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夏目貴志(夏目友人帳)
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10.人と妖の恋
アニメ陸 第八話「いつかくる日」参考
妖も人と同じように心を持っている。
人間への募る思いを抑えきれず、気付かれないと知っていながら思い続けた妖を何度も見てきた。
逆もまた然り…妖に惹かれてしまった人間もいた。
互いに惹かれ合ってしまった時、それは友情や恋愛と変わらない。
心を通わせることは出来るだろう。思いを伝え合うことも、触れ合うことも、出来るのかもしれない。
しかし、それはいつまで続くだろうか。
「…彼は、何を恐れていたのかな」
夏目はニャンコ先生を腕に抱いたまま、ぽつりと呟いた。
一見自分と年齢の変わらない青年に見えた「葵」は妖だった。
彼の心は人間の女性に。そしてその女性の心は葵に。まるで普通の恋物語、しかし葵は一度逃げようとした。
「彼女は自分の思いを貫いて葵を捕まえた。おれも、それを望んでた」
「だろうな」
「叶って欲しかったんだ。でも…本当に良かったのかって、今少し、考えてる」
ぎゅっとニャンコ先生を抱き寄せると、少し苦しそうに唸ったニャンコ先生が抗議の声を上げた。
今はいい。共にいることが二人の幸せなのだから、それを選べばいい。
でも、いつか。
いつか来る悲しみは、二人の時間が増えれば増える程に深くなるだろう。
「…おれは、彼女と同じことをしたんだ。一度離れた黒を、連れ戻してしまった」
「フン、私は言ったろう、夏目。放っておけば良いのだと」
「分かってる。妖は皆変わらない、変わるとしたら、人間の…おれたちの方なんだ」
ある日突然、妖が見えなくなった人。
その地を離れなければならなくなった人。
新たな出会いに、嘗ての気持ちなど忘れてしまった人。
「…もし、変わらなかったとしても…絶対に置いて行くんだ」
夏目は深く溜め息を吐いた後、もがくニャンコ先生を手放した。
人の命は短い。黒が何度も口にした言葉だ。脆いのだから大事にしろ、と。
以前夏目が幼少期に戻った時にも、悲しい事を口にしたのを夏目は確かに聴いていた。
「…おれの時間は…短いんだよな」
「何を今更。そんなこと、レイコをいつまでも追いかけ回す妖達を見ていれば分かるだろう」
妖と人間の時間は違う。
だから妖達は気が付かないのだ。
夏目レイコは既に亡くなっていて、夏目貴志はその孫だということに。
「黒が葵に協力しなかったのは…やっぱり”これ”が辛いことだって、分かってるからなのかな」
「さあな。それは本人に聞くことだ」
「え…あ!ニャンコ先生!?」
ニャンコ先生は夏目を振り返らず、丸いお尻を振りながら家とは反対の方向へ走り出した。
まるで飼い猫に逃げられたかのようで、彼が強い妖と知っていても思わず手が伸びる。
「…夏目」
突然、ざわと木々が揺れた気がした。
夏目はゆっくりと自分を呼ぶ声の方へ振り返った。
「さっきまで、いなかったじゃないか…」
人と変わらない姿で立っている黒。
風に揺れる黒い髪も地に足をつけて歩く姿も、見紛うことなく人間そのものだ。
彼の周囲だけ輝いて、煌めいて見える、それ以外は何も。
「あいつはどうなった?」
「あ、葵のことか?…さぁ、どうなるかな…後は、二人次第だから」
曖昧に答えた夏目は、恋する二人を最後まで見届けてはいなかった。
それでも間違いなく二人は思い合っていたし、きっと。
「…きっと、幸せなんだと思う。今は」
あまりに露骨な態度に、夏目は思わず俯き視線を落とした。
自分の不安を黒にぶつけるなんて馬鹿げている。
「今は…か。確かにな」
「ご、ごめん、黒…」
「謝ることじゃないだろ、それは事実だ。一時の勢いで、あれは普通の女を自分の世界へ引き込んだ」
思い悩む夏目に対し、黒の声は葵を馬鹿にするかのように笑っていた。
誰の目にも映らない恋。誰の理解も得ることのない二人の世界。
「さぞ甘美だろうな。恋に溺れている間は」
黒は夏目の言葉に重ねるように、更に辛辣な言葉を並べた。
しかしそれは自分をも貫く言葉だ。
黒は一度天を仰ぎ、ふっと息を吐いた。
「情ねぇ奴だと思ったんだ。どっちつかずで悩みやがってさ。だから見てられなかったんだよ、俺を見てるみたいで」
「黒…」
「でも、俺とあいつは少し違った。俺はいつか来る別れってのを恐れてないからな」
俯いたままの夏目に、黒はゆっくりと歩み寄った。
足音はなかった。頬へ触れた指の感触に、夏目は跳ねるように顔を上げる。
「明日、夏目の目が俺を映さなくなっても俺は傍にいてやれる」
「それは…」
「夏目がこの世を去るなら、俺も一緒に去る。俺にはそれも…出来るかもしれない」
黒は夏目の腕をぐいと引っ張った。
よろけた夏目を受け止めた広い胸。
太陽のせいだろうか、黒の体は暖かく、生を錯覚する。
「駄目だ、そんなことを言ったら…」
「駄目なもんかよ。俺は一度死んでるんだろ、今更もう一度の死が恐ろしいはずがない」
黒の強い言葉に、夏目は一度大きく目を開いた。
ごくりと唾を飲んだ夏目の視線の先にあるのは、捕食者の瞳。
お前は俺のもので、俺はお前のものだ。
瞳が訴える独占欲と支配欲。妖特有の悍ましさの中に、人間の暖かな愛がそこにある。
「夏目が気に病むことは何も無い。お前は、俺に苦しめられてるんだから」
「そんなことないよ…。こんな風に愛される喜びは、黒からしか感じられない」
「あぁ、愛してる」
低く甘やかな声に、夏目は噛み締めるように頷いた。
「分かった。おれは、自分の選択を後悔したりしないよ」
夏目の言葉に、黒の纏う空気が和らいだ。
眉間に寄っていたシワは解れ、夏目を抱き締める腕の力も緩む。
夏目が連れ帰った葵という妖の話を聞いた黒には、一人で考える時間が必要だった。
恋する人間と妖に手を貸して、自分は救われるのか、それとも現実を思い知るのか。
それが分かるのは数年後かもしれないし、今日かも明日かも分からない。
「夏目も、随分考えたようだな」
「当たり前だろ…。他人事じゃなかったんだ」
黒は夏目の肩を掴んで、体をゆっくりと剥がした。
至近距離で見つめ合う。
鼻先が触れ、夏目は自ら黒の唇を求めて踵を上げた。
「…ん、…黒、これも、一時の勢いなのかな」
「そうだろ。お前はまだガキだ。ガキが永遠の愛なんざ語る方が嘘くさい」
言葉に反し、黒の手が夏目の腰を支えた。
再び密着する二人の影が、一つに重なる。
「例えそうでも…離れることを許す気はないからな。もう、離れられると思うなよ」
「分かってる。もしその時が来たなら、おれを殺していいよ」
「はは…そうならない事を祈るよ」
黒は夏目の頬に軽く口付けると、また力強く抱き締めた。
夏目は黒の胸に顔を預け、自身の鼓動に耳を傾ける。
重なる音はどこにもない。
「黒…有難う。今日も俺のためにその姿を見せてくれて」
「この方が説得力あるだろ?」
「あぁ…。黒なら、きっと大丈夫だ」
せめて一日でも長く、彼と共に。
夏目は自分の胸をぎゅっと拳で押さえた。
変わらない鼓動の速さが、残酷に時を動かしていた。
(第十話・終)
追加日:2018/03/04
アニメ陸 第八話「いつかくる日」参考
妖も人と同じように心を持っている。
人間への募る思いを抑えきれず、気付かれないと知っていながら思い続けた妖を何度も見てきた。
逆もまた然り…妖に惹かれてしまった人間もいた。
互いに惹かれ合ってしまった時、それは友情や恋愛と変わらない。
心を通わせることは出来るだろう。思いを伝え合うことも、触れ合うことも、出来るのかもしれない。
しかし、それはいつまで続くだろうか。
「…彼は、何を恐れていたのかな」
夏目はニャンコ先生を腕に抱いたまま、ぽつりと呟いた。
一見自分と年齢の変わらない青年に見えた「葵」は妖だった。
彼の心は人間の女性に。そしてその女性の心は葵に。まるで普通の恋物語、しかし葵は一度逃げようとした。
「彼女は自分の思いを貫いて葵を捕まえた。おれも、それを望んでた」
「だろうな」
「叶って欲しかったんだ。でも…本当に良かったのかって、今少し、考えてる」
ぎゅっとニャンコ先生を抱き寄せると、少し苦しそうに唸ったニャンコ先生が抗議の声を上げた。
今はいい。共にいることが二人の幸せなのだから、それを選べばいい。
でも、いつか。
いつか来る悲しみは、二人の時間が増えれば増える程に深くなるだろう。
「…おれは、彼女と同じことをしたんだ。一度離れた黒を、連れ戻してしまった」
「フン、私は言ったろう、夏目。放っておけば良いのだと」
「分かってる。妖は皆変わらない、変わるとしたら、人間の…おれたちの方なんだ」
ある日突然、妖が見えなくなった人。
その地を離れなければならなくなった人。
新たな出会いに、嘗ての気持ちなど忘れてしまった人。
「…もし、変わらなかったとしても…絶対に置いて行くんだ」
夏目は深く溜め息を吐いた後、もがくニャンコ先生を手放した。
人の命は短い。黒が何度も口にした言葉だ。脆いのだから大事にしろ、と。
以前夏目が幼少期に戻った時にも、悲しい事を口にしたのを夏目は確かに聴いていた。
「…おれの時間は…短いんだよな」
「何を今更。そんなこと、レイコをいつまでも追いかけ回す妖達を見ていれば分かるだろう」
妖と人間の時間は違う。
だから妖達は気が付かないのだ。
夏目レイコは既に亡くなっていて、夏目貴志はその孫だということに。
「黒が葵に協力しなかったのは…やっぱり”これ”が辛いことだって、分かってるからなのかな」
「さあな。それは本人に聞くことだ」
「え…あ!ニャンコ先生!?」
ニャンコ先生は夏目を振り返らず、丸いお尻を振りながら家とは反対の方向へ走り出した。
まるで飼い猫に逃げられたかのようで、彼が強い妖と知っていても思わず手が伸びる。
「…夏目」
突然、ざわと木々が揺れた気がした。
夏目はゆっくりと自分を呼ぶ声の方へ振り返った。
「さっきまで、いなかったじゃないか…」
人と変わらない姿で立っている黒。
風に揺れる黒い髪も地に足をつけて歩く姿も、見紛うことなく人間そのものだ。
彼の周囲だけ輝いて、煌めいて見える、それ以外は何も。
「あいつはどうなった?」
「あ、葵のことか?…さぁ、どうなるかな…後は、二人次第だから」
曖昧に答えた夏目は、恋する二人を最後まで見届けてはいなかった。
それでも間違いなく二人は思い合っていたし、きっと。
「…きっと、幸せなんだと思う。今は」
あまりに露骨な態度に、夏目は思わず俯き視線を落とした。
自分の不安を黒にぶつけるなんて馬鹿げている。
「今は…か。確かにな」
「ご、ごめん、黒…」
「謝ることじゃないだろ、それは事実だ。一時の勢いで、あれは普通の女を自分の世界へ引き込んだ」
思い悩む夏目に対し、黒の声は葵を馬鹿にするかのように笑っていた。
誰の目にも映らない恋。誰の理解も得ることのない二人の世界。
「さぞ甘美だろうな。恋に溺れている間は」
黒は夏目の言葉に重ねるように、更に辛辣な言葉を並べた。
しかしそれは自分をも貫く言葉だ。
黒は一度天を仰ぎ、ふっと息を吐いた。
「情ねぇ奴だと思ったんだ。どっちつかずで悩みやがってさ。だから見てられなかったんだよ、俺を見てるみたいで」
「黒…」
「でも、俺とあいつは少し違った。俺はいつか来る別れってのを恐れてないからな」
俯いたままの夏目に、黒はゆっくりと歩み寄った。
足音はなかった。頬へ触れた指の感触に、夏目は跳ねるように顔を上げる。
「明日、夏目の目が俺を映さなくなっても俺は傍にいてやれる」
「それは…」
「夏目がこの世を去るなら、俺も一緒に去る。俺にはそれも…出来るかもしれない」
黒は夏目の腕をぐいと引っ張った。
よろけた夏目を受け止めた広い胸。
太陽のせいだろうか、黒の体は暖かく、生を錯覚する。
「駄目だ、そんなことを言ったら…」
「駄目なもんかよ。俺は一度死んでるんだろ、今更もう一度の死が恐ろしいはずがない」
黒の強い言葉に、夏目は一度大きく目を開いた。
ごくりと唾を飲んだ夏目の視線の先にあるのは、捕食者の瞳。
お前は俺のもので、俺はお前のものだ。
瞳が訴える独占欲と支配欲。妖特有の悍ましさの中に、人間の暖かな愛がそこにある。
「夏目が気に病むことは何も無い。お前は、俺に苦しめられてるんだから」
「そんなことないよ…。こんな風に愛される喜びは、黒からしか感じられない」
「あぁ、愛してる」
低く甘やかな声に、夏目は噛み締めるように頷いた。
「分かった。おれは、自分の選択を後悔したりしないよ」
夏目の言葉に、黒の纏う空気が和らいだ。
眉間に寄っていたシワは解れ、夏目を抱き締める腕の力も緩む。
夏目が連れ帰った葵という妖の話を聞いた黒には、一人で考える時間が必要だった。
恋する人間と妖に手を貸して、自分は救われるのか、それとも現実を思い知るのか。
それが分かるのは数年後かもしれないし、今日かも明日かも分からない。
「夏目も、随分考えたようだな」
「当たり前だろ…。他人事じゃなかったんだ」
黒は夏目の肩を掴んで、体をゆっくりと剥がした。
至近距離で見つめ合う。
鼻先が触れ、夏目は自ら黒の唇を求めて踵を上げた。
「…ん、…黒、これも、一時の勢いなのかな」
「そうだろ。お前はまだガキだ。ガキが永遠の愛なんざ語る方が嘘くさい」
言葉に反し、黒の手が夏目の腰を支えた。
再び密着する二人の影が、一つに重なる。
「例えそうでも…離れることを許す気はないからな。もう、離れられると思うなよ」
「分かってる。もしその時が来たなら、おれを殺していいよ」
「はは…そうならない事を祈るよ」
黒は夏目の頬に軽く口付けると、また力強く抱き締めた。
夏目は黒の胸に顔を預け、自身の鼓動に耳を傾ける。
重なる音はどこにもない。
「黒…有難う。今日も俺のためにその姿を見せてくれて」
「この方が説得力あるだろ?」
「あぁ…。黒なら、きっと大丈夫だ」
せめて一日でも長く、彼と共に。
夏目は自分の胸をぎゅっと拳で押さえた。
変わらない鼓動の速さが、残酷に時を動かしていた。
(第十話・終)
追加日:2018/03/04
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