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つぶやき

抗う(南夢)

2022/10/05 08:49
夢つぶやき
なんだか急に寒くなってきた気がする。つい先日まで外の気温は30度を超えていた気がしていたのに、いきなり吹く風は冷たくなり秋を通り越して急に冬やん…なんて心の中でボヤきながら机に肘をつき窓の外を眺める。そこには見慣れたグラウンドが広がっていて、笛の音とか、かけ声が遠くから聞こえてきた。窓開いてへんのにこんなに聞こえるもんなんや…とぼんやり思っていると、ガララッ!と別の音が聞こえてきて少し身体が跳ねる。だってそれはとても近くて大きな音だったから。

「お前何してん」

音が聞こえてきた方を見ると開いた扉に手をかけている1人の男子生徒が立っている。それはクラスメイトの南だった。私の答えを待たず、彼はずかずかと入ってきて、隣の席までやってくるとゴソゴソと机の中をあさっている。きっと忘れ物か何かをして戻ってきたのだろう。放課後誰もいない教室にやってくる理由なんて、だいたいそんなもんだ。

「返せってうるさいねん」

机の中から取り出したであろう漫画本を手に取り、面倒くさそうな顔で言う南。そういえば隣のクラスの岸本っていう男子が「お前ええ加減返せや!」って休み時間に言いに来ていたっけ。隣の席でギャーギャー言っていたからイヤでも聞こえてきてたんよね。岸本っていう人は直接話をした事はないんやけど、南と同じくバスケ部員だったらしくてちょくちょくこの教室に来ていたから、覚えてしまった。今はもう2人とも引退したらしいけど。

「で、お前は?こんな時間まで何してん?オトコにでもふられたか?」
「バス待ち」
「あ、そ」

期待していた答えと違ったのか、南は面白くなさそうに短く言葉を発する。それでもこの場から立ち去ることはせず、私の目の前で立ったままだ。なんとなく教室に沈黙が広がる。……なんで帰らへんのやろ。

「食べる?」

気まずくなった私は、ちょうどさっきまで食べていたチョコを1つ南へ差し出す。今日の朝学校に来る前にコンビニで買った新商品。秋は何かと食べ物の新商品が多くて誘惑だらけやな。まぁ、それに抗うつもりもないんやけど。それなのに南ときたら「や、いらへん」なんて…コイツは……

「お前チョコばっか食うてんな」
「チョコ食べたら、恋をした時と同じ気分になるんだって。なんかの本に書いてあった」
「ほぉん…」

興味無さそうな声を出した南は私が座っている机に手の平を付けたかと思うと、腰を屈め顔を近づけてくる。感触があった。唇と唇が触れ合う、その感触が。

「別にんなもん食わんでも、オレとすればええやん。恋」

驚きとか、動揺とかの前にコイツの口から『恋』って言葉が出てきたことになんだかおかしくなってしまい思わずプッと吹き出してしまった。そんな私に「なにわろてんねん」とストレートに突っ込む南。その顔はいつもの彼で、フツー照れたりとか、困ったりとかするもんやないの?!
どういう感情でキスしてきたんやコイツ………………

え、まって。今されたんだよね?私。南にキス…キス?!?!一気に顔が熱くなるのが自分でもわかった。きっと誰がどう見ても顔は夕日に負けないぐらい真っ赤なのだろう。

「時間差っちゅーやつか?」

ニヤリと意地悪そうに笑う南に悔しさが沸き上がる。なんでしてきたコイツがこんな余裕やねん!!

「なぁ」

逃げ場は無い。

「ずるいねんて、その顔」

眉をしかめ少しだけ悔しそうな顔が近づいてきたけど、私はソレを抗うつもりはないーーー。


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