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つぶやき

生意気(神夢 社パロ)

2021/09/06 12:58
夢つぶやき

今日も一日が始まった。デスクにあるノートパソコンを開いて、まずはタイムカードをきる。
毎日のルーティンが同じ過ぎて、代わり映えのない日々とはまさにこういう事を言うのだ。
けど、今の仕事は別に嫌いじゃないし贅沢は言ってられない。私は使い慣れたボールペンを持ち、電話のすぐ横にあったメモ帳に手を伸ばした。
そしてビリッと1枚破き、その紙にボールペンを走らせる。

「おはようございます」

そう爽やかに挨拶をして来たのは、隣のデスクの神だ。今年入社した男性職員で、1年目とは思えないほど仕事ができて、なんせ要領がいい後輩。そして年齢は私とは10近くも離れている。


「おはよ」
「あれ、今日も書いてるんですか?」

神は私のデスクを見ながら椅子に座る。

「うん。今日は特に忙しくなりそうだからね」

私のデスクの上には、先程手に取ったメモ帳から1枚破った紙が乗っている。その紙に書かれているのは……

〇朝一△△さんに電話
〇10時会議(第2会議室)
〇昼明け印刷
〇15時

途中で止まってはいるが、箇条書きで今日1日の予定だ。もう何年前からかは覚えていないが、いつからかこうして自分用に書くようになった。手帳に書けば?と声が聞こえてきそうだが、この紙はパソコンに貼っていつ何時でも見れるようにするので、こうした1枚紙の方がしっくり来るんだよね。

「先輩って意外とアナログですよね」

くつくつと笑いながら神は自分のパソコンを開いている。

「なによ」
「いや、先輩ならパソコンでスケジュール管理とかしてそうなのに」
「すいませんね、古い人間で」

私の言葉に神はさらに肩を震わせて笑った。その笑顔に気を取られていると「先輩?」と声をかけられ私はハッとする。

「相変わらず今日も1日忙しそうですね」
「まぁ…仕事だからね」
「じゃあ終わったらご褒美あげますね」

……ご褒美?
ニッコリと目を細める神に私はポカンとしてしまう。10も下の子からご褒美なんて言われて私はどういう反応をしたらいいの?

「ハイハイ、ありがとう。楽しみにしてるね」

これが大人の対応ってやつですよ。
私は神に負けじとニッコリ微笑んで、自分のパソコンと向き合った。心の奥底で膨らんだ、蕾のような小さな期待には気付かないフリをしながら。




「お、終わったぁ……」

就業時間が残り2分と迫った時、私は朝に書いた«やる事メモ»の紙に書かれている最後の一文に線を引き、思わず安堵のため息を漏らした。今日1日よく頑張った。
残業まで食い込まなかった自分を本当に褒めてやりたい気分だ。今日は帰りにちょっといいおつまみでも買おうかな。

「あ、終わったんですね」

席を外していた神が自分のデスクに戻る前に、私の机のメモを見て足を止めた。そして、持っていた手帳からボールペンを取り出し、私のメモにサラサラと何かを書き足した。

「よくできました。なんちゃって」

メモには赤色で大きな花丸が書かれている。
そして『いつもお疲れ様です』とキレイな文字も一緒に添えられていた。

「なによ…生意気に」

なんだか泣きそうになってしまった私は、素直じゃない言葉を発しながらカバンに物をしまって、帰り支度をはじめる。すると、神もそれに釣られるかのように帰り支度をして、パタン、と自分のパソコンを閉じた。

「さ、行きましょ」
「は?」
「ご褒美」
「え?!なに?!え?!」

神は私の腕をつかみ、周りに「お先に失礼します」と言いながら、フロアから出て、どんどん進んで行く。その間も私の手首はずっと神につかまれたままだ。そこから神の熱が伝わってきて、自分の身体の中にその熱が入り込んでくる様で、なんだか学生の頃に戻った時みたいにドキドキする。
エレベーターの前で神は立ち止まり、ようやく手を離した。

「オレ生意気なんで、たまにはごちそうさせてくださいよ」

いつものそつ無くこなすその顔ではなく、真剣そのものな神の顔。真っ直ぐに、それこそ突き刺さるような視線に私は逃げることが出来なかった。
そして何も言えない私に神はいつものようにニッコリと微笑むと「エレベーターの中で、何食べたいか考えましょうか」と言うのだったーーー。






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