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つぶやき

手袋(洋平夢)

2021/12/22 08:08
夢つぶやき

手袋を忘れた。この季節に私はなんてことをしてしまったのだろう。木々に付けられた電飾にまだ電気は付いていないが、あと数時間もして寒さも増した頃には、この辺り一体キラキラと光輝く景色に一変する。そんなイルミネーションに心ワクワクする季節に手袋を忘れるだなんて……慌てて家を出てきた自分を恨めしく思う。しかも待ち合わせ相手からは『ごめん、少し遅れます』と先程連絡が来たため、慌てる必要もなかったのだ。

「うぅ…寒すぎない?今日」

駅前で流れる人々を見ながら、かじかんだ手に息を吐いてポツリ独り言をつぶやくと「ホントにな」と後ろから声が聞こえてきた。その声は一瞬で私の体温を上げる。

「よっ」

私が後ろを振り向く前に横に並んできたこの人は、私のクラスメイトである水戸洋平くん。休日にもリーゼントがバッチリ決まっている。なぜこの人の声が私の体温を上げるのかというとーーーー

「彼氏と待ち合わせ?」
「ち、違うよ!友達と!…彼氏なんていないし」
「おっ、そりゃいい事聞いた」

ほら、またそうやって水戸くんは私の体温を上げさせるんだから。好きな人にそんな事を言われたら期待しちゃうじゃない。そう、この人は私の片想いの相手なのだ。だから彼の声、表情、仕草、全てが私の心を暖かくもするし、反対に冷たくもさせる。なんだか恋って気温差がありすぎて風邪をひいちゃいそう。

「……水戸くんこそ彼女と待ち合わせ、なの?」

ほら、恐る恐る聞く私の心は冬のからっ風の中で置いてけぼりにされたようにまた冷たくなる。寒くなる事がわかってるんだから聞かなければいいのにって?……だって気になるじゃない。怖いけど。ぎゅっと自分の手を包み込むように組み、その手に力を込める。まるで祈りを込めるように、水戸くんの顔をまともに見ることもできないままで。

「ははっ、そうだったらいいんだけどな。同じくそんな相手もいねぇし、フツーにバイト」

チラッと横目で見たその困ったような笑顔で、またまた私の体温は上昇です。これ絶対に体調崩すやつじゃん。水戸くんのせいで風邪をひいても悪い気はしないけど…なんてニヤニヤしてしまいそうになるのを必死で堪える。油断したら絶対ヘロヘロに顔が緩んでしまいそうだから。

「にしてもマジで今日寒いな」

水戸くんはブルっと身体を震わせて私に話す。

「ね、私手袋忘れちゃったからもう手がカチカチだよ」
「こんな日に忘れるとかチャレンジャーだね」
「忘れたくて忘れたんじゃないんですぅ」
「ははっ、そりゃそうだよな」

水戸くんは笑いながら「どうぞ」と私の目の前にポケットに入れていた手を差し出し、その手のひらを空へと向ける。そしてキョトンとして、何も言えないでいる私に言葉を続けた。

「友達が来るまで、手袋の変わりに使ってみませんか?」

つい数分前までは凍ってしまいそうなぐらい冷たかった手が、今となっては手袋も要らないんじゃないかというぐらい熱くなっている事は内緒。遅れている友達にもっと遅れて来て欲しい…なんて思っていることも内緒。


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