愛の名
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何にもないと思ってた。
やりたい事も、夢中になれる事も。
でもそんな事はなかったんだよな、あなたに会ってから。
俗に言う一目惚れ。
でもそんなキレイな感情じゃなかった気がする。
『逃しちゃいけねぇ』という直感だな。
出会った場所は市の体育館、ダチである花道のバスケの試合を見に行った時だ。
アレはなんつーんだ?記者席?そこにいたのがまなみさんだった。
何気なく見たそこでパイプ椅子に座って試合を真剣な表情で見ながら、メモをとっている女性。
そんなまなみさんを見て、オレは正直試合どころじゃなくなった。
試合が終った瞬間にオレは観客席から1人立ち上がり、そのまま急いで外へと出た。一応試合は見届けたが、もちろんそのまま家に帰るような事はしない。体育館の玄関前で黙って待ったんだ、彼女を。
なんて言って声をかけたはもう覚えてない。
ただ、明らかに不審がっているまなみさんの顔は今でも覚えている。笑えるぐらいに不審がっている顔をな。
水戸洋平くん、水戸くん、洋平くん、洋平。
彼女が呼ぶオレの呼び名の変わり様で今どうなってるかわかるだろ?
「は?!消防士?!」
キッチンで料理をしていた手を止めて、まなみさんは大きく口をあけたままオレを見た。何回か見たことがあるエプロン姿に、今日もまた惚れ直していた所だ。
けれど、今は愛をささやく場面ではない。
オレは手に持っていた紙をまなみさんにペラリと見せた。彼女はその紙をオレから奪い、隅々まで目を通している。
「……なんで言わなかったの」
眉をしかめ、軽くオレを睨みながらまなみさんは聞いてくる。
「ははっ、カッコつけたかったんだよ」
笑うオレの胸をドンっと、叩き「なによそれ」とまなみさんは不満げな声を出す。
そしてオレが渡した紙を食器棚の上に置いた。消防士採用試験の合格通知の紙を。それからギュッとオレに抱きついてきた。
「おめでとう」
「ありがとう」
自然と2人の唇は近づき、そして触れ合う。
それは今となっては当たり前の事で、それでもオレは幸せを感じざる得ないんだ。
「それでさ」
名残惜しいが、オレはまなみさんの両肩に手を乗せ2人の身体を離れさせた。
「半年間の消防学校から帰ってきたらさ、一緒に暮らそう」
なんにもなかったオレに『将来』というものを嫌というほど突きつけてきた…それは他の誰でもないまなみさんだった。
あなたがいたから、オレはここまでこれたんだ。
オレの未来図には絶対必要なんだよ、まなみさんが。
「……生意気言わないでよ、まだ高校生のくせに」
必死に泣くのを堪え、目と鼻を真っ赤にさせるまなみさん。こちらを見てくれる気配はない。
「まなみさん、こっち見て」
オレはまなみさんの肩に乗せている手を、彼女の両頬へと移し、顔をこちらへ向ける。
そして短い言葉で尋ねるんだ。
「返事は?」
「……はい」
頬をつたうまなみさんの涙をそっと指で拭うと、オレらは2人で笑い合った。
今後はじまる2人の未来予想図を想像しながら。
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