このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

つぶやき

攻守(池上夢)

2022/07/28 08:26
夢つぶやき
好きな人には『好き』ってすぐ言わないと気が済まないタイプだった。だからフツーに断れることもたくさんあるし、うまいこといって付き合っても『重い』なんて言われて振られることもある。こんな私を溢れるぐらいに我慢できないほど好きって想ってくれる人なんているのかな?って思ってた、つい5分前までは。



「ディフェンスってなに?」

私のそんな言葉に隣を歩いていた長身の男子がピクリと肩を跳ねさせた。この人はクラスメイトの池上という男子生徒で、そんなに仲がいいっていう程でもなくて、バスケ部だけど、つい最近引退をしたらしい。どうしてこの池上と一緒に歩いているかというと、ぶっちゃけフツーに偶然会っただけ。私が友達の家から帰る途中に寄ったコンビニでバッタリってやつ。そしてなんとなく帰る方向が同じだったっぽいから、並んで歩いているというわけ。そこまで喋る仲じゃないけど、そんなに気まずさは感じないのはなんでかな?
そしてコンビニで買った棒アイスを食べながら、私はとある事を思い出して、それについて彼に聞いてみたのだ。それがさっきの『ディフェンス』の話。

「いきなりなんだ?」

一瞬こちらを見たあと、またすぐに真っ直ぐ前を見た池上は質問返しをしてくる。

「や、湘北の友達がさ前に言ってたんだよね。あんたの学校の池上くんはディフェンスがスゴいって」
「そいつはバスケ部かなんかか?」
「いんや。バスケ部ではないけど、見るのが好きみたいで試合とか行ってたよ」
「そうか」

……あれ?なんか聞いちゃいけない雰囲気だった?池上の言葉の歯切れが悪いと感じた私は少しだけ焦る。

「別に話したくなかったら無理に話さなくていいからね」

ポンポンと池上の肩を叩きながら、できるだけ明るく言った。すると池上からは思ってもない言葉が出てきた。

「いや…なんだか照れくさくなった」

……へ?照れ?え?
私が池上の顔を見ると、コレっぽっちも照れくさそうに感じられない表情をしている。むしろ真顔で、全然嬉しそうじゃないけど??この人は読めない人だと思ったらなんだか少しだけ面白くなってきた。地味に1年生から同じクラスなのにあまり話す機会は今までなかったんだよね。だから、こうしてじっくり顔を見ることも、きちんと声を聞くことも全てが新鮮に思える。

「でさ、ディフェンスってなに?なんとなくはわかるんだけど」
「あぁ、簡単に言うと守る役目って事だな」
「へぇ~、なんか池上っぽい」
「お前オレの事あんまり知らねぇだろ」

……バレたか。

「いいじゃん、謎な男って魅力だよ?」

あははと誤魔化して笑うと池上は片眉を下げ、呆れたようにため息を漏らした。

「池上って進路どーするの?」
「さぁな」
「さぁなってなによー」
「オレは謎なんだろ?謎な男の方が魅力的じゃないか?」
「あははは!なにそれ、池上ってそういう事言うんだ?ますます謎だよ」

思ってもいなかった池上のギャップがたまらなく面白い。こんなにお腹がよじれるぐらい笑ったのは久しぶりな気がする。どうしても高校三年生のこの時期には進路のことやらなんやらで悩むことが多く、バカみたいに笑うことが少なかったのだ。

「お前はよく笑うよな」
「へ?」
「オレは好きだぞ、お前の笑った顔」

見たことの無い池上の優しい笑みに心臓が跳ね上がる。2人の間には無言という名のとてつもなく気まずい空気が流れる。でも、どうやら気まずいと思っていたのは私だけのようだ。池上は何事もなかったかのように言葉を続ける。しかも超ド級の爆弾を。

「オレは1年の頃からお前のことが好きだったからな」
「は?!い、1年?!」
「お前はオレに全然興味なかったから気付かなかったろ」

ご、ごめんなさい…。
確かに今日の今日まで池上の事はまったく興味なかったし、ただのクラスメイトとしか思ってなかったです。だって放課後とかはすぐいなくなるし、目立つタイプじゃないし…。あ、放課後は部活に行ってたのかと。いやいや、今更そんな事に納得している場合じゃないよ。
私いまされてるんだよね?告白ってやつ。

「おい、垂れるぞ」

私はグルグル色んなことを頭の中で巡らせていると、ガシッとアイスを持ってた方の手首を池上に掴まれた。何事かと固まっていると、コイツは私が持っていたアイスを下からすくいとるように舐めた。

え、えっろ……。

どうやらアイスが溶けかけて垂れそうになっていたらしい。それに気付いて阻止してくれたんだけど…や、やばい。心臓が破裂しそう。

「攻めてみるのも悪くないな」

ニッと笑う池上にますます私の鼓動はうるさくなってしまう。まるでセミの鳴き声のように。黙っていたらコイツに聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

「な、な、な…」
「悪いが、残りの高校生活オレは悔いの残らないように攻めせてもらう」
「攻めるって…」
「今までは守りのディフェンスだったけどな、たまには攻めてみてもいいだろ?」
「本気?!」
「本気も何も…オレはお前が思っている以上に好きだからな、お前のこと」


嘘つきじゃん。
守りだけじゃなくて攻めるのも得意じゃん、コイツ。
いまだに掴まれたままの手首はどんどん熱くなっていくーーー。



コメント

コメントを受け付けていません。