つぶやき

セクハラ (仙道夢)

2021/01/18 08:23
夢つぶやき
「ひゃあっ!!」

今日1番の大きな、そしてまぬけな声で私は叫んで後ろを振り向いた。そんな声を出した理由はただ1つ。
キッと睨んだ私に「どうした」と言いながらも両手を上げるこの男。どうした、なんて聞かなくても理由は本人が1番よくわかっているはずだ。

「前にも言ったよね?」

私は「はぁ」とため息をつきながら目の前の長身の男を見上げて、諭すようにゆっくりと話す。

「あのね?私は今、見ての通り食器洗いしてるの」

ビシッと指をさした先には、まだ泡がついたままの食器たちがシンクの中で重なっている。なぜ途中になっているのか、それは私が声を出した理由でもあるこの男のとある行動だ。

「いい加減さ、私の後ろ通る度にお尻触るのやめてくれない?」

そう。
これが先程私が声を出して、食器洗いを止めた理由だ。……口に出して言うとなんてバカバカしくてくだらないことだろう。
さっきから私が「この男」と言っているのは先日から同棲をはじめた彼氏の彰の事だ。
今まで何度もお互いの家に行ったことはあるし、食器洗いもした事がある。が、その時にお尻を触られる…なんて事は1度もなかったのだ。
それが同棲をはじめてから、毎日のように食器洗いをしている私の後ろを通る時に彰は私のお尻を触る。その度に私は驚いて声を出してしまうのだ。

「包丁とか洗ってる時だったら危ないでしょ?」

「大丈夫大丈夫、その辺はちゃんと見てるから」

彰は悪びれもせず笑いながら言って、私の腰をグッと抱いた。そして言葉を続ける。

「こんなにいい女が目の前にいんだから、触らねーと失礼だろ?」

片手で腰を抱き、もう片方の手は私の頬にそっと寄せる。そしてゆっくりと顔を近づけてくるが、それは本当にゆっくりで焦らすかのように私の頬や唇の端に口付けを落とし、なかなか唇同士が触れ合いはしない。

「オレ浮かれてんだよ」

彰が困ったように眉をさげ、笑いながらそう言ったあと、ようやく私たちの唇は触れ合うのだった。



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