嘘つき姫【半蔵落ち】
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悲しそうな表情をする目の前の姫に心が揺らぐ。長年名無しさんを見てきたが、こんな表情は見たことがなかった。傲慢で、尊大な態度や言動しか取らぬと思っていたが、大人になって変わったのだろうか。
「姫とは幼い頃からの顔見知り。別に構わぬ」
今更、名無しさんの前で素顔を晒したとて何の支障にもならぬだろう。
名無しさんはパッと顔を朱に染めると、遠慮がちに面へと手を伸ばす。半蔵はただただ面を外されるのを待った。
「……。」
ドサッ!
「姫!」
名無しさんは半蔵の面を外す前に熱が上りきり倒れてしまった。
正成という伊賀に暮らす忍の少年が好きだった。彼が私に見せる忍の技のどれもが自分の目を奪い魅力した。
彼の技が見たくて、わざと毬を飛ばしたり、草履を池に落としたりしたものだ。
しかし、お互いに成長するにつれ出会う数は減っていき、ここ数年は顔も合わせていなかった。幼い頃、忍術を見るために散々迷惑をかけたので嫌われてしまったのかもしれない。これでいいのだという思いもあるにはある。そもそも自分は姫で相手は頭領の息子とはいえ忍。恋慕っても、結ばれることはないと最初から分かっていたから。
だけど……
この里を訪れれば必ず正成を探してしまうし、何よりも昔の横暴な振る舞いを謝りたかった。もちろん、先代半蔵様に頼んで呼び出して頂くことはいつでも出来たのだが、避けられてると思うとそんな勇気もなかった。
「……。」
意識を取り戻し目を開けると、すぐ傍に半蔵の姿があった。いつの間にか倒れてしまったようで、布団に寝かされている。
「目覚めたか。熱が下がるまでは伊賀に逗留されるのがよかろう」
「そうね」
枕元に座り込んだ半蔵が、額に水で絞った手拭いを当ててくれた。
もう少しで、あの仮面に手が届いたのに。
倒れてしまったのが口惜しい。
でも、仮面越しに見る半蔵の鋭い眼光は昔と同じように名無しさんの目を奪う。
「あっ、そういえば一緒に来ていた父上と母上はどうされたかしら」
「先にご帰国された。姫の体調が落ち着き次第、迎えに来られるとのこと」
「私が池に飛び込んだこと、伝えてないわよね?」
こんなこと、過保護の両親に知られればもう伊賀に連れて来てもらえなくなるかも知れない。怒られることよりも、それが一番怖かった。
「心配無用。伊賀の忍全員にその事情は周知させている」
「よかった。これで怒られないですむわ。でも、安心したらなんだか……寂しくなってきちゃったわ。今夜は父上も母上もいないんですもの」
我ながら下手な猿芝居だ。
「半蔵、今夜は私の傍に居てくれる?」
「ならぬ」
一世一代の猿芝居はあっけなく幕を閉じる。
「拙者は乱波、お主は姫。寝所を共にすることなど罷り成らぬ」
「いいじゃない別に。枕を共にしろと言ってる訳ではないのだから」
売り言葉に買い言葉。いつもの調子で軽口を叩き、しまったと後悔する。
「たわけが過ぎる」
半蔵の目線が名無しさんから外れる。怒っているのか呆れているのか。仮面を着けたこの男の表情は一切読み取れない。
このままでは、要らぬ誤解を招く。
せっかく仲直り出来たのに。
このまま曖昧に事を終わらせることは出来ない……。
名無しさんは覚悟を決めた。
「幼い頃、貴方はいつも私の頼みを聞いてくれた。でも、それって先代の半蔵様に命じられていたからやったのでしょう?私の家はいい金ヅルだから姫の機嫌を取るようにと」
「……。」
無言は肯定と受け取ることにする。
黙り込む半蔵の腕を布団から手を伸ばしぐいと捕まえた。
「ねぇ、抱いて」
「否、その命令には従えぬ。そういった戯れ言は控えられよ」
半蔵の厳しい目が名無しさんに向けられる。他の人間ならその威圧で萎縮してしまいそうだが、名無しさんはその眼光により我が身が高ぶっているのに気付く。
「戯れ言でそんなこと言わないわ。好きでもない男に抱かれるなんて絶対に嫌。だから……その、あのね……そうゆうことなの……」
「何が言いたい」
鈍いのか、わざとなのか。
はっきり言わなければ、このお堅い忍は納得しないのだろう。
「子供の頃から。私は半蔵が好きだった。貴方に構ってもらいたくて、我が儘ばかり言ってたの。半蔵が見せてくれた忍の技、どれも素晴らしかった」
「だが、拙者は……」
「立場上、どうにもならないことは承知の上。とりあえず、貴方に何かを求めることはない。ただ、私の思いを……秘密を知っておいて欲しいだけ。それだけで、十分だから」
「姫」
「ごめんなさい。求めるつもりはないと言ったけど、1つだけ命令させて。二人きりのときは名無しさんと呼んで」
ふっ、と半蔵が笑った気がした。
「名無しさん」
「半蔵」
名を呼ばれただけで、倒れそうな程の熱が上がってくるのが分かる。
「お願い。一晩一緒に居てなんて言わないから。私が眠るまでは手を繋いでいて」
「応」
繋いだ手が冷たく、心地好さに目を瞑る。そして口惜しいことに一瞬にして意識を失ってしまった。
「姫とは幼い頃からの顔見知り。別に構わぬ」
今更、名無しさんの前で素顔を晒したとて何の支障にもならぬだろう。
名無しさんはパッと顔を朱に染めると、遠慮がちに面へと手を伸ばす。半蔵はただただ面を外されるのを待った。
「……。」
ドサッ!
「姫!」
名無しさんは半蔵の面を外す前に熱が上りきり倒れてしまった。
正成という伊賀に暮らす忍の少年が好きだった。彼が私に見せる忍の技のどれもが自分の目を奪い魅力した。
彼の技が見たくて、わざと毬を飛ばしたり、草履を池に落としたりしたものだ。
しかし、お互いに成長するにつれ出会う数は減っていき、ここ数年は顔も合わせていなかった。幼い頃、忍術を見るために散々迷惑をかけたので嫌われてしまったのかもしれない。これでいいのだという思いもあるにはある。そもそも自分は姫で相手は頭領の息子とはいえ忍。恋慕っても、結ばれることはないと最初から分かっていたから。
だけど……
この里を訪れれば必ず正成を探してしまうし、何よりも昔の横暴な振る舞いを謝りたかった。もちろん、先代半蔵様に頼んで呼び出して頂くことはいつでも出来たのだが、避けられてると思うとそんな勇気もなかった。
「……。」
意識を取り戻し目を開けると、すぐ傍に半蔵の姿があった。いつの間にか倒れてしまったようで、布団に寝かされている。
「目覚めたか。熱が下がるまでは伊賀に逗留されるのがよかろう」
「そうね」
枕元に座り込んだ半蔵が、額に水で絞った手拭いを当ててくれた。
もう少しで、あの仮面に手が届いたのに。
倒れてしまったのが口惜しい。
でも、仮面越しに見る半蔵の鋭い眼光は昔と同じように名無しさんの目を奪う。
「あっ、そういえば一緒に来ていた父上と母上はどうされたかしら」
「先にご帰国された。姫の体調が落ち着き次第、迎えに来られるとのこと」
「私が池に飛び込んだこと、伝えてないわよね?」
こんなこと、過保護の両親に知られればもう伊賀に連れて来てもらえなくなるかも知れない。怒られることよりも、それが一番怖かった。
「心配無用。伊賀の忍全員にその事情は周知させている」
「よかった。これで怒られないですむわ。でも、安心したらなんだか……寂しくなってきちゃったわ。今夜は父上も母上もいないんですもの」
我ながら下手な猿芝居だ。
「半蔵、今夜は私の傍に居てくれる?」
「ならぬ」
一世一代の猿芝居はあっけなく幕を閉じる。
「拙者は乱波、お主は姫。寝所を共にすることなど罷り成らぬ」
「いいじゃない別に。枕を共にしろと言ってる訳ではないのだから」
売り言葉に買い言葉。いつもの調子で軽口を叩き、しまったと後悔する。
「たわけが過ぎる」
半蔵の目線が名無しさんから外れる。怒っているのか呆れているのか。仮面を着けたこの男の表情は一切読み取れない。
このままでは、要らぬ誤解を招く。
せっかく仲直り出来たのに。
このまま曖昧に事を終わらせることは出来ない……。
名無しさんは覚悟を決めた。
「幼い頃、貴方はいつも私の頼みを聞いてくれた。でも、それって先代の半蔵様に命じられていたからやったのでしょう?私の家はいい金ヅルだから姫の機嫌を取るようにと」
「……。」
無言は肯定と受け取ることにする。
黙り込む半蔵の腕を布団から手を伸ばしぐいと捕まえた。
「ねぇ、抱いて」
「否、その命令には従えぬ。そういった戯れ言は控えられよ」
半蔵の厳しい目が名無しさんに向けられる。他の人間ならその威圧で萎縮してしまいそうだが、名無しさんはその眼光により我が身が高ぶっているのに気付く。
「戯れ言でそんなこと言わないわ。好きでもない男に抱かれるなんて絶対に嫌。だから……その、あのね……そうゆうことなの……」
「何が言いたい」
鈍いのか、わざとなのか。
はっきり言わなければ、このお堅い忍は納得しないのだろう。
「子供の頃から。私は半蔵が好きだった。貴方に構ってもらいたくて、我が儘ばかり言ってたの。半蔵が見せてくれた忍の技、どれも素晴らしかった」
「だが、拙者は……」
「立場上、どうにもならないことは承知の上。とりあえず、貴方に何かを求めることはない。ただ、私の思いを……秘密を知っておいて欲しいだけ。それだけで、十分だから」
「姫」
「ごめんなさい。求めるつもりはないと言ったけど、1つだけ命令させて。二人きりのときは名無しさんと呼んで」
ふっ、と半蔵が笑った気がした。
「名無しさん」
「半蔵」
名を呼ばれただけで、倒れそうな程の熱が上がってくるのが分かる。
「お願い。一晩一緒に居てなんて言わないから。私が眠るまでは手を繋いでいて」
「応」
繋いだ手が冷たく、心地好さに目を瞑る。そして口惜しいことに一瞬にして意識を失ってしまった。