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初恋は純白であれ



部活中、練習の合間の水分補給で皆が外の水飲み場に集まっていた。体育館付近にあるそこも、野球部員たちのユニフォームで埋まっている。
帽子を脱いで、頭から水を被ってタオルで乱暴に拭く。坊主は楽だとつくづく思う。

「あれ?」

タオルを頭にかけたせいで隣に誰か立っていることに気が付かなかった。横から聞こえてきた声に驚いて隣を見る。

「あ、やっぱり。この前の先輩」
「お…この間の後輩」
「沢北っス」
「沢北君」

本当に一年生か?と思う。見上げるほど背が高い。深津よりも高いなんて羨ましい限りだし、これでまだ成長中というのだから恐ろしいものだ。

「この間、ポカリあざした」
「あぁ…人数分なくてごめんな」
「うちの人数分なんていくらあっても足んないスよ」

沢北は笑うと、練習着にしていたTシャツを脱いで上裸になる。後ろで後輩の野球部員たちが沢北の身体を見て「すげー…」と小声で漏らしているのが聞こえた。お前らも少しは鍛えろよと思うが、確かに沢北の筋肉を見ても対抗心よりも凄いと言う気持ちが先行する。

「先輩の名前、この間聞きそびれたんだけど」
「あ?俺の?」
「そうそう、深津さんに聞いても『練習しろベシ』って全然教えてくんなくて」
「そこまでかよ?まぁ一成って、部活中は厳しそうだしな…」
「うーん…そんな理由じゃないかもですけど」

沢北は苦笑いで答える。そして「てか名前で呼んでんだ」と呟いた。

「深津さんそういうタイプに見えないから」
「確かにな、俺も同じこと思った」
「ッスよね…え?でもこの間は深津って言ってなかったですっけ?」
「あー…つい最近なんだよ、あいつのこと下の名前で呼び出したの」
「へえ」
「照れ臭いんだよな、一年の時も同じクラスだったけど、そん時はお互い苗字だったし。今更名前でって…いや、別に良いんだけどさ」
「…ふーん?」

沢北は勤めて普通の返事をしていたつもりだが、何か面白くなさそうに無愛想に返した。
沢北は体育館の扉から練習を続ける深津の姿が目に入る。深津は練習に集中しているし、おそらく深津が気にかけているこの先輩は、頭にタオルをかけてくれているおかげで、沢北が誰と話しているか一瞬では分からないだろう。
ユニフォームの名前の刺繍に“檜山”と書いてあるのが見えて、沢北は「檜山先輩?」と言う。

「うん」
「下は何て言うんですか?」
「勝吾」
「へぇ。勝吾先輩って言うんスね」
「勝吾で良いよ。部違うしな」
「じゃ、勝吾さん」
「お、う」
「俺のことも栄治で良いっスよ」

え、と首を伸ばし見上げたせいで、頭に掛けていたタオルがパサと肩に落ちる。太陽の光が反射して薄くなった目が、綺麗だと沢北は思った。
沢北は捨て台詞のように栄治で良いと言った後、「じゃーね、勝吾さん!」と爽やかに笑って体育館に戻って行った。

「すげーやつ…」

あんな後輩をまとめてる深津ってすごいな、と檜山は思った。
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