嘘つき姫【半蔵落ち】
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祭はもう終盤。
盛大に打ち上げられ華麗に咲いた夜空の華は、その豪奢さと裏腹に一瞬で消え失せ、後には何も残らない。花弁の1つもない。なんとも虚しいものだ。それなのにこの国の皆々は儚いものが好きなことだ。隣に立つ、無口なこの忍……今は普通に庶民的な着流しを着ているから忍だとは見目では分からないが、いかにも儚いものが好きそうだ。
次の花火が上がる。
パッと空が明かめき、隣の男の顔を鮮やかに照らす。面を付けている時の、いかにも忍という風体も好きだが、なかなか見せぬ凛々しい素顔にも目を奪われる。
花火よりも、こっちを見ていたい。
「見ぬのか?」
「見てるわ」
「もう、終わってしまうぞ」
「だから、見てる。私は見たいものを見てる」
多分、半蔵と二人きりで花火を眺めるなんて今夜が最初で最後だ。
「実はね、お見合い話が来ているの。隣の大国、武田信玄からよ。凄いでしょ」
「名無しさん」
「私は受けるつもりよ。信玄の妻になれれば……私の国は侵略に怯えることもない」
「そうだな」
「私が妻になったら寝所で信玄にこう囁くの。三河の、徳川を滅ぼして……って。そして伊賀の里も落として今度は私が貴方の主になるわ。素敵でしょ?」
「断じてさせぬ」
空を裂く豪音と共に最後の花火が打ち上がる。
次々にうち上がる花火達がより鮮明に半蔵の顔を照らした。
「主は……やがて天下を統べる御方。武田には滅びてもらう」
「じゃあ、私に未亡人になれと?」
「否。その時は、拙者が名無しさんを拐う」
ダーンと、凄まじい花火の音が続いている。
今、半蔵は何て言ったんだろう?
私は、半蔵に一方的に思いを伝えた。伝えただけで返答は求めなかった。この男か自分のことを気に掛けるとは一切思わなかったから。
「拐って……どうするの?」
脈が早くなっているのが分かる。
動悸がする。
冷や汗が止まらない。
怖い。
やっぱり、聞かなければよかった……
「拙者の慰み者になってもらう。一時ではない。永遠に、な」
それは、何て魅力的な……。
一生、半蔵の慰み者になれるのなら、こんなに幸せなことはないだろう。
「私、それがいい。そっちの方がいい」
「名無しさんは変わっている」
「そう、かも……」
「待っていろ」
「えっ?」
「必ず迎えに行く。だから、待っていろ」
「はい」
半蔵の顔が目前に迫る。
口付けされるのかと思い、目を瞑るが唇に望む温もりは与えられない。
目を開けると半蔵は優しく微笑み、耳元で艶っぽく囁いた。
「この続きはいずれ。拙者のことを忘れるな」
耳元にふっと息を吹き掛けられ、思わず身体をピクリと震わす。瞬間、優しく抱きしめられる。
「忘れない。忘れる訳がない」
まだ信玄に嫁いですらいないのに。その日が来るのが今から待ち遠しい。
「素直だな」
「だって。きっと半蔵と会えるの、今日が最後だから……」
「何故」
「私、嫁入りが決まって、やけになって全財産を貴方に使ってしまったから。半蔵を呼び出すお金がないのよ」
「案ずるな。時が許す限り名無しさんに答えよう」
「本当に……?来てくれるの?」
「応」
祭は終わり、提灯の灯りも消え失せ、人もまばら。
闇が辺りを包み込むが、不思議と恐怖は感じない。むしろ、この暗闇がありがたかった。この闇のおかげで、私は半蔵に抱きしめてもらうことが出来ている。
「今日はありがとう。城まで送ってくれれば、自由にしていいから」
「契約は明日の明朝までだが」
「いいの。後はゆっくり休んで。半蔵の自由な時間にして」
「否」
「折角、自由な時間をあげるって言うのに。頑固ね」
「お主に言われたくはない」
「じゃあ、どうしようかしら。一緒にお城に帰って……抱いてもらおうかしら」
「その言葉、一度目は聞き流す。だが、二度目はない。次に言えば喜んで今宵名無しさんの花を散らそう」
「うっ……そう来るとは思わなかったわ。今のは、叶わぬ戯れ言だから」
ふぅ、と息を吐いて夜空を見上げる。
「今夜、一緒に居て。何もしなくていいから。ただ、手を繋いだり抱きしめてくれたりしたら嬉しいんだけど……」
「答えよう」
「有り難う。じゃあ、城に戻りましょうか」
手を繋ぎ、恋仲の男女のように身を寄せて夜道を歩く。
夏はもう終盤。
見合いは秋。
そして、すぐに冬が来る。
盛大に打ち上げられ華麗に咲いた夜空の華は、その豪奢さと裏腹に一瞬で消え失せ、後には何も残らない。花弁の1つもない。なんとも虚しいものだ。それなのにこの国の皆々は儚いものが好きなことだ。隣に立つ、無口なこの忍……今は普通に庶民的な着流しを着ているから忍だとは見目では分からないが、いかにも儚いものが好きそうだ。
次の花火が上がる。
パッと空が明かめき、隣の男の顔を鮮やかに照らす。面を付けている時の、いかにも忍という風体も好きだが、なかなか見せぬ凛々しい素顔にも目を奪われる。
花火よりも、こっちを見ていたい。
「見ぬのか?」
「見てるわ」
「もう、終わってしまうぞ」
「だから、見てる。私は見たいものを見てる」
多分、半蔵と二人きりで花火を眺めるなんて今夜が最初で最後だ。
「実はね、お見合い話が来ているの。隣の大国、武田信玄からよ。凄いでしょ」
「名無しさん」
「私は受けるつもりよ。信玄の妻になれれば……私の国は侵略に怯えることもない」
「そうだな」
「私が妻になったら寝所で信玄にこう囁くの。三河の、徳川を滅ぼして……って。そして伊賀の里も落として今度は私が貴方の主になるわ。素敵でしょ?」
「断じてさせぬ」
空を裂く豪音と共に最後の花火が打ち上がる。
次々にうち上がる花火達がより鮮明に半蔵の顔を照らした。
「主は……やがて天下を統べる御方。武田には滅びてもらう」
「じゃあ、私に未亡人になれと?」
「否。その時は、拙者が名無しさんを拐う」
ダーンと、凄まじい花火の音が続いている。
今、半蔵は何て言ったんだろう?
私は、半蔵に一方的に思いを伝えた。伝えただけで返答は求めなかった。この男か自分のことを気に掛けるとは一切思わなかったから。
「拐って……どうするの?」
脈が早くなっているのが分かる。
動悸がする。
冷や汗が止まらない。
怖い。
やっぱり、聞かなければよかった……
「拙者の慰み者になってもらう。一時ではない。永遠に、な」
それは、何て魅力的な……。
一生、半蔵の慰み者になれるのなら、こんなに幸せなことはないだろう。
「私、それがいい。そっちの方がいい」
「名無しさんは変わっている」
「そう、かも……」
「待っていろ」
「えっ?」
「必ず迎えに行く。だから、待っていろ」
「はい」
半蔵の顔が目前に迫る。
口付けされるのかと思い、目を瞑るが唇に望む温もりは与えられない。
目を開けると半蔵は優しく微笑み、耳元で艶っぽく囁いた。
「この続きはいずれ。拙者のことを忘れるな」
耳元にふっと息を吹き掛けられ、思わず身体をピクリと震わす。瞬間、優しく抱きしめられる。
「忘れない。忘れる訳がない」
まだ信玄に嫁いですらいないのに。その日が来るのが今から待ち遠しい。
「素直だな」
「だって。きっと半蔵と会えるの、今日が最後だから……」
「何故」
「私、嫁入りが決まって、やけになって全財産を貴方に使ってしまったから。半蔵を呼び出すお金がないのよ」
「案ずるな。時が許す限り名無しさんに答えよう」
「本当に……?来てくれるの?」
「応」
祭は終わり、提灯の灯りも消え失せ、人もまばら。
闇が辺りを包み込むが、不思議と恐怖は感じない。むしろ、この暗闇がありがたかった。この闇のおかげで、私は半蔵に抱きしめてもらうことが出来ている。
「今日はありがとう。城まで送ってくれれば、自由にしていいから」
「契約は明日の明朝までだが」
「いいの。後はゆっくり休んで。半蔵の自由な時間にして」
「否」
「折角、自由な時間をあげるって言うのに。頑固ね」
「お主に言われたくはない」
「じゃあ、どうしようかしら。一緒にお城に帰って……抱いてもらおうかしら」
「その言葉、一度目は聞き流す。だが、二度目はない。次に言えば喜んで今宵名無しさんの花を散らそう」
「うっ……そう来るとは思わなかったわ。今のは、叶わぬ戯れ言だから」
ふぅ、と息を吐いて夜空を見上げる。
「今夜、一緒に居て。何もしなくていいから。ただ、手を繋いだり抱きしめてくれたりしたら嬉しいんだけど……」
「答えよう」
「有り難う。じゃあ、城に戻りましょうか」
手を繋ぎ、恋仲の男女のように身を寄せて夜道を歩く。
夏はもう終盤。
見合いは秋。
そして、すぐに冬が来る。