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オルガレーノさん、私と薔薇園でアフタヌーンティーしませんか?ちょうどいい茶葉を仕入れたもので」
「先日故郷の工芸茶を手に入れたんです。いい天気ですし、庭でぜひご一緒にいかがですか?」

先ほどからオルガレーノの脇を固め、熱心にご当地名産お茶会へ招待する2人は「リッパー」ジャックと「白黒無常」謝必安。
朝食後の人が疎らになった食堂で、その光景は嫌でも目を引いていた。

「気持ちは嬉しいけど、両方には行かれないし…今回はリッパーのお茶会に、私と白無常か黒無常で行くのは「「それはダメです!!」」
「だ、ダメかぁ…」

折衷案を出そうにも、言い切る間すらなく却下されてしまう。
この様子では今回はどちらかの方に行く、どちらかの方にもう1人と行く、は尽く却下だろう。
かと言って断ればまた同じことが起こりかねない。
荒らすことなく上手くこの場を収めるにはどうしたものか。
2人にとって公平な条件で、オルガレーノ自身や可能な限り他にも証人がいてくれそうな…

「分かった分かった!じゃあこうしよう…今日の2:8で、私を飛ばした方の所に遊びに行くよ!」

公平にして明快、かつ周りを巻き込まない解決策、我ながらナイスアイディア、そう思っていた。思っていたが、それはどうもオルガレーノだけだったらしい。

しーん…と水を打ったように静まり返る食堂。
今ならボソボソ喋りでしょっちゅう聞き返される納棺師の声ですら、弁護士の答弁よろしく響き渡るだろう。
その場にいた全てのサバイバーとハンターがパントマイムの如く動きを止め、オルガレーノの方へ振り向き、綺麗にハモリながら言った。

「「「「「「「「お前(あなた)(君)正気か(なの)!?」」」」」」」」
「えっ、なんで!?」

何かまずかったのだろうか、答えを求めて見回すが皆を見るも目を皿のように見開くばかりだ。
唯一、固まらずに苦々しい表情をしているフレディを見れば、心底嫌そうな顔でオルガレーノの頭上を指差している。
恐る恐るその方角、件のハンター達を見上げると…

「ほう…それはいい思いつきですね。…前々から紳士殿とは、きちんと決着を付けるべきだと思っていました」
「それもそうですね、この際白黒はっきりさせましょう。
…白だの黒だのと紛らわしいのは、貴方達だけで十分ですから」

ビキッッッ
そんな音がしそうな、くっきりした青筋がこめかみに浮いた必安。
心做しか目が赤く煌めいているようにさえ見える。
それを見ただけで、エマは今にも泣きだしそうな顔をしだす始末だ。

(((((((今日のゲーム、荒れるんだろうなぁ…)))))))

いつにも増して険悪な雰囲気のゲームに運悪く参加することになってしまったサバイバー達は、皆志同じくげんなりしていたのだとか。

* * *

今回のステージは寂れた廃遊園地、月の河公園。
オルガレーノのお茶会参加を賭けたルールは以下の通りになった。


・ゲームでオルガレーノをロケットチェアに拘束した回数の多い方を勝利とする。2回目で飛んだ場合は最後に拘束した方の勝利とする。
オルガレーノが脱出成功した場合は2人の敗北とし、オルガレーノの要望を一つ聞く


このゲームに参加している運のないサバイバーの面々はオフェンス、傭兵、冒険家、占い師、機械技師、医師、心眼、そして騒ぎの元凶となった護衛。

ゲーム開始と共に周囲の様子を確認して、壊れた回転木馬付近の暗号機に手をかける。
解読が5分の1程度進んだ頃、リズミカルに何かを叩く音が近付いてきた。
聞き慣れた音に安堵して作業を進めていると、地面に広がる波紋がこちらに近づき、止まった。

「ヘレナ!」
レノさん、合流出来てよかったわ!さっき二階建ての建物に白黒無常が入って行ったから、こっちに避難してきたの」

ヘレナが解読を始めると、それを待っていたかのように鐘の音が鳴り響いた。
みればエミリーのアイコンが風船吊り状態に変わっている。

「場所は…橋向こうのテント付近だから無常ではなさそうだね」

距離的に警棒投擲での風船救助は間に合わないだろう…エミリーがロケットチェアに座って、柵が降りるまであと30秒。

レノさん、ダメ」
「えっ?」

暗号機の進捗度合いとエミリーのチェアの柵が降りる残り時間から、救助に向かうタイミングを測っていたオルガレーノに制止の声が掛かる。
思わず聞き返したら正確な解読の手を止めずにヘレナは続けた。

「今回狙われているのは貴女よ。幸いまだ誰も脱落してないし、救助は他の人たちに任せて解読に専念しましょう」
「その方が懸命ですね…まあ、捕まってくれた方が私には好都合なのですが」
「「!?」」

真後ろからしたのは、ヘレナのでもオルガレーノのでもない、更にいえばサバイバーのものですらない、霧の紳士の声。
エミリーを座らせて、そのまま即座に移動してきたのだろう。
咄嗟に暗号機から離れて、最初の霧の刃を警棒で打ち払う。

「くっ!」

板のあるエリアを目指すべく走り出した際に更に一撃、これも辛うじて受け切った。
板を倒し、ジャックが回り込もうとすれば板を越え、板を破壊されればまた次の板を倒し…と攻防すること数十秒。

「ハァァァッ!!」

ジャックが放った霧の刃が板を越えてオルガレーノの背中に命中した。

「痛ぅっ!!」

よろめく足をどうにか踏ん張り、つんのめりながらも次の1歩を踏み出して走り出す。
だがその隙に体勢を立て直され、もう一撃もらってしまった。
板を越えて時間稼ぎを試みたがジャックが回り込むのが数秒早く、とうとうダウンの決定打を取られてしまう。

「くっ…うぅ…」
「まずは1回目、もらいましたよ」

板を踏み砕いてオルガレーノを手早く風船に括りつけると、最短距離にあるロケットチェアへ括りつけた。
地面から迫り出した柵がオルガレーノを囲むように林立し、アイコンにカウントが表示される。
ジャックは柵越しに右手を差し出すと、目尻から顎に向けてオルガレーノの頬を割れ物を扱うように優しく撫でた。

「早く貴女とゆっくり過ごしたくてたまりません…でも行かないと」

仮面越しで表情は分からないが、慈しむような声でそう言い残すと黒いモヤの中に姿をくらまし、消えた。

「参ったな…」

動きようのない状態になってしまったので、落ち着いて周りの状況を把握すべく、頭を切りかえた。

(現時点で脱落者なし…拘束中は私とエミリーの2名、暗号機残り4個…)

残りカウント20…19…

(フィールドの状況は…テント内で解読中が1人、稼働中のメリーゴーランド付近と橋の上でチェイスが1人ずつ、建物内で恐らく治療中が2人で7人…7人?)

レノ、助けに来たよ!」

その声は、ロケットチェアの右後方から聞こえた。
声の方を振り向くも姿が見えず目線を下げると、冒険家カートの草むらに紛れていた。

「嘘!?いつの間に…」

残りカウント6…5…4…

「3…2…1…0!」

カシャンッと音と共に柵が下がると、カートが器用に拘束を解いた。

「ありがとう、カート」
「どういたしまして!さ、早く行こう」

カートについて走り出すが、 カウントが切れるのに合わせて戻って来ていたリッパーの姿がもう見えている。

「素早い救出ですね。でもすぐ吊らせてもらいます」

1秒でも時間を稼ぐべく、既に倒されている板や入り組んだオブジェの間を縫って二階建ての建物を目指す。
建物の入口まであと十数メートルの距離に迫ったその時、視界の端から黒い何かが飛来した。回転しながら近付くものは…

(白と黒の、傘?…っまずい!!)

気付いた時、もうそれは目前に迫っていた。
とぷん、と黒い沼が現れ、そこから現れたのは痩身に涼しい顔をした、長い三つ編みの男…しかし必安ではない。

「黒無常…よりによってこんな時に!」
「必安から何がなんでもお前を捕まえろ、と言われているんでな」

手を伸ばせば届くような距離で出された攻撃に反応が遅れ、警棒に手をかけるがおそらく間に合わない。
無咎が傘を振りかぶったその時。

ピュイッ!!

風を切るような鋭い音とともに一羽の梟が無咎の前に躍り出て、オルガレーノを庇うように傘の一撃を受けた。

「チッ…邪魔が入った!!」

(今のは梟!!ありがとう…イライ、梟)

どこから見ていたのか分からないが、守ってくれた一人と一羽に心中で礼を述べながら建物へ走り込む。
このまま建物を通過して、橋向こうのエリアを目指す。
建物の裏口へ抜けた瞬間、足元を閃光が走るや否や、身体が硬直して思い通りに動かなくなった。

「しまった!!」
「今度、こそっ!!」

硬直した一瞬の間に一撃をもらい、再び地面に倒れ伏した。
そこから藻掻く暇もなく黒い腕に担ぎ上げられ、風船に括りつけられる。

「う…くっ!」

必安とは対照的に無愛想なこの男は、オルガレーノを手荒くロケットチェアに拘束すると、傘で彼女の顎を持ち上げ、上向かせた。

「諦めろ…打ち上がるまで見守っててやる」
「…ご丁寧なお見送り痛み入るね」

無咎のこんな顔初めて見るのではないかというくらい、心底楽しそうに口角を吊り上げている。
売り言葉に買い言葉で苦々しく呟くが、強がってもカウントはもう半分を越えている。

残り暗号機2つ、残りサバイバー6人。
この椅子は橋上に位置しているため、救助に来る者の姿が丸見えになる。
必然的に救助が難しく、負傷覚悟で向かう必要のある立地だ。

救助は望めないか…と思いかけたその時、建物の中から大柄な男が雄叫びを上げながら猛進してきた。

「おらよぉ!!」
「ぐっ!!」
「ウィリアム!」

ウィリアムが無咎に突撃するのと、オルガレーノの拘束が解けるのはほぼ同時だった。
ウィリアムに気を取られている護衛の手が、ぐいっと引かれる。

「さっさと逃げるぞ!!」
「っナワーブ!…ありがとう!」

示し合わせていたのか、の反対側からナワーブが駆けつけていたのだ。

「お前が賭けの景品みたいに取り合われるのは癪だからな、目いっぱい邪魔してやるさ!」

そう言ってフッと口の端を上げると、速度を落としてオルガレーノの後ろに付き添って走り続けた。
攻撃への耐性があるのを活かして、彼女を逃がす算段だ。

「ぐっ!!」
「ナワー「馬鹿振り返るな走り続けろ!!」

ナワーブの悲鳴に思わず振り返りかけるオルガレーノを、彼は一息に叫んで叱咤した。
ここに障害物はなく、攻撃の軌道を読み、足で攻撃を交わす他ない場所だ。
痛む体に鞭打って走り続ける。

「もう走り疲れたでしょう、そろそろ休憩しませんか?」

ふざけているのか真面目なのか、そんな言葉をかけながら追いかけてくるのはジャックだ。

「そうも、行かないんでね!」
「そうですか…それではっ!」
「くうぅっ!!」

先ほど救助してくれたナワーブが危機一髪をつけていたお陰だろう、衝撃はあったが即座には倒れず、まだ辛うじて走り続けることが出来る。

(なるべく、なるべく離れないと!)

端末を見ればイライ・クラークの状態は「脱落」になっている。
彼らがくれたチャンスを無駄には出来ない。

「うっ、あぁっ!!」

しかしオルガレーノの決意など構わず、無情にも時間はやって来る。
遅れてきた痛みに足が縺れ、勢い良く地面に倒れ込んだ。
まだ距離はあるものの、数十メートル地点に鉤爪のシルエットが見えている。
ここまでみんなが守ってくれたのに、結局負けてしまうのか…と思っていた矢先。
暗闇に差し込む光明は、数メートル先で口を開きオルガレーノを呼び込んでいた。

「…地下室、が…」


痛む身体を引き摺って、地下室の入口へ躙り寄る。
オルガレーノが地下室に着くのと、ジャックが追いつくのと、ほぼ五分五分のスピードだ。

(間に合え、間に合え、間に合え!!)

オルガレーノはその一念だけを心に願って這いずり、地下室の縁に手をかけ…その中にずるりと滑り込んだ。

* * *

結局。

「そっちカップ足りてるー?」
「もうすぐお菓子も焼き上がるよ!」
「運ぶのは任せろ!」
「テーブル通るよー」

荘園の庭に賑やかな声が響く。
5人脱出、オルガレーノも逃げ仰せ、サバイバーの完全勝利でゲームは幕を閉じた。
勝者オルガレーノの要望は「今回の参加者と他の希望者で、2人のお茶とお菓子、サバイバー側からの持ち寄りを足したお茶会を開こう」だった。
その提案を「それが貴女の願いなら」「紳士に二言はありませんよ」とハンター2人も受け入れ、今に至る。

彼女の悪運の強さに、ゲーム直後こそむくれた2人であったが、事の発端となった彼女はというと、忙しなくそれでいて楽しそうに準備に奔走している。
思えばゲーム以外の場面で、彼女がサバイバー達とやり取りをしているのをしっかり見るのは初めてかも知れない。

(これはこれで、良かったのかもしれない)

必安が1人考えていると、隣に立つジャックが口を開いた。

「先日は失礼しました。…紳士にあるまじき行いをしました」
「…いいえ、私の方こそ…熱くなりすぎてしまいました。このようにご一緒できる機会が持てて良かったです」
「そうですね。…でも次こそは負けませんよ」
「ふふっ…こちらこそ」

食堂で争っていた時からお互い張り合う意志に変わりはないものの、その気持ちは随分と穏やかになっていた。
庭の隅で話し込む2人の元へ、エマが駆け寄ってくる。

「リッパーさん、無常さん、準備出来ましたなの!」
「ありがとうございます」
「今行きます」

エマの後ろに続いて、二人がテーブルに着くとそれぞれのカップにお茶が注がれていく。

「この紅茶、香りがとても華やかで素晴らしいわ!」
「すごい、カップの底に花が咲いたよ!世界にはこんなに芸術的なお茶があるのか…」

口々に沸きあがる賛辞を聞けば、悪い気はしない。
必安とジャックは自分たちの用意したお茶を堪能するサバイバーの様子を眺め、ふっと口元を綻ばせた。

柔らかい日差しが天井のガラス越しに差し込み、温かい風がそっと体を撫でる小春日和。
穏やかな気候の中、このお茶会はやがて日が暮れると夕食会になり、各々が眠りにつく時間まで続いた。
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