白黒無常
名前
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「レノ、早く逃げて!!」
目の前で叫ながら、イライが打ち上げられて行った。
「ごめん…ごめんっ…!!」
もう身動きすら難しい状態で、サーカステントのステージに突っ伏したオルガレーノが、数秒前までイライのいた場所を見つめて呻いた。
仲間を助けられなかった。
仲間を守るためにいるはずの護衛が、何故残っているのか?
人を守れることしか価値はない自分が?
そんな自責の念が、オルガレーノの心を鎖の如くきつく重く締めつける。
ハンター2人に対し、残りサバイバーは3人。
既に敗北は決定しているが、勝敗抜きに仲間には少しでも多く逃げ切って欲しかった。
今残っているのは、既に一度チェアに座った上に未だ傷付いたままのイソップと、無傷なもののハンターに追われ続けているトレイシーだ。
「カールさん、トレイシー…ごめん、どうか、逃げて…」
自分はどうなってもいい。
2人が逃れられるなら、身代わりになったって構わない。
お願いだから2人だけでも逃げて欲しい。
お願い、お願い、お願い……っ!!
「レノ」
一心不乱に懇願するオルガレーノの頭上に、聞きなれた声が降ってきた。
「必安…」
顔を上げると、色白痩身で役者の如く涼やかな顔をした見慣れた男が、見慣れない出で立ちで佇んでいるではないか。
赤地に金糸の装飾が施された絢爛なストラと、頭上で宝石の埋め込まれた豪華なミトラが神々しく輝いていた。
「助けて欲しいですか?」
「何を、言っている…?」
この状況で、サバイバーの自分に助かる選択肢などないだろう。
起死回生も既に使っている。
残るは失血死を待つか、捕まって打ち上げられるか。
「別に、いい。私が助かったところで…」
仲間は助からない。
分かっていても口に出すのが躊躇われて、飲み込んだ。
「…なるほど」
それをどう受け取ったのか分からないまま、必安はオルガレーノを風船に括りつけた。
(ロケットチェアの方角じゃない…?)
「カールさん!トレイシー!」
「グラウカさん…」
「レノ!」
ゲートの向こう側には、一心に案じていた仲間が待っていた。
上手くハンターの目を掻い潜ってゲートを開けた後も、オルガレーノの安否が分かるまで待ってくれていたようだ。
2人が無事なことに安堵しつつ、オルガレーノは必安に尋ねた。
「どうして、助けてくれたの?」
「急難の中で懇願するものを、神は見捨てませんよ。今の私は眷属ですから」
僅かに首を傾げ、いたずらっぽく口元に人差し指を立てながら口元に弧を描く。
確か彼の衣装の文句だったはずだ。
上手くはぐらかされたような気がするが、要するに気まぐれだったのだろうか。
「…私は神なんて信じてない。だから、あなた個人に…ありがとう」
どう言ったらいいのか、言葉を選びながらオルガレーノは礼を告げた。
必安は目を見開き、ふっと破顔しながらオルガレーノに近づくと、そっと額に口付けた。
「あ、えっ!?」
「さぁ、早く」
必安は顔を赤らめながら慌てるオルガレーノの肩を掴む。
くるりとゲートの方を向かせ、そっと背中を押した。
今度は振り返らずに、3人はゲートの奥に走り、やがて見えなくなった。
「私だって、神なんて信じるつもりはさらさらないが…こんな役回りなら悪くないですね」
3人の消えていった場所を見つめながら、素に戻った必安が独り零す。
微かに綻ぶ口元。
背後で、ゲーム終了の合図が響いていた。
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急難の中で懇願せよ。
虚無からの応答は、あなたに喜びをもたらすだろう。
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