逃げる貴女の影となり
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いつから意識を失っていたのだろうか。
意識を取り戻したとき、何やら下の方からガヤガヤとした喧騒が聞こえた。
ここは何処だろう?
音は聞こえるのに身体も瞼も重く、今はどこも動かすことが出来ない。
だから、ゆっくりと耳を澄ます。
いらっしゃいませ。
ありがとうございました。
下から聞こえるのは女性店員の活気のいい声。そして、人々が話す時に生じるガヤガヤとした喧騒音。
それと共に鼻腔に届く仄かに甘い香り。
ここは……茶屋?
何で自分が茶屋に居るのか、全く分からない。
んっ……
力を入れ、再び瞼を開けようと試みる。
身体はまだ動かないが、今度は何とか瞼を持ち上げることが出来た。
ぼやけた視界が、少しずつその全貌を映し出す。
「気付いたか」
自分を見下ろす、1つの影。
半蔵様……。
目の前に立つのは服部半蔵。
自分はどうやら六畳くらいの火鉢が焚かれた一室の布団の上に寝かされていたようだ。
ここは、何処ですか?
そう、尋ねようとしたのだが口は全く動かない。
身体が動かないことと、何か関係があるのだろうか?
んっ……。でも、これは……。
「んっ……んんん!!」
鮮明に周囲が見えるようになり、自分の置かれた状況が明らかになる。
口は動かないのではなく、動かせないというのが正しい。
気絶している間に口枷として布が巻かれていた。
身体は少しずつ動くようになってはきたが……
「んぐっ……」
上半身を起こすのが精一杯で、自分の足で立つことはまだ出来そうにない。
「っつ……」
上半身を起こす時に右腕に力を入れたため、傷口が突っ張り鋭い痛みが走る。見れば、白い布は見る影もなく赤く染まっていた。
「その傷、どうした?」
半蔵が音もなく近付き、ゆっくりと片膝を着く。
「んっ……うんんん!!」
事のあらましを説明しようにも、口枷が邪魔となり話すことは出来ない。この戒めを解こうと、少しずつ動くようになった両腕を……右腕に負担をかけないよう、ゆっくりと結び目を探る様に後ろに伸ばした。
「ならぬ」
半蔵の腕が伸び、がっしりと右腕を……傷口を掴まれる。
痛みで顔が酷く歪んだ。
「っつぅ……」
「伊賀を抜け出る際に受けた傷か?まさか貴様が伊賀を抜けようとは」
違う。そんなんじゃない。
否定の意味を込めて首を左右に振るが、その意志が半蔵に届いたようには見えない。
そもそも、こんな鈍い自分が優秀な伊賀の見張りの目を撒いて抜け出ることなど出来るはずない……そんなこと、冷静に考えれば分かるはずではないか。
目の前の忍の表情はいつもと変わらず、冷静沈着なその相貌に変わりはない。
だがその内面は……
これ以上、自分の立場を悪くしてはいけない。
今までにない緊張感。
半蔵への恐怖。
そして、好意。
名無しさんは半蔵から目を離さなかった。
だが……
ふいに、今まで聞こえていた階下からではなく、隣の部屋から男女の声が響いてきた。
その声は……
動揺し瞳が震えた。
そのため、半蔵から一瞬視線を外してしまう。
彼の姿がフッと消え、再び彼の姿を捉えたとき、自分の身体は布団へと押し倒され身体は彼に組み敷かれていた。
ここは茶屋の二階。
結ばれぬ男女が思いを遂げるための場を提供する場所。
通称、逢引茶屋。