納棺師
名前
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「では、ドレスを捲ってください」
至って真面目な顔で納棺師イソップ・カールは言う。
やや緊張した面持ちでオルガレーノはドレスのスリットに手をかけた。
遡ること数時間前。
今日は数ヶ月に一度、新衣装や携帯品が届く日だった。
オルガレーノは今回が初支給のためか、他サバイバーより支給品が多い。
その中の一つが、普段着用しているジャケット、スラックス、ブーツの地味なスタイルとは打って変わった華やかなアビスブルーのドレスだった。
ネックホルダーでスッキリとしたデザインの首や胸元とは対照的に、腰から下にかけて柔らかく広がるたっぷりのシフォン地のロングスカートが上品だ。
「衣装名は『VIPの警護』か、パーティードレスかな。それにしても走りにくそうな…」
これまで警護の仕事でパーティーに付き添うためにドレスを着る機会は一応あったが、あまり慣れたものではない。
ましてや飛んで跳ねてのゲームには向かないだろう。
「まぁ、レノのドレス素敵ね!ねぇ、早速着て見せてよ」
「うんうん、見たい見たい!」
暫く陽の目を見る機会はなさそうだ、と箱にしまいかけたところに声をかけてきたのはマーサとエマだ。
「いやでも、どう見てもゲーム向きでは…」
「そんな、折角素敵なのに勿体ないわよ」
「マーサの言う通りなの!」
結局2人とそこに加わったエミリー、カヴィンの勢いに押し切られ、今日のゲームはこのドレスで参加することになった。
* * *
自室でドレスに袖を通し、腰のファスナーを上げる。
ポニーテールを解き、ハーフアップに直した髪を同梱されていた髪飾りで纏めた。髪飾りと同じ、マンダリンオレンジの煌めくイヤリングを着ければ完成。
実際に着てみて気付いたが、左脚に太ももまでスリットが入っているおかげで動きやすい。
腕を振る、身体を捻るなど着心地を試してみたが、思いの外動きやすい。
非常に気は進まないが、これならゲームに行けてしまう…
折角のドレスなのに大胆に開いた背中と左脚の傷跡が見えてしまうのが唯一心残りだが、こればかりはどうしようもない。一旦マーサ達に見てもらおうと廊下に出た。
「グラウカ、さん…?」
マーサ達がいるであろう食堂へ向かうため、戸締りをしたところで背後からかけられた声。
振り返ると目を真ん丸に見開いたイソップが棒立ちになっていた。
「ああ、イソップさん。ほら、今日携帯品が届いたでしょう?だから着替えてみてと言われまして…何か、おかしいでしょうか?」
あまりにも彼が呆気に取られているものだから、どこかおかしかっただろうか不安になってきた。
「ああ、いえ!!そ、そんなことは」
少し慌てて、一つ一つ言葉を選びながら話すイソップ。
「でも…なんだか、浮かない顔をされているなって」
彼は他人が苦手な割に、いや苦手だからこそ、よく人を見ている。
よく分かったな、と感心しながらオルガレーノは傷のことを話した。
「なるほど…傷を隠すという事なら、お力になれるかも知れません」
「本当ですか!もし可能なら、ぜひお願いします」
言われてみれば彼は人体修復のプロなのだ、傷を隠すこともできるかもしれない。
まさに渡りに船だ、オルガレーノはそのまま彼の部屋に同行した。
* * *
こうして冒頭のセリフに至ったわけである。
先ほど背中部分の処置を終えてもらい、次は左足の膝から外ももにかけてできた傷の番、という訳だ。
なんというか、彼はたまに言葉選びが危なっかしくて、他意がないと分かっていてもこれは…恥ずかしい。
スリットの切れ目を身体側に寄せて足を出し、太ももにつけていた警棒のホルスターを外した。
足を小型の台に置くと、イソップはその足元に屈んで施術を始めた。
何かの液体や粉を塗ったり筆を滑らせたりする感触がくすぐったい。
どうにか気を逸らしたくてイソップの手元に目をやれば、素早くそれでいて繊細な仕事に思わずオルガレーノは見入ってしまう。
「…どうされましたか?」
オルガレーノの目線に気付いたイソップが訝しげに問う。
「いえ、早いのに丁寧で素晴らしいなって…それと、どうして引き受けて下さったのかな、って」
廊下で声をかけられた時からずっと気になっていたことだ。
社交恐怖をもつ彼の方から手を差し伸べてくれるのは少し意外だった。
問いかけに一瞬ピタリと動きを止めるイソップ。
するとほんのりと彼の顔が紅色に染まって来るではないか。
「ありがとうございます…。その…ゲームでは、貴女がいつも前線に立ってくださるから、無事でいられることが沢山ありました。…僕なりのお礼です」
途切れ途切れに、ゆっくりと言葉を紡ぐ彼。
「でも…本音を言えば、傷つかないでいて欲しいです…」
だから、と言葉を切ると彼の顔がオルガレーノの脚に近づき、たった今施術した傷のすぐ真上、太ももに唇を寄せた。
柔らかくて温かい、ふにっとしたものが触れる。
チュッと音を立てた後、続けて生温いヌルッとした感触。
「っ!?いやいやいや待って待って!?」
突然すぎる行動に、オルガレーノが慌てて頭を押し返そうとするも、器用に指を絡めて手を抑え込まれてしまい適わない。
「っ、ちょっ、とっ…何っ、し、てっ!」
今度は先ほど舌が這った場所を強く吸われる。
皮膚が湿り気を帯びて感覚の鋭さが増している。
「っ待って、イ、ソップ…ぅっ!?」
軽く痺れを感じ始めた頃、チュポッと音を立ててやっと彼の頭が離れる。
吸われた箇所を見れば、しっかりと赤紫色に変色してしまっていた。
「その位置…走り回ったら確実に見えますよ。嫌だったら、今日はハンター見つからないように、そして捕まらないように」
跡をつけた張本人はと言えば、いたって平然とした顔をしている。
なるほど、確かに位置的にはスリットの数十センチ下の外もも部分で、歩いていれば隠れるが激しく動けばスリットから覗く、絶妙な箇所だ。
「僕は、見られても構いませんけど」
オルガレーノはますます彼の意図がわからなくなった。
今の発言は彼特有の危なっかしい言い回しか、それとも確信犯か。
彼の真意を聞く前に、彼は部屋から出ていってしまった。
果たして今日のゲームに、平常心で臨めるだろうか…衣服が掠れるだけで彼の唇を、舌の感触を思い出してしまう。
まだバクバクとなり続ける心臓に早く落ち着けと念じながらオルガレーノも部屋を後にした。
至って真面目な顔で納棺師イソップ・カールは言う。
やや緊張した面持ちでオルガレーノはドレスのスリットに手をかけた。
遡ること数時間前。
今日は数ヶ月に一度、新衣装や携帯品が届く日だった。
オルガレーノは今回が初支給のためか、他サバイバーより支給品が多い。
その中の一つが、普段着用しているジャケット、スラックス、ブーツの地味なスタイルとは打って変わった華やかなアビスブルーのドレスだった。
ネックホルダーでスッキリとしたデザインの首や胸元とは対照的に、腰から下にかけて柔らかく広がるたっぷりのシフォン地のロングスカートが上品だ。
「衣装名は『VIPの警護』か、パーティードレスかな。それにしても走りにくそうな…」
これまで警護の仕事でパーティーに付き添うためにドレスを着る機会は一応あったが、あまり慣れたものではない。
ましてや飛んで跳ねてのゲームには向かないだろう。
「まぁ、レノのドレス素敵ね!ねぇ、早速着て見せてよ」
「うんうん、見たい見たい!」
暫く陽の目を見る機会はなさそうだ、と箱にしまいかけたところに声をかけてきたのはマーサとエマだ。
「いやでも、どう見てもゲーム向きでは…」
「そんな、折角素敵なのに勿体ないわよ」
「マーサの言う通りなの!」
結局2人とそこに加わったエミリー、カヴィンの勢いに押し切られ、今日のゲームはこのドレスで参加することになった。
* * *
自室でドレスに袖を通し、腰のファスナーを上げる。
ポニーテールを解き、ハーフアップに直した髪を同梱されていた髪飾りで纏めた。髪飾りと同じ、マンダリンオレンジの煌めくイヤリングを着ければ完成。
実際に着てみて気付いたが、左脚に太ももまでスリットが入っているおかげで動きやすい。
腕を振る、身体を捻るなど着心地を試してみたが、思いの外動きやすい。
非常に気は進まないが、これならゲームに行けてしまう…
折角のドレスなのに大胆に開いた背中と左脚の傷跡が見えてしまうのが唯一心残りだが、こればかりはどうしようもない。一旦マーサ達に見てもらおうと廊下に出た。
「グラウカ、さん…?」
マーサ達がいるであろう食堂へ向かうため、戸締りをしたところで背後からかけられた声。
振り返ると目を真ん丸に見開いたイソップが棒立ちになっていた。
「ああ、イソップさん。ほら、今日携帯品が届いたでしょう?だから着替えてみてと言われまして…何か、おかしいでしょうか?」
あまりにも彼が呆気に取られているものだから、どこかおかしかっただろうか不安になってきた。
「ああ、いえ!!そ、そんなことは」
少し慌てて、一つ一つ言葉を選びながら話すイソップ。
「でも…なんだか、浮かない顔をされているなって」
彼は他人が苦手な割に、いや苦手だからこそ、よく人を見ている。
よく分かったな、と感心しながらオルガレーノは傷のことを話した。
「なるほど…傷を隠すという事なら、お力になれるかも知れません」
「本当ですか!もし可能なら、ぜひお願いします」
言われてみれば彼は人体修復のプロなのだ、傷を隠すこともできるかもしれない。
まさに渡りに船だ、オルガレーノはそのまま彼の部屋に同行した。
* * *
こうして冒頭のセリフに至ったわけである。
先ほど背中部分の処置を終えてもらい、次は左足の膝から外ももにかけてできた傷の番、という訳だ。
なんというか、彼はたまに言葉選びが危なっかしくて、他意がないと分かっていてもこれは…恥ずかしい。
スリットの切れ目を身体側に寄せて足を出し、太ももにつけていた警棒のホルスターを外した。
足を小型の台に置くと、イソップはその足元に屈んで施術を始めた。
何かの液体や粉を塗ったり筆を滑らせたりする感触がくすぐったい。
どうにか気を逸らしたくてイソップの手元に目をやれば、素早くそれでいて繊細な仕事に思わずオルガレーノは見入ってしまう。
「…どうされましたか?」
オルガレーノの目線に気付いたイソップが訝しげに問う。
「いえ、早いのに丁寧で素晴らしいなって…それと、どうして引き受けて下さったのかな、って」
廊下で声をかけられた時からずっと気になっていたことだ。
社交恐怖をもつ彼の方から手を差し伸べてくれるのは少し意外だった。
問いかけに一瞬ピタリと動きを止めるイソップ。
するとほんのりと彼の顔が紅色に染まって来るではないか。
「ありがとうございます…。その…ゲームでは、貴女がいつも前線に立ってくださるから、無事でいられることが沢山ありました。…僕なりのお礼です」
途切れ途切れに、ゆっくりと言葉を紡ぐ彼。
「でも…本音を言えば、傷つかないでいて欲しいです…」
だから、と言葉を切ると彼の顔がオルガレーノの脚に近づき、たった今施術した傷のすぐ真上、太ももに唇を寄せた。
柔らかくて温かい、ふにっとしたものが触れる。
チュッと音を立てた後、続けて生温いヌルッとした感触。
「っ!?いやいやいや待って待って!?」
突然すぎる行動に、オルガレーノが慌てて頭を押し返そうとするも、器用に指を絡めて手を抑え込まれてしまい適わない。
「っ、ちょっ、とっ…何っ、し、てっ!」
今度は先ほど舌が這った場所を強く吸われる。
皮膚が湿り気を帯びて感覚の鋭さが増している。
「っ待って、イ、ソップ…ぅっ!?」
軽く痺れを感じ始めた頃、チュポッと音を立ててやっと彼の頭が離れる。
吸われた箇所を見れば、しっかりと赤紫色に変色してしまっていた。
「その位置…走り回ったら確実に見えますよ。嫌だったら、今日はハンター見つからないように、そして捕まらないように」
跡をつけた張本人はと言えば、いたって平然とした顔をしている。
なるほど、確かに位置的にはスリットの数十センチ下の外もも部分で、歩いていれば隠れるが激しく動けばスリットから覗く、絶妙な箇所だ。
「僕は、見られても構いませんけど」
オルガレーノはますます彼の意図がわからなくなった。
今の発言は彼特有の危なっかしい言い回しか、それとも確信犯か。
彼の真意を聞く前に、彼は部屋から出ていってしまった。
果たして今日のゲームに、平常心で臨めるだろうか…衣服が掠れるだけで彼の唇を、舌の感触を思い出してしまう。
まだバクバクとなり続ける心臓に早く落ち着けと念じながらオルガレーノも部屋を後にした。
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