このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

つぶやき

見透かされた仕事納め(藤真夢・社パロ)

2021/12/31 10:35
夢つぶやき
合わない。合わないよ、こんなに私は自分のできることを一生懸命やってるんだから、もう少しそちらから歩み寄ってくれても良くない?
ねえ、数字さん。

「合わない…」

パチパチと電卓を叩いていた手を止め、壁にかかっている時計の針を見ると19時を少し過ぎたところだった。そしてデスクの上に置いてある卓上カレンダーに視線をうつすと今日の日付のところには小さな文字で『仕事納め』と書かれている。目を細め、その文字を睨むように見つめて眉をしかめた私は、大きなため息をつく事しかできなかった。自分で書いたその文字を恨めしく思いながら。そのままバタンと倒れ込むように、私はデスクにおでこをつけた。それはまるでズブズブと底なし沼へと沈んでいくように。

「なーにでけぇため息ついてんだよ」
「藤真さん」

身体を少しだけ起こして顎を腕に乗せたまま、首だけを回して横を見ると、先輩である藤真さんが呆れ顔で私を上から見下ろしている。

「仕事納めに残業とはちょっと真面目すぎねぇか?」
「……藤真さんわかってて言ってますよね?」
「なにがだ?」

藤真さんはくつくつと肩を震わせ、悪い顔で笑いながら私を見る。確実に私が残業をしたくてしている訳じゃない事は見透かしている顔で。オフィスには私と藤真さんの2人しかいない。定時は2時間前に過ぎているし、ましてや仕事納めの今日なんて誰も残業をする人なんていないのだ。そう、今ここにいる2人を除いては。

「こーすりゃちょっとは頭回るんじゃね?」

藤真さんはそう言うと私の頭を片手でグリグリと雑に撫で回し出した。これじゃあ確かに物理的に頭は回っているけど、、、いや、違う。そういう事じゃない。

「もう!いい加減にしてく」

ガバッと身体を完全に起こして藤真さんへの抗議を言おうとしたその時、唇に何かが当たった。ほのかに香るのは甘い匂い。

「これでも食って頑張れよ」

藤真さんが私の唇に当てたのはチョコレートだった。私が軽く唇を開くとチョコはそのまま口の中へと放り込まれ、甘い香りが鼻から抜ける。そしてぐちゃぐちゃに絡まっていた私の頭の中の糸がスゥッと溶けるようだ。

「おいしい…」
「だろ?食いたかったら好きなだけ食えよ」

ほら、と藤真さんはチョコレートが入った箱を私に差し出す。そして自分のデスクまで歩いていき、ドカッと椅子に座った。……え、帰らないの?藤真さんは誰がどう見ても仕事ができる人て、残業なんて滅多にしないのに。どうして今日に限って?そんな私の疑問はすぐに藤真さんにバレてしまった。

「なんで残ってんですか?って顔してんな」
「うっ……バレました?」
「ははは!バレバレだっつーの。お前はホントにわかりやすいよな」
「だって、藤真さんが残業なんて…」
「いい1年にしてーんだよ」

コーヒーを1口飲んだあと、藤真さんはいつもの強気な視線で私を見つめる。その眼差しは熱くて、痺れてしまいそうだ。

「お前と2人きりの仕事納めなんて、最高の締めくくりじゃねーか」
「え?」
「いい1年だったって、言えるだろ?」
「それって…」
「続きはお前のソレが終わってからな」

私のデスクに並べられた書類を指さしながら藤真さんは、ニヤリとする。そんな事を言われたら、仕事なんて手が付かなくなる…なんて私の思いを全て見透かしているかのようにーーー。


コメント

コメントを受け付けていません。