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初恋は純白であれ

「───アンタ、深津さんのこと避けてるでしょ」

部屋に入ってきた二年の後輩は、少しだけ顔に影を落としてそう言った。数日前の試合に負けたこともあって、沢北の表情にはいつものような明るさはなく、沢北の言葉には有無を言わさない圧がある。
部屋に突然押しかけてきたから何かと思えば、俺はアメリカに発つのだという話をされた。
そうか、すごいなと正直に言いながらも、何故わざわざ俺に?と思う気持ちもそこにあった。

「俺、アンタのことが好きになった」
「へ……どういう、」
「顔が好きだ。その綺麗な顔。深津さんだってアンタのこと惚れてる」
「何で、深津が出てくるんだ?何言ってんだよ」
「アンタも男だろ。分かんないわけねーだろ」

自分より見上げるほど体格のいい沢北は、グイ、と詰め寄っただけで簡単に俺の身体を逃がさないように壁に押し付ける。肩を痛いほどに掴まれて、離せと振り切ることもできない。

「分かんねぇ、よ!いきなり、痛ぇって、離せ」
「……広島の試合に来てって言った時、模試があるからって嘘ついただろ」
「…!」
「その日に模試なんて無かった。勝吾さん、なんでそんな嘘ついたんですか」
「そ、れは」
「深津さんから逃げてるから、でしょ。……俺、別にアンタが深津さんから逃げてるのが、どんな理由かなんて、どうでも良いんです」

壁にまで押し付けた身体を、沢北は熱い手で撫でる。肩から頬へ、俺の足に跨って、逃げられないように体重をかけてくる。
まずいと本能が訴えてくる。迫ってくる沢北の目が捕食する動物のように自分だけを映している。

「勝吾さんが好きだ」

息が掛かる距離で言われたその言葉に、腰がゾクゾクと痺れるような電流が走る。

「…なんかの、気のせいだろ。変になってるだけだって、沢北君」
「俺のこと栄治で良いって、言ったッスよね」
「ぅ、ぐ、…わ、分かったから!栄治君、待って」

頬をなぞっていた手が首にかかって、沢北君と呼んだ拍子に軽く絞まる。殺されるのか、と一瞬頭に嫌な予感が過ぎる。

「ぉ…俺は、栄治…君の、親しい先輩でも、なんでもないだろ」
「先輩後輩とかダチとかじゃなくて、俺のこと男として見てよ」
「そ、…んな」

首をグイと少し乱暴に押し上げられると、そのまま唇を何かで塞がれた。咄嗟のことで何かわからなくて、開いていた僅かな唇の隙間から、滑りをもった何かが入ってくる。それが沢北の舌だと気付くのに時間は掛からなかった。
なんでこんな、舌を入れられてキスなんてしてるんだ。友達の後輩と、部屋で。
俺はどうしようもない罪悪感と焦りで、口の中で好き勝手に動く沢北の舌をどうにか出してしまおうと押し返した。しかし俺の舌の動きを好意的に受け取ったのか、そのまま舌を絡めて下品なまでの唾液の絡む音が部屋中に響き渡る。
息苦しくなって、どうにか空気が欲しいと一瞬空いた隙間で息を吸えば、鼻に抜けた声が甘ったらしく飛び出てしまう。これが自分から出た声だなんて信じたく無かった。
沢北の手は徐々に首から下へと滑り落ちており、薄い制服のシャツ越しに胸周りをゆっくりと撫でまわしてくる。沢北の火傷するような体温の高さに段々とこちらの体温も上がってくる。はぁ、はぁ、と短く息継ぎをするのが精一杯だ。熱の回った頭では、もう沢北のことを押し返す余裕も、どうして好きなんて言い出したのかなどと考える余力もなかった。

力の抜け切った檜山をゆっくりとベッドに倒し、馬乗りになったままで沢北は制服のシャツを脱ぎ捨てる。
半ば自暴自棄だ。沢北は熱に浮かされているとはいえ、どこか冷静的に自分を見ていた。檜山の小さい唇と舌を何度も何度も舐りながら、先日の試合を思い出す。湘北高校に一点差で負けて、身体中に走っていた熱が冷めて、終わったんだと重々しく知らせる試合終了の笛の音。全てがいまも鮮明に思い出せる。
怒りがあった。あの時こうしていれば、あそこで確実に抑えていれば。今頃──そんな後悔の念で頭がいっぱいになる。
怒りのままにいま自分はこんなことをしている。
最低だなと自嘲気味に笑う。
でも自分のキスでこんなに力も抜けて、目も蕩けさせている男の姿を見て、支配欲が満たされていくのがわかる。試合の時にも、自分が相手のチームを徹底的に潰して、周りが歯が立たないと絶望する。あの表情。あれを見る時と同じ感情が湧き起こる。
そしてそれが同時に、深津に対する感情でもあることに気づく。
深津だって彼を好いている。一年越しに名前で呼び合うなんて、独占欲の塊かと言いたくなる。
そんな彼の知らないところで、いまこんなふうに彼を手中に収めようとしている。

「ん、んんぅ…っ」
爪で乳首を何度も刺激されると、そこから妙な電流がピリピリと微弱に走っていく。助けて欲しいと誰かに縋りたいが、縋れるものは何もない。
「勝吾さん」
沢北は自分が脱ぎ捨てたシャツのポケットから、何か小さなものを取り出した。涙で潤んだ視界ではそれが何なのか分からずで、どうしようもないまま沢北の様子をじっと見るほかない。
沢北は何かを口に含むと、「口開けて」と促した。言われるがままに口を開けると、そのまま舌が口内の奥深くへと入っていく。舌をグリグリと押し付けられたと思ったら、次は唾液がどろりと入ってくる。飲めと言わんばかりだ。
喉の奥に入ってきた異物を吐き出す余裕もなく、そのままごくりと飲み込めば、沢北は満足そうに笑う。

頭がぼうっとする。自分が何をされているのか分からない。身体は重りでもつけたみたいに重いし、腰に熱い熱が蛇のように張っているのが分かる。
足を担がれて、尻に何が細いものが入り込んで中で意図の掴めない動き方をする。中で一点を掠めた時に、その時意識が目覚めたように引き上げられた。
「は、ぁぅっ!?ぅ、あ、」
「やっと見つけた、ここ?」
「あ、ぁう、いや、」
「いや?嫌ってまだ言えんの」
効くの遅ぇな。沢北はそう言って指を抜くと、スラックスのベルトを乱暴に引き抜いて、チャックを下ろす。そのまま下着も脱ぐ余裕がなくて、そのまま尻の穴にあてがった。
「勝吾さん、俺のこと見てて」
「ぁ、っ!」
指と比べ物にならない熱と質量に、腹が抉られたように感じて思わず上にのしかかる沢北にしがみついた。
「き、つ…っ」
そのまま沢北は、俺の様子なんてお構いなしに何度も体を貫いた。そのうち俺も嫌だとか助けてとか思えなくなって、揺さぶられるがままに声を上げていた。



目が覚めたのは夕方過ぎで、部屋の中は嘘のように綺麗だった。
沢北の姿は見えない。
それでも身体に残る痛みと腰の重さが、あれは夢じゃないのだと気付かされる。
洗面所に行って、鏡に映った自分を見る。目が泣き腫らしたように真っ赤に染まって、首元に赤くあざが残っていた。
まさかと思ってシャツを捲り上げてみれば、そこらじゅうに赤黒い痕が残っていた。
思わずその場で吐いてしまった。

頭に残ったのは、罪悪感と嫌悪感。

「…気持ち悪い」

そう言いながら、洗面所の水道を勢いよく流した。
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