このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

つぶやき

日々の疲れ(三井夢)

2022/05/25 15:29
夢つぶやき
ヘロヘロになった身体を最後の力で支えながら、玄関の鍵を開ける。脱いだ靴を揃える力なんてもちろんもう出ないし、ヨタヨタと壁に手を付きながら歩くのが精一杯だ。ようやくたどり着いた一人暮らしの自分の部屋に入った私が途端倒れ込んだのはリビングのソファ。視界は数秒だけ真っ白な天井が入り、すぐに重い瞼を閉じて真っ暗になった。眠りに誘われるとはこういう事を言うんだなぁ……

********************

「……い、おい、おいっ!!!」

ハッと目が覚め私の目に飛び込んできたのは記憶の中にある、真っ白な天井ではなく1人の男性の顔だった。それも俗に言うドアップというやつ。
その正体は私の彼氏である寿の顔だった。いくら見慣れてるとは言え、いきなりなんの前触れもなく現れると驚くのも無理ないよ。びっくりしすぎて声すらも出ない私の右の頬をムニッとつまみ「なんつー顔してんだよ」と寿は呆れたような声を出し、肩眉を下げ笑っている。てゆーか、この顔を見るのは実は久しぶりだったりするんだよね。私の仕事の多忙さゆえにここ数ヶ月はまともに会えていなかったのだ。それぞれ一人暮らしをしているので、時間がある時は仕事帰りによく寿の家に私が行くことが多いのだが、お互い社会人ということもあり、いつも会いに行っているわけではなかった。しかも元々連絡を頻繁に取る私たちではなかったので、声を聞くのすら久しぶり。気付いたら私はソファに寝転んだまま寿に下からギュッと抱きついていた。そんな私は優しく抱きしめ返し、寿は「こんなこったろーと思った」と言いながら頭をポンポンと撫でてくれる。そしてそっと口付けを落とした。

「飯なんでもいいか?」
「へ?」
「オレ作るから」
「へ?寿が?」
「おい、寝ぼけるのもいい加減にしろ」

ソファからようやく立ち上がった私の頭をクシャクシャと撫でた後、キッチンへと向かう寿。慌てて追おうとした私に「いーから風呂入ってこい」と促した。その言葉に甘え、私はその足で浴室へと向かう。浴槽には最近お湯を溜めることすらしていなかったので、熱いシャワーを頭からかぶる。どうして寿が来たんだろう?なんかあったっけ?てゆーか、そもそも今何時?私どれぐらい寝てた?色んな疑問が浮かぶぐらい目が覚めた気がして、脱衣場の扉をあけると胃を刺激するいい匂いと、炒め物をするジャージャーという音が聞こえてきた。

「あと少しだから髪の毛乾かしちまえよ」
「わかったー」

ドライヤーをかけながら私は思う。
この匂いと音の正体はチャーハンだ、寿特製の男チャーハン。何度か食べたことがあるけれど、1番最後に食べたのは思い出せないぐらい前のこと。
その味を思い出そうとすると、自然に私のお腹はグゥ…と音を立てるのだった。

「いただきます」

目の前のチャーハンにキラキラ目を輝かせながら、私はパン、と手を合わせる。もちろんありがとうの意味も込めて。久しぶりに食べた寿のチャーハンは、口にすると懐かしい気持ちがブワッとわきあがり、なんだかニヤニヤしてしまう。あ、美味しいのは大前提だよ。

「美味そうな顔しやがって」

そう言った寿の顔はとても満足そうなのと、少しだけ照れくさそうにもしている。こんなにお腹も心も満たされる夕食なんていつぶりだろう…最近は食べないで寝てしまう事もあったし、コンビニでおつまみ程度の物で済ますことも多かった。
好きな人と食べるご飯ってこんなに美味しくて、幸せなことだったんだと噛み締めていると、寿がスプーンを置いて、真っ直ぐにこちらを向いた。いきなりの真顔にドキッとしてしまう。

「あのよ、一緒に住まねぇか?」
「え?」
「もっとオレに頼れって前から言ってっけど、お前苦手なんだろ?」

ごもっともだ。
私は疲れている顔や、仕事での愚痴を吐き出したくなかった。そのため、全て自分の中で解決をするまで殻に篭っているのが私。寿はそれを全て理解してくれている。

「だから、一緒に住んでたらいやでも頼るだろ」
「でも…」
「んだよ、お前はオレと一緒にいたくねーのかよ」
「いたいよ!…いたいに決まってる」

好きだから。
何よりも寿の事が大事で、ずっと一緒にいたいって思ってる。だけど、寿はそこまで考えているの?

「んじゃ、決まりな」

そう言うと寿は再びスプーンを握り、チャーハンを口の中へと運んだ。そして思い出したかのように言葉を付け足した。

「…アレだからな、同棲っつーことはちゃんと考えてっからな。この先のこと…とか」

チャーハンが口に入っているからなのか、モゴモゴと言う寿。

「照れてんの?」
「っせぇ!早く食え!」

顔を赤くしながら言う彼は私が大好きな三井寿、そのものだったーーーー。



コメント

コメントを受け付けていません。