年度末
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「……私だって離れたくないです」
自分のそんな言葉に驚き、慌てて口を塞ぐ。
が、そんな事をしたって時すでに遅し。
私の目の前のデスクに座っている宮城さんをパソコンのモニター越しに見ると、今まで見たことの無いような顔をしている。
驚いているような、困ったような、喜んでいるような……
遡ること10分前ーーーー
「この課で最後の仕事がまなみちゃんと2人で残業なんて最高だな~」
「私もう帰りますよ」
「え?!マジ?!ひでぇやまなみちゃん」
私の目の前のデスクに顔を突っ伏すのは宮城リョータさん。私より2歳年上の先輩だ。
去年私がこの課に異動してきて1年間同じ課で働いている。
少し背は低めだけど、オシャレで今どきの風貌で、人懐っこくてみんなから可愛がられている先輩だ。
「てか、オレまだ動かないと思ったんだけどなぁ」
デスクに突っ伏したまま宮城さんは不貞腐れた声を出す。
数日前に内示が発表され、宮城さんの異動が決まったのだ。
「他の課でも必要にされてるって、それだけ期待されてるんじゃないですか?」
「……まなみちゃんが優しい!?え、なになに最後だから、みたいなのやめてよ!」
ガタッと宮城さんは勢いよく座っていた椅子から立ち上がった。
同じ課になってからやたらと私は宮城さんに可愛がられた。
毎日「可愛い」「綺麗」「飲みに行こう」の連呼だ。
もちろん私は相手にはしていない。
どうも本気に思えないし、振り回されたくもないからね。
……なんて思っていたのに、振り回されているのはどこの誰。
いつの頃からだろう、宮城さんの一言一言にドキドキしたりモヤモヤしたり。いくつになっても恋をするのに理由なんてない。ただ思うだけ。
『あなたが好き』
って。
「別に課が変わっても職場自体は変わらないじゃないですか」
「そうだけどさぁー…」
宮城さんは不満そうに椅子に座った。
「フロア変わるじゃん。離れたくねぇなぁまなみちゃんと」
「……私だって離れたくない」
ーーーそして今に至る。
しまったと思ってももう遅い。
そして宮城さんのこの表情は何を思っているのかもわからない。そんな宮城さんは私から目を背け、困ったような顔でポツリとこぼす。
「……マジで言ってる?…えぇ」
え、困ってる?!
困るってなに!!??散々人のこと振り回しといて?!?なんなの!!
…………ホントなんなの。
「ねぇまなみちゃん」
気が付くと目の前のデスクに宮城さんの姿はなかった。その変わり先程よりも宮城さんの声は近い。
いつの間にか私のデスクに手をついて、私の頭上から話しかけてきていた。
見上げるとその顔は真っ赤で口元を手でおさえている。
「そんなに可愛い事言われたら…マジでオレ困る」
「……え」
「まなみちゃん可愛すぎでしょ」
「……からかうのもいい加減にしてくだ」
「抱きしめていい?」
私の言葉に被さるように言ったそんな宮城さんの言葉に私は何も言えずに、ただただ顔が熱くなっていくのを感じた。
そして椅子に座ったままの私はフワリと宮城さんの腕の中に包まれる。
「いいって言ってないです!それに誰かに見られたら…」
「もうオレら以外ここ誰もいないよ」
バタバタと腕の中で子供のように暴れる私を宮城さんはギュッと強く抱きしめる。
「離れてオレのこと真剣に考えてって…言おうとしてた」
「真剣にって…」
「まなみちゃんさ、オレ本気じゃないと思ってたデショ」
……思ってましたよ。
思ってたというより本気じゃないって言い聞かせてたんだもん。本気にしたらバカを見るって。
私は後輩として可愛がってもらってるだけだって。
「だって…」
私はそっと宮城さんの胸を押した。
私たちの身体は離れる。
膝の上で私は握りこぶしを作り、それにギュッと強く力をいれた。
「ただ単に後輩として可愛がってくれてるだけだって…私なんかを本気で相手にするわけないって思ってたし……怖かったんですもん」
「怖い?」
「本気にされるわけないってわかってんのに…どんどん宮城さんの事好きになってくのが怖かった」
その時グイッと腕をつかまれ、一旦宮城さんから離れたはずの私の身体は再び彼の腕の中に包まれた。
今度は座ったままではなく立った状態で。
「だから困るんだって。そんな可愛い事言われると」
宮城さんはぎゅぅぅっと私を抱きしめる力を強くする。
「だっ、誰が可愛いって…」
「まなみちゃんしかいないデショ……って、え、ちょっと待って」
そう言うと宮城さんはスっと私から離れて、ズルズルとしゃがみこんだ。
「み、宮城さん…?」
「えぇ~、待って?まなみちゃんがオレの事好きって言った?」
宮城さんはしゃがみこんだまま頭を抱えている。
私は宮城さんと同じくその場にしゃがみこみ「あの…」と声をかけた。
顔をあげ、私と目が合う宮城さんの顔は真っ赤で茹でダコそのものだ。
「まなみちゃん…キスしていい?」
「いいって言わなくてもするんですよね?」
「よくわかってんね、オレのこと」
そう言って宮城さんは私にキスをした。
その時に囁いた言葉を私は一生忘れないだろう。
「オレは好きとかじゃなく愛してるから、まなみちゃんの事」
そんな出来事があった年度末ーーー。
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