物語
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恋に落ちたのは15歳ーー。
「愛してる」なんてホントの意味もわからないくせに、言い合ってたっけ。
「まなみ~!元気にしてた?」
「元気元気!そっちは?」
「相変わらずだよ、今日は子供ちゃんは?」
「旦那に見てもらってるよ」
カフェに来てメニューも頼まずに話が進むのは、いくつになっても変わらない。女性特有のものだ。
そして店員さんに「ご注文はお決まりですか?」なんて言われて苦笑いをする。
「まなみさ、最近海南の誰かと会った?」
ようやく注文を終えた私たちはお決まりの会話を始めた。
「いやぁ、会ってないかなぁ。あ、でもこの前子供の病院行った時にあの子…えっと…A組だった…」
30歳を過ぎた今、昔のように簡単に友人に会うことはめっきり減った。
バリバリ働いている子、私のように家庭に入っている子、自由気ままに過ごしている子、人生なんて十人十色だ。
「高校卒業してもう15年経ってるとか怖くない?」
友達は両腕をかかえ、ふざけて震える素振りをする。
「ね、あっという間すぎて怖いよ」
私はクスクスと笑いながら運ばれてきたアイスティーを飲んだ。
「でもあの頃と言えばさ、名物カップルだったよね、まなみと清田!」
友達の発言に私は思わずアイスティーを吹き出しそうになる。
「め、名物って…」
「だってまず、はじまりが凄かったじゃない?」
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高校1年生、春ーーー。
「いた!!!」
大きな声で入ってきた長髪の男子、それが清田信長だった。彼は足早に私の席の前にやって来て言った。
「オレと付き合ってくれ!」
ーーーは?!
開口1番なんだそりゃ。その前にキミは誰?どこ中?
そもそも1年生?何組?高校ってこんなとこなの?!
ハテナの連続で私は半ばパニックに陥った。
「あ、わりぃ。オレC組の清田信長!入学式の日に一目惚れしました!付き合ってください!」
清田くんは頭を下げ、私に手を差し伸べる。
まるでカップリングゲームの告白場面のように。
「いや、無理」
「なんで?!?!」
なんでって…聞く?
「だってまず私の名前わかってる?」
「これから知る!」
「嘘でしょ。名前も知らない人と付き合うとかやばくない?」
「これから知ってけばよくね?!」
「どんなポジティブ」
すると周りからドッと笑い声がわいた。
「なんだよコイツら!」
「まなみ、付き合ってあげなよ!面白いじゃんこの子!」
中学の頃からの友達は私の肩をバシバシと叩いて好き勝手に言ってくる。
「オレまじだからさ…絶対楽しませるし、幸せにする!」
真剣な顔で言う、プロポーズのような言葉。
15歳の私に突き刺さるには十分だった。
「…よ、よろしくお願いします」
こうして名前も知らなかった私と信長のお付き合いは始まった。
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「…はじまり方やばくない?」
運ばれてきたワンプレートのランチメニューを食べながら私は笑うしか無かった。
たらこパスタが絶品だ。
「でも、2年になって同じクラスになるとかすごいよね、清田の喜び方尋常じゃなかったもんね」
「懐かしすぎる…」
2年生になってのクラス替え。
まさか同じクラスになんて…と期待ゼロで信長と一緒に見に行った。
「よっしゃぁぁぁぁ!!」とこれでもかというぐらい大きくガッツポーズをする信長を、周りのギャラリーが笑いながら見ていたのを思い出す。
「あはは、そういや授業中とかにさ……」
友達は目に涙を浮かべながら、更に私の記憶を高校生へと戻そうとする。
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高校2年生
「違うって言ってんだろ?!」
「じゃあなんなのよ!」
ガタン!と大きな音を立て席を立ち上がり、大きな声をあげる2人。
私と彼氏の清田信長。
授業中に手紙のやり取りをしていて、ささいな事で喧嘩になり我慢ができなくなったのだ。
が、今は先程言ったように授業中。
周りの視線はもちろん2人に集中している。
「お前ら廊下に立ってろ」
「センセー、コイツら廊下に立たせたらイチャつくから罰にならないと思いまーす」
生徒の1人が手を挙げ言った。
「それもそうだな。おい、お前ら後ろに立ってろ」
なんでこんな事に…。
私と信長は教室の後ろに不貞腐れ顔で並んで立つ。
元はと言えばコイツが……キッと横にいる信長を睨もうとした時、信長が前を見ながらポツリと言った。
「……悪かったよ」
……あぁ、もうやっぱり好きだな。大好き。
感情むき出しにするくせに、こういう所は素直で私より大人だったりする。
そっと私たちは手を繋いだ。
「センセー!後ろの2人がイチャついてまーす!」
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「……なんて事もあったよね」
友達がお腹を抱えて笑いながら言う。
「いやもうホントに色々と恥ずかし過ぎてしんどい…」
私は頭を抱えた。
「清田はめちゃくちゃ惚れ込んでたもんね、まなみにさ」
「……昔のことだよ」
「だってさ、みんなの前で公開プロポーズみたいなのしたじゃん!!」
!!!???
よ、余計なことを思い出させないで……。
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高校3年生、夏
「おつかれーーー!!」
響き会う乾杯の音頭、3日間に渡って行われた学校祭の打ち上げを私はクラスメイトたちと海でしていた。
海南高校の学校祭は7月の夏休み前に行われるため、打ち上げはほとんど海で行われるのだ。
そして酒盛りもお決まりだった。
「まなみー!!」
ガバッと私に抱きついてきたのは他の誰でもない信長で、かなりお酒が入っているようだ。
「ちょっと、離してよ!みんないるんだから!」
このままではチューまでする勢いで私にへばりつく信長から、私は力いっぱい離れようとする。周りは「またやってるよ」という呆れ顔で笑いながら見ている。
「オレは!まなみを愛してる!だから結婚する!!」
大声でみんなに向かって叫んだ信長に対して、周りは大きなため息に包まれた……。
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「いや、もうホントにやめて……」
いよいよ私は食事に手をつけられなくなり、穴があったら入りたい気分で、テーブルに肘をつきおでこに手をあてた。
「あははは!ホンットに名物カップルだったね」
友達は大笑いしながら、デザートで運ばれてきたケーキをパクリと口にいれた。
しかも私のケーキを。
「あ、ちょっとぉ!」
「ごめんごめん、あたしのもあげるから」
やっぱり女友達とご飯に来ると、こういう風にシェアできるのが嬉しい。
「でもさ……」
ひとしきり大笑いしていた友達は先程とは打って変わって、少し寂しげな表情になりながら話す。
「まさか別れるなんて思わなかったなぁ…」
「……子供だったんだよ、2人とも」
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高校3年生、秋
「え?!なんで海南大じゃねぇんだよ!」
「考えたけど、私はやっぱりN大に行きたい」
進路ーー。
それは学生なら誰しもがぶつかる道。
恋人がいるなら尚更悩んだりもする。けれど、それだけで自分の将来を決める訳にも行かない。
信長はそのまま海南大へと進学を決めていた。
「なんでだよ、オレと離れてもいいのかよ」
詰め寄る信長。
私はそんな態度に腹が立ってしまったんだ。
「なんでそういう風に言うの?!私の将来を勝手に決めつけないでよ!」
応援してほしかった。
素直になれなかった。
……子供だった。
卒業を前に私たちは別れたーーー。
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「……まぁ、色々あったよね」
友達は食後の一服をしながら、フゥ……と息を吐きながら言った。
「ね、なんかあの頃ってなんにでもガムシャラに生きてた気がするよ」
「わかる、怖いもんナシだったよね」
人は嫌でも大人になる。
ただ年齢を重ねるだけではなく、経験も積むし、体の変化だってある。
『愛してる』
意味もわからず言っていたあの頃が懐かしいな。
それだけでなんでもできる気がしてたんだもん。
「あ、そろそろ行こうかな」
私はスマホに映し出された時間を見て、ジャケットを羽織った。
「優しい旦那サマによろしくね」
そう言われて友達と別れた。
「ただいま」
家に帰ると聞きなれた声が私を迎える。
「ママおかえり」
数年前に結婚した愛しの旦那サマだ。
今日は私が友達とランチへ行くのに子供をみていてくれていた。
「そろそろ起きるんじゃないかな」
そっと子供が寝ている部屋のドアを2人であける。
そこにはまさに、天使のような可愛い我が子がスヤスヤと眠っている。
私たちはそっとドアをしめた。
「パパ今日はありがとね」
リビングのソファに夫婦2人で並んで座り、私はコツンと彼の肩に頭を乗せた。
「お、どうした?」
「愛してるよ、信長」
「?!なっ、なんだよイキナリ…しかも名前で呼ぶなんて」
私の愛する旦那サマである信長は、顔を真っ赤にして照れている。高校の卒業式の日、再び私に愛の告白をしてくれた愛する旦那サマ。
「お、オレも愛してる…ぞ。まなみ」
高校生の頃と違ってぎこちない言い方をする信長におかしくなり、思わず私は吹き出してしまう。
「なんだよ!笑うなよ!」
信長は怒って私の頬を片手でつまんだ。
「ひょめん、ひょめんて」
私の言葉を聞いて信長はスっとその手を離した。どうやら、「ごめん」と言いたかったのは伝わったらしい。
そして手を離したかと思ったらギュッと私を抱きしめた。
「…………」
今度は私が照れてしまう。
こんな顔を見せる訳にはいかないと、私もギュッと信長を抱きしめ返す。完全なる照れ隠しだ。
「な、なんか恥ずかしいな」
「わかる。めちゃくちゃ恥ずかしい」
私たちは抱き合ったまま顔を見せずに話す。
そしてクスクスとお互い笑いだしてしまった。
それに伴い、2人の身体は少しだけ離れ、顔をゆっくりと見合わす。
「愛してるぞ!まなみ」
ニカッと笑うその笑顔に、私はこれから何度も惚れ直してしまうんだろうな。
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