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「ふぎゃっ!?」
人が空から落ちる。その人物はお尻を地面に強く打ったようだが、特に痛がる素振りはない。
立ち上がり、周囲を見る。
「なんだここ……?」
名無しさんという怪人がそう呟く。
そこは、文明の理知など見えなかった。
あるのはただ、コンクリートの塊、家だったもの、人だったもの。
果たしてここは一体どこだろうか。
──数時間前
「ということで、サイタマのセーブデータを消してしまったのだよ」
「よし、名無しさんのゲーム貸せ」
「やめてやめてやめて!!」
いつものようにサイタマの家で集まっていたことである。
騒がしい声にジェノスは内心イライラしていた。いや、声ではない。名無しさんにイライラしている。
しかし、わが師がいるので我慢するしかない。
ギャーギャーと子供の喧嘩は、暫くすると止まる。
「よし、喧嘩だ」
「よし分かった。サイタマのズボン脱がす」
「やってみろ」
そう言って二人はどこかに行ってしまった。
ジェノスは持っていた皿を割りそうになってしまう。名無しさんが羨ましかったからだ。
弟子である自分ですら、サイタマと戦うことは滅多にないのに名無しさんは好きなときに戦っている。
しかし、心の底はどうだろうか。嫉妬の相手は名無しさんだけだろうか。
食器洗いを終わらせる。そして、二人の後を追いかけた。
「よっと」
「おぉ名無しさん、今の避けるのか」
Z市の外れ。周囲には何もなく、崖のような岩がそびえ立っている。
ここはサイタマのお気に入りの場所だ。喧嘩するなら、ここが一番最適だからである。
何もないおかげで、どれだけ暴れても被害が出ないから。
過去に、ジェノスと戦った際に見つけた場所。
二人は、思いっきり暴れる。
服が汚れようが、血が出ようが、砂煙が霧のように舞いようが戦い続けた。
ジェノスは、そんな二人を遠くから眺めている。
いつ見ても、この戦いはすごいものだ。と冷笑を浮かべた。
二人の戦い、いや、この喧嘩は見ている方が恐怖を感じてしまう。本当に哺乳類の喧嘩だろうか。
「おらっ」
サイタマが下からパンチを繰り出す。
その拳は、地に当たっていたら地球が割れるほどだろう。
「よっ」
名無しさんは上へ逃げた。
少し膝を曲げただけなのに何メートルもジャンプしている。
サイタマも名無しさんを追いかけようと、膝を曲げた。
その時、
「あれ?」
「ん?」
名無しさんが、空に留まっている。本来なら重力通りに落下するのに名無しさんは浮いていた。
それは名無しさん自身も予想外のようで、呆けてる。
そしてそのまま、空に吸い込まれていった。
「あ~れ~」
サイタマとジェノスは、今目に見えている出来事を茫然と眺めていた。現実か夢か。まるで白昼夢のようだ。
「「え!?」」
現実に戻った時、驚きの声を上げたのは二人同時だった。
──そして現在
名無しさんは見たことのない景色に戸惑いながら歩いた。
目指すのはZ市。サイタマのいる場所だ。
道はない。在るのはただただ地面。
今いる場所も分からず、適当に歩いた。
そして、見知った顔を見つけた。奇跡のようだ。
その奇跡の人物は鉄を纏った少年、ジェノスだ。
ジェノスの上半身だけが、そこらへんのコンクリート同様転がっていた。
名無しさんはジェノスの傍で膝を折る。
「ジェノスくーん?」
「!?」
ジェノスが、動かせる範囲で首を上げる。
その顔は驚きだ。
「こんな所でどうしたの? 聞きたいこと沢山あるんだけども」
「……!!」
ジェノスは驚いて口をパクパクとさせている。
喋れないのだろうか? 声帯機能が故障しているのか。
そして、次は名無しさんがジェノスの言葉に驚く番だった。
「名無しさん先生! ご無事でしたか?」
「──は?」
ジェノスは目を輝かせている。その目は、まるでサイタマを見るような目だった。
貰ったことのない目に、名無しさんはどうしたらいいのか分からない。
口ごもっていると、ジェノスが咳き込んだ。
口から、黒色の煙を吐き出している。
「ジェノスくん!?」
聞きたい事はあった。どうして私のことを先生と呼ぶのか。あと、ここはどこなのか。
しかしとうとう声帯機能が壊れてしまったようで喋れないようだ。
一先ず、クセーノ博士のところに行こう。名無しさんはジェノスを抱えた。
「クセーノ博士のところで修理してもらお。ここがどこだが分からないから、体動かして案内して」
ジェノスは黙りこくっている。不思議に思い、ジェノスの顔がこちらに向くよう動かす。
するとジェノスの顔が真っ赤になっていた。目線を合わせようとしない。
何だこの顔は。初めて見た。
分からないことだらけだが、取り敢えず進むしかない。
名無しさんは走った。
「おぉ名無しさん、いつもすまないな」
クセーノ博士が名無しさんにお礼を言う。
名無しさんは口をあんぐりと開けた。名無しさんが知るクセーノ博士のラボではないのだから。
そして、"いつも"という言葉に引っかかる。
名無しさんがクセーノ博士の所へジェノスを運んだことあるのは一回だけだ。
名無しさんはそこら辺に座り、ジェノスの修理を待った。
それから数時間後、名無しさんに眠気がきたころ修理が終わる。
そして服を着ていないジェノスに、土下座された。
「名無しさん先生毎回申し訳ございません! 俺が弱いばっかりに……!」
「いや、別にいいんだけどさ。土下座やめて」
名無しさんが言うと、ジェノスはすぐさまに正座になる。
まるで躾がなっている犬のようだ。
「はい名無しさん先生!」
「あのさジェノスくん」
「はい!」
「先生ってなに?」
「それは、どういうことでしょうか?」
「なんで私のこと先生って呼ぶのかなーって。しかも敬語だし」
「名無しさん先生は名無しさん先生です」
「えぇ……?」
最初はからかっているのか、と思った。
しかし名無しさんを見つめるジェノスの目は真っ直ぐだ。
からかっているように見えない。
名無しさんは質問を変える。
「さっきの場所ってどこ?」
一旦サイタマのもとへ行こう。そしてジェノスがおかしいことを伝えようと思った。
「先ほどの場所はA市です」
「えっ」
「……先ほどからいかがされました?」
名無しさんが知るA市は、人がひしめき合い高い建物がそびえたち、ヒーロー協会の本部がある場所のはず。
なのに先ほどいた場所はA市と反対だ。Z市よりも何もないではないか。
音が聞こえる。クセーノ博士が付けたテレビの音。
そのニュースの内容に、名無しさんは間抜けな声を出した。
「次のニュースです。S級ヒーロー、一位の名無しさんさんがまたも怪人を倒しました!」
「は!?」
ここはどうやら名無しさんの知らない世界なようだ。
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