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隙がないって思った。
それでもどうにか君の心の中に入り込みたくて、だって仕方ねーじゃん。
好きになっちゃったんだから。
「試合終了!!」
大学に入って何度目かの練習試合、その日は自分の大学での試合だったが、負け試合だった。逆転の負け試合。
チームメイト達とあーだこーだと言いながら体育館から出ようとした時、ギャラリー席にいる1人の女のコが目に入った。
目をこすりながら、泣いている女のコが。
気がついついたらオレは走り出していた。
もちろん向かう先はギャラリー席、足の速さには昔から自信がある。
そしてーーー
一目惚れの早さにも自信がある。
「大丈夫?!」
オレはその子の後ろから声をかけた。
いきなり話しかけられた彼女はもちろん驚いた顔をしている。その目にはまだキラキラした涙が溜まっていた。
「あ…ごめん。泣いてるのが見えて……」
潤んだ瞳にオレは今更心臓がバクバクして、彼女から顔を背けてしまった。
いきなり知らねぇ男に声かけられるとか、、完全にやべぇ奴じゃねぇかオレ…。
絶対怖がってるよね、その証拠にだってほら、彼女は何も言わない。
「あの……」
オレはおそるおそる彼女に視線を戻した。
「大丈夫です」
彼女は下を向き、オレとは目を合わさずに小さく言った。そして、その場を離れようとする。
「あ、待って!」
思わずオレは離れていく彼女の手首を掴んだ。
逃がしちゃいけないって、オレの直感だった。
「離して」
彼女はキッとオレを睨んだ。
その瞳にオレは離してしまった、その手を。
そして去っていく彼女の後ろ姿を黙って見ることしかできなかった。
だから、その後に大学構内で彼女を見かけた時は飛び上がるほど嬉しかった。
「まなみちゃん!」
「……こんにちは」
一瞬だけチラっとオレを見て、面倒くさそうに返事をするまなみちゃんの隣の席にオレは座る。
そして持ってきた唐揚げ定食を食い始めた。
「なんでここで食べるの」
「え?!だってここ学食じゃん?!」
そういう事を言ってるんじゃない、と言いたそうな顔をしているまなみちゃん。
諦めたようにまなみちゃんも自分の目の前にある飯を再び食い始めた。
オレはあの日まなみちゃんに一目惚れをした。
どうにか名前と学部を聞き出して、つい先日ようやくLINEのIDを教えてもらった。
けれど、オレがLINEを送ってもいつも「うん」「わかった」もしくは既読スルー。
哀しいかな、それでもまなみちゃんとどうにか繋がれていることでオレは嬉しかった。
こんな状況がもう半年ほど続いている。
「あ!そうだ、来週またうちで練習試合あんだよ!」
「…え」
「10時からだからさ、まなみちゃん見に来てよ。オレ頑張っちゃうなぁ、まなみちゃんが来てくれたら」
ダメ元でオレは誘ってみる。
すると意外な言葉が返ってきた。
「うん…頑張って」
しかもこちらを見て、うっすらと笑みまで浮かべるまなみちゃん。
ーーーえ?!なにこのご褒美。
調子に乗ったオレは更に言葉を続けた。
「勝ったらさ…で、デートしてくんない?」
さすがに調子に乗りすぎたか…と少し後悔したが、そんな後悔はものすごい勢いで遠くに飛んで行った。
「……勝ったら、ね」
もう止まることはないと確信した。
オレのまなみちゃんに対する想いはもう誰にも止められねえし、止めさせねぇ。
「リョータ気合い入ってんな」
練習試合当日、試合前にチームメイトに声をかけられる。
アタリマエダ。今日はオレの持てる力を全て出し切って勝たなきゃなんねーんだから。
チラリとギャラリー席を見るとまなみちゃんがこちらを見ている。目が合ったオレはブンブンと手を振る。
ちょっと呆れたような顔をしたけれど、軽く手を振り返してれるまなみちゃんにオレのやる気はますます膨れ上がった。
そのやる気は実力となって見事に試合に勝利した。
ホントにまなみちゃんは勝利の女神なのかもしれない。
試合終了の整列も終わり、オレは一目散にギャラリー席へと向かおうとしたその時。
「リョータ」
懐かしい声にオレは振り向いた。
そこには高校時代のバスケ部マネージャーのアヤちゃんの姿があった。
そう言えば今日の対戦相手の大学はアヤちゃんが行ってる大学だった。彼女は大学に入った今でもバスケ部のマネージャーをしているらしい。
オレは高校生の時アヤちゃんの事が大好きだった。けど、今になってみるとホントにミーハーな気持ちだったんだなと確信もした。
その証拠に今はこんなにもフツーに元同級生として話ができるのだから。
そりゃ会えて嬉しいけど、心が動かされる事もない。オレには今、大好きで大好きでたまらない女のコがいるから。
アヤちゃんと話を終えたオレはその大好きな女のコに会いに行くため、ギャラリー席を見た。
「あれ……いねぇ」
すると先程までそこに座っていたはずのまなみちゃんの姿はなかった。
慌てたオレはとりあえず体育館を出て、キョロキョロと周りを見渡すと体育館の出入口へ向かっているまなみちゃんを発見した。
「まなみちゃん!」
オレはパシッとまなみちゃんの手首を掴む。
初めて会ったあの日と同じように。
「リョータ…」
あの日と同じようにまなみちゃんの目には涙が浮かんでいる。
「なんで泣いてるの?」
「…っ、なんでもないっ」
まなみちゃんはオレの手を解こうとするが、オレはそれを許しはしない。
今度こそ絶対に逃がさないんだ。
オレはまなみちゃんの手を掴んだまま歩き出す。
「離してよ」
「やだ、今度はぜってー離さない」
オレたちは外に出て、人気のない体育館裏へとやって来た。
「…ねえ、まなみちゃん。どうして泣いてるの?」
「泣いてない」
目と鼻を真っ赤にして話すまなみちゃんは説得力ゼロだ。オレとは目を合わせようとしない。
「教えてよ、オレに関係ないことでもいいからさ…言ってよ。オレはまなみちゃんの事ならなんでも知りたい」
どさくさに紛れ、オレはまなみちゃんの両手をギュッと握りながら話す。
「……リョータは私の事なんてなんにも知らないでしょ」
下を向き、絞り出すようにまなみちゃんは話す。
「まなみちゃんこそ、オレの事知らないでしょ?オレに少しでも興味ある?」
オレは負け惜しみのように言う。
カッコ悪ぃ……。
「知ってるよ」
「……え?」
オレに握られている手にギュッと力を込め、まなみちゃんは言った。
「リョータの事なんて、ずっと前から知ってる」
「……は?……え?!えぇ?!」
オレは驚きのあまりまなみちゃんの手を離した。
まなみちゃんは自分で自分の拳を包みこむ。
「初めてリョータを見た日から…ずっと追いかけてた。話すキッカケがほしくて試合を見に行ったんだもん……」
「え、待って待って…それって」
「一目惚れだったよ」
面白くなさそうにまなみちゃんは言った。
「じゃあ…なんで?オレの気持ちわかってくれてたんじゃないの?」
「……信じられなかった。単なる遊び半分なんじゃないかって…確信が持てなかったんだもん」
オレは力がぬけヘナヘナとしゃがみ込んだ。
嘘だろーーー。
遊びで半年もずっと追い続けるかよ。
……いや、オレが悪い。きちんと想いも告げずに、中途半端に言いよってたオレが。
「さ…さっきだって、キレーな女の子と楽しそうに喋ってたじゃん」
「え、もしかしてそれ見て黙って帰ろうとしたの?」
「…………」
まなみちゃんはむくれ顔で何も言わない。
「初めて会った時泣いてたのって、なんで?」
「……負けちゃったじゃん、あの時の試合。悔しくて……」
あぁ、もうなんでそんなに可愛いんだよ。
いや、オレが照れている場合じゃねぇ。
オレは立ち上がり、そのまままなみちゃんにキスをした。
「ちょっ」
驚いて顔を背けようとするまなみちゃんの両頬を包み、再びキスをする。
息が止まるぐらいに、何度も何度も。
「好きだよ」
そっと離れた唇でオレはその言葉を言う。
バカみたいにビビりで言えなかったその言葉を。
「オレ、まなみちゃんのことが…大好きで大好きで仕方ない」
力いっぱい、それでも壊してしまわないようにまなみちゃんを抱きしめる。
それに応えるようにキュッとまなみちゃんはオレを抱き締め返す。
「私も…好き……リョータが私に気付く前からずっと好きだったんだから」
こんなに嬉しいことって他にはあるか?
オレは今世界で1番幸せ者だって大声で叫びたい気分だ。
けど、この幸せは独り占めしてやるんだ。
ずっと止まらないこの幸せを。
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