※イライに婚約者がいる
※「交わらない未来」とは独立した話



「イライはどうして荘園に来たの？」
とうとうこの日が来てしまったか。
レノにだけは聞かれたくなかった。
でも彼女に嘘はつきたくない。

「…婚約者の、ためだよ」
「そう、なんだ」

彼女のことをよく知らなければ見逃してしまうくらい、小さく息を呑む音がした。
レノの心が天眼越しに雪崩込んでくる。
好きだ。どうして、嘘だと言って。こんなに愛してるのに。
イライ、イライ…イライ。大好き、愛してる。

彼女がこの場を去った後も絶えず流れ続ける叫ぶような声。
いつだってそうだった。
レノが私と話す時の言動も、表情も、天眼越しに流れ込む感情も、全てが私への愛で満ち溢れていた。

それでも、だ。

私の婚約者には、私がいないと生きていかれない事情がある。
レノは沢山の人に愛されていて、私じゃなくても共に生きてくれる人がいる。
レノが好きだ、君と生きたい。
これは嘘偽りない本心だけど、叶わない以上伝えればより苦しませるだけだ。
これ以上レノを苦しませたくない。

豊かな表情も、ゲーム中の一生懸命な姿も、梟を優しく撫でる手つきも、耳に優しく響く声も、全てが愛おしくて堪らなかった。
それでも応えられないのなら、私も苦しみを背負おう 。
私達が分かち合えるのは、愛ではなく苦しみだけだ。

「レノ、レノ…レノ。好きだよ、愛してる」

彼女に絶対届けられない想いを、虚しく暗闇に溶かした。
私には私達二人の運命が見えている。
ここで離れ、もう二度と交わることは無いだろう。