つぶやき
抱きしめたい(南夢)
2021/08/09 23:36夢つぶやき
きつく、きつくあなたを抱きしめる。
労いとか、励ましとかそんな言葉はいらない。ただあなたを抱きしめる。
「お前、自分が何しとるかわかっとるん?」
「わかっとるよ」
わかってる。私が今している事は……
高校生活最後の夏休み、いつものメンバーと「夏の思い出~~~」なんて言いながら、受験勉強の息抜きもかねて花火をしていた。手持ち花火からちょっとした打ち上げ花火まで、最後はしんみりと線香花火なんかしたぐらいにして。
「来年はもう集まれへんよな」
「集まれるやろ、同じ日本にさえいれば」
「大袈裟やな」
「なんや、岸本は寂しんぼやなぁ」
「あ?それはお前やろ」
なんとなくコレが最後になるっていうのはみんなわかっていた。いや、フツーに来年にまた集まろうと思えば集まれるのかもしれない。けれど、みんながみんな同じ時間、同じ場所、そして同じ気持ちで集まる事はきっとできない。そんな予感がしていた。
「じゃあな」
「勉強ちゃんとせぇよ」
「明日からラジオ体操で集まろうや」
「絶対せーへんやろ」
「ほなまたな~」
帰り道、私はいつも南と2人きりになる。単純に帰り道が同じなのだ。もう何年も何回もこうして並んで歩いたことがある。別に無理やり会話を探そうとしなくても良く、彼の隣は居心地が良かった。
「そーいや南、彼女とはどうなってん?」
「いつの話してんねん」
「え、別れたん?」
「だから、いつの話してんねん」
「しばらく会ってなかったやん、そんなん知らんよ」
高3にもなると、受験勉強やら最後の部活やらでなかなか集まることも減り、今日の集まりは本当に久しぶりだった。これは自然な流れなのだろう。ほんの少しだけチクッと心が傷んだその時、隣の南が「あ」と声を上げた。
私が南を見ると、南はズボンのポケットから何かを出した。
「忘れとった」
南の手に握られていたのは何束かの線香花火だった。
「なんで持ってんねん」
「なんでやろ」
私たちは帰り道に通る公園で2人、しゃがみながら線香花火の小さな火球を眺めながら話をする。
「……部活、終わったん?」
「おん。引退や」
「おつかれやったな」
「まぁ、楽しかったわ」
南はバスケ部でつい数日前にインターハイから帰ってきていた。そしてそれは南の高校バスケ生活の終わりを告げるということだ。以前から夏の大会が終わったら引退すると言っていて、受験勉強に専念をするらしい。
「勉強教えろや」
「教えるほど私は頭良くないよ」
「岸本よりマシやろ」
「あはは、それはそうやな」
花火の火が消え、先に立ち上がった南はしゃがんでいる私に手を差し伸べた。私はその手を握り、勢いよく立ち上がってそのまま南を抱きしめた。
「お前、自分が何しとるかわかっとるん?」
「わかっとるよ」
南は驚くわけでも拒否をするわけでも無く、いつものトーンで言う。それに対して私もとても冷静だった。
「なんや、お前オレの事好きやったんか」
「いや」
「は?!なんやねん」
そう。好意がある人に対してする事だよね。
ハグをする、っていうのは。まぁ、共に喜んだりとかする時にもする事はあるんだけど。今の状態はそうでは無い。夜の公園に2人きり、特に何かを成し遂げてテンションが上がっている訳でもない、むしろその逆だったりする。
「……慰めかのつもりか?」
「いや、それもちゃうかな」
「じゃあなんやねん」
「私にもわからへん」
今はまだハッキリとはわからない。ただどうしても抱きしめたかった。今、目の前にいる南を抱きしめたい衝動を抑えきれなかったのだ。今の自分の心の奥底にどんな感情が芽生えているのかも、何もわからないままで、ただ抱きしめたいという気持ちだけがハッキリとしていたから。
「……まぁ、ええわ」
南はポツリと言うと私の背中と頭に手を回し、ギュッと私を抱きしめ返す。「お前小さいな」なんて言いながら。
夏休みはまだ終わらないーーーー。
労いとか、励ましとかそんな言葉はいらない。ただあなたを抱きしめる。
「お前、自分が何しとるかわかっとるん?」
「わかっとるよ」
わかってる。私が今している事は……
高校生活最後の夏休み、いつものメンバーと「夏の思い出~~~」なんて言いながら、受験勉強の息抜きもかねて花火をしていた。手持ち花火からちょっとした打ち上げ花火まで、最後はしんみりと線香花火なんかしたぐらいにして。
「来年はもう集まれへんよな」
「集まれるやろ、同じ日本にさえいれば」
「大袈裟やな」
「なんや、岸本は寂しんぼやなぁ」
「あ?それはお前やろ」
なんとなくコレが最後になるっていうのはみんなわかっていた。いや、フツーに来年にまた集まろうと思えば集まれるのかもしれない。けれど、みんながみんな同じ時間、同じ場所、そして同じ気持ちで集まる事はきっとできない。そんな予感がしていた。
「じゃあな」
「勉強ちゃんとせぇよ」
「明日からラジオ体操で集まろうや」
「絶対せーへんやろ」
「ほなまたな~」
帰り道、私はいつも南と2人きりになる。単純に帰り道が同じなのだ。もう何年も何回もこうして並んで歩いたことがある。別に無理やり会話を探そうとしなくても良く、彼の隣は居心地が良かった。
「そーいや南、彼女とはどうなってん?」
「いつの話してんねん」
「え、別れたん?」
「だから、いつの話してんねん」
「しばらく会ってなかったやん、そんなん知らんよ」
高3にもなると、受験勉強やら最後の部活やらでなかなか集まることも減り、今日の集まりは本当に久しぶりだった。これは自然な流れなのだろう。ほんの少しだけチクッと心が傷んだその時、隣の南が「あ」と声を上げた。
私が南を見ると、南はズボンのポケットから何かを出した。
「忘れとった」
南の手に握られていたのは何束かの線香花火だった。
「なんで持ってんねん」
「なんでやろ」
私たちは帰り道に通る公園で2人、しゃがみながら線香花火の小さな火球を眺めながら話をする。
「……部活、終わったん?」
「おん。引退や」
「おつかれやったな」
「まぁ、楽しかったわ」
南はバスケ部でつい数日前にインターハイから帰ってきていた。そしてそれは南の高校バスケ生活の終わりを告げるということだ。以前から夏の大会が終わったら引退すると言っていて、受験勉強に専念をするらしい。
「勉強教えろや」
「教えるほど私は頭良くないよ」
「岸本よりマシやろ」
「あはは、それはそうやな」
花火の火が消え、先に立ち上がった南はしゃがんでいる私に手を差し伸べた。私はその手を握り、勢いよく立ち上がってそのまま南を抱きしめた。
「お前、自分が何しとるかわかっとるん?」
「わかっとるよ」
南は驚くわけでも拒否をするわけでも無く、いつものトーンで言う。それに対して私もとても冷静だった。
「なんや、お前オレの事好きやったんか」
「いや」
「は?!なんやねん」
そう。好意がある人に対してする事だよね。
ハグをする、っていうのは。まぁ、共に喜んだりとかする時にもする事はあるんだけど。今の状態はそうでは無い。夜の公園に2人きり、特に何かを成し遂げてテンションが上がっている訳でもない、むしろその逆だったりする。
「……慰めかのつもりか?」
「いや、それもちゃうかな」
「じゃあなんやねん」
「私にもわからへん」
今はまだハッキリとはわからない。ただどうしても抱きしめたかった。今、目の前にいる南を抱きしめたい衝動を抑えきれなかったのだ。今の自分の心の奥底にどんな感情が芽生えているのかも、何もわからないままで、ただ抱きしめたいという気持ちだけがハッキリとしていたから。
「……まぁ、ええわ」
南はポツリと言うと私の背中と頭に手を回し、ギュッと私を抱きしめ返す。「お前小さいな」なんて言いながら。
夏休みはまだ終わらないーーーー。