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またひとつ歳を重ねる毎に、あなたへの想いも大きくなっている気がする。
海南高校バスケ部キャプテンの牧紳一くんへの想いが。
初めて彼を見たのは中一の時。
女子バスケ部だった私はとある大会で同い年の彼を見つけることになる。
ついこの間まで小学生とは思えないプレイで、周りの観客を圧倒させていた。
そんな彼に心を奪われたのは言うまでもない。
他校だし、私の所属している学校のバスケ部は弱小だし……そんなんで彼と話をした事なんて中学時代は1度もなかった。
そんな牧くんに淡い恋心を抱いた私は海南高校へと入学する。
「家から近い」「大学付属」なんて理由にしていたけれど、バスケが強いこの高校に牧くんが入学するかも…と期待をしていたのも事実だった。
そしてその期待は現実のものとなり、私はバスケ部のマネージャーになった。これで牧くんと…なんて甘いことを思っていた自分をはっ倒したい。
蓋を開けると強豪校のマネージャーは実に大変だった。ミーハーな気持ちでマネージャーになった子達は次から次へと辞めていったし、私が3年生になる頃にはマネージャーは私だけだった。
やはり部活は忙しいし、友達ともなかなか遊ぶ時間もなかったけれど、それでも私はマネージャーを続けてきた。
牧くんへの気持ちがどんどん大きくなっていったのもあるが、やはり何よりもバスケットが大好きだから。
「それなら牧にケーキ持たせて、ついでに送ってもらえよ」
クラスメイトでバスケ部でもある武藤にそう言われたのは、ある日ーーー私の誕生日だった。
部活が終わった後、どこからともなくホールのケーキを持ってきて「誕生日おめでとうございます!」と元気よく言ったのは1年生の清田だ。
「……え、えぇ?!」
まさかこんな事が自分の身に起こるなんて。サプライズというやつに私は驚きを隠せない。
マネージャー3年目にしてこんな事は初めてだった。「どうぞ」と言われ、プレゼントまでもらってしまった。
「神さんセレクトなんすよ!」
なんて何故か清田が自慢げに話してきたのがおかしかった。
「まなみさん文房具好きって言ってたじゃないですか」
シンプルな包装紙を丁寧に破き、箱の中から出てきたのはとても綺麗なガラスペンだった。
なんだかこそばゆいけれど、とても嬉しかった。
さすが神は周りをよく見ているなと、とても感心してしまう。
「みんなありがとう、こんなホールのケーキまで…持って帰るの大変じゃん」
照れ隠しで言った私の言葉に反応したのが武藤だった。そして先程の発言をしたのだ。
「なんか…ごめんね?武藤があんな事言って断れないよね、みんなの前じゃ」
「いや、断る気なんてなかったぞ」
私の誕生日ケーキが入った箱を持つ牧くんと、並んで家までの道を歩く。何度か送ってもらった事はあったけれど、自分の誕生日に2人きりで歩くことができるなんて幸せだった。
「まなみには日頃から世話になっているからな」
優しく、そして少し意地悪に笑ってこちらを見ながら言う牧くんに私の体温は上がり、心臓の鼓動は早くなる。
「……牧くんはさ、夏が過ぎても部活続けるんだよね?」
「あぁ、そうだな」
「いいなぁ、選手は続けられて」
海南の運動部マネージャーは夏の大会が終わったら引退ーー、それが学校の決まりだった。
「寂しくなるな。オレにはまなみが必要なんだが」
牧くんの言葉に私は思わず彼を見た。
そして歩を止め、そのまま彼の顔を見た。
「…牧くんはずるいよ」
その場に立ち止まった私に合わせるように、牧くんも歩くのをやめた。
「フッた子に対してそんなこと言ったらダメだよ…」
そう、私は1年前に牧くんに告白をしてフられた。
『もちろん嫌いではないが、今はそんな風には見れない』
そう言われ、私はマネージャー以上の存在になる事を諦めた。
ただ、牧くんへの想いは消えることはなかった。
むしろ日に日に想いは大きく、深くなっていく。だから、このままマネージャーのままでいいから…彼を支えることに決めたのだ。
「……バカな事をしたな、オレは」
困ったように笑いながら牧くんは私を見つめる。
思いがけない牧くんの言葉に、私はさぞ間抜けな顔をしている事だろう。
「もう一度言うぞ、どうやらオレにはまなみが必要らしい…」
「らしいって…他人事なの?ていうか、牧くん自分が言ってることわかってる?」
私はどこか呆れたような声で言ってしまう。
けれど、内心は今の状況が信じられなくて心臓はバクバクだ。誕生日のドッキリじゃないかと周りをキョロキョロと見渡してしまうほどに。
「隣にまなみがいないと困る」
「困る?牧くんが?」
「オレ以外に誰がいる」
「……私、これからも牧くんの隣にいていいの?」
牧くんは私の目から流れる涙をそっと指でなぞり、そのまま私にキスをした。
「牧くん……手が早い」
「好きなやつにして何が悪い」
ニヤッと笑う牧くんの顔に悔しくなったが、それ以上にときめいてしまったのは内緒。
一足先に彼より早く18歳になった誕生日、私は一生忘れることはないだろう。
牧くんはこれからもずっと私にとって必要な人だから。
「まなみ、誕生日おめでとう」
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