写真家
名前
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(今回は赤の教会か…)
オルガレーノは目前の寂れた教会を見上げると、素早く脳内に暗号機の候補地点をリストアップする。
その内の手近な場所に向かう途中、視界の端に3脚付きの撮影機を捉えた。
(ハンターは写真家だな)
所謂由緒正しき貴族と言われて想像するような身なりに整えられた豊かな銀髪、見目麗しい容貌をした男を思い浮かべる。
彼の撮影機に捉えられると非常に厄介だ。
今向かっている暗号機に到達するより先に1度ロッカーに入っておくべきか。
* * *
必死の解読と撮影機対策を徹底した成果か、3個目の暗号機までは順調に進んでいた。
4個目の暗号機を踊り子のマルガレータと解読中、とうとうその瞬間は訪れた。
暗号機の傍に黒いモヤが立ち込める。
「!?まずいわ、レノ逃げー 「やっと見つけたよ…今回は随分と上手く隠れるじゃないか」
狼狽して叫ぶマルガレータの声を遮り、耳心地のいい声が響いた。
「…念入りに対策してきたんでね。」
内心冷や汗を滲ませながらオルガレーノが答える。
彼の注意を少しでも自分に引き付け、こちらに向かわせるように。
オルガレーノの意思を悟ったのか、既にマルガレータは障害物の隙間を縫いながら逃走しているところだ。
「嬉しい限りだね。その成果、もっと見せてほしいな」
あくまで優雅に、形のいい口元には笑みさえ浮かべながらジョゼフは静かに剣を抜いた。
* * *
チェイスが始まってから何秒経っただろうか。
オルガレーノとジョゼフとのチェイスは苛烈を極めた。
窓枠や塀、板、壁、道具などあらゆるものをフル活用して逃げるオルガレーノと、距離を空けさせず、かつ一定エリアより外に出られないよう囲い込むジョゼフ。
もう警棒は使い切ってしまったし、付近の板もあらかた破壊され済みだ。
障害物のあるエリアに移動しなければいずれ追いつかれてしまう。
走りながら辛うじて塞がっていない枠に利き手をかけ、一気に飛び越える。
着地したのと逆側の足をそのまま踏み出し、コンマ数秒でも時間短縮を図る。
その時だった。
所持していた端末にメッセージ受信の合図が届く。
ほんの一瞬気を取られたがために、これまでギリギリで保たれていた均衡が呆気なく崩れ去った。
「あぁっ!」
足が鈍った隙をジョゼフが見逃すはずもなく、容赦なく背中を裂く刃。
どうにか頭だけは庇ったものの、ろくな受け身も取れずもんどり打って地面に倒れ込んだ。
「うっ…ぐっ…」
これまでのチェイスの反動が一気に押し寄せたのか、全身の筋肉と骨が軋んで悲鳴を上げている。
足音が迫り、オルガレーノの背後で止まった。
不自然な間を訝しく思うもそちらに向き直る気力はなく、どうにか目線だけ寄越すと覆い被さった群青色に遮られる。
「済まない。その…背中が…」
珍しく歯切れの悪い口調に、一拍おいてから彼の意図を察した。
先ほどから脈打つような痛みとともに、背中が外気に晒されるような心許ない感覚がする。
切りつけられた時にジャケットとシャツが裂かれたのだろう。
「でも、これじゃ貴方の服が…」
「もう手遅れだよ。それに…いいんだ」
「そ、そうか。ありがとう」
礼を言いながらどうにか身体を起こして袖を通す。
それを確認したジョゼフはオルガレーノを風船に括りつけ、ロケットチェアに拘束した。
こちらが抵抗しなかったからかもしれないが、心持ちいつもより扱いが優しい…ような気がする。
「済まなかったね。貴女に傷を作ってしまった」
彼の透き通るようなペールブルーの瞳が、真っ直ぐオルガレーノを見つめている。
自信家の彼が殊勝に詫びるものだから、妙な感覚だ。
「いや、いいよ。それがハンターの役割でしょう」
「それでも、女性の体に傷が残ったら…」
「ふふっ、そんなことを気にするんだね。…元から醜い傷だらけの身体なんだ、今更増えたところで変わらないよ」
容赦なく剣を振る癖に、妙なことは気にするのにおかしくなり、思わず笑みが零れた。
それを受けた写真家はというと、少し考えるような素振りをする。
「…確かに、美しくはないかもしれないね」
ジョゼフは頷きながら答えた。だが、と続ける。
「貴女が誰かを守りながら生きてきた証なんだろう。
例え美しくないとしても、私は貴女を魅力的だと思っているよ」
「っ!!」
予想外の賛辞を受け、ほんのり赤面し言葉もないオルガレーノ。
自分を真っ直ぐ見つめてくる瞳から目が離せない…
「だから私は貴女をーーー「っうわぁぁっ!?」
ジョゼフもオルガレーノも、お互い話に夢中で客観的な状況をきれいさっぱり忘れていた。
今はゲーム中で、オルガレーノ以外のサバイバーは未だ健在である。
であれば、当然救助に来るわけで…
二人の会話は、ジョゼフの死角から放たれた投げ縄にオルガレーノが攫われて遮られた。
「カヴィン!?」
「よう、待たせたな!」
タイミング完璧だったろ?
オルガレーノを担ぎながら軽快に走る男はきざにウインクしてみせる。
先程の合図でとっくに解読は終わっていたのだ。
「ゲートはマルガレータとヘレナが開けてくれてる。このまま脱出するから、もうちょっと辛抱してくれよ!」
走る足を止めずに笑いかけるカウボーイ。
ゲーム展開を考えれば、非の打ち所のない完璧な救助だった。
しかしジョゼフの言葉を最後まで聞けなかったのは誤魔化しようのない心残りだ。
(今度この上着を返しに行ったら、続きを聞かせてくれるだろうか…)
追うのを諦めたのか、あっという間に姿が見えなくなった写真家のことを名残惜しく思いながら、カヴィンに身を委ねて脱出を果たした。
* * *
余談ではあるが、オルガレーノは屋敷に戻った後エミリーにゲームで無茶なチェイスを続けて怪我を負った件でこってり絞られた。
さらに、ジョゼフの上着を羽織って帰ってきたことが他サバイバー達の好奇心を刺激し、質問という名の尋問の嵐が降り注いだのだとか…
オルガレーノは目前の寂れた教会を見上げると、素早く脳内に暗号機の候補地点をリストアップする。
その内の手近な場所に向かう途中、視界の端に3脚付きの撮影機を捉えた。
(ハンターは写真家だな)
所謂由緒正しき貴族と言われて想像するような身なりに整えられた豊かな銀髪、見目麗しい容貌をした男を思い浮かべる。
彼の撮影機に捉えられると非常に厄介だ。
今向かっている暗号機に到達するより先に1度ロッカーに入っておくべきか。
* * *
必死の解読と撮影機対策を徹底した成果か、3個目の暗号機までは順調に進んでいた。
4個目の暗号機を踊り子のマルガレータと解読中、とうとうその瞬間は訪れた。
暗号機の傍に黒いモヤが立ち込める。
「!?まずいわ、レノ逃げー 「やっと見つけたよ…今回は随分と上手く隠れるじゃないか」
狼狽して叫ぶマルガレータの声を遮り、耳心地のいい声が響いた。
「…念入りに対策してきたんでね。」
内心冷や汗を滲ませながらオルガレーノが答える。
彼の注意を少しでも自分に引き付け、こちらに向かわせるように。
オルガレーノの意思を悟ったのか、既にマルガレータは障害物の隙間を縫いながら逃走しているところだ。
「嬉しい限りだね。その成果、もっと見せてほしいな」
あくまで優雅に、形のいい口元には笑みさえ浮かべながらジョゼフは静かに剣を抜いた。
* * *
チェイスが始まってから何秒経っただろうか。
オルガレーノとジョゼフとのチェイスは苛烈を極めた。
窓枠や塀、板、壁、道具などあらゆるものをフル活用して逃げるオルガレーノと、距離を空けさせず、かつ一定エリアより外に出られないよう囲い込むジョゼフ。
もう警棒は使い切ってしまったし、付近の板もあらかた破壊され済みだ。
障害物のあるエリアに移動しなければいずれ追いつかれてしまう。
走りながら辛うじて塞がっていない枠に利き手をかけ、一気に飛び越える。
着地したのと逆側の足をそのまま踏み出し、コンマ数秒でも時間短縮を図る。
その時だった。
所持していた端末にメッセージ受信の合図が届く。
ほんの一瞬気を取られたがために、これまでギリギリで保たれていた均衡が呆気なく崩れ去った。
「あぁっ!」
足が鈍った隙をジョゼフが見逃すはずもなく、容赦なく背中を裂く刃。
どうにか頭だけは庇ったものの、ろくな受け身も取れずもんどり打って地面に倒れ込んだ。
「うっ…ぐっ…」
これまでのチェイスの反動が一気に押し寄せたのか、全身の筋肉と骨が軋んで悲鳴を上げている。
足音が迫り、オルガレーノの背後で止まった。
不自然な間を訝しく思うもそちらに向き直る気力はなく、どうにか目線だけ寄越すと覆い被さった群青色に遮られる。
「済まない。その…背中が…」
珍しく歯切れの悪い口調に、一拍おいてから彼の意図を察した。
先ほどから脈打つような痛みとともに、背中が外気に晒されるような心許ない感覚がする。
切りつけられた時にジャケットとシャツが裂かれたのだろう。
「でも、これじゃ貴方の服が…」
「もう手遅れだよ。それに…いいんだ」
「そ、そうか。ありがとう」
礼を言いながらどうにか身体を起こして袖を通す。
それを確認したジョゼフはオルガレーノを風船に括りつけ、ロケットチェアに拘束した。
こちらが抵抗しなかったからかもしれないが、心持ちいつもより扱いが優しい…ような気がする。
「済まなかったね。貴女に傷を作ってしまった」
彼の透き通るようなペールブルーの瞳が、真っ直ぐオルガレーノを見つめている。
自信家の彼が殊勝に詫びるものだから、妙な感覚だ。
「いや、いいよ。それがハンターの役割でしょう」
「それでも、女性の体に傷が残ったら…」
「ふふっ、そんなことを気にするんだね。…元から醜い傷だらけの身体なんだ、今更増えたところで変わらないよ」
容赦なく剣を振る癖に、妙なことは気にするのにおかしくなり、思わず笑みが零れた。
それを受けた写真家はというと、少し考えるような素振りをする。
「…確かに、美しくはないかもしれないね」
ジョゼフは頷きながら答えた。だが、と続ける。
「貴女が誰かを守りながら生きてきた証なんだろう。
例え美しくないとしても、私は貴女を魅力的だと思っているよ」
「っ!!」
予想外の賛辞を受け、ほんのり赤面し言葉もないオルガレーノ。
自分を真っ直ぐ見つめてくる瞳から目が離せない…
「だから私は貴女をーーー「っうわぁぁっ!?」
ジョゼフもオルガレーノも、お互い話に夢中で客観的な状況をきれいさっぱり忘れていた。
今はゲーム中で、オルガレーノ以外のサバイバーは未だ健在である。
であれば、当然救助に来るわけで…
二人の会話は、ジョゼフの死角から放たれた投げ縄にオルガレーノが攫われて遮られた。
「カヴィン!?」
「よう、待たせたな!」
タイミング完璧だったろ?
オルガレーノを担ぎながら軽快に走る男はきざにウインクしてみせる。
先程の合図でとっくに解読は終わっていたのだ。
「ゲートはマルガレータとヘレナが開けてくれてる。このまま脱出するから、もうちょっと辛抱してくれよ!」
走る足を止めずに笑いかけるカウボーイ。
ゲーム展開を考えれば、非の打ち所のない完璧な救助だった。
しかしジョゼフの言葉を最後まで聞けなかったのは誤魔化しようのない心残りだ。
(今度この上着を返しに行ったら、続きを聞かせてくれるだろうか…)
追うのを諦めたのか、あっという間に姿が見えなくなった写真家のことを名残惜しく思いながら、カヴィンに身を委ねて脱出を果たした。
* * *
余談ではあるが、オルガレーノは屋敷に戻った後エミリーにゲームで無茶なチェイスを続けて怪我を負った件でこってり絞られた。
さらに、ジョゼフの上着を羽織って帰ってきたことが他サバイバー達の好奇心を刺激し、質問という名の尋問の嵐が降り注いだのだとか…
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