つぶやき

愛妻の日(牧夢 社パロ 夫婦)

2022/01/31 19:22
夢つぶやき

「ただいま」

毎日聞くその声はとても心地よく、今すぐにでもその声に応えるべくあなたのそばに行きたいのだけど……ごめん!今は無理なの!!だからせめて声だけでも伝わりますように。

「おかえりーーー!!」

思いのほか大きな声が出てしまったことに自分自身が驚いたけど、家中に響いた声は彼に伝わったらしい。苦笑いをしながら「そんなにデカい声出さなくても」と、いま私がいるキッチンまで歩いてくるのは私の旦那様、と言っても数ヶ月前に籍を入れたばかりなので、旦那様になりたての彼だ。そして私が大声を出した理由は、ズバリ料理中で手が離せなかったため、です。ベタな理由だけど、新婚っぽくていいでしょ?

「牧くん、おかえり」
「そろそろ『牧くん』は卒業するんじゃなかったのか?」
「あ、あはは……そのうち、ね」
「まぁ、好きにするがいいさ」

旦那様である牧くんと付き合い始めたのは学生の頃、その時の呼び名が今になっても私は抜け出せずにいた。ジャージャーとフライパンの中で熱せられる野菜の音に負けないよう、いつもより声を張って話す私たちだったが、ひとつの事に気がついた。それは牧くんが持っている異質な物だ。いや、持つ人によっては全然異質でもなんでもないのかもしれないけど……牧くんが持つと、ねぇ?見た目はすごく素敵で似合うんだけど、持つイメージが無さすぎるというか、なんというか。

「どうしたの?それ」

炒め終わった野菜をお皿にうつしながら、牧くんに問いかける。そう、彼が持っている花束へと視線を向けながら。

「あぁ、コレか」

そう、牧くんが持っていたのは花束だった。決して大きくはないけど、可愛らしいリボンがついたキレイな花束だ。コン…とフライパンをガス台に置くとその花束は私へと差し出される。それを受け取るとふんわり花の香りが心を癒した。

「ありがとう…でも、どうしたの?」
「今日は『愛妻の日』らしいからな。と言っても職場のやつが言ってたのを聞いただけなんだが」
「そうなんだ、私も知らなかった」
「気に入ってもらえたか?」

牧くんは私の頭の上に優しく手を乗せ、フッと微笑む。そんな笑みにつられて、思わず自分の顔が緩むのがわかった。

「もちろん!」
「それは慣れないことをしたかいがあったな」
「でもこれ1本1本牧くんが選んだわけじゃないよね?」
「さすがにな。店員の人におまかせさせてもらった」
「へぇ~、にしても私が好きな色合いですごい気に入っちゃった」
「それはオレが頼んだからな」
「へ?」

花束の写真をスマホで撮っている私の手が止まる。だって、頼んだって……

「牧くん私の好きな色知ってたの?」
「……随分と軽く見られたもんだな、オレの気持ちも」
「や、そういう意味じゃないけど」

軽く、というか…あんまりそういう事は覚えていない人って勝手に思っていた。サプライズとかも滅多にしない人だし。尽くす!っていうタイプでもないしね、かろうじて覚えてるのは誕生日ぐらいかなって思ってたよ。

「何年お前と一緒にいると思っているんだ」
「ふふ、そうだよね。ありがとう、紳一」

こうやってお互いのことをわかっていけばいい、いくら長く一緒にいたって全部が全部知っているというわけでもないし、結婚したからゴールっていう事でもないもんね。だから、私がいま頑張って『紳一』って呼んだことももう少し経てば笑い話になるのかな。……にしても、なんで何も言ってくれないの、牧くんは。

「あの…ちょっと?」
「あぁ、すまない。思っていたよりもこれはクるもんだな」
「え?何が…って、ひゃあっ!!」

シュルっと自分のネクタイを緩めたあと、牧くんはひょいっと私を軽々しくお姫様抱っこした。いきなりの出来事で何が何だかわからないんだけど?!

「まずは腹より先に満たしてもらうとするか」

ニヤリと笑う旦那様に逆らうことなんてできる訳もなく、私はそのまま寝室へと連行されるのだったーー。



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