明白
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カッコイイ顔が好き。
バスケをしている姿が好き。
雑な言葉遣いが好き。
実は優しいところが好き。
もうフツーに好き。
「はい、いくわよー」
「おっけーーー」
9月ー。
夏休みも終わり、二学期が始まった昼休みの屋上に響くのは私とクラスメイト数人の声。そして空に向かって高く飛んだのはバレーボール。
私たちは円になってポーン、ポーンと何回かラリーを繰り返す。
「あっ」
誰かの声と共にそのラリーは終わりを告げる。
コロコロと転がるボールを私は追いかけた。
あと1歩でボールに手が届く、という所で誰かがヒョイと片手でボールを拾った。顔をあげるとそこには見慣れた人がボールを持っている。
「お前、バスケ部のくせになんでバレーなんかしてんだよ」
そう悪態をつくのは私がマネージャーをしているバスケ部の3年生、三井さんだった。
「昼休みのOLごっこです。三井さんも混ざりますか?」
「なんでだよ」
「前はOLみたいな髪型してたから、特別に参加OKにしてあげますよ」
「ふざけんなよ」
三井さんはそう言うと私にボールを渡した後、グシャグシャと雑に私の頭を撫でた。
私は顔がニヤけるのを必死に堪える。
心頭滅却すればなんちゃら……と、頭の中で唱えながら。
「あ、まなみ」
みんなの輪へ戻ろうとした時、三井さんから呼び止められた。
「今日も付き合えよ」
三井さんはそう言ってクルッと後ろを向き、手を挙げながら歩いて行った。
「ねぇ、アレって3年の三井さんでしょ?」
みんなの元へと戻った私は1人の友達に声をかけらる。
「そだよ」
「まなみよくフツーに喋れるね」
友達は向こう側にいる三井さんをチラチラ見ながら話す。
「え、どゆこと?」
「だって三井さんって超ヤンキーじゃない?髪切って見た目はイケメンになったけど…怖くないの?」
「怖くない怖くない。意外とフツーの人だよ、涙もろ」
途中まで言って私は口をつぐんだ。
あの風貌で泣きながら「バスケがしたい」なんて言ったことはあんまり言わない方がいいよね。
「てかさ、前にもあんたと三井さん話してるとこ見たけどさ」
別の友達がニヤニヤしながら近づいてきた。
そして私のほっぺたを人差し指でつつきながら話を続ける。
「三井さんってまなみの事好きなんじゃない?」
「…………」
私は黙る。
友達の話の続きを聞くためだ。
「だってさ、めちゃくちゃ楽しそうじゃん三井さん。そして何かとまなみにちょっかいかけるし、小学生の男の子みたい」
「……だよね?そう思うよね?!」
私は友達の手を掴み、グイッと顔を近づける。
「いや…私もさすがにそこまで鈍くないし、なんとなくそう思ってんだけど!!!」
「ちょっとまなみ…近い……」
友達のとても不快そうな声に私はその子の手を離し、距離も離れた。そして私は更に話を続ける。
「だって三井さんの顔に書いてんだもん!」
「なんて?」
周りの友達が一斉に聞いてくる。
「私のことが好きって」
「…………」
温度差しか感じないこの空気。
一体どうしたことか。いや…わかるよ、わかるけど。
焚き付けたのはみんなじゃん!
そう反論しようとした時、1人の友達が口を開いた。
「てか、それならなんで告んないの?」
「えっ…?!」
「さっさと告って付き合えばいいじゃん。まなみだって好きなんでしょ?三井さんの事」
「…好きだけど………」
「じゃあさっさと告りなよ」
この場にいた誰もが思っている事だろう。
それでも私は黙ってしまう。不思議そうに友達が私の名を呼び、声をかける。
「だ、だってさ…もし勘違いだったら?いざ告って「は?好きじゃねぇし」みたいな事言われたら、私もう部活行けないじゃん」
私はしゅんと小さくなりながら手で顔を覆う。
「自信あるんだかないんだか…」
友達はみんな呆れたように笑ったが、みんな恋する乙女だ、私の気持ちはわからなくないんだろう。色んな可能性を考えて、喜んだり、不安になったり…それが恋する乙女というものだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんで三井さんって彼女作んないですか?」
私はそう言いながら体育館のモップがけをする。
部活が終わったあと、三井さんの自主練に付き合っていたのだ。
昼休みに三井さんが言っていた「今日も付き合えよ」というのは練習が終わったあとの、『自主練に付き合えよ』という意味なのだ。
今日は他の部員はみんな先に帰って、体育館には私と三井さんの2人だけ。
「三井さん意外にモテるのに彼女はいないじゃないですかー」
私と背中合わせでモップがけをしている三井さんに聞こえるよう、大きめな声で話す。
「意外に、はヨケーだ」
顔は見えなくても三井さんがムスッとしながら言っているのがなんとなくわかり、私はクスリと笑みがこぼれる。
「教えてほしーか?」
三井さんは私の元へとやって来て、持っていたモップの柄を私に軽くポイッと押し付けた。私は条件反射でソレを受け取った。自分のモップも持っているので必然的に両手が塞がる。
「え?なに?片付けろってこ」
私の言葉は三井さんのキスで遮られる。
そして三井さんは言った。
「こーゆー事だよ」
「……ど」
「あ?」
「どーゆー事ですか?!」
私は持っていた2本のモップから手を離す。
床についたモップはカタンッ!!と、体育館に大きな音を響き渡らせた。
そして私は三井さんへと詰め寄る。
それはもう勢いよく。どーゆー事かなんて本当はわかっている。それでも…私はちゃんと聞きたかったのだ。三井さんの口から。
「……わかんだろ」
プイッと三井さんは私から顔を背ける。
「言ってくれないなら帰ります!」
「あっ、おい!」
三井さんに背を向け、帰ろうとする私の肩を三井さんはぐっと掴んだ。
そして振り向いた私に対し、もう一度キスをした。
「……好きだ」
真っ赤な顔をして三井さんは私に愛の告白をしてくれた。どれだけこの言葉を待っていたことか。
「私も…大好きです」
私はぎゅっと三井さんに抱きつく。
「んなこと前から知ってるっつーの」
三井さんは私を優しく抱き締め返し言った。
……え?知ってる?知ってたの?!前から?!?!
私は口をパクパクさせながら、顔をあげ三井さんを見る。
「だってお前の顔にいつも書いてるじゃねーか」
「……は?!」
「オレの事が好きって」
……穴があったら入りたいってこういうこと言うのね。恥ずかしくて今すぐにでもこの場から逃げ出したい気分と、このままずっと三井さんの胸の中にいたい気分とでごちゃごちゃになる。
「……じゃあ、なんでもっと早く言ってくんなかったんですか」
「それは…」
口ごもる三井さんに私は顔を上げ、ジッと彼を見つめながら問い詰める。
「それは?!」
「自信無かったんだよ」
「自信?」
「バスケと…お、お前を両立する自信が」
「なんですかそれ…」
私はどこぞの難関校を受ける受験生のような言い訳にちょっと腹が立った。
てっきり私に本当に好かれてる自信がなかった、とか答えるんだと思ったのに!!
「わ、悪かったって」
どうやら表情で私が不機嫌になったのを三井さんは察したらしく、困ったように謝ってきた。
「引退してから言おうと思ってたんだよ」
「おっそ!!!三井さん冬まで残るんでしょ?!私が心変わりしたらとか考えなかったの?!」
「だから…もう限界だったんだよ」
三井さんはそう言って私の頭の後ろに手を付け、自分の胸にポスッと埋めさせた。
「ホントは早くこうしたかったんだよ」
「……そんなこと言ったって私は許しませんよ」
「なっ、なんでだよ!!」
「もっかい言ってください、好きって」
「あぁ?!?!」
「言ってくんないと、許しません」
私は再び背の高い三井さんを見上げ、ジッと見つめ「早く」と圧をかけた。
そんな私に三井さんは何も言わずにキスをする。
そして
「ばーか。そう簡単に言うかよ」
と言ってニカッと笑うのだった。
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