直走
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「じゃあ、またね」
「またっていつやねん」
「さぁ?私の気が向いた時?なんてね」
こんな会話にももう慣れたわ。所詮オレは2番目やから。下手したら2番目なのかもわからへん。
こんなわけわからん女にほだされるなんて、ホンマ夢にも思わんかったわ。
でもオレやあかんねん。愛してるも役不足ってやつや。
コイツとこんな関係になったのは数ヶ月前。
出会いはさらに前で、半年以上前になる。姉貴の大学の友達だと言って家にやって来た。
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「おぉ!キミが実理くんか!こんにちは」
ある日部活が終わって家に帰ってくると知らない顔の女がリビングにいた。
そこそこキレーな顔した姉ちゃんで、オレと目が合うとニコニコと笑いながら話しかけてきた。
「私はキミのお姉ちゃんの大学の友達でまなみって言います!道産子だよ!」
「関西人より騒がしい道産子やな」
「あははは!まじで失礼な子なんだね!」
まなみと名乗るキレーな姉ちゃんはズカズカとオレに近寄り、ポンポンと肩を叩いた。
フワッといい匂いが香ってくる。……まぁ、別に嫌いやないな。
「あんたは!年上に対する口の利き方がホンマになってないな!」
そう言って2階から降りてきた姉貴にガツンと殴られたのは言うまでもない。
それからというもの……
「実理ちゃん部活おつー!」
「今度実理ちゃんの試合見に行くね」
「実理ちゃんパーマ似合ってんね」
「実理ちゃんさぁ、年上に対して呼び捨てとはいい度胸してんね!」
家にまなみがおるのが日常になりつつあった。
さすがに毎日という訳ではないが、週に1度は必ずオレんちにおった。もちろんオレに会いに来ている訳や無い。姉貴に会いに、や。
オレはあくまでも友達のオトウトやったんや。
ーーーあの日までは。
「…ん?なにしとんねん」
いつものように部活を終え、学校から帰ってきたオレの目に飛び込んできたのはオレんちの玄関前で佇むまなみの姿やった。
「実理ちゃん…」
振り向いたまなみは目と鼻を真っ赤にしていた。誰が見ても泣き顔だとわかるその顔で無理に笑顔をつくるまなみ。
「いやぁ、お姉ちゃんバイトでしょ?知ってんだけどさぁ…今どうしても1人でいたくなくて……」
「……とりあえず入れや」
カチ……カチ……
家のリビングには壁にかかってある時計の秒針の音だけが鳴り響いている。
他の音は何も聞こえてこないため、まさに鳴り響く、そんな言葉がピッタリやった。
「まなみほかに友達いないんか」
「うわ、実理ちゃんこんな時にまで酷いこと言うねぇ」
「姉貴バイトなん知ってたんやろ?」
「まぁ、確かに友達はあんまりこっちではできてないかなぁ。……友達だって思ってた子がさっき私の彼氏と腕組んで歩いてたし」
ソファに座っていたまなみは自分の膝をかかえ、体育座りをした。ヘラヘラと笑いながら。
ーー腹が立った。無性に腹が立った。
オレはまなみの腕をつかみ、そのまま階段をのぼり自分の部屋へとまなみを連れてきた。
「ちょっと実理ちゃん?!なにす…ん」
オレはドアが閉まるか閉まらないかのその間に、まなみをきつく抱きしめた。
「笑うなや」
「……なぐさめてくれるの?実理ちゃん」
まなみはオレを見上げ、両手でオレの頬をそっと包む。
オレはその手の上に自分の手を添えそのままキスをする。最初は優しく触れるだけのキス。
次第に「……んっ」とまなみが小さく声を漏らすぐらいの激しいキスへと変えていく。
お互いの舌を絡め合い、息をすることさえ忘れるようなキスに。
ドサッーーー
そのままなだれ込むかのようにオレはまなみをベッドへと押し倒す。
「なぐさめたるわ…オレのやり方でな」
そうしてオレたちはセックスをした。
その日はクリスマスイヴやったな…。
それからオレらの関係は変わった。
姉貴のトモダチ、友達のオトウト、そんな関係ではなくなったんや。男と女の関係、これが1番しっくりくる言い方やな。
彼氏彼女なんて可愛いもんやあらへん。
「好き」なんて甘い言葉言えるか。
……オレがまなみに惚れてるのは事実やけど。
認めへん!なんてガキくさい事は言わへんよ、オレは確実にまなみに惚れてんのや。
アイツがオレの事どう思ってんのか聞くのが怖いくらいにな。
「実理ちゃんてシャンプー何使ってんの?ティモテ?」
「んなわけあるか」
ベッドでうつ伏せに寝転んだまままなみはオレの髪の毛を触りながら言う。
ティモテて……小学生か。
それからオレらは2週間に1回程のペースで身体を重ね合うようになっていた。場所はだいたいまなみのアパート。
さすがにオレんちでこんな事をするわけにもいかへんやろ。もちろん姉貴はこの事を知らないし、わざわざ言う必要もない。
つーか言えへんやろ。
姉貴のおトモダチとセックスフレンドになりましたー、なんて。
……それにまなみから「彼氏と別れた」なんて話はひとっつも聞いてへんからな…。
そんなこんなでオレらの関係は続いている。
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『明日1時に〇〇駅集合』
学校が自由登校になり卒業式もあと数日と迫ったある日、いつも絡んでいる奴らのグループLINEが来た。
要件は明日いつものメンツで遊びに行こうというものやった。コイツらとつるむのももうないしな、そう思いオレは「了解」とOKの返事をした。
「岸本おそ~い!」
次の日、駅に到着したオレにそう言って腕に絡みついてきたのは、1年の時同じクラスだった女子だ。そう、ただの元クラスメイト……
何をもって『ただの』なんて言うのか知らんけど、まぁ何回かヤッた事がある『ただの元クラスメイト』や。
「なんやお前も来てたんか」
「久々に岸本に会いたくて来たんやでっ」
おいおい。
いいモノをムギュッとオレの腕に押し付けるな。
あれ…でもそーいやコイツって……
「お前オトコおるよな?」
「えぇ~岸本ってそゆこと聞くヤツやったっけ?」
「……女ってオトコいても他のやつとヤれるんか?」
「なになに岸本どうしたん?」
相変わらずコイツはオレの腕に絡まったままで、オレらは他の奴らの後ろから歩き始める。
「ん~どうなんやろ?人によるとは思うんやけど、女ってやっぱり選ぶと思うよ?」
「選ぶって…ヤる奴をってことか?」
「そうそう。好きでもない人とはヤれない!って子があたしの周りでは多いかな、やっぱり」
好きでもない人とはーーー。
ほほう。ええ事聞いたな。
「いよっしゃぁぁ!!」
「なんや岸本絶好調やないか!」
「ストライク3回目やん!!!」
カコン!!と気持ちいい音がなり、10本のピンがバラバラと全て倒れる。
オレらがやって来たのは、カラオケ、ボウリング、ゲーセン等が入っている総合アミューズメント施設。
今はボウリングをしているってわけや。
「随分ご機嫌やな」
パシッとハイタッチをした後に幼なじみの南がオレに声をかけてきた。
「今のオレは無敵やな」
ふふん、とオレはふんぞり返って返事をする。
南は自分で聞いてきたくせに「ほうか」と興味無さそうにジュースを飲んだ。
「メシ行くやつー」
一通り遊んだオレらが外に出た頃には辺りは薄暗くなっていた。そのまま家に帰るやつ、メシに行くやつに分かれみんな歩き出した。
「いつものとこでええやろ?」
「まぁ、そこしかないしな」
なんて話をしながら歩いていると、少し先の道の向こうに1組のカップルが目に入った。
女が楽しそうに男の腕を引っ張り、じゃれている。
「……は?!」
思わずオレは声を出していた。
それも心の底からの『は?!』や。なぜ心の底からなのか、それはカップルの女は他の誰でもないまなみやったからや。
楽しそうにしているまなみの笑顔を見て確信した。一緒におるのは彼氏や。
……なんや、やっぱり結局別れてなかったんかいな。アホらし。
そう思ったオレはくるりと歩いている方向を変えた。
「岸本?行かへんの?」
友達の1人が声をかけてきたが、オレはそれを無視してそのまま歩き出した。
ーーーー歩き出したはずなのに。
なぜオレはこんなこんな所にいるんや。
「コーヒーぐらいなら奢ったるで」
夜メシ時で周りは大勢の家族連れで満席に近いファミレス、なぜか男2人で席に座っている。
オレと南、2人で。
「お前なんやねん、馬鹿力でここまで連れて来よって」
家へと帰ろうとした時、南のアホがオレの首に腕を回してきた。そしてそのままズルズルとこのファミレスへと連行して来たんや。こんの馬鹿力野郎め。
「なに不貞腐れてんねん」
南はコーヒーを2つ店員に頼んだ後、呆れたようにオレに話しかける。そしてオレの返答を待たずに話を続ける。
「大方、さっき好きな女でも見かけて、その隣には彼氏らしき男がいて不貞腐れたんやろ」
「……お前のそのやらしい洞察力と察しの良さはピカイチやな」
嫌味たっぷりでオレは言い返した。すると南は「お褒めの言葉おおきに」と言うのでオレは
「褒めてへんわ」とすかさずツッコむ。
なんやねんこのやり取りは。
「ええなぁ、一足先に大学決まったやつは」
南はため息をつき、運ばれてきたコーヒーを飲みながら羨ましそうに言う。
確かにオレは大学が決まっていた。
「オレなんか合格発表もまだで、不安な日々を過ごしてる言うのに」
「どこが不安な日々や。1ミリも感じられへんぞ」
「……まぁ、受かっても落ちても突っ走るだけやからな」
「……なにが言いたいねん」
「オレら得意やろ、突っ走るの」
テーブルに肘をつき、南から目を背けていたオレはその言葉にハッとした。そしてゆっくりと目の前にいる南を見た。
相変わらずコイツは何食わぬ顔でコーヒーをすすっている。
「……南、オレ用事思い出したわ」
「貸しひとつやな」
「っさいわボケ」
オレは南に悪態をつくと、席をたち急いで店を飛び出した。
ーーと張り切って走ってきたもののどうしたらええんや。
目の前にはまなみのアパート。2階にはまなみの部屋がある。ーと、その時その部屋のドアが開き、2人の男女が出てきた。
「ホントに駅まで送っていかなくて大丈夫?迷わない?」
「大丈夫だって、まなみは大人しく家にいなさい」
男は女の頭の上に手を乗せ、優しく撫でている。
紛れもなく女はまなみで、頭を撫でている男はさっきまなみと一緒にいた男やった。
オレはさっきとは違い、来た道を戻ることはせぇへん。2人に向かって階段を登り始めた。
カンカンと音を立てる階段にまなみはこちらに気付き、オレの顔を見て驚いている。
「実理ちゃん?!どうしたの?!」
パタパタと走って近づいてきたまなみをオレは一旦スルーする。そしてまなみの彼氏の目の前に立ちはだかった。
「え?実理ちゃん??」
オレの後ろからはまなみの心配そうな声が聞こえてくる。それでもオレはまなみに声はかけず、目の前の男に向かって言った。
「オレはまなみに惚れてる。心底惚れとんのや!いつかオレのモンにしたるからな!」
………………キマッタ。
オレはくるりと振り返りその場から去ろうとした。が、目の前には下を向きプルプルと震えるまなみの姿が目に入った。
…あかん、怒らせてもうたか。いや、もうオレは決めたんや、このまま突っ走るって。
「そうかついにまなみを嫁に出す時が来たか」
背中から聞こえてきたその声にオレは勢いよく振り返った。オレが啖呵を切ったその男は腕を組み、ウンウンと頷いている。
「お兄ちゃん寂しくなるけど、嬉しいなぁ」
ーーーーは?!
「オニイ……チャン?」
オレは男とまなみを交互に見て、指を指す。
「初めまして、まなみの兄です」
ニッコリと笑う男のその顔はどことなくまなみの笑顔に似ていた。
オレは血の気が引いて顔が青くなるのと、恥ずかしさで顔が赤くなるのを生まれて初めて同時に感じた。一体何色になってんのやろ、オレの顔。
「ーーーで、どういう事なのかちゃんと説明はしてくれんのかなー??してくれるよねー??」
駅まで送ると言うオレらを断ってそのまま帰っていったまなみの兄貴を見送った後、とりあえずまなみの部屋の中へとやってきた。
そしてテーブルを挟み、向かい合って座る。
……正座なんて久々にしたわ。
「ちなみに私には今現在、彼氏はいません。とっくのとうに別れております。誰が誰のモンになるって??」
畳み掛けてくるまなみ。逃げ場はない。
というか逃げるつもりなんてあらへん!
オレはガタッと立ち上がり、まなみの隣に腰を下ろし、そのまままなみをキツく抱きしめた。
「はよオレのモンにならんかい」
意を決して言った言葉やったのに、オレの腕の中からはクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「……なに笑てんね」
言葉の途中でオレはまなみにキスをされた。
「もう心も身体も実理ちゃんのモンになってる場合は、どーしたらいいの?ホントにお嫁にでももらってくれるの?」
少しだけ頬を赤くして、オレの事を見上げながら言うまなみ。
……んな事されたら我慢でけへんやろ。
「?!実理ちゃん?!?!」
オレはまなみを抱きかかえ、そのまま器用に寝室のドアを足であける。そしてまなみをゆっくりとベッドへとおろした。
「いざ彼氏彼女になりましたってなってもする事一緒じゃない?」
クスクスと笑うまなみの上にオレは覆い被さる。
「アホか!気持ちを我慢するセックスとぶつけていいセックスだと全然違うやろ!」
まなみは目を丸くしてキョトンとしたが、優しく微笑みオレの頬に優しく手を触れた。
「ぶつけてくれるの?」
「覚悟せぇよ?オレの気持ち全身全霊でぶつけたるからな」
このまま全力で突っ走ったるねん。
まなみのそばで、ずっとな。
せやから、隣で笑っててくれへんかな。
オレのそばで、ずっと。
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