚かせるつもりだったが、こののんびり男には効かなかったらしい。
それどころか、恋人の手が肌に触れたのが嬉しかったようで、ずいと顔を寄せてくる。
サクヤは背中を反らせて再度睨み付けた。
「…俺今くっつくなって言ったの、もう忘れてない?」
「忘れてない。から、どうやってくっつこうか考えてるぞ」
「考えてるぞ、じゃない。考える余地はないはずなんだよ」
それでなくとも男二人きりってだけでも、むさくるしいことこの上ないってのに。
サクヤは呆れ混じりのため息をつき、手をすっと引っ込めた。
そのまま先程退避させたコップに手を伸ばす。そこで視界に映ったのは、コップの下でしっとりと濡れた新聞紙。
「あ…ごめん鉄平、めっちゃ濡らしちゃった」
「え?いいよ、新聞だろ?読まないから」
「はは、読まないって。それは読めよ」
サクヤはもはや手遅れと分かっていながら慌ててコップを手に取り、自然と最後の一口ついでに氷を口の中に運んだ。
これまでで一番の冷たさが口に広がり、自然と頬が緩む。
「はー…氷がうめぇ」
普段ならガリガリと噛んでしまうところだが、もったいなくて口の中で転がす。
そのサクヤの肩を、とんとんと木吉が突いた。
「サクヤ」
「え、な、何…」
木吉がひょいとサクヤの手からコップを奪い取る。
呆然とするサクヤに対し、やけにニコニコと笑っている木吉に感じる嫌な予感。
しかし身構える間もなく近付いてきた顔は、流れるようにサクヤに口付けた。
「っ!?」
それは、いつもの触れて離れる優しいものではなかった。
氷が木吉との間で生まれる熱に溶かされていく。
溢れる水が飲み込めなくて、息苦しさに開いた口の端から零れていく。
「ん、ん…んん…!」
「ん…はは、顔真っ赤だ」
「はは、じゃねーよお前ー…あっちぃー…」
それでなくとも暑さでそこそこ疲労していた体は、顔が離れるなり床にぱたりと倒れた。
暑い。熱い。口の端を手の甲で拭い、文句の一つでも言うつもりで一瞥を投げる。
先程まで涼しい顔をしていた木吉のほんのり赤らんだ顔がそこにあった。
「サクヤー」
「なあんだよ…」
「好きだ」
「はあ?…うわ!?」
突然服が胸の辺りまで捲くられ、サクヤは木吉の腕を掴んだ。
そしてすぐに襲ってくるのは、ひやりと冷たい感覚。
「鉄平、お前何し…っ!?」
サクヤの目に映ったのは、サクヤ胸を手のひらで撫でている木吉。
けれど、恐らく、いや間違いなく。
木吉はその手の内側に、コップから取り出したのだろう氷を握っている。
熱いはずの木吉の手のひらがサクヤを撫でる度に冷たくなるのがその証拠だ。
「これなら涼しくなるだろ?」
「こ、れは涼しいじゃなくて冷たいだろ!」
「でも暑くない」
「ばっ…服とか濡れる!てかくすぐった、あ」
サクヤの体温でその氷は溶けて肌をつたっていく。
慌てて起き上がろうとすれば、肩を掴んだ大きな手がそれを許さず、続けて胸に舌を這わせた。
「っ、なんでそんな、急にスイッチ入ってんだよお前…」
舌が少し冷たいのは、サクヤとの口付けの間に氷に触れたからだろう。
それを少しでも気持ち良いと思ってしまったサクヤは、自然にもぞと足をこすらせた。
「はっ…」
「サクヤ?」
「ん…やばい、かも」
不本意だ。だが二人きりという状況に全く期待しなかったわけでもない。
「サクヤ、やらしい顔してるな」
「ん…誰のせいだよ」
「オレか」
「そーだろ」
そう返すと、木吉は優しさ溢れるその顔で、更に優しく微笑んだ。
男らしい手。サクヤを撫でる大きな手が好きだ。
優しい笑顔の奥にある強い意志も、こうやってすぐ欲をぶつけてくるところもまあ嫌いじゃない。
「…ああ、そういえばご無沙汰?だな?」
「は…」
「窓閉めるか」
しかし、冷静にものそと体を起き上らせた木吉に、サクヤはばっと飛び起きて木吉の手を掴んだ。
窓に伸ばされるはずだった手を止められ、木吉は不思議そうにサクヤを見下ろしている。
「窓を閉めるって?」
「だって、サクヤいつも嫌がるだろ?」
「うん、いや、そうだけどな、そうなんだけど」
サクヤ声大きいしな。
なんて笑いながら言う木吉は再び窓に手を伸ばしかけ、サクヤはがばと上半身を起き上らせた。
「おいばかやめろ!死ぬってホントに!」
「ん?」
「ん?じゃない!」
やっぱ止めだ!そう叫べば、木吉は不服そうに唇を尖らせる。
いそいそと捲れた服を戻すと、溶けた氷がしっとりと染みて少し風が気持ち良く感じられた。
けれど話は別だ。
「したくないのか?」
「し…。クーラー、設置しろよ」
「…それはたぶん無理だ…」
悲しそうに眉を寄せた木吉の手は、窓からサクヤの方へと方向を変え、ぎゅっと背中に回された。
だから暑いっつってんのに。
「…な、木吉。明日は、俺んちな」
サクヤは流れる頬の汗を拭って、木吉の分厚い胸に頬を当てた。
追加日:2017/12/06
移動前:2015/08/01
からん、と音を鳴らすコップを片手に、背中を壁に預ける。
快適ではない部屋。それもそのはず恋人の家は風情をも感じる平屋だ。
窓を開けて、微かに入ってくる風は生ぬるく、扇風機によって作られる風も決して気持ちの良いものではない。
今手に持っている冷えた麦茶にすら、至福を覚えるほどだ。
「サクヤ、お前良い顔するなあ」
「ん?」
「麦茶、そんなに好きじゃないとか言ってたよな」
「おい、それ覚えててこれ出したのかよ。まあこの暑さじゃ何でも飲むけど」
木吉鉄平、日本人離れした大柄な男は構わずサクヤの横にどっしりと座った。
暑苦しい、そう訴えるべくべしと彼の腕を叩き距離を取るが、きょとんとした顔には何も伝わっていないらしい。
「ん?」
「何だよ」
「どうして離れるんだ?久しぶりに二人きりになれたのに」
サクヤの予想通り、木吉は開けた距離と同じだけ近付いてくる。
互いに高校二年生ではあるが、この男はのんびりしている上、天然発言に時折エロおやじ感を乗せてくる。17歳の仮面被ったおじさんだ。
サクヤはとんと肩をぶつけてきた男を横目で睨むと、コップを床に散らばる新聞の上に置いた。
その水滴で濡れた手を木吉の首元へ差し込む。
「お、おお?」
「鉄平、お前にはこの扇風機で適温かもしれないけどな、俺の部屋にはクーラーっていう時代の進歩があるんだよね」
「おお」
「暑いからくっつくなって言ってんの」
サクヤは自分の冷たい手で驚かせるつもりだったが、こののんびり男には効かなかったらしい。
それどころか、恋人の手が肌に触れたのが嬉しかったようで、ずいと顔を寄せてくる。
サクヤは背中を反らせて再度睨み付けた。
「…俺今くっつくなって言ったの、もう忘れてない?」
「忘れてない。から、どうやってくっつこうか考えてるぞ」
「考えてるぞ、じゃない。考える余地はないはずなんだよ」
それでなくとも男二人きりってだけでも、むさくるしいことこの上ないってのに。
サクヤは呆れ混じりのため息をつき、手をすっと引っ込めた。
そのまま先程退避させたコップに手を伸ばす。そこで視界に映ったのは、コップの下でしっとりと濡れた新聞紙。
「あ…ごめん鉄平、めっちゃ濡らしちゃった」
「え?いいよ、新聞だろ?読まないから」
「はは、読まないって。それは読めよ」
サクヤはもはや手遅れと分かっていながら慌ててコップを手に取り、自然と最後の一口ついでに氷を口の中に運んだ。
これまでで一番の冷たさが口に広がり、自然と頬が緩む。
「はー…氷がうめぇ」
普段ならガリガリと噛んでしまうところだが、もったいなくて口の中で転がす。
そのサクヤの肩を、とんとんと木吉が突いた。
「サクヤ」
「え、な、何…」
木吉がひょいとサクヤの手からコップを奪い取る。
呆然とするサクヤに対し、やけにニコニコと笑っている木吉に感じる嫌な予感。
しかし身構える間もなく近付いてきた顔は、流れるようにサクヤに口付けた。
「っ!?」
それは、いつもの触れて離れる優しいものではなかった。
氷が木吉との間で生まれる熱に溶かされていく。
溢れる水が飲み込めなくて、息苦しさに開いた口の端から零れていく。
「ん、ん…んん…!」
「ん…はは、顔真っ赤だ」
「はは、じゃねーよお前ー…あっちぃー…」
それでなくとも暑さでそこそこ疲労していた体は、顔が離れるなり床にぱたりと倒れた。
暑い。熱い。口の端を手の甲で拭い、文句の一つでも言うつもりで一瞥を投げる。
先程まで涼しい顔をしていた木吉のほんのり赤らんだ顔がそこにあった。
「サクヤー」
「なあんだよ…」
「好きだ」
「はあ?…うわ!?」
突然服が胸の辺りまで捲くられ、サクヤは木吉の腕を掴んだ。
そしてすぐに襲ってくるのは、ひやりと冷たい感覚。
「鉄平、お前何し…っ!?」
サクヤの目に映ったのは、サクヤ胸を手のひらで撫でている木吉。
けれど、恐らく、いや間違いなく。
木吉はその手の内側に、コップから取り出したのだろう氷を握っている。
熱いはずの木吉の手のひらがサクヤを撫でる度に冷たくなるのがその証拠だ。
「これなら涼しくなるだろ?」
「こ、れは涼しいじゃなくて冷たいだろ!」
「でも暑くない」
「ばっ…服とか濡れる!てかくすぐった、あ」
サクヤの体温でその氷は溶けて肌をつたっていく。
慌てて起き上がろうとすれば、肩を掴んだ大きな手がそれを許さず、続けて胸に舌を這わせた。
「っ、なんでそんな、急にスイッチ入ってんだよお前…」
舌が少し冷たいのは、サクヤとの口付けの間に氷に触れたからだろう。
それを少しでも気持ち良いと思ってしまったサクヤは、自然にもぞと足をこすらせた。
「はっ…」
「サクヤ?」
「ん…やばい、かも」
不本意だ。だが二人きりという状況に全く期待しなかったわけでもない。
「サクヤ、やらしい顔してるな」
「ん…誰のせいだよ」
「オレか」
「そーだろ」
そう返すと、木吉は優しさ溢れるその顔で、更に優しく微笑んだ。
男らしい手。サクヤを撫でる大きな手が好きだ。
優しい笑顔の奥にある強い意志も、こうやってすぐ欲をぶつけてくるところもまあ嫌いじゃない。
「…ああ、そういえばご無沙汰?だな?」
「は…」
「窓閉めるか」
しかし、冷静にものそと体を起き上らせた木吉に、サクヤはばっと飛び起きて木吉の手を掴んだ。
窓に伸ばされるはずだった手を止められ、木吉は不思議そうにサクヤを見下ろしている。
「窓を閉めるって?」
「だって、サクヤいつも嫌がるだろ?」
「うん、いや、そうだけどな、そうなんだけど」
サクヤ声大きいしな。
なんて笑いながら言う木吉は再び窓に手を伸ばしかけ、サクヤはがばと上半身を起き上らせた。
「おいばかやめろ!死ぬってホントに!」
「ん?」
「ん?じゃない!」
やっぱ止めだ!そう叫べば、木吉は不服そうに唇を尖らせる。
いそいそと捲れた服を戻すと、溶けた氷がしっとりと染みて少し風が気持ち良く感じられた。
けれど話は別だ。
「したくないのか?」
「し…。クーラー、設置しろよ」
「…それはたぶん無理だ…」
悲しそうに眉を寄せた木吉の手は、窓からサクヤの方へと方向を変え、ぎゅっと背中に回された。
だから暑いっつってんのに。
「…な、木吉。明日は、俺んちな」
サクヤは流れる頬の汗を拭って、木吉の分厚い胸に頬を当てた。
追加日:2017/12/06
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