逃げる貴女の影となり
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「名無しさん様!!」
あんなに冷えきっていた身体がカッと熱くなり、廊下に赤い滴がポタポタと滴るのが見えた。
「痛っ……」
赤い滴は自分の右腕から垂れてくる。自分至上、最大のドジ。
右腕を火で炙られているような感覚。
傷口を見れば手首から肘にかけて数十センチ程の赤い線が引かれ、そこを起点にパックリと肉が開いている。ソコから溢れる液体は、袖口をジワジワと紅く染め上げていく。
その光景に血の気が引き、情けないことに腰が抜けてしまい、その場にストンと膝を折る。
「早く大人を!」
「名無しさん様。失礼を。傷口を押さえます!」
子供達がしっかりと処置をする中で、自分はただその場に踞(うずくま)るだけ。
私は子供以下……。
ここに居る価値なんてない、そう思った……。
その後のことは、曖昧でよく覚えていない。
ただ「傷が深い……」「一生消えぬかもしれぬ……」そんな声を聞いた気がした。
そして
「縫わねばなりません。お覚悟を……」の言葉の後に右腕に走った激痛。
あんなに泣いたのは子供以来か。
すべてが終わり微睡む中で、ただ私に手裏剣を渡した男の子が……この事を気に病んでいなければいいな……と願った。
早くあの子に謝らなければ……。
そして、半蔵様に伝えなければ……。
私に忍は……無理だと。
ズキンズキンと走る鈍痛でふと目を覚ますと、私に向けて頭を下げる2人の男女の姿が目に入った。
「あの……貴方達は……?」
私の声にピクリと肩を震わすと、男女はゆっくりと面を上げる。確か、2人とも見たことがある。いつもは忍装束に身を包んでいるのが、今は普通の正装をしていた。
「名無しさん様!うちの倅が……貴女様に大変なご迷惑をお掛け致しました!」
2人は再び深く頭を垂れる。どうやらあの男の子の両親らしい。
「そんな!悪いのは私です。頭を上げて下さい。私が、息子さんから無理やり手裏剣を奪ったようなものですから。だから、本当に……ごめんなさい」
ゆっくりと、私も2人に向けて頭を下げる。
すると母親と思われる女性が、その場でポタポタと泣き始めた。
「よかった……。名無しさん様がお優しい方で本当によかった……。どうか、頭領がお戻りになったら名無しさん様から取り成して頂けないでしょうか」
取り成す……?何を……と尋ねようとした時、父親が淡々と語り始める。
「息子は……今、貴女を害した罪で伊賀の牢に囚われています。この寒さ……牢には火鉢も羽織りもありません。身1つなのです。息子を解放出来るのは頭領のみ。どうか、名無しさん様から息子を解放するように頭領にお願い頂けませんか?」
これは……
どうゆうことなのだろうか?
何で、あの子が牢に閉じ込められているのだろうか?
悪いのは、私なのに。
この雪降るなか……
幼い少年が。
自分は火鉢の効いた部屋で布団に包まれているというのに。
あの子は……。
そして……私はいったい何?
ただの忍見習いが、何でこんな待遇を受けるのだろうか?
自分の役割がだんだんと見えてきた。
酷い目眩がして、倒れてしまいたい衝動に駆られるが、目を見開き布団から這い出る。
「名無しさん様!そのような身体でどちらへ!」
上着になりそうな着物を羽織り、廊下へと襖を開く。
「家康様の城下町へ。半蔵様に息子さんをすぐに解放するように頼みに行きます」
「なりません。伊賀者は、頭領の許可なく外に出ることは許されません」
母親が私を部屋へ戻そうと手を伸ばしてくる。それを、私は全力で払いのける。
「でも、私なら!半蔵様の寵愛を受ける私なら……許されるのではないのですか?」
止めようとする2人の動きがピタリと止まる。
「……かもしれません。ですが、そのようなお身体で……。私達も共を致します」
共を申し出る2人を見やり、私はゆっくりと首を横にふる。
「私、昔から疎くて鈍くて……。でも、やっと今になって……自分が何故ここに居るのか、見えてきました。お願いです。1人にして下さい。今は1人になりたいのです」
自分は今、どんな表情をしているのだろう。2人は観念したように溜め息を吐く。
「名無しさん様……。分かりました。見張りの者には言付けしておきましょう。どうか……お気をつけて」
2人に向けてゆっくり頷き、前を向く。
必ず息子さんを助けます。私は自分の役割を受け入れます。
そう言い残し、外へと歩みを進めた。
あんなに冷えきっていた身体がカッと熱くなり、廊下に赤い滴がポタポタと滴るのが見えた。
「痛っ……」
赤い滴は自分の右腕から垂れてくる。自分至上、最大のドジ。
右腕を火で炙られているような感覚。
傷口を見れば手首から肘にかけて数十センチ程の赤い線が引かれ、そこを起点にパックリと肉が開いている。ソコから溢れる液体は、袖口をジワジワと紅く染め上げていく。
その光景に血の気が引き、情けないことに腰が抜けてしまい、その場にストンと膝を折る。
「早く大人を!」
「名無しさん様。失礼を。傷口を押さえます!」
子供達がしっかりと処置をする中で、自分はただその場に踞(うずくま)るだけ。
私は子供以下……。
ここに居る価値なんてない、そう思った……。
その後のことは、曖昧でよく覚えていない。
ただ「傷が深い……」「一生消えぬかもしれぬ……」そんな声を聞いた気がした。
そして
「縫わねばなりません。お覚悟を……」の言葉の後に右腕に走った激痛。
あんなに泣いたのは子供以来か。
すべてが終わり微睡む中で、ただ私に手裏剣を渡した男の子が……この事を気に病んでいなければいいな……と願った。
早くあの子に謝らなければ……。
そして、半蔵様に伝えなければ……。
私に忍は……無理だと。
ズキンズキンと走る鈍痛でふと目を覚ますと、私に向けて頭を下げる2人の男女の姿が目に入った。
「あの……貴方達は……?」
私の声にピクリと肩を震わすと、男女はゆっくりと面を上げる。確か、2人とも見たことがある。いつもは忍装束に身を包んでいるのが、今は普通の正装をしていた。
「名無しさん様!うちの倅が……貴女様に大変なご迷惑をお掛け致しました!」
2人は再び深く頭を垂れる。どうやらあの男の子の両親らしい。
「そんな!悪いのは私です。頭を上げて下さい。私が、息子さんから無理やり手裏剣を奪ったようなものですから。だから、本当に……ごめんなさい」
ゆっくりと、私も2人に向けて頭を下げる。
すると母親と思われる女性が、その場でポタポタと泣き始めた。
「よかった……。名無しさん様がお優しい方で本当によかった……。どうか、頭領がお戻りになったら名無しさん様から取り成して頂けないでしょうか」
取り成す……?何を……と尋ねようとした時、父親が淡々と語り始める。
「息子は……今、貴女を害した罪で伊賀の牢に囚われています。この寒さ……牢には火鉢も羽織りもありません。身1つなのです。息子を解放出来るのは頭領のみ。どうか、名無しさん様から息子を解放するように頭領にお願い頂けませんか?」
これは……
どうゆうことなのだろうか?
何で、あの子が牢に閉じ込められているのだろうか?
悪いのは、私なのに。
この雪降るなか……
幼い少年が。
自分は火鉢の効いた部屋で布団に包まれているというのに。
あの子は……。
そして……私はいったい何?
ただの忍見習いが、何でこんな待遇を受けるのだろうか?
自分の役割がだんだんと見えてきた。
酷い目眩がして、倒れてしまいたい衝動に駆られるが、目を見開き布団から這い出る。
「名無しさん様!そのような身体でどちらへ!」
上着になりそうな着物を羽織り、廊下へと襖を開く。
「家康様の城下町へ。半蔵様に息子さんをすぐに解放するように頼みに行きます」
「なりません。伊賀者は、頭領の許可なく外に出ることは許されません」
母親が私を部屋へ戻そうと手を伸ばしてくる。それを、私は全力で払いのける。
「でも、私なら!半蔵様の寵愛を受ける私なら……許されるのではないのですか?」
止めようとする2人の動きがピタリと止まる。
「……かもしれません。ですが、そのようなお身体で……。私達も共を致します」
共を申し出る2人を見やり、私はゆっくりと首を横にふる。
「私、昔から疎くて鈍くて……。でも、やっと今になって……自分が何故ここに居るのか、見えてきました。お願いです。1人にして下さい。今は1人になりたいのです」
自分は今、どんな表情をしているのだろう。2人は観念したように溜め息を吐く。
「名無しさん様……。分かりました。見張りの者には言付けしておきましょう。どうか……お気をつけて」
2人に向けてゆっくり頷き、前を向く。
必ず息子さんを助けます。私は自分の役割を受け入れます。
そう言い残し、外へと歩みを進めた。