嘘つき姫【半蔵落ち】
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「貴方、誰?さっきまで男なんていなかったはずなのに。厭らしい。まぁ、いいわ。大切な池の水をこの身で汚してしまったことを先代様に謝りたいのだけど案内頼めるかしら?」
相変わらずの口振りに少し懐かしくも感じる。
「その濡れた身体で父上に目通りするつもりか」
「えっ?貴方、正成?」
「今は2代目服部半蔵」
「そう、なのね。面を付けているから、誰なのか分からなかったわ。無事に襲名出来たのね。おめでとう」
名無しさんが優しく微笑んだのに合わせ、身を刺すような冷たい風がびゅうと吹いた。
ケホッ、ケホッ
渇いた咳が漏れ、名無しさんは顔をしかめる。
風はひゅうと吹き荒び、止むことなく濡れた身体に絡み付く。唇は美しい紅の着物に相対するように青くなっており、顔の血色も失われている。その姿がどこか、美しい日本人形……生き物とは違う造形美術というのだろうか。神秘的な美しさを匂わせていた。
ケホッ…ケホッ
咳き込み踞る名無しさんにそっと手を差し伸べる。
「御免」
「何?」
びしょ濡れの身体をぐいと引き寄せ、横抱きに抱え上げる。腕の中の名無しさんの身体は氷の様に冷たく、下手に力を込めれば氷細工の如く崩れてしまうのではないか、触れてもいいものなのだろうかという錯覚に陥る。
触れてもいいものなのか……。
この感覚はあながち間違ってはいないだろう。
彼女は姫。本来、忍の身である自分が触れていい御方ではない。
「姫を客間までお連れする。新しい着替えを用意せよ」
「心得ました」
配下のくノ一に命を下し、目前にある客間へと名無しさんを運んで行った。
「失礼する」
くノ一より着替えが終わったとの一報を受け、半蔵は客間で休んでいる名無しさんの元へと向かう。襖を開けると庶民的な着物に袖を通した名無しさんの姿があった。整えられた黒髪に、日にあまり浴びてないであろう白肌。それが質素な着物に合わさると、何故か歪に見えてしまう。
ケホッ、ケホッ……んっ
季節の移ろいによる持病のものか、それとも先程冷水に飛び込んだ反動によるものか。症状は徐々に悪化している。
「これを飲め。少しは楽になる」
「うん。分かったわ」
半蔵が差し出す丸薬をゆっくりと摘まみ取り、白湯を用いてコクンと飲み下す。上下に揺れる白い喉がどこか艶かしい。先程まで土気色だった頬にはうっすらと赤味が差していた。
「気分はどうだ」
「すごく寒い。それに頭に靄がかかっているみたいで、フラフラする」
少し惚けた様子の名無しさんの額にそっと手を伸ばす。
「少し触れるぞ」
先程まで冷えきっていた身体が嘘のように熱を持ち始めていた。名無しさんは嫌がるでもなく、心地良さそうに目を閉じる。
「忍でも熱を測るときはオデコに手を当てるのね。何だか意外」
クスクスと笑われてしまうと、何だか決まりが悪い。
「触れねば忍とて分からぬ」
「そうね、ごめんなさい。不貞腐れないで」
「別に拗ねている訳では……」
すっと姫の白い腕が伸びてきて半蔵の面に触れた。
「ずっと謝りたかったの。小さい頃、私、人との付き合い方が分からなくて。多分、貴方に対して不愉快なこと、いっぱいしちゃったと思う。貴方が姿を現さなくなって、初めて自分が避けられていることに気付いたの。本当にごめんなさい」
一国の姫が影である自分に頭を下げる。そんな光景に少し面喰らったが、その謝辞は素直に受け入れることにする。
「相分かった。昔のこと故、気になされるな。それよりも姫には伊賀の赤子をお救い頂いたこと、当主として奉謝致す」
頭を下げる半蔵に名無しさんは「そんな大したことではないから」と気恥ずかしそうに笑う。
「それよりも、池に飛び込んだこと、私の父には黙っていてくれないかしら?寒中水泳して風邪までひいたとなれば、大目玉は間違いないもの」
「承知した」
「それと正成、いえ半蔵。次に私が来る時はちゃんと貴方が出迎えてくれるかしら」
「姫の命となれば」
「別に命という訳じゃないのよ。ただ、半蔵が出迎えてくれた方が昔なじみだし、気安いと思うの」
「了解」
名無しさんはふぅと1つ呼吸すると、真っ直ぐ半蔵を見据える。
「ねぇ、その面、取ってもいい?」
「何故……」
名無しさんとは世襲する前からの仲。自分の素顔など疾うの前から知っているはずだ。
「私が見たいの。それともこれは貴方を困らせることになってしまうのかしら?」
相変わらずの口振りに少し懐かしくも感じる。
「その濡れた身体で父上に目通りするつもりか」
「えっ?貴方、正成?」
「今は2代目服部半蔵」
「そう、なのね。面を付けているから、誰なのか分からなかったわ。無事に襲名出来たのね。おめでとう」
名無しさんが優しく微笑んだのに合わせ、身を刺すような冷たい風がびゅうと吹いた。
ケホッ、ケホッ
渇いた咳が漏れ、名無しさんは顔をしかめる。
風はひゅうと吹き荒び、止むことなく濡れた身体に絡み付く。唇は美しい紅の着物に相対するように青くなっており、顔の血色も失われている。その姿がどこか、美しい日本人形……生き物とは違う造形美術というのだろうか。神秘的な美しさを匂わせていた。
ケホッ…ケホッ
咳き込み踞る名無しさんにそっと手を差し伸べる。
「御免」
「何?」
びしょ濡れの身体をぐいと引き寄せ、横抱きに抱え上げる。腕の中の名無しさんの身体は氷の様に冷たく、下手に力を込めれば氷細工の如く崩れてしまうのではないか、触れてもいいものなのだろうかという錯覚に陥る。
触れてもいいものなのか……。
この感覚はあながち間違ってはいないだろう。
彼女は姫。本来、忍の身である自分が触れていい御方ではない。
「姫を客間までお連れする。新しい着替えを用意せよ」
「心得ました」
配下のくノ一に命を下し、目前にある客間へと名無しさんを運んで行った。
「失礼する」
くノ一より着替えが終わったとの一報を受け、半蔵は客間で休んでいる名無しさんの元へと向かう。襖を開けると庶民的な着物に袖を通した名無しさんの姿があった。整えられた黒髪に、日にあまり浴びてないであろう白肌。それが質素な着物に合わさると、何故か歪に見えてしまう。
ケホッ、ケホッ……んっ
季節の移ろいによる持病のものか、それとも先程冷水に飛び込んだ反動によるものか。症状は徐々に悪化している。
「これを飲め。少しは楽になる」
「うん。分かったわ」
半蔵が差し出す丸薬をゆっくりと摘まみ取り、白湯を用いてコクンと飲み下す。上下に揺れる白い喉がどこか艶かしい。先程まで土気色だった頬にはうっすらと赤味が差していた。
「気分はどうだ」
「すごく寒い。それに頭に靄がかかっているみたいで、フラフラする」
少し惚けた様子の名無しさんの額にそっと手を伸ばす。
「少し触れるぞ」
先程まで冷えきっていた身体が嘘のように熱を持ち始めていた。名無しさんは嫌がるでもなく、心地良さそうに目を閉じる。
「忍でも熱を測るときはオデコに手を当てるのね。何だか意外」
クスクスと笑われてしまうと、何だか決まりが悪い。
「触れねば忍とて分からぬ」
「そうね、ごめんなさい。不貞腐れないで」
「別に拗ねている訳では……」
すっと姫の白い腕が伸びてきて半蔵の面に触れた。
「ずっと謝りたかったの。小さい頃、私、人との付き合い方が分からなくて。多分、貴方に対して不愉快なこと、いっぱいしちゃったと思う。貴方が姿を現さなくなって、初めて自分が避けられていることに気付いたの。本当にごめんなさい」
一国の姫が影である自分に頭を下げる。そんな光景に少し面喰らったが、その謝辞は素直に受け入れることにする。
「相分かった。昔のこと故、気になされるな。それよりも姫には伊賀の赤子をお救い頂いたこと、当主として奉謝致す」
頭を下げる半蔵に名無しさんは「そんな大したことではないから」と気恥ずかしそうに笑う。
「それよりも、池に飛び込んだこと、私の父には黙っていてくれないかしら?寒中水泳して風邪までひいたとなれば、大目玉は間違いないもの」
「承知した」
「それと正成、いえ半蔵。次に私が来る時はちゃんと貴方が出迎えてくれるかしら」
「姫の命となれば」
「別に命という訳じゃないのよ。ただ、半蔵が出迎えてくれた方が昔なじみだし、気安いと思うの」
「了解」
名無しさんはふぅと1つ呼吸すると、真っ直ぐ半蔵を見据える。
「ねぇ、その面、取ってもいい?」
「何故……」
名無しさんとは世襲する前からの仲。自分の素顔など疾うの前から知っているはずだ。
「私が見たいの。それともこれは貴方を困らせることになってしまうのかしら?」