探鉱者
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
オルガレーノ・グラウカの初ゲームは苦々しいスタートを切っていた。
身体に絡みついた粘着質な糸を剥がし終え、そのままズルズルと廃工場の床にへたり込む。
(あれは、一体何?…まるで、モンスター)
先程までチェイスをしていた相手は、金属の足で切り裂き、粘着質な糸でサバイバーを搦めとる、蜘蛛の姿をしたハンターだ。
噂には聞いていたが、人どころか同じ世界の生き物とすら思えない存在との邂逅に、どうしても頭が追いつかない。
幸いハンターは付近にいないようだ、今のうちに解読を進めなくては。
頭では理解しているのに、膝が震えて足に力が入らず、歯の根も合わない。
おまけに先程負った肩と背中の傷が、今更になって焼けるように痛み始めた。
(止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれッ‼︎)
必死に身体を押さえつけるが、震えも血も止まらない。
(い、痛い、苦しい……こ、わいっ)
受け入れ難いのに嫌というほど突きつけられる感情に、半ばパニックに陥りかけていたその時。
「グラウカ、そこにいるの?」
「ーッ!」
唐突にかけられた声に息を呑んだ。
「キャン、ベル、さん…」
そっと伺うようにかけられた、落ち着いた声と微かに聞こえる磁石の音で、顔を見なくても誰かわかる。
(まずい、こんな…時に)
怯えた顔を見せてはいけない。
護衛は常に対象をあらゆる危険から守り、冷静さを保ち、信頼されなければならない。
決して、怯えて心揺らいだ姿を見られてはいけないのだ。
ましてや初めてのゲームだ、今日ついた印象を今後払拭するのは容易くないだろう。
(だめだ、振り向けない…こんな顔、)
見られるくらいなら死んだほうがマシだ。
こんな時にさえ刻み込まれた護衛の性はレノを縛り付ける。
「グラウカ、治療しよう」
「い、いい!大丈夫だから」
「ハンターは反対側だ、今なら「大丈夫だから…後でそっち行くから、先に解読してて」
不自然だと分かっていても、どうしても振り向けなかった。
しばらく無言が続いた後、近づいてくるザリッと砂を踏む音が真後ろで止まると、頭にそっと手が触れる。
「よく頑張ったね」
手袋越しなのに何故か温かい手が触れると、
強ばっていた身体から、徐々に力が抜けていく。
「あ……り、がと」
オルガレーノには分からなかった。
何故ゲーム開始前に初めて話したばかりのノートンの掌に、こんなにも安心するのか。
何故こんなにも安心して、目元に熱いものが込み上げてくるのか。
もうとっくにバレていそうなものだが、それでもあからさまに涙を拭うのに抵抗感を覚え、なるべく顔が見えないよう背け続ける。
無言のまま、包帯をまく衣掠れの音だけが響く。
「はい、終わったよ」
傷の手当が終わり、せめて礼を言った後は別行動を…と考えていた矢先、体が宙に浮く感覚に計画を阻止された。
「!?「何も言わなくていい。…気絶したフリでもしてて」
どうやらノートンはオルガレーノを抱え上げられ、横抱きにされたらしい。
らしいといったのは、確認する前に顔全体をなにかで覆われて視野を塞がれたからだ。
数秒おいてそれがノートンの帽子だと気付き、一瞬反応に迷った後大人しく厚意を受け取ることにした。
やがて背中と足の裏に伝わってくる振動の感覚が緩やかになると、話し声が聞こえてくる。
「レノさん!?」
「おいノートン、オルガレーノ大丈夫なのか!?」
頭上でオフェンスと心眼の狼狽えた声と、ノートンの「気絶したみたい、怪我したままチェイスし続けてたからね」というやり取りが聞こえたきた。
「初戦なのに、暗号機4台分の見事なチェイスでしたもんね」
「そうだな、これからのゲームが楽しみだな」
実際は怖くてたまらなくて震えていたのに、そんなふうに褒められることがなんとも心苦しい。
(ああ、いい人達だな。次はちゃんと、…本当に役立てるように…この人たちを守れるように)
オルガレーノの苦々しいスタートは、この人達を守りたいという確固たる意志へ繋がる一戦になった。
試合の記録 生還者4名、完全勝利
オルガレーノ・グラウカの初ゲームは苦々しいスタートを切っていた。
身体に絡みついた粘着質な糸を剥がし終え、そのままズルズルと廃工場の床にへたり込む。
(あれは、一体何?…まるで、モンスター)
先程までチェイスをしていた相手は、金属の足で切り裂き、粘着質な糸でサバイバーを搦めとる、蜘蛛の姿をしたハンターだ。
噂には聞いていたが、人どころか同じ世界の生き物とすら思えない存在との邂逅に、どうしても頭が追いつかない。
幸いハンターは付近にいないようだ、今のうちに解読を進めなくては。
頭では理解しているのに、膝が震えて足に力が入らず、歯の根も合わない。
おまけに先程負った肩と背中の傷が、今更になって焼けるように痛み始めた。
(止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれッ‼︎)
必死に身体を押さえつけるが、震えも血も止まらない。
(い、痛い、苦しい……こ、わいっ)
受け入れ難いのに嫌というほど突きつけられる感情に、半ばパニックに陥りかけていたその時。
「グラウカ、そこにいるの?」
「ーッ!」
唐突にかけられた声に息を呑んだ。
「キャン、ベル、さん…」
そっと伺うようにかけられた、落ち着いた声と微かに聞こえる磁石の音で、顔を見なくても誰かわかる。
(まずい、こんな…時に)
怯えた顔を見せてはいけない。
護衛は常に対象をあらゆる危険から守り、冷静さを保ち、信頼されなければならない。
決して、怯えて心揺らいだ姿を見られてはいけないのだ。
ましてや初めてのゲームだ、今日ついた印象を今後払拭するのは容易くないだろう。
(だめだ、振り向けない…こんな顔、)
見られるくらいなら死んだほうがマシだ。
こんな時にさえ刻み込まれた護衛の性はレノを縛り付ける。
「グラウカ、治療しよう」
「い、いい!大丈夫だから」
「ハンターは反対側だ、今なら「大丈夫だから…後でそっち行くから、先に解読してて」
不自然だと分かっていても、どうしても振り向けなかった。
しばらく無言が続いた後、近づいてくるザリッと砂を踏む音が真後ろで止まると、頭にそっと手が触れる。
「よく頑張ったね」
手袋越しなのに何故か温かい手が触れると、
強ばっていた身体から、徐々に力が抜けていく。
「あ……り、がと」
オルガレーノには分からなかった。
何故ゲーム開始前に初めて話したばかりのノートンの掌に、こんなにも安心するのか。
何故こんなにも安心して、目元に熱いものが込み上げてくるのか。
もうとっくにバレていそうなものだが、それでもあからさまに涙を拭うのに抵抗感を覚え、なるべく顔が見えないよう背け続ける。
無言のまま、包帯をまく衣掠れの音だけが響く。
「はい、終わったよ」
傷の手当が終わり、せめて礼を言った後は別行動を…と考えていた矢先、体が宙に浮く感覚に計画を阻止された。
「!?「何も言わなくていい。…気絶したフリでもしてて」
どうやらノートンはオルガレーノを抱え上げられ、横抱きにされたらしい。
らしいといったのは、確認する前に顔全体をなにかで覆われて視野を塞がれたからだ。
数秒おいてそれがノートンの帽子だと気付き、一瞬反応に迷った後大人しく厚意を受け取ることにした。
やがて背中と足の裏に伝わってくる振動の感覚が緩やかになると、話し声が聞こえてくる。
「レノさん!?」
「おいノートン、オルガレーノ大丈夫なのか!?」
頭上でオフェンスと心眼の狼狽えた声と、ノートンの「気絶したみたい、怪我したままチェイスし続けてたからね」というやり取りが聞こえたきた。
「初戦なのに、暗号機4台分の見事なチェイスでしたもんね」
「そうだな、これからのゲームが楽しみだな」
実際は怖くてたまらなくて震えていたのに、そんなふうに褒められることがなんとも心苦しい。
(ああ、いい人達だな。次はちゃんと、…本当に役立てるように…この人たちを守れるように)
オルガレーノの苦々しいスタートは、この人達を守りたいという確固たる意志へ繋がる一戦になった。
試合の記録 生還者4名、完全勝利
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