嘘つき姫【半蔵落ち】
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家康が半蔵の元を訪れてから季節が1つ過ぎた。名無しさんの両親である領主夫妻はすべてを武田方に受け渡すことを了承してくれた。その相貌は酷く落胆していたが、武田との国力差を考えれば有無を得ない決断だった。召し抱えていた多くの兵が真田幸村に討ち取られ、今年は不作で蓄えもない。武田に抗う力など残されていなかった。
名無しさんの両親はすべてを家康と半蔵に任すと頭を下げた。それ以降は表向きには主が武田との交渉を進めていった。影武者の首を信玄に差し出した時は、さすがの半蔵も一筋の冷や汗を流したが、露見することなく無事に首検分は終わった。これで名無しさんの両親は社会的に死んだことになり、生きていることは決して誰にも知られてはならない。
「頭領」
「報告か」
背後に音もなく現れ跪く配下に半蔵は振り返り目を遣る。
「はっ。姫様は相変わらず真田の寵愛を受けられている御様子。ただ、今は季節の移ろいのためか体調の方は芳しくないようです」
「ご苦労。去れ」
「はっ」
部下が去り、独りになった半蔵は珍しくふぅと1つ溜め息を吐く。
あの姫は……今も変わらずに自分を愛してくれているのだろうか?身体の繋がりが心の繋がりに発展することは大いにある。ましてや相手は面のよい真田幸村。名無しさんは真田に惚れているかもしれぬ。それに名無しさんの家は潰れてしまったが、真田との縁があれば今までと変わらぬ生活を、身分を得られる。対して、自分は当主ではあるが所詮は乱波。武士より身分は低く、任務によっては数ヶ月家を空けることもある。
真田といた方が幸せなのかもしれない。このまま何もしない方が賢明にも思えた。
必ず、迎えに行く
確か、そう約していたか。
「名無しさん」
半蔵は余計な思考を捨て、上田城に向けて地を蹴っていた。
上田城二の丸。日は沈みかけており、徐々に光は失われていく。城郭の上にしゃがみ込み離れを見つめる一人の女……否、くのいちに七方出した半蔵はゆっくりと周囲を見渡す。真田の忍で一番やっかいなこの忍は、今頃諜報活動に勤しんでいるはずだ。それに加え、名無しさんの薬の調合方法について真田の忍に流す様に配下に命じてきた。優秀な彼らの事だ。時間は充分に稼いでくれるだろう。
日が暮れるのを待っていると、1つの影がふらりと出てくるのが見えた。
名無しさん。
久し振りに見る彼女は真田が新調したであろう美しい打ち掛けを羽織っており、とても大切にされていることが分かった。だが、その顔色は芳しくない。例の発作が苦しいのだろう。
やや前傾姿勢になり名無しさんの影が少しふらつく。
危ない
苦無の先端に丸薬を染み込ませ、大きく跳躍する。一瞬で名無しさんの背後をとると首筋に薬の染み込んだ切っ先を突き立てた。
「逃げる気?」
「っ痛……」
くのいちの声を用い、名無しさんに話しかける。
「貴女は誰なの?」
「あっしが誰かなんて、別にどーでもいいことであります。それより、脱走ですか、名無しさん姫?」
とんだ茶番だ。馬鹿げている。何故、本来の姿を用いて名無しさんと話さないのか。この姿でなければ、真田方に怪しまれる……嫌、そんなのは言い訳でしかない。
「違う。私はただ上田のお城に用があるだけ」
「へぇ~。どんな用なのかにゃ~」
真田に会いに行くのか?
「秘密よ」
「じゃあ、私も昌幸様にご報告があるから、一緒に行かない?」
「遠慮しとくわ」
「つれないにゃ~」
お前の心はどこにある?
「幸村様には報告したんだけど、昌幸様にはまだお伝え出来てなかった話がありまして。甲斐に隣接する小さな領国の話なんですけどね」
「私の、国の話なのね……」
「まぁ、そうともいうかにゃ。その国、今は色々あって領主ご夫婦は三河の狸……じゃなかった、徳川家康に保護されていたらしいんですが。狸の欲の皮がつっぱったのか、甲斐の虎の威嚇にびびっちゃったのか、まぁ、そこは知らないんですけど。保護したご夫妻の首を家康がはねてしまったらしいですよ」
意固地だと思う。何故、素直に国は失えど両親は生きていると言えぬのか。
「あっ……」
「もう1つ、耳寄りな情報があるんですが聞きたいですか?」
「いっ、嫌!」
「何でも刑の執行を取り行ったのは半蔵の旦那とか。さすがは鬼の半蔵。冷酷冷徹。愛した女のご両親を斬るなんて、まさに忍の鏡ですなぁ」
世間では。そうゆう話にしている。それが一番都合がよいのだ。
「半蔵が……。そんなの嘘よ。有り得ない」
有り得なくはない。現に主からの提案がなければ、半蔵は迷わず好きな女の父母に刃を振るっていた。
「本当なんですって。領主の首は家康から親方様に献上され、領国の支配権は武田が握るそうですよ。親方様に頼めば見せてもらえるじゃないかな~。頼みます?」
「……。父上……。」
名無しさんの両親はすべてを家康と半蔵に任すと頭を下げた。それ以降は表向きには主が武田との交渉を進めていった。影武者の首を信玄に差し出した時は、さすがの半蔵も一筋の冷や汗を流したが、露見することなく無事に首検分は終わった。これで名無しさんの両親は社会的に死んだことになり、生きていることは決して誰にも知られてはならない。
「頭領」
「報告か」
背後に音もなく現れ跪く配下に半蔵は振り返り目を遣る。
「はっ。姫様は相変わらず真田の寵愛を受けられている御様子。ただ、今は季節の移ろいのためか体調の方は芳しくないようです」
「ご苦労。去れ」
「はっ」
部下が去り、独りになった半蔵は珍しくふぅと1つ溜め息を吐く。
あの姫は……今も変わらずに自分を愛してくれているのだろうか?身体の繋がりが心の繋がりに発展することは大いにある。ましてや相手は面のよい真田幸村。名無しさんは真田に惚れているかもしれぬ。それに名無しさんの家は潰れてしまったが、真田との縁があれば今までと変わらぬ生活を、身分を得られる。対して、自分は当主ではあるが所詮は乱波。武士より身分は低く、任務によっては数ヶ月家を空けることもある。
真田といた方が幸せなのかもしれない。このまま何もしない方が賢明にも思えた。
必ず、迎えに行く
確か、そう約していたか。
「名無しさん」
半蔵は余計な思考を捨て、上田城に向けて地を蹴っていた。
上田城二の丸。日は沈みかけており、徐々に光は失われていく。城郭の上にしゃがみ込み離れを見つめる一人の女……否、くのいちに七方出した半蔵はゆっくりと周囲を見渡す。真田の忍で一番やっかいなこの忍は、今頃諜報活動に勤しんでいるはずだ。それに加え、名無しさんの薬の調合方法について真田の忍に流す様に配下に命じてきた。優秀な彼らの事だ。時間は充分に稼いでくれるだろう。
日が暮れるのを待っていると、1つの影がふらりと出てくるのが見えた。
名無しさん。
久し振りに見る彼女は真田が新調したであろう美しい打ち掛けを羽織っており、とても大切にされていることが分かった。だが、その顔色は芳しくない。例の発作が苦しいのだろう。
やや前傾姿勢になり名無しさんの影が少しふらつく。
危ない
苦無の先端に丸薬を染み込ませ、大きく跳躍する。一瞬で名無しさんの背後をとると首筋に薬の染み込んだ切っ先を突き立てた。
「逃げる気?」
「っ痛……」
くのいちの声を用い、名無しさんに話しかける。
「貴女は誰なの?」
「あっしが誰かなんて、別にどーでもいいことであります。それより、脱走ですか、名無しさん姫?」
とんだ茶番だ。馬鹿げている。何故、本来の姿を用いて名無しさんと話さないのか。この姿でなければ、真田方に怪しまれる……嫌、そんなのは言い訳でしかない。
「違う。私はただ上田のお城に用があるだけ」
「へぇ~。どんな用なのかにゃ~」
真田に会いに行くのか?
「秘密よ」
「じゃあ、私も昌幸様にご報告があるから、一緒に行かない?」
「遠慮しとくわ」
「つれないにゃ~」
お前の心はどこにある?
「幸村様には報告したんだけど、昌幸様にはまだお伝え出来てなかった話がありまして。甲斐に隣接する小さな領国の話なんですけどね」
「私の、国の話なのね……」
「まぁ、そうともいうかにゃ。その国、今は色々あって領主ご夫婦は三河の狸……じゃなかった、徳川家康に保護されていたらしいんですが。狸の欲の皮がつっぱったのか、甲斐の虎の威嚇にびびっちゃったのか、まぁ、そこは知らないんですけど。保護したご夫妻の首を家康がはねてしまったらしいですよ」
意固地だと思う。何故、素直に国は失えど両親は生きていると言えぬのか。
「あっ……」
「もう1つ、耳寄りな情報があるんですが聞きたいですか?」
「いっ、嫌!」
「何でも刑の執行を取り行ったのは半蔵の旦那とか。さすがは鬼の半蔵。冷酷冷徹。愛した女のご両親を斬るなんて、まさに忍の鏡ですなぁ」
世間では。そうゆう話にしている。それが一番都合がよいのだ。
「半蔵が……。そんなの嘘よ。有り得ない」
有り得なくはない。現に主からの提案がなければ、半蔵は迷わず好きな女の父母に刃を振るっていた。
「本当なんですって。領主の首は家康から親方様に献上され、領国の支配権は武田が握るそうですよ。親方様に頼めば見せてもらえるじゃないかな~。頼みます?」
「……。父上……。」