つぶやき
まわり道(洋平夢)
2021/07/06 08:13夢つぶやき
忘れられない思い出も私のこの気持ちも、この雨と一緒に流れてしまえばいい。
「うわ、雨じゃん」
電車から降りて真っ暗な空を見上げた私は、鼻先に冷たいモノを感じた。ピチョンと、現実には聞こえない音が頭の中に響いた気がする。
家までは15分は歩く……私がカバンの中に手を入れたその時だった。
視界がなんとなく暗くなり、顔をあげた瞬間私は金縛りにかかったかのように動けなくなる。
「久しぶりだな」
目の前には見覚えのあるリーゼントの男が1人、雨の中で傘をさして立っていた。
「洋平……」
「送るぜ」
そう言って洋平はクイッと傘を軽く上げ下げして、私を傘の中へと招いてくれる。
「え?!いや、でも……」
「オレとじゃ嫌ですか?」
困ったように眉を下げながら笑うその顔はいとも簡単に私の心をまた奪っていく。ううん、また……なんかじゃない。私の心はずっと洋平に奪われたままなんだよ。
ーーーー別れたあともずっと。
「ずいぶん帰り遅いんだな」
「バイト帰りだからね。洋平は?いつものメンバーはいないの?」
「オレも今日はバイトだったんだよ」
どこでバイトしてるの?
そんな言葉を私は飲み込んだ。聞いたところで、ますますこの人のことを忘れられなくなるだけだもの。また会えるかも…なんて期待しちゃうもの。
「なんか見慣れねぇな、その制服姿」
「そっちもじゃない」
「そうか?学ランなんて全部同じよーなもんだろ?」
違うよ…。
中学生の時とは違う学ラン姿、一緒に過ごしたあの時とは違うんだよ。お互いもう別の道を歩いているっていう証拠みたい。
それなのに私の気持ちはずっと進めないまま。たとえ降りる駅が同じでも別の学校へ行って、授業内容だって違う、もうあの頃とは何もかもが違うのに……。
こうして隣を歩いていると錯覚してしまう。2人で笑いあっていた日々を。
「……ちょっと洋平!肩めちゃくちゃ濡れてるじゃん!」
私は自分の肩が1ミリも濡れていない事に気が付き、まさかと思い私の右側を歩く洋平の肩を覗き込むと、そのまさかが的中した。洋平の右肩はビショビショに濡れていたのだ。
「ん?そりゃ雨だからなぁ」
「なんの為の傘よ!ほら、もっとこっち…」
私は何も考えずに傘を持っている洋平の左腕をつかみ、自分の方へと寄せた。
ピタリと軽く私たちの肩はくっつき、その場に立ち止まった2人の視線はぶつかりあった。
「……誰かにこんなとこ見られたら誤解されちゃうね。ヨリ戻ったって」
「オレは誤解されてもいいよ」
やめてよ。そんな事言われたら自惚れちゃうじゃない。冗談でもそんな事言わないで……。
「オレさ、あきらめわりぃんだよね。誰かさん以外と恋愛って考えらんねーんだよ」
洋平は笑って歩き出そうとする。
私はそんな彼の腕を再びつかみ、それを制止した。そして、カバンの中からある物を取り出す。
「お前…それ」
洋平は私が取り出したものを見て、目を大きくして驚いた。そりゃそうだろう、だって私がカバンから出したものは折りたたみ傘なのだから。
「私も、あきらめ悪いんだ。洋平以外なんて考えられない」
2人でくつくつと笑いあった後、洋平は言った。
「まわり道でもして帰りますか」
私たちはまわり道しても、きっとたどり着く場所は同じなんだーーー。
「うわ、雨じゃん」
電車から降りて真っ暗な空を見上げた私は、鼻先に冷たいモノを感じた。ピチョンと、現実には聞こえない音が頭の中に響いた気がする。
家までは15分は歩く……私がカバンの中に手を入れたその時だった。
視界がなんとなく暗くなり、顔をあげた瞬間私は金縛りにかかったかのように動けなくなる。
「久しぶりだな」
目の前には見覚えのあるリーゼントの男が1人、雨の中で傘をさして立っていた。
「洋平……」
「送るぜ」
そう言って洋平はクイッと傘を軽く上げ下げして、私を傘の中へと招いてくれる。
「え?!いや、でも……」
「オレとじゃ嫌ですか?」
困ったように眉を下げながら笑うその顔はいとも簡単に私の心をまた奪っていく。ううん、また……なんかじゃない。私の心はずっと洋平に奪われたままなんだよ。
ーーーー別れたあともずっと。
「ずいぶん帰り遅いんだな」
「バイト帰りだからね。洋平は?いつものメンバーはいないの?」
「オレも今日はバイトだったんだよ」
どこでバイトしてるの?
そんな言葉を私は飲み込んだ。聞いたところで、ますますこの人のことを忘れられなくなるだけだもの。また会えるかも…なんて期待しちゃうもの。
「なんか見慣れねぇな、その制服姿」
「そっちもじゃない」
「そうか?学ランなんて全部同じよーなもんだろ?」
違うよ…。
中学生の時とは違う学ラン姿、一緒に過ごしたあの時とは違うんだよ。お互いもう別の道を歩いているっていう証拠みたい。
それなのに私の気持ちはずっと進めないまま。たとえ降りる駅が同じでも別の学校へ行って、授業内容だって違う、もうあの頃とは何もかもが違うのに……。
こうして隣を歩いていると錯覚してしまう。2人で笑いあっていた日々を。
「……ちょっと洋平!肩めちゃくちゃ濡れてるじゃん!」
私は自分の肩が1ミリも濡れていない事に気が付き、まさかと思い私の右側を歩く洋平の肩を覗き込むと、そのまさかが的中した。洋平の右肩はビショビショに濡れていたのだ。
「ん?そりゃ雨だからなぁ」
「なんの為の傘よ!ほら、もっとこっち…」
私は何も考えずに傘を持っている洋平の左腕をつかみ、自分の方へと寄せた。
ピタリと軽く私たちの肩はくっつき、その場に立ち止まった2人の視線はぶつかりあった。
「……誰かにこんなとこ見られたら誤解されちゃうね。ヨリ戻ったって」
「オレは誤解されてもいいよ」
やめてよ。そんな事言われたら自惚れちゃうじゃない。冗談でもそんな事言わないで……。
「オレさ、あきらめわりぃんだよね。誰かさん以外と恋愛って考えらんねーんだよ」
洋平は笑って歩き出そうとする。
私はそんな彼の腕を再びつかみ、それを制止した。そして、カバンの中からある物を取り出す。
「お前…それ」
洋平は私が取り出したものを見て、目を大きくして驚いた。そりゃそうだろう、だって私がカバンから出したものは折りたたみ傘なのだから。
「私も、あきらめ悪いんだ。洋平以外なんて考えられない」
2人でくつくつと笑いあった後、洋平は言った。
「まわり道でもして帰りますか」
私たちはまわり道しても、きっとたどり着く場所は同じなんだーーー。