黄瀬と美術室の先輩(黒バス)
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4.昼休みの接近
昼食を片手に、ポケットには携帯。
それだけの軽装で教室を出た黄瀬涼太は、部長の笠松に呼ばれて3年生の教室に向かっていた。
その内心は部活の時じゃダメなのかなと少々不服だ。
何せ黄瀬涼太は長身でイケメン、キラキラとした金髪。若者に人気のファッションモデルだ。
普段出没しない場所へ赴こうものなら、ちょっとしたイベントレベルの騒ぎは覚悟しなければならない。
女の子は嫌いじゃないけど、用がある時は少し面倒なんだよなぁ。
そう思い肩を下げていた黄瀬は、ふと前方に知った顔を見つけて目を開いた。
「うっわ…あの人って、ちゃんと生息してんだ…」
思わずそんな突拍子のないことを呟き、黄瀬はその人を目で追った。
階段を降りて、2年生の教室から離れていく2年の先輩。美術室の先輩こと咲哉だ。
昼食は教室ではなくどこかで済ませるタイプなのか。
まさか、教室に居場所がないとか…?
「…ゲッ…すげー有り得る」
黄瀬は先輩の哀れな姿を想像し、わざとらしく自身の腕を抱き締めた。
まさかこの学校で陰湿なイジメはないだろうが、想像してしまった手前どうも落ち着かない。
黄瀬はいてもたってもいられず、慌ててその後を追いかけていた。
廊下を小走りに抜け、階段を駆け下りて距離を縮める。
意外にも歩くテンポは割と早く、その背中にはなかなか手が届かない。
「咲哉せーんぱい!」
「…は?」
黄瀬が煩くない程度に声を張ると、咲哉は眉を寄せた厳つい顔で振り返った。
「どこ行くんスか?昼飯は?」
「これから買うんだよ」
黄瀬の心配を他所に、咲哉はつかつかと再び歩き出す。
向かう先はどうやら購買らしい。
「なぁんだ、そういうことっスか。心配して損したー」
たたっと隣に並んで低い位置にある顔を見下ろす。
咲哉は黄瀬を気にする様子なく前を向いている。
…無視されているような。
「ちょっと、酷くないっスか?オレ、走ってセンパイのこと追っかけて来たんスよ」
「…お前、暇なのか?」
「暇じゃねぇっスけど、あんたがぼっちなんじゃないかと思って」
「ぼっち、はは」
復唱して笑う咲哉に、今度は黄瀬の方が眉間にしわを寄せた。
やけに飄々としていて掴みどころがない。
美術室にいるのが変態なら、こっちは変人だ。
などと真剣に失礼なことを考えていた黄瀬は、意味もなく咲哉がパンを買う様子を見守った。
クリームパンを一つ。
袋はいらないと断って、剥き出しのパンを手に持ったまま歩き出す。
「って、どこ行くんスか!」
「見える場所」
咲哉は教室に戻るではなく、昇降口の方へ向かっている。
黄瀬は「何が?」と首を捻り、それからすぐに人差し指を立てた。
「…男だ!」
「はは」
「オレがいるってのに、もう次のモデル探しっスか!」
仕事柄、途中で目移りされることに対しては良い気がしない。
そのせいか咄嗟に面倒臭いオンナみたいな反応をした黄瀬に、咲哉は肩を竦めて笑った。
「見たいだけだよ」
「へ?」
「実際に動いているところを見て分かることもある。探す目的じゃない」
ぽかんとしたまま一度足を止めた黄瀬は、再び咲哉に数歩置いて行かれる。
咲哉の日常を外から見ている気分だ。
昼休みは購買でパンを買い、外へ出て他人である生徒達を観察する。
「いっつもそうやって見ながら飯食ってたんスか。そりゃ誤解もされるっスよ」
はーっと溜息を吐く黄瀬になど目もくれず、咲哉は外に出る準備を着実に進めていく。
「少しは周りのことも気にした方が良いっスよ。見られてヤな人だっているし、学校外でやったらまじでケーサツ来るヤツだし」
「学校内でやってるだろ」
「だーかーらー…!」
あまりに話を聞かない男に、黄瀬は痺れを切らした。
無意識に伸びた手は咲哉の腕を乱暴に掴み、ローファーが音を立てて転がる。
「サイッコーなのが見れるとこ、連れてってやるから!」
「敬語」
「~めんどくせーなぁ!」
黄瀬は動く気のなさそうな男の靴をロッカーに戻し、掴んだ腕を更にぐいと引っ張った。
恐らく怪訝な顔で黄瀬を見上げているのだろうから、顔は見ないし振り返らない。
「どこ行くんだ、面倒なのは嫌だからな」
「全然!面倒なんかじゃないっスよ。超特別大サービス」
案の定聞こえてきた声は低く、不機嫌を露骨に纏う。
しかしどこに向かっているのかに気が付くと、咲哉が黄瀬の一歩前へ出た。
「黄瀬涼太、お前が?」
「そん変わり、オレだけを見ててくれないと嫌っスよ」
咲哉の目が見るからに輝く。
黄瀬はちょっとだけ良い気分になって、手に持っていたものを咲哉に手渡すなり、シャツを肘のところまで捲り上げた。
黄瀬にとっては校内で最も馴染みのある場所…体育館だ。
普段から自主練する人がいる場所だが、運良く今日はハーフコートを自由に使えそうだ。
「好きにやってくれていいよ」
「なぁに言ってんスか。指示されたって従う気なんてないっスよ」
咲哉はフンと鼻で笑うと、慣れた様子で体育館の端に寄った。
壁に背を預けて持っていたパンをぱくと口に咥える。
それを横目に、黄瀬はボールを取り出してダンッと強く床へ叩きつけた。
それから数十分、黄瀬はただバスケに勤しむだけだった。
咲哉は本当に何かを要求するでもなく、スケッチするでもない。真剣に、静かに、あの目で見つめ続ける。
そろそろ良いかなと振り返った頃には、疾うに満足していたのか、床にしゃがみこんでいた咲哉が「お疲れ」と言いながら立ち上がった。
「はー、いい運動した!どうだったっスか?」
「うん。久しぶりに見たけど、やっぱりいいよな。お前」
「久しぶり?」
「ああ。最近は描いてたから」
きょとんと目を丸くする黄瀬に、咲哉も不思議そうに首を傾げる。
久しぶりも何も、最近は毎日見てんじゃん。黄瀬の頭には無数の「?」が浮かぶ。
一方咲哉は既にその話題を終え、「そういえば」と黄瀬から目を逸らした。
「黄瀬涼太、お前これどうするんだ」
黄瀬へと差し出された咲哉の手にあるのは、黄瀬の昼食だ。
はっとして体育館の時計を振り返れば、昼休みは残り10分を切っている。
「あ、夢中で腹減ってんの忘れてた」
「付き合わせて悪かったな、教室に戻ろう」
まあ昼休み明けの授業は移動の必要がないし、10分あれば食べて一息吐くくらいは出来るだろう。
ぼんやりと考えながら咲哉の後ろを歩き出した黄瀬は、ハッと息を吸い込んで固まった。
「黄瀬涼太?」
咲哉が振り返る。
黄瀬はその咲哉の肩に手を置くと、一度乱暴にがくんと揺らした。
「アンタのせいで忘れてた!!」
「な、なんだ急に」
「絶対どやされるっスよどうするんスか!」
そもそも咲哉を発見したのは、昼休みに先輩の元へ向かう必要があったからだ。
部活の話をするから来い。そう言ったのは部長だ。
「なんだ、何か用事があったのか?」
「あぁもう…っ、一緒に来てくださいよ!笠松さんと仲良いんスよね!?」
「別に仲良くは…、おい、引っ張るな」
黄瀬に腕を引かれ、咲哉が前につんのめる。
不服を訴える溜め息を聴きながら、黄瀬は咲哉の腕を掴んだまま三年生の教室へと走った。
「おい、待て…っ、お前、速い…」
「普段運動してないからっスよ!速く走んねぇと抱っこするっスよ!?」
「…そうしてくれ」
「は!?ジョーダンっスよ!」
ばたばたと走り、笠松の待つ教室へと駆け込む。
当然のことながら、黄瀬は笠松に「鈴木を巻き込むな」とどやされる事になった。
その黄瀬の後ろでは、胸に手を置き呼吸を整える咲哉が床に膝をついている。
それが何故だか心地よく、彼の無表情の壁を壊したのが誇らしく。
「何笑ってんだよ!」と重ねて怒られた黄瀬は、慌てて自分の緩んだ顔を手で隠した。
(第四話 終)
追加日:2018/03/11
昼食を片手に、ポケットには携帯。
それだけの軽装で教室を出た黄瀬涼太は、部長の笠松に呼ばれて3年生の教室に向かっていた。
その内心は部活の時じゃダメなのかなと少々不服だ。
何せ黄瀬涼太は長身でイケメン、キラキラとした金髪。若者に人気のファッションモデルだ。
普段出没しない場所へ赴こうものなら、ちょっとしたイベントレベルの騒ぎは覚悟しなければならない。
女の子は嫌いじゃないけど、用がある時は少し面倒なんだよなぁ。
そう思い肩を下げていた黄瀬は、ふと前方に知った顔を見つけて目を開いた。
「うっわ…あの人って、ちゃんと生息してんだ…」
思わずそんな突拍子のないことを呟き、黄瀬はその人を目で追った。
階段を降りて、2年生の教室から離れていく2年の先輩。美術室の先輩こと咲哉だ。
昼食は教室ではなくどこかで済ませるタイプなのか。
まさか、教室に居場所がないとか…?
「…ゲッ…すげー有り得る」
黄瀬は先輩の哀れな姿を想像し、わざとらしく自身の腕を抱き締めた。
まさかこの学校で陰湿なイジメはないだろうが、想像してしまった手前どうも落ち着かない。
黄瀬はいてもたってもいられず、慌ててその後を追いかけていた。
廊下を小走りに抜け、階段を駆け下りて距離を縮める。
意外にも歩くテンポは割と早く、その背中にはなかなか手が届かない。
「咲哉せーんぱい!」
「…は?」
黄瀬が煩くない程度に声を張ると、咲哉は眉を寄せた厳つい顔で振り返った。
「どこ行くんスか?昼飯は?」
「これから買うんだよ」
黄瀬の心配を他所に、咲哉はつかつかと再び歩き出す。
向かう先はどうやら購買らしい。
「なぁんだ、そういうことっスか。心配して損したー」
たたっと隣に並んで低い位置にある顔を見下ろす。
咲哉は黄瀬を気にする様子なく前を向いている。
…無視されているような。
「ちょっと、酷くないっスか?オレ、走ってセンパイのこと追っかけて来たんスよ」
「…お前、暇なのか?」
「暇じゃねぇっスけど、あんたがぼっちなんじゃないかと思って」
「ぼっち、はは」
復唱して笑う咲哉に、今度は黄瀬の方が眉間にしわを寄せた。
やけに飄々としていて掴みどころがない。
美術室にいるのが変態なら、こっちは変人だ。
などと真剣に失礼なことを考えていた黄瀬は、意味もなく咲哉がパンを買う様子を見守った。
クリームパンを一つ。
袋はいらないと断って、剥き出しのパンを手に持ったまま歩き出す。
「って、どこ行くんスか!」
「見える場所」
咲哉は教室に戻るではなく、昇降口の方へ向かっている。
黄瀬は「何が?」と首を捻り、それからすぐに人差し指を立てた。
「…男だ!」
「はは」
「オレがいるってのに、もう次のモデル探しっスか!」
仕事柄、途中で目移りされることに対しては良い気がしない。
そのせいか咄嗟に面倒臭いオンナみたいな反応をした黄瀬に、咲哉は肩を竦めて笑った。
「見たいだけだよ」
「へ?」
「実際に動いているところを見て分かることもある。探す目的じゃない」
ぽかんとしたまま一度足を止めた黄瀬は、再び咲哉に数歩置いて行かれる。
咲哉の日常を外から見ている気分だ。
昼休みは購買でパンを買い、外へ出て他人である生徒達を観察する。
「いっつもそうやって見ながら飯食ってたんスか。そりゃ誤解もされるっスよ」
はーっと溜息を吐く黄瀬になど目もくれず、咲哉は外に出る準備を着実に進めていく。
「少しは周りのことも気にした方が良いっスよ。見られてヤな人だっているし、学校外でやったらまじでケーサツ来るヤツだし」
「学校内でやってるだろ」
「だーかーらー…!」
あまりに話を聞かない男に、黄瀬は痺れを切らした。
無意識に伸びた手は咲哉の腕を乱暴に掴み、ローファーが音を立てて転がる。
「サイッコーなのが見れるとこ、連れてってやるから!」
「敬語」
「~めんどくせーなぁ!」
黄瀬は動く気のなさそうな男の靴をロッカーに戻し、掴んだ腕を更にぐいと引っ張った。
恐らく怪訝な顔で黄瀬を見上げているのだろうから、顔は見ないし振り返らない。
「どこ行くんだ、面倒なのは嫌だからな」
「全然!面倒なんかじゃないっスよ。超特別大サービス」
案の定聞こえてきた声は低く、不機嫌を露骨に纏う。
しかしどこに向かっているのかに気が付くと、咲哉が黄瀬の一歩前へ出た。
「黄瀬涼太、お前が?」
「そん変わり、オレだけを見ててくれないと嫌っスよ」
咲哉の目が見るからに輝く。
黄瀬はちょっとだけ良い気分になって、手に持っていたものを咲哉に手渡すなり、シャツを肘のところまで捲り上げた。
黄瀬にとっては校内で最も馴染みのある場所…体育館だ。
普段から自主練する人がいる場所だが、運良く今日はハーフコートを自由に使えそうだ。
「好きにやってくれていいよ」
「なぁに言ってんスか。指示されたって従う気なんてないっスよ」
咲哉はフンと鼻で笑うと、慣れた様子で体育館の端に寄った。
壁に背を預けて持っていたパンをぱくと口に咥える。
それを横目に、黄瀬はボールを取り出してダンッと強く床へ叩きつけた。
それから数十分、黄瀬はただバスケに勤しむだけだった。
咲哉は本当に何かを要求するでもなく、スケッチするでもない。真剣に、静かに、あの目で見つめ続ける。
そろそろ良いかなと振り返った頃には、疾うに満足していたのか、床にしゃがみこんでいた咲哉が「お疲れ」と言いながら立ち上がった。
「はー、いい運動した!どうだったっスか?」
「うん。久しぶりに見たけど、やっぱりいいよな。お前」
「久しぶり?」
「ああ。最近は描いてたから」
きょとんと目を丸くする黄瀬に、咲哉も不思議そうに首を傾げる。
久しぶりも何も、最近は毎日見てんじゃん。黄瀬の頭には無数の「?」が浮かぶ。
一方咲哉は既にその話題を終え、「そういえば」と黄瀬から目を逸らした。
「黄瀬涼太、お前これどうするんだ」
黄瀬へと差し出された咲哉の手にあるのは、黄瀬の昼食だ。
はっとして体育館の時計を振り返れば、昼休みは残り10分を切っている。
「あ、夢中で腹減ってんの忘れてた」
「付き合わせて悪かったな、教室に戻ろう」
まあ昼休み明けの授業は移動の必要がないし、10分あれば食べて一息吐くくらいは出来るだろう。
ぼんやりと考えながら咲哉の後ろを歩き出した黄瀬は、ハッと息を吸い込んで固まった。
「黄瀬涼太?」
咲哉が振り返る。
黄瀬はその咲哉の肩に手を置くと、一度乱暴にがくんと揺らした。
「アンタのせいで忘れてた!!」
「な、なんだ急に」
「絶対どやされるっスよどうするんスか!」
そもそも咲哉を発見したのは、昼休みに先輩の元へ向かう必要があったからだ。
部活の話をするから来い。そう言ったのは部長だ。
「なんだ、何か用事があったのか?」
「あぁもう…っ、一緒に来てくださいよ!笠松さんと仲良いんスよね!?」
「別に仲良くは…、おい、引っ張るな」
黄瀬に腕を引かれ、咲哉が前につんのめる。
不服を訴える溜め息を聴きながら、黄瀬は咲哉の腕を掴んだまま三年生の教室へと走った。
「おい、待て…っ、お前、速い…」
「普段運動してないからっスよ!速く走んねぇと抱っこするっスよ!?」
「…そうしてくれ」
「は!?ジョーダンっスよ!」
ばたばたと走り、笠松の待つ教室へと駆け込む。
当然のことながら、黄瀬は笠松に「鈴木を巻き込むな」とどやされる事になった。
その黄瀬の後ろでは、胸に手を置き呼吸を整える咲哉が床に膝をついている。
それが何故だか心地よく、彼の無表情の壁を壊したのが誇らしく。
「何笑ってんだよ!」と重ねて怒られた黄瀬は、慌てて自分の緩んだ顔を手で隠した。
(第四話 終)
追加日:2018/03/11