つぶやき
まわりくどいのはやめにして(牧夢 社パロ)
2022/07/15 08:28夢つぶやき
あなたと一緒に過ごせるのなら多少のことは我慢できるし、目をつぶることもできる。それほど私にとってあなたとの時間は貴重で大切なものなのだから。
「すまんな、部屋食で」
豪華な食事を目の前にして、困ったように言ったのは彼氏の紳一だ。今日は彼と久しぶりの温泉旅行へ来ている。まるでキラキラと輝くような海の幸、これでもかというほどいい音を出して鉄板で焼かれているお肉、彩りの綺麗なみずみずしい野菜たち。旅番組で見るような食事がバーン!と広がっているのになぜ紳一は申し訳なさそうにしているのかもはや意味がわからない。
「なんで謝るの?」
「お前好き嫌いが多いじゃないか」
「ま、まぁ…」
「本当はレストランでビュッフェの方が良かったんじゃないかと思ってな」
確かにビュッフェの方が食事の種類もたくさんあって、好きな物を選べるけど…でもそれだとひとつ問題があるんだよね。
「大丈夫、部屋の方が落ち着いてゆっくり食べれるからこっちのがいいよ」
そう、2人の時間を大切にしたいのであれば部屋食一択なのだ。なぜかと言うと…彼が有名人だから、である。
「前みたいにちょっとした騒ぎになっても困るじゃない?」
「……確かにな。オレのせいですまない」
「やだ、謝らないでよ!私は紳一と一緒にいれるだけで幸せなんだから」
なんだか謝らせてばかりだと申し訳ない気持ちになってしまう。すると彼はフッと微笑んで長い腕を伸ばし、向かいに座っている私の頭を撫でる。浴衣の袖を抑える仕草になんだかドキリとしてしまう。フワッとお風呂上がりのいい香りがした。有名人と言うのは色々な種類があるが、彼はバスケット選手で、しかも日本代表の上にキャプテンという肩書きを持っている。そのため、知る人ぞ知る人物なのだ。以前に観光地へ旅行をした時にも、周りの人に気付かれ、ちょっとした騒ぎになったこともあった。そりゃそんな事滅多に無いし、芸能人とかに比べたら全然なんだけど…ただでさえこの大きなガタイ、一般人に紛れ込んでも目立ってしまうのは否めない。だからこそ2人きりでゆっくりとご飯を食べるためにも必然的に部屋食を選んだのだった。
「お前の偏食を直すためにもいいかもな」
紳一は悪い顔で笑いながら目線をとある食材へとうつした。その視線の先を見るとそこには私が苦手としているものがお皿の上に乗せられていた。誰だって苦手な食べ物のひとつやふたつあるでしょ?それが人よりちょびっと多いだけなんだけど…まぁ、いい歳した大人が駄々をこねても仕方ない、ちゃんと食べましょう。
「おっ、やるじゃないか」
「……まっず」
口の中は最悪なのに、楽しそうな紳一の顔を見て私の気持ちは明るくなって幸せを感じてしまう。
「今日は忙しいのにありがとね」
「いきなりどうした」
「だっていくらオフシーズン中だって言っても、紳一忙しいじゃない?だから今日一緒に旅行できて嬉しいよ」
「ずいぶんと嬉しいことを言ってくれるんだな」
「だから…」
私はつづきの言葉を飲み込んだ。
これは言ってはいけないことだと途中で気付いてしまったから。けど、どうやら飲み込んだのは遅すぎたみたい…「だから、なんだ?」と真面目な顔をして聞いくる紳一の顔がつらい。
私はずるい、途中で気付いたなんて嘘。本当は今の自分の気持ちをわかって欲しかっただけなんでしょ?
「また会えない日が続いても大丈夫」
そう、こんなまわりくどい言い方をしているけれど、要は寂しい思いをしているって言いたいだけ。我ながらめんどくさい女だなって思います。というよりも会えないことが寂しいわけじゃない、いや、寂しいは寂しいんだけど…同じように紳一が『寂しい』って思っていない事が私の中でチクチクと小さな針のように突き刺さっている。
わかってんだよ。この人は忙しくてバスケ以外の事なんて考えている余裕も無いし、かと言って彼女である私の事をないがしろにしているっていう訳でも無い。愛されている自覚が無い訳でも無い…。うぅ、本当にめんどくさい女だな、私は。これ以上何を望むっていうの?
「そうか」
紳一のその一言に嫌な予感がする。私の心の意図がわかったのか、わかっていないのか…心配と不安で心が張り裂けてしまいそうだ、自分でまいたタネだっていうのに。
「オレは大丈夫じゃないんだがな」
「……え?」
「寂しいと思っているのは自分だけだとでも思っていたか?」
全てを理解していたかのようなその笑みに、私は白旗を上げざるえない。
「紳一にはかないません」
「それは光栄だな」
なんとなく私たちは笑い合いながらグラスをぶつけ合い、本日2度目の乾杯をした。これからの2人は大丈夫、なんて思いも込めて。
「それでだな…ひとつ提案があるんだ」
「提案?」
「あぁ、お前が寂しいと思わない方法…いや、オレもか」
ちょっとだけ照れたように笑う紳一を可愛いと思ってしまった。けど…寂しいと思わない方法?なんとなく心臓の鼓動がドキドキと早くなる。少し間が空いた後に「まわりくどい言い方は無しだな」コホンとひとつ咳払いをした彼が口を開いた。
「一緒に住まないか?」
「一緒に………えっ?!」
「なんだその顔は」
困ったような顔で笑う紳一。え、そんな私変な顔してますか?だっていきなりの事で驚きが半端ないんだもの。もちろん嬉しいよ?嬉しいに決まってるけど、それよりも思ってもない提案でビックリしちゃったよ。
「い、いいの?」
「いや、オレが聞きたいんだが…」
「私はいいに決まってるよ!嬉しい…でも、紳一はいいの?」
「良くなかったらこんな提案はしないな」
フッと笑う紳一の笑顔に私の心は少しずつ落ち着きを取り戻す。私が一緒に住むことでこの人の負担にならないか?邪魔にはならないか?バスケに集中ができなくなるんじゃないか?そんな事を思っていたからこそ、驚いてしまったのだ。
「お前は色々と考えすぎだ」
いつの間にか私の隣に移動してきた紳一は、フワリと私の頭を優しく撫でながら言う。そして数秒後には大きな身体に包まれていた。
「一緒に住むぞ。いいな?」
「うん」
ぎゅっと抱きしめた彼との未来は明るいーーー。
「すまんな、部屋食で」
豪華な食事を目の前にして、困ったように言ったのは彼氏の紳一だ。今日は彼と久しぶりの温泉旅行へ来ている。まるでキラキラと輝くような海の幸、これでもかというほどいい音を出して鉄板で焼かれているお肉、彩りの綺麗なみずみずしい野菜たち。旅番組で見るような食事がバーン!と広がっているのになぜ紳一は申し訳なさそうにしているのかもはや意味がわからない。
「なんで謝るの?」
「お前好き嫌いが多いじゃないか」
「ま、まぁ…」
「本当はレストランでビュッフェの方が良かったんじゃないかと思ってな」
確かにビュッフェの方が食事の種類もたくさんあって、好きな物を選べるけど…でもそれだとひとつ問題があるんだよね。
「大丈夫、部屋の方が落ち着いてゆっくり食べれるからこっちのがいいよ」
そう、2人の時間を大切にしたいのであれば部屋食一択なのだ。なぜかと言うと…彼が有名人だから、である。
「前みたいにちょっとした騒ぎになっても困るじゃない?」
「……確かにな。オレのせいですまない」
「やだ、謝らないでよ!私は紳一と一緒にいれるだけで幸せなんだから」
なんだか謝らせてばかりだと申し訳ない気持ちになってしまう。すると彼はフッと微笑んで長い腕を伸ばし、向かいに座っている私の頭を撫でる。浴衣の袖を抑える仕草になんだかドキリとしてしまう。フワッとお風呂上がりのいい香りがした。有名人と言うのは色々な種類があるが、彼はバスケット選手で、しかも日本代表の上にキャプテンという肩書きを持っている。そのため、知る人ぞ知る人物なのだ。以前に観光地へ旅行をした時にも、周りの人に気付かれ、ちょっとした騒ぎになったこともあった。そりゃそんな事滅多に無いし、芸能人とかに比べたら全然なんだけど…ただでさえこの大きなガタイ、一般人に紛れ込んでも目立ってしまうのは否めない。だからこそ2人きりでゆっくりとご飯を食べるためにも必然的に部屋食を選んだのだった。
「お前の偏食を直すためにもいいかもな」
紳一は悪い顔で笑いながら目線をとある食材へとうつした。その視線の先を見るとそこには私が苦手としているものがお皿の上に乗せられていた。誰だって苦手な食べ物のひとつやふたつあるでしょ?それが人よりちょびっと多いだけなんだけど…まぁ、いい歳した大人が駄々をこねても仕方ない、ちゃんと食べましょう。
「おっ、やるじゃないか」
「……まっず」
口の中は最悪なのに、楽しそうな紳一の顔を見て私の気持ちは明るくなって幸せを感じてしまう。
「今日は忙しいのにありがとね」
「いきなりどうした」
「だっていくらオフシーズン中だって言っても、紳一忙しいじゃない?だから今日一緒に旅行できて嬉しいよ」
「ずいぶんと嬉しいことを言ってくれるんだな」
「だから…」
私はつづきの言葉を飲み込んだ。
これは言ってはいけないことだと途中で気付いてしまったから。けど、どうやら飲み込んだのは遅すぎたみたい…「だから、なんだ?」と真面目な顔をして聞いくる紳一の顔がつらい。
私はずるい、途中で気付いたなんて嘘。本当は今の自分の気持ちをわかって欲しかっただけなんでしょ?
「また会えない日が続いても大丈夫」
そう、こんなまわりくどい言い方をしているけれど、要は寂しい思いをしているって言いたいだけ。我ながらめんどくさい女だなって思います。というよりも会えないことが寂しいわけじゃない、いや、寂しいは寂しいんだけど…同じように紳一が『寂しい』って思っていない事が私の中でチクチクと小さな針のように突き刺さっている。
わかってんだよ。この人は忙しくてバスケ以外の事なんて考えている余裕も無いし、かと言って彼女である私の事をないがしろにしているっていう訳でも無い。愛されている自覚が無い訳でも無い…。うぅ、本当にめんどくさい女だな、私は。これ以上何を望むっていうの?
「そうか」
紳一のその一言に嫌な予感がする。私の心の意図がわかったのか、わかっていないのか…心配と不安で心が張り裂けてしまいそうだ、自分でまいたタネだっていうのに。
「オレは大丈夫じゃないんだがな」
「……え?」
「寂しいと思っているのは自分だけだとでも思っていたか?」
全てを理解していたかのようなその笑みに、私は白旗を上げざるえない。
「紳一にはかないません」
「それは光栄だな」
なんとなく私たちは笑い合いながらグラスをぶつけ合い、本日2度目の乾杯をした。これからの2人は大丈夫、なんて思いも込めて。
「それでだな…ひとつ提案があるんだ」
「提案?」
「あぁ、お前が寂しいと思わない方法…いや、オレもか」
ちょっとだけ照れたように笑う紳一を可愛いと思ってしまった。けど…寂しいと思わない方法?なんとなく心臓の鼓動がドキドキと早くなる。少し間が空いた後に「まわりくどい言い方は無しだな」コホンとひとつ咳払いをした彼が口を開いた。
「一緒に住まないか?」
「一緒に………えっ?!」
「なんだその顔は」
困ったような顔で笑う紳一。え、そんな私変な顔してますか?だっていきなりの事で驚きが半端ないんだもの。もちろん嬉しいよ?嬉しいに決まってるけど、それよりも思ってもない提案でビックリしちゃったよ。
「い、いいの?」
「いや、オレが聞きたいんだが…」
「私はいいに決まってるよ!嬉しい…でも、紳一はいいの?」
「良くなかったらこんな提案はしないな」
フッと笑う紳一の笑顔に私の心は少しずつ落ち着きを取り戻す。私が一緒に住むことでこの人の負担にならないか?邪魔にはならないか?バスケに集中ができなくなるんじゃないか?そんな事を思っていたからこそ、驚いてしまったのだ。
「お前は色々と考えすぎだ」
いつの間にか私の隣に移動してきた紳一は、フワリと私の頭を優しく撫でながら言う。そして数秒後には大きな身体に包まれていた。
「一緒に住むぞ。いいな?」
「うん」
ぎゅっと抱きしめた彼との未来は明るいーーー。