つぶやき
偶然も必然も(洋平夢)
2022/06/20 19:24夢つぶやき
それは偶然。
夏休みが始まってすぐのバイト帰りに同じクラスの水戸くんと会った。お互い「バイト帰り?」なんて声がハモって2人ともちょっと照れくさそうに笑う。さっき見た腕時計は夕方の6時をまわったところだけど、夏の空はもちろんまだ明るくてヒンヤリとする空気も一切ない。私たちがこうして偶然会うことは実は何度かあって、だからこそさっき2人の声がハモったのかもしれない。でも偶然というよりは必然性もある気がする…なぜなら私たち2人のバイト先がご近所同士なのだ。そのため、バッタリと会うことは偶然という訳でもない。
「お互い夏休みもご苦労なこったな」
「あはは、ホントだね」
自然と並んで歩く私たちはお互いを笑いながら労った。何度かこうして一緒になった事があるおかげで水戸くんとは自然に話せるようになった。彼の見た目は不良そのもので、別世界の人だと思っていたんだけど、話してみると案外フツーの人だったし、すごく気遣いのできる優しい男の子だという事もわかり、ほんの少しだけ今こうして並んで歩いていることが嬉しく思う。……本当に少しだけだよ?…………たぶん。
自分の気持ちにそう言い聞かせていると、ふと聞き覚えのあるメロディーが遠くから聞こえてきた。
「「盆踊り…?」」
再びハモった2人の声に顔を見合わせてから、プッと吹き出す。
「ハッハッハ、オレら気ぃ合うのかもな」
「ふふ、ホントにね」
2人で音が聞こえてきた方に耳を澄ますと、やはり思ってたとおりに盆踊りの音楽が鳴っていた。夏の風物詩だなぁ。この辺は私の家の近くでは無いので、どこでどんな会場なのかは予想もつかない。
「きっとオレんちの近所の公園でやってるやつだな」
水戸くんは遠くを見ながら、私が心の中で思っていた疑問に答えてくれたかのように話した。そうか、水戸くんは和光中だったしお家はこの辺なんだ。だからこの盆踊りがどこでやっているのかもわかるんだろうな。
「あのさ…今から時間ある?」
思いもよらない水戸くんのそんな問い掛けに私は戸惑ってしまう。返事の言葉が出てこない…。この後の予定なんて何もないし、なんならもうちょっと水戸くんと一緒にいたいとすら思っている。頭の中でごちゃごちゃした考えがまとまらず、声にならないのだ。
「あー…悪ぃ、急だったよな。もし時間あったら行かねぇかなと思ったんだよ、祭り」
「ある!!」
「え?」
「時間、アリマス!」
なんで私はカタコトになってんの?
マジで恥ずかしすぎるんだけど……水戸くん超目を丸くしてるじゃん。すると水戸くんは優しく微笑んだ。
「一緒に行きませんか?祭り」
「行きマス」
「よしっ、行こうぜ」
*********************
祭り会場の公園は思ったよりも広くて、人も多かった。さっきは遠くに聞こえた盆踊りの音は今ではとても大きく聞こえる。そりゃそうだ、目の前で音が鳴っているんだもの。盆踊りの輪は小学生の子供がたくさんで、みんな同じ動きで踊っている。
「あ、水戸じゃん!」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、数人の男の子たちがかたまっていた。ある人はチョコバナナを食べながら、また別の人はかき氷を食べながら。けれど、全員共通しているのは顔がニヤニヤしている、ということ。
「お前今年は手伝いしてねーの?」
「あぁ、今年はバイトもあったしな」
「そっか水戸はバイトやってんだっけ」
会話の最中にチラチラと視線を感じるのは気のせいではない。明らかに男の子たちは私のことを気にしている。……そりゃそうだよね、男女が2人きりでお祭りなんて来ていたら、、、ねぇ?
「お前ら見すぎ」
困ったように笑いながら水戸くんはみんなに言った。どうやら彼も気づいていたらしい。
「あはは!わりぃわりぃ!えっと……彼女?」
はい、来ました。ド直球の質問。
ここで(なんて答えるんだろう)と思ってドキドキしながら黙っている私はもう好きなんだ、水戸くんの事。自分の想いに確信を得てしまい、急に心臓が張り裂けそうになってきた。もちろん私たちは彼氏彼女でも無いわけで、今一緒にお祭りに来ているのだって偶然会ったから。別に私じゃなくても良かったのかもしれない。
「彼女に見える?」
まさかの水戸くんの言葉にこの場にいる全員が目をパチクリとさせた。そして水戸くんの質問に1人の男の子が「オレは見えるけどなぁ」と答えた。
うん、とても良い人ですね。友達になりましょう。自分の顔が綻ぶのをどうに我慢していると水戸くんが私をチラッと見たあと言った。
「そりゃ嬉しいな」
そして「じゃーな」と言い、私の手を引いてこの場を去る。繋がれた手はどんどんと熱くなり、その熱は私の全身を熱くさせるのに時間はかからなかった。
「あんな事言ってわりぃ」
屋台がある所から離れ、人気の少ない場所で水戸くんは私の手を離した。それでも盆踊りの音はまだまだ大きく聞こえる。だからこそ水戸くんの声を聞くのに、自然と私たちはじっと見つめ合う形になった。
「好きなんだ」
不思議と周りの音は聞こえなくなって、私の耳に届いたのは水戸くんの告白だけ。
偶然も必然も私たちにはすべて大事な出来事ーーー。
夏休みが始まってすぐのバイト帰りに同じクラスの水戸くんと会った。お互い「バイト帰り?」なんて声がハモって2人ともちょっと照れくさそうに笑う。さっき見た腕時計は夕方の6時をまわったところだけど、夏の空はもちろんまだ明るくてヒンヤリとする空気も一切ない。私たちがこうして偶然会うことは実は何度かあって、だからこそさっき2人の声がハモったのかもしれない。でも偶然というよりは必然性もある気がする…なぜなら私たち2人のバイト先がご近所同士なのだ。そのため、バッタリと会うことは偶然という訳でもない。
「お互い夏休みもご苦労なこったな」
「あはは、ホントだね」
自然と並んで歩く私たちはお互いを笑いながら労った。何度かこうして一緒になった事があるおかげで水戸くんとは自然に話せるようになった。彼の見た目は不良そのもので、別世界の人だと思っていたんだけど、話してみると案外フツーの人だったし、すごく気遣いのできる優しい男の子だという事もわかり、ほんの少しだけ今こうして並んで歩いていることが嬉しく思う。……本当に少しだけだよ?…………たぶん。
自分の気持ちにそう言い聞かせていると、ふと聞き覚えのあるメロディーが遠くから聞こえてきた。
「「盆踊り…?」」
再びハモった2人の声に顔を見合わせてから、プッと吹き出す。
「ハッハッハ、オレら気ぃ合うのかもな」
「ふふ、ホントにね」
2人で音が聞こえてきた方に耳を澄ますと、やはり思ってたとおりに盆踊りの音楽が鳴っていた。夏の風物詩だなぁ。この辺は私の家の近くでは無いので、どこでどんな会場なのかは予想もつかない。
「きっとオレんちの近所の公園でやってるやつだな」
水戸くんは遠くを見ながら、私が心の中で思っていた疑問に答えてくれたかのように話した。そうか、水戸くんは和光中だったしお家はこの辺なんだ。だからこの盆踊りがどこでやっているのかもわかるんだろうな。
「あのさ…今から時間ある?」
思いもよらない水戸くんのそんな問い掛けに私は戸惑ってしまう。返事の言葉が出てこない…。この後の予定なんて何もないし、なんならもうちょっと水戸くんと一緒にいたいとすら思っている。頭の中でごちゃごちゃした考えがまとまらず、声にならないのだ。
「あー…悪ぃ、急だったよな。もし時間あったら行かねぇかなと思ったんだよ、祭り」
「ある!!」
「え?」
「時間、アリマス!」
なんで私はカタコトになってんの?
マジで恥ずかしすぎるんだけど……水戸くん超目を丸くしてるじゃん。すると水戸くんは優しく微笑んだ。
「一緒に行きませんか?祭り」
「行きマス」
「よしっ、行こうぜ」
*********************
祭り会場の公園は思ったよりも広くて、人も多かった。さっきは遠くに聞こえた盆踊りの音は今ではとても大きく聞こえる。そりゃそうだ、目の前で音が鳴っているんだもの。盆踊りの輪は小学生の子供がたくさんで、みんな同じ動きで踊っている。
「あ、水戸じゃん!」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、数人の男の子たちがかたまっていた。ある人はチョコバナナを食べながら、また別の人はかき氷を食べながら。けれど、全員共通しているのは顔がニヤニヤしている、ということ。
「お前今年は手伝いしてねーの?」
「あぁ、今年はバイトもあったしな」
「そっか水戸はバイトやってんだっけ」
会話の最中にチラチラと視線を感じるのは気のせいではない。明らかに男の子たちは私のことを気にしている。……そりゃそうだよね、男女が2人きりでお祭りなんて来ていたら、、、ねぇ?
「お前ら見すぎ」
困ったように笑いながら水戸くんはみんなに言った。どうやら彼も気づいていたらしい。
「あはは!わりぃわりぃ!えっと……彼女?」
はい、来ました。ド直球の質問。
ここで(なんて答えるんだろう)と思ってドキドキしながら黙っている私はもう好きなんだ、水戸くんの事。自分の想いに確信を得てしまい、急に心臓が張り裂けそうになってきた。もちろん私たちは彼氏彼女でも無いわけで、今一緒にお祭りに来ているのだって偶然会ったから。別に私じゃなくても良かったのかもしれない。
「彼女に見える?」
まさかの水戸くんの言葉にこの場にいる全員が目をパチクリとさせた。そして水戸くんの質問に1人の男の子が「オレは見えるけどなぁ」と答えた。
うん、とても良い人ですね。友達になりましょう。自分の顔が綻ぶのをどうに我慢していると水戸くんが私をチラッと見たあと言った。
「そりゃ嬉しいな」
そして「じゃーな」と言い、私の手を引いてこの場を去る。繋がれた手はどんどんと熱くなり、その熱は私の全身を熱くさせるのに時間はかからなかった。
「あんな事言ってわりぃ」
屋台がある所から離れ、人気の少ない場所で水戸くんは私の手を離した。それでも盆踊りの音はまだまだ大きく聞こえる。だからこそ水戸くんの声を聞くのに、自然と私たちはじっと見つめ合う形になった。
「好きなんだ」
不思議と周りの音は聞こえなくなって、私の耳に届いたのは水戸くんの告白だけ。
偶然も必然も私たちにはすべて大事な出来事ーーー。