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結婚しません、子供作りません、それでもいいってマジですか【後編】
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私がいるから辞退する羽目になったの...?
それか直毘人さんに脅されでもしたのか?
でも、そんなことを直哉さんに素直に聞いてみる勇気もなく、気づけば庭にいた直哉さんを問いただしていた。
「当主を罷免するなんて何の心代わりよ?
せっかく私が頑張ってたのに無駄にしやがって」
「あぁ聞きつけてきたん?名前には関係ない話やけどな、アンタは家に居たらええやろ」
直哉さんは私の話を無視して進もうとする。
近くまで寄り、直哉さんの逃げ道を塞いでやった。ずっと家に引きこもりなんてつまんないっての。
「夢だったんでしょう、当主になるのが。
私の指示を無視して簡単に当主になる夢を捨ててしまえるなんて、なんの心変わりな訳?
アンタいまからどうすんのよ」
禪院家の一人から外れてしまっていいのと訴えかける私に直哉さんは考えを巡らせる。名前が納得しやすい例えは何か。
思い付くと直哉さんは真面目な顔で告げた。
「自分がもし禪院直哉の立場だったら迷わず当主になる道を選ぶのに?」
私は言った。
「私だったら?そうね真っ先に私を切り捨てて当主になる道を選ぶわ、自分の叶えたい出来事がすぐそばにあり、叶いそうなら私は迷わず叶えたい
あなたも同じだと思ってたのに違ったんだ、実父相手に逃げるような腰抜けなんだとは思わなかった」
「逃げているなぁ、ちゃうで当主になること以上に大切なもんを見つけただけやで
禪院家とのつながりなんかなぁ、アンタと一緒になると決めた時から捨ててたんや、今更俺に執着してるのはパパの方や、名前までパパと同じ考えなんや、残念やなぁ」
直哉はこちらと目を合わさず、くるりと横を向いた。
「当主の座は、恵君か真希ちゃんに渡すで
それが1番安牌やろ」
直哉さんは芝生が生えた地面から砂利道に進み、池のほとりを静かに見つめた。その横顔の穏やかな事。金色の瞳が指す先を追いかけると池の中には錦鯉と金色のでっぷりと太った鯉が泳いでいた。
昭和錦鯉は直哉さん。金の鯉はたぶん私。貪欲で、いつも何かに執着していて、不相応で救いようのない私。
「残念や」という言葉に、全てが集約されたような気がした。
「こっちも残念、あなたがこんなに飼い主に逆らう大迷惑でバカな犬だとは知らなかった、一応聞くわ、大切なものって何さ」
「名前って言ったらアンタは笑ってくれるか」
「は?それが大切なものなわけ?意味わかんない」
「俺は家より名前のことを大事にしてやりたい、結婚してください」
真剣な顔をして直哉はこちらを見た。自分には何故そこまで私を気に入っているのか理解不能で、怖かった。
「はぁ?!最初に本気にしないでって言ったよね?私はあんたの事好きじゃないし、結婚も子供産む気もありません」
たまらず、何か言ったら、直哉さんは「惚れさせるから」と言って取り下げてくれない。もうちょっとやそっとで意思を折ることは不可能だった。
私は大きくため息を吐いて直哉さんに昨日決意したことを話すことに決めた。
「あー、やっぱりあなたに気に入られたの、良くなかったわ...あなたのためにも私は出て行かなきゃならないわ」
「えっなんでアンタが出ていかなきゃいけんの?まさか本気で自分は隣に立つべきではないと思ってる?俺はおまえを選んだんやで」
「アンタが私を選んでも、私は貴方を選んでいない、そもそも私がこの家に来た本当の理由、知ってる?」
直哉さんが首を傾げる。
そう、家に来た本当の理由を彼は知らない。
「私は」
直哉さんがこちらを見る。
理由を言ったら確実に嫌ってくれるだろうか?
大きく息を吸い、吐き出す。本当のことを話そう。
私はアンタを当主から外すために直毘人さんに連れてこられたの、私は快く受けたわ、あんな我儘息子をオトすなんて簡単だってね、アナタを貶めるためならお父さんはお金だっていっぱい出してくれたことも伝えた。私にできることがあるなら任せてほしいという気持ちしかなかった。
「でも任務には応えられなくなってしまった、あなたは私のこと好きでも、私は出世のためにアナタを利用した嫌な人なんだよ...私はそんな人間よ?
そんな相手と一緒にいたいの?」
全てバラして直哉さんに嫌われた後、自分の道へ戻ろう。任務に支障は出たが、今からでも一からやって取り戻せる。何回だってやってやる。
せいぜい私を嫌うのね。これでチャラよ。
「アナタを支える存在がいるのならばそちらを選んでよ、もう私に構わないで」
アナタと私は違うんだから。その言葉を最後に去るつもりでいた。だって直哉さんは何も言い返してこなかったから。いい加減諦めたかと歩き出したところでタイミング悪く、直哉さんの声がした。私は口をへの字に結び、煩わしくため息ついた。
「俺が甚爾くんに抱いてる思いと一緒や
自分には向いてはいないのかもしれない、誰かに生き方を否定されることがあったかもしれない、でも強がって、自分にはそれしかないと勝手に決めつけて、全部抱えて生きているんや
その生き方は否定せぇへん、俺と同じやもん」
直哉さんが抱えている思いと自分の価値観は似ている。そう。だから何。歩みを止める理由にはならない。
「でもなぁアンタの良いところはそれだけじゃないで、俺に真依ちゃんのことを確かめさせたこと。年下には手を出すな、とキツく説教してくれたこと。
俺は___嬉しかったで、当主になると言う夢を真っ向から応援してくれる人に出会えて。真正面切って次期当主様という偉い立場の俺にお説教してきたり、セクハラしたら本気で嫌がってくれる人に出会えて」
直哉は禪院家での生活を思い浮かべた。周りにいるセフレの女たちは俺に同情して、種欲しさに媚びを売って、何でも全肯定してきた。まるで俺より、自分の未来の子のことが大切とでも言わんばかりに振るまうので俺は先行きが不安になった。自分の体に溺れていくのも、次第に容姿が変わっていくのも、恋をしている自分の方が好きなんやないか、まさか財産や家での扱いを良くしてもらうため打算的に付き合っているのではとだんだん心が磨耗していった。
そんな中現れた名前ちゃんはありのままの俺と真正面からぶつかってくれる。この俺に尽くさせて、申し訳ないという顔を一切せず、自信満々に見えるのに、何処か欠けてしまったパーツがあるのか危なっかしくて、不安定。かわええねん、庇護欲が刺激されんねん。
こんな相手は名前ちゃんがはじめてやった。
俺は名前ちゃんのことを離したくない。出来れば禪院という呪いを受けて育った俺とは切り離して俺個人のことをもっと知ってほしい。俺の我儘やてわかっとる。
「そんなの何の特技でもない、誰でもできる」
名前は首を振った。
「貴方のことを好きな人がいるのよ受け入れてもらった方があなたは楽だと思うけど」
「俺がラクな道を選ばへんことはよう知ってるやろ、名前より他の女を取ると思い込んでるとか俺に対する冒涜やわ」
「冒涜?傷付いたの」
「せや傷付いたわ夜も眠れないほどにな」
直哉さんらしい冗談に名前は「ぷっ」と吹き出してしまう。嘘つきぐっすり眠れてたじゃん。
最初から意志の強い人だとはわかっていた。でもあの女性だってそれなりに彼のそばにいたと思うのに彼は私を選んだ。私にそんな大役が務まるだろうか?
「どこにも行かへんと、信じとる」
「...バカね私が新しいものに目がないと知ってるでしょう?きっとアナタのことを幻滅させる、怒っても知らないよ」
顔を背け、直哉さんと視線を合わせないまま言った。
「引いた方が身のためだよ...」
直哉は唇を硬く結び、何も言わなくなる。
「アンタが抱える孤独、辛さ、全部拾えはせんと、そう言いたいんか...一人の方が気楽か?」
「ええ、そうよ、私は、直哉さんといるより一人でいたいの、どうぞ、寂しい女だと思いなさいな」
そう強がった名前の表情はなぜか苦笑いで、自嘲してるのが見てとれる。瞳の中が暗く濁っていた。そういえば時々こんな翳りのある表情をする女だったと思い返す。
名前の真顔が好きだ。絵画のモデルになりそうな、遠くを見つめて物思いに耽る斜め顔。辛そうな顔をしている名前を無意識のうちに、綺麗やな、と思ってしまっていた。
この目の奥の霧が晴れたとき、俺は名前のことをどうしてしまいたいだろうか。そして、目の奥の光が消えたままの名前をそばで眺めておくのも楽しいかもしれないと思った。
刺さるねん、どうしても放って置けないという気持ちになんねん。美しさに見惚れていたのでハッとして我に返る。名前だって俺と同じように悩んでいる。
理解も浅いかもしれない。知った気になるなんて、一番拒否されるかもしれない。
俺は甚爾くんや悟くんには勝てへんと自覚しながらそれでも鍛錬する道を選んでいるが、名前はどうやろうか。
俺と同じなら今まで支えてくれる人なんかおらへんばかりか甘えても来なかったんちゃうか。才能がないのでできんかったんちゃうか。名前の辛さを俺は背負ってはやれないのだろうか。
「励ましにはならへんかもしれへん、だけど全て諦めるのはまだ早いんちゃうか?
俺じゃ、アンタの力にはなれへんの?」
「あなたに何ができるの」
「どんな名前だって俺は嫌いにならへんで、名前はどこにも行かせへん」
私は黙り込んだ。この私でさえ信じていないことを、直哉さんが信じられるの。
自分から目を逸らさないように仕向けさせて、違う人に行った罪悪感でも植え付ける気?
「俺が一生味方になったるわ、どんな時も、俺が支えてやるわ」
直哉さんは私を抱きしめた。白檀の濃い香りが鼻を掠める。私より高い体温が、厚手の書生服を通して伝わってくる。熱くて鬱陶しい。
でも何故だろう。この鼓動は私のものでは無い。直哉さんの心臓が、私以上にドキドキと波打っている。本気で好いているんだ、私なんかを__
代わりなんて、いくらでもいるのになんで私を__
私はぎゅっと唇を噛み締めた。
「...私で良いなんてもの好きがいたものね、今は優しくしているみたいだけどHしたらすぐ飽きちゃうかもよ、私知ってるよ、アナタが私に手を出すまいと我慢してること、
アナタの女が言ってたもの、体目的とかやめてよ。」
「は、H?」
直哉さんが首を傾げている。少し考えて、「身体はいや、好きか嫌いかで言ったら大好きやけど、そんな体目的じゃないねん」と言っていた。
「もしかして、俺を避けていた原因ってあの女にいらん事告げ口されたからなんか?」
直哉さんはぱちくりと瞬きをして腹を抱えて笑った。
「しょーもな、そんなんで悩んでたんや、そんな身体目的やないねん、俺はお前を大切に思っとるし、ちゃんと愛しとる」
「だったら他の人には愚痴らない」
本気で伝えるつもりないやろ名前が傷付くやんけ、Hとかすると思ったら緊張してまうわと言ったつもりなのに随分改変されているようやねぇ。
もう別物やんけ。
「じゃあ名前のために何ができるかいっちょやったるわ」
それか直毘人さんに脅されでもしたのか?
でも、そんなことを直哉さんに素直に聞いてみる勇気もなく、気づけば庭にいた直哉さんを問いただしていた。
「当主を罷免するなんて何の心代わりよ?
せっかく私が頑張ってたのに無駄にしやがって」
「あぁ聞きつけてきたん?名前には関係ない話やけどな、アンタは家に居たらええやろ」
直哉さんは私の話を無視して進もうとする。
近くまで寄り、直哉さんの逃げ道を塞いでやった。ずっと家に引きこもりなんてつまんないっての。
「夢だったんでしょう、当主になるのが。
私の指示を無視して簡単に当主になる夢を捨ててしまえるなんて、なんの心変わりな訳?
アンタいまからどうすんのよ」
禪院家の一人から外れてしまっていいのと訴えかける私に直哉さんは考えを巡らせる。名前が納得しやすい例えは何か。
思い付くと直哉さんは真面目な顔で告げた。
「自分がもし禪院直哉の立場だったら迷わず当主になる道を選ぶのに?」
私は言った。
「私だったら?そうね真っ先に私を切り捨てて当主になる道を選ぶわ、自分の叶えたい出来事がすぐそばにあり、叶いそうなら私は迷わず叶えたい
あなたも同じだと思ってたのに違ったんだ、実父相手に逃げるような腰抜けなんだとは思わなかった」
「逃げているなぁ、ちゃうで当主になること以上に大切なもんを見つけただけやで
禪院家とのつながりなんかなぁ、アンタと一緒になると決めた時から捨ててたんや、今更俺に執着してるのはパパの方や、名前までパパと同じ考えなんや、残念やなぁ」
直哉はこちらと目を合わさず、くるりと横を向いた。
「当主の座は、恵君か真希ちゃんに渡すで
それが1番安牌やろ」
直哉さんは芝生が生えた地面から砂利道に進み、池のほとりを静かに見つめた。その横顔の穏やかな事。金色の瞳が指す先を追いかけると池の中には錦鯉と金色のでっぷりと太った鯉が泳いでいた。
昭和錦鯉は直哉さん。金の鯉はたぶん私。貪欲で、いつも何かに執着していて、不相応で救いようのない私。
「残念や」という言葉に、全てが集約されたような気がした。
「こっちも残念、あなたがこんなに飼い主に逆らう大迷惑でバカな犬だとは知らなかった、一応聞くわ、大切なものって何さ」
「名前って言ったらアンタは笑ってくれるか」
「は?それが大切なものなわけ?意味わかんない」
「俺は家より名前のことを大事にしてやりたい、結婚してください」
真剣な顔をして直哉はこちらを見た。自分には何故そこまで私を気に入っているのか理解不能で、怖かった。
「はぁ?!最初に本気にしないでって言ったよね?私はあんたの事好きじゃないし、結婚も子供産む気もありません」
たまらず、何か言ったら、直哉さんは「惚れさせるから」と言って取り下げてくれない。もうちょっとやそっとで意思を折ることは不可能だった。
私は大きくため息を吐いて直哉さんに昨日決意したことを話すことに決めた。
「あー、やっぱりあなたに気に入られたの、良くなかったわ...あなたのためにも私は出て行かなきゃならないわ」
「えっなんでアンタが出ていかなきゃいけんの?まさか本気で自分は隣に立つべきではないと思ってる?俺はおまえを選んだんやで」
「アンタが私を選んでも、私は貴方を選んでいない、そもそも私がこの家に来た本当の理由、知ってる?」
直哉さんが首を傾げる。
そう、家に来た本当の理由を彼は知らない。
「私は」
直哉さんがこちらを見る。
理由を言ったら確実に嫌ってくれるだろうか?
大きく息を吸い、吐き出す。本当のことを話そう。
私はアンタを当主から外すために直毘人さんに連れてこられたの、私は快く受けたわ、あんな我儘息子をオトすなんて簡単だってね、アナタを貶めるためならお父さんはお金だっていっぱい出してくれたことも伝えた。私にできることがあるなら任せてほしいという気持ちしかなかった。
「でも任務には応えられなくなってしまった、あなたは私のこと好きでも、私は出世のためにアナタを利用した嫌な人なんだよ...私はそんな人間よ?
そんな相手と一緒にいたいの?」
全てバラして直哉さんに嫌われた後、自分の道へ戻ろう。任務に支障は出たが、今からでも一からやって取り戻せる。何回だってやってやる。
せいぜい私を嫌うのね。これでチャラよ。
「アナタを支える存在がいるのならばそちらを選んでよ、もう私に構わないで」
アナタと私は違うんだから。その言葉を最後に去るつもりでいた。だって直哉さんは何も言い返してこなかったから。いい加減諦めたかと歩き出したところでタイミング悪く、直哉さんの声がした。私は口をへの字に結び、煩わしくため息ついた。
「俺が甚爾くんに抱いてる思いと一緒や
自分には向いてはいないのかもしれない、誰かに生き方を否定されることがあったかもしれない、でも強がって、自分にはそれしかないと勝手に決めつけて、全部抱えて生きているんや
その生き方は否定せぇへん、俺と同じやもん」
直哉さんが抱えている思いと自分の価値観は似ている。そう。だから何。歩みを止める理由にはならない。
「でもなぁアンタの良いところはそれだけじゃないで、俺に真依ちゃんのことを確かめさせたこと。年下には手を出すな、とキツく説教してくれたこと。
俺は___嬉しかったで、当主になると言う夢を真っ向から応援してくれる人に出会えて。真正面切って次期当主様という偉い立場の俺にお説教してきたり、セクハラしたら本気で嫌がってくれる人に出会えて」
直哉は禪院家での生活を思い浮かべた。周りにいるセフレの女たちは俺に同情して、種欲しさに媚びを売って、何でも全肯定してきた。まるで俺より、自分の未来の子のことが大切とでも言わんばかりに振るまうので俺は先行きが不安になった。自分の体に溺れていくのも、次第に容姿が変わっていくのも、恋をしている自分の方が好きなんやないか、まさか財産や家での扱いを良くしてもらうため打算的に付き合っているのではとだんだん心が磨耗していった。
そんな中現れた名前ちゃんはありのままの俺と真正面からぶつかってくれる。この俺に尽くさせて、申し訳ないという顔を一切せず、自信満々に見えるのに、何処か欠けてしまったパーツがあるのか危なっかしくて、不安定。かわええねん、庇護欲が刺激されんねん。
こんな相手は名前ちゃんがはじめてやった。
俺は名前ちゃんのことを離したくない。出来れば禪院という呪いを受けて育った俺とは切り離して俺個人のことをもっと知ってほしい。俺の我儘やてわかっとる。
「そんなの何の特技でもない、誰でもできる」
名前は首を振った。
「貴方のことを好きな人がいるのよ受け入れてもらった方があなたは楽だと思うけど」
「俺がラクな道を選ばへんことはよう知ってるやろ、名前より他の女を取ると思い込んでるとか俺に対する冒涜やわ」
「冒涜?傷付いたの」
「せや傷付いたわ夜も眠れないほどにな」
直哉さんらしい冗談に名前は「ぷっ」と吹き出してしまう。嘘つきぐっすり眠れてたじゃん。
最初から意志の強い人だとはわかっていた。でもあの女性だってそれなりに彼のそばにいたと思うのに彼は私を選んだ。私にそんな大役が務まるだろうか?
「どこにも行かへんと、信じとる」
「...バカね私が新しいものに目がないと知ってるでしょう?きっとアナタのことを幻滅させる、怒っても知らないよ」
顔を背け、直哉さんと視線を合わせないまま言った。
「引いた方が身のためだよ...」
直哉は唇を硬く結び、何も言わなくなる。
「アンタが抱える孤独、辛さ、全部拾えはせんと、そう言いたいんか...一人の方が気楽か?」
「ええ、そうよ、私は、直哉さんといるより一人でいたいの、どうぞ、寂しい女だと思いなさいな」
そう強がった名前の表情はなぜか苦笑いで、自嘲してるのが見てとれる。瞳の中が暗く濁っていた。そういえば時々こんな翳りのある表情をする女だったと思い返す。
名前の真顔が好きだ。絵画のモデルになりそうな、遠くを見つめて物思いに耽る斜め顔。辛そうな顔をしている名前を無意識のうちに、綺麗やな、と思ってしまっていた。
この目の奥の霧が晴れたとき、俺は名前のことをどうしてしまいたいだろうか。そして、目の奥の光が消えたままの名前をそばで眺めておくのも楽しいかもしれないと思った。
刺さるねん、どうしても放って置けないという気持ちになんねん。美しさに見惚れていたのでハッとして我に返る。名前だって俺と同じように悩んでいる。
理解も浅いかもしれない。知った気になるなんて、一番拒否されるかもしれない。
俺は甚爾くんや悟くんには勝てへんと自覚しながらそれでも鍛錬する道を選んでいるが、名前はどうやろうか。
俺と同じなら今まで支えてくれる人なんかおらへんばかりか甘えても来なかったんちゃうか。才能がないのでできんかったんちゃうか。名前の辛さを俺は背負ってはやれないのだろうか。
「励ましにはならへんかもしれへん、だけど全て諦めるのはまだ早いんちゃうか?
俺じゃ、アンタの力にはなれへんの?」
「あなたに何ができるの」
「どんな名前だって俺は嫌いにならへんで、名前はどこにも行かせへん」
私は黙り込んだ。この私でさえ信じていないことを、直哉さんが信じられるの。
自分から目を逸らさないように仕向けさせて、違う人に行った罪悪感でも植え付ける気?
「俺が一生味方になったるわ、どんな時も、俺が支えてやるわ」
直哉さんは私を抱きしめた。白檀の濃い香りが鼻を掠める。私より高い体温が、厚手の書生服を通して伝わってくる。熱くて鬱陶しい。
でも何故だろう。この鼓動は私のものでは無い。直哉さんの心臓が、私以上にドキドキと波打っている。本気で好いているんだ、私なんかを__
代わりなんて、いくらでもいるのになんで私を__
私はぎゅっと唇を噛み締めた。
「...私で良いなんてもの好きがいたものね、今は優しくしているみたいだけどHしたらすぐ飽きちゃうかもよ、私知ってるよ、アナタが私に手を出すまいと我慢してること、
アナタの女が言ってたもの、体目的とかやめてよ。」
「は、H?」
直哉さんが首を傾げている。少し考えて、「身体はいや、好きか嫌いかで言ったら大好きやけど、そんな体目的じゃないねん」と言っていた。
「もしかして、俺を避けていた原因ってあの女にいらん事告げ口されたからなんか?」
直哉さんはぱちくりと瞬きをして腹を抱えて笑った。
「しょーもな、そんなんで悩んでたんや、そんな身体目的やないねん、俺はお前を大切に思っとるし、ちゃんと愛しとる」
「だったら他の人には愚痴らない」
本気で伝えるつもりないやろ名前が傷付くやんけ、Hとかすると思ったら緊張してまうわと言ったつもりなのに随分改変されているようやねぇ。
もう別物やんけ。
「じゃあ名前のために何ができるかいっちょやったるわ」