冒険家
名前
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「レノ、また顔に傷作ったんだね」
「え?…ああ、これぐらい大したことないよ」
ゲームからの帰途、口を開いたのは冒険家のカートだ。
今回のゲームは引き分け、他の2人は序盤で打ち上げられて既に荘園に戻っている頃だろう。
負傷状態でゲートをくぐったオルガレーノはカートの治療を受けたばかりだった。
「ねぇレノ。君が俺達を守ろうとしてくれる気持ちはとても嬉しいよ。…でも、俺だって自分の身くらいは守れるんだ。もっと頼ってよ」
眉尻を下げ、寂しそうな顔を浮かべて立ち止まる。カートは感情表現が豊かで表情がよく動く。
カートの表情にちくりと罪悪感が疼いたが、オルガレーノも立ち止まりやんわりと返す。
「心配してくれてありがとう。…でも皆を守るのが私の役割だから。」
能力的にオルガレーノはチェイスや救助向きで、かつ仲間が脱落するほど不利になる。
そして何より身に染み付いた「護衛」の性が、仲間が傷つくことを良しとしなかった。
そんなオルガレーノの胸中を悟ったのか、更に困った顔してため息をついた後、カートが静かに呟いた。
「んー、強情だねぇ。…しょうがない、ごめんね」
「え?」
何に謝っているのか、とオルガレーノが問うより前にそれは起こった。
「…あれ?」
オルガレーノは何が起きたか、理解するのに数秒を要した。
ほんの一瞬浮遊感があったかと思うと、カートの腕の中に収められていたのだ。
それもただ抱きしめられているのでなく、肘を背中側で九十度に折り曲げ、掌を地面に向けた状態で手首を纏められている。
人体の構造上自力脱出不可能な、相手を無力化する体勢だ。
(今一体…何をされた…?)
いまだ混乱しているオルガレーノが、どうにか今起きたことを脳内で巻き戻してスロー再生し直してみる。
カートは向かい合った状態から左手でオルガレーノの右内肘に、右手で同じく左肩に触れた。
押す、というより撫でるといった方が相応しい程柔らかな力を込めれば、さり気なく添えられていた彼の左足がつっかえ棒となりオルガレーノはつんのめった。
その身体をカートは自身の胸に向かい入れると同時に、驚きで脱力したオルガレーノの両腕を掴んで背中側に回して……この一瞬の間に、実に鮮やかな足払いと極め技を極められていたのだ。
確かに油断はしていた。
しかし予め予期した上で対峙していても、確実に避けられたとは言い難い。
信じ難いが間違いない…カートは、護衛を生業としていた自分と互角か、自分以上の体術の持ち主だと痛感した。
「一体…あなた何者…?」
「んー?俺はただの冒険家だよ?」
目を真ん丸に見開いたオルガレーノが問うたが、いつもの人好きする笑みで誤魔化されてしまう。
「ねぇレノ。これでもまだ俺は頼りない男に見えるかい?」
小首を傾げ、口調こそ優しいものの、一切の誤魔化しを見逃さない鋭い眼差し。
「いや…そ、その…」
オルガレーノは立て続けに見るカートの一面に動揺し、言葉に詰まって無意識に顔を背けた。
するとカートはそれを回答拒否と捉えたのか、彼女の手首を片手でまとめ直し、空いた右手で顎を持ち、そのまま上向かせた。
「レノー?」
意外と大きい角張った手に捕えられ、目線を捉えられる。
傷と髭の似合う精悍な顔立ちに緩やかな、普段の柔和なものとは違い、相手を軽く弄ぶような笑みを浮かべて覗き込まれていた。
「待った待った!わかったからっ!!」
オルガレーノは日頃気が付かなかったカートの男性らしさを意識し出した途端、この密着して至近距離から顔をのぞき込まれる状況に羞恥心を覚え、顔が火照ってくるのを自覚する。
逃れたくて身を捩るが離してくれそうにもない。
「わかった、わかったから!カートは頼れる男だよ!十分わかったから!!」
堪らず目をつぶって言い放てば、捕まれていた手首が漸く解放された。
「うんうん、良く出来ました」
普段のニコニコ顔に戻り満足気に頷いているカートだが、手を手首から腰に添え直してオルガレーノをホールドし続けている。
「ちょっと、この手…」
「俺は頼れる男だからね。期待には応えなきゃ」
人の良さそうな顔をして意外と食えないタイプなのかもしれない…オルガレーノがそんな物思いに耽けられたのも束の間。
それっ、の掛け声とともにカートはオルガレーノを横抱きにして持ち上げた。
「ちょ、ちょっとカート下ろして!1人で歩けるってば!!」
苦言を呈すつもりだったのに、またもや予想外の彼の行動にすっかり翻弄されていた。
一方のカートはといえば、赤面しながら慌てるオルガレーノの様子を楽しそうに眺め、鼻歌でも歌いそうな雰囲気でそのまま歩き始めた。
結局、暴れても文句を言っても笑って受け流すカートに精も根も尽き果ててオルガレーノが大人しくなった頃、彼らは館に帰還した。
そして2人を最初に目撃したエマが、このことを光の速さで女性陣にチクリ…もとい報告したお陰で、彼らの間には暫くあらぬ噂が絶えなかったのだとか。
「え?…ああ、これぐらい大したことないよ」
ゲームからの帰途、口を開いたのは冒険家のカートだ。
今回のゲームは引き分け、他の2人は序盤で打ち上げられて既に荘園に戻っている頃だろう。
負傷状態でゲートをくぐったオルガレーノはカートの治療を受けたばかりだった。
「ねぇレノ。君が俺達を守ろうとしてくれる気持ちはとても嬉しいよ。…でも、俺だって自分の身くらいは守れるんだ。もっと頼ってよ」
眉尻を下げ、寂しそうな顔を浮かべて立ち止まる。カートは感情表現が豊かで表情がよく動く。
カートの表情にちくりと罪悪感が疼いたが、オルガレーノも立ち止まりやんわりと返す。
「心配してくれてありがとう。…でも皆を守るのが私の役割だから。」
能力的にオルガレーノはチェイスや救助向きで、かつ仲間が脱落するほど不利になる。
そして何より身に染み付いた「護衛」の性が、仲間が傷つくことを良しとしなかった。
そんなオルガレーノの胸中を悟ったのか、更に困った顔してため息をついた後、カートが静かに呟いた。
「んー、強情だねぇ。…しょうがない、ごめんね」
「え?」
何に謝っているのか、とオルガレーノが問うより前にそれは起こった。
「…あれ?」
オルガレーノは何が起きたか、理解するのに数秒を要した。
ほんの一瞬浮遊感があったかと思うと、カートの腕の中に収められていたのだ。
それもただ抱きしめられているのでなく、肘を背中側で九十度に折り曲げ、掌を地面に向けた状態で手首を纏められている。
人体の構造上自力脱出不可能な、相手を無力化する体勢だ。
(今一体…何をされた…?)
いまだ混乱しているオルガレーノが、どうにか今起きたことを脳内で巻き戻してスロー再生し直してみる。
カートは向かい合った状態から左手でオルガレーノの右内肘に、右手で同じく左肩に触れた。
押す、というより撫でるといった方が相応しい程柔らかな力を込めれば、さり気なく添えられていた彼の左足がつっかえ棒となりオルガレーノはつんのめった。
その身体をカートは自身の胸に向かい入れると同時に、驚きで脱力したオルガレーノの両腕を掴んで背中側に回して……この一瞬の間に、実に鮮やかな足払いと極め技を極められていたのだ。
確かに油断はしていた。
しかし予め予期した上で対峙していても、確実に避けられたとは言い難い。
信じ難いが間違いない…カートは、護衛を生業としていた自分と互角か、自分以上の体術の持ち主だと痛感した。
「一体…あなた何者…?」
「んー?俺はただの冒険家だよ?」
目を真ん丸に見開いたオルガレーノが問うたが、いつもの人好きする笑みで誤魔化されてしまう。
「ねぇレノ。これでもまだ俺は頼りない男に見えるかい?」
小首を傾げ、口調こそ優しいものの、一切の誤魔化しを見逃さない鋭い眼差し。
「いや…そ、その…」
オルガレーノは立て続けに見るカートの一面に動揺し、言葉に詰まって無意識に顔を背けた。
するとカートはそれを回答拒否と捉えたのか、彼女の手首を片手でまとめ直し、空いた右手で顎を持ち、そのまま上向かせた。
「レノー?」
意外と大きい角張った手に捕えられ、目線を捉えられる。
傷と髭の似合う精悍な顔立ちに緩やかな、普段の柔和なものとは違い、相手を軽く弄ぶような笑みを浮かべて覗き込まれていた。
「待った待った!わかったからっ!!」
オルガレーノは日頃気が付かなかったカートの男性らしさを意識し出した途端、この密着して至近距離から顔をのぞき込まれる状況に羞恥心を覚え、顔が火照ってくるのを自覚する。
逃れたくて身を捩るが離してくれそうにもない。
「わかった、わかったから!カートは頼れる男だよ!十分わかったから!!」
堪らず目をつぶって言い放てば、捕まれていた手首が漸く解放された。
「うんうん、良く出来ました」
普段のニコニコ顔に戻り満足気に頷いているカートだが、手を手首から腰に添え直してオルガレーノをホールドし続けている。
「ちょっと、この手…」
「俺は頼れる男だからね。期待には応えなきゃ」
人の良さそうな顔をして意外と食えないタイプなのかもしれない…オルガレーノがそんな物思いに耽けられたのも束の間。
それっ、の掛け声とともにカートはオルガレーノを横抱きにして持ち上げた。
「ちょ、ちょっとカート下ろして!1人で歩けるってば!!」
苦言を呈すつもりだったのに、またもや予想外の彼の行動にすっかり翻弄されていた。
一方のカートはといえば、赤面しながら慌てるオルガレーノの様子を楽しそうに眺め、鼻歌でも歌いそうな雰囲気でそのまま歩き始めた。
結局、暴れても文句を言っても笑って受け流すカートに精も根も尽き果ててオルガレーノが大人しくなった頃、彼らは館に帰還した。
そして2人を最初に目撃したエマが、このことを光の速さで女性陣にチクリ…もとい報告したお陰で、彼らの間には暫くあらぬ噂が絶えなかったのだとか。
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