隣
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お風呂からあがり濡れた髪の毛をタオルドライしながらリビングへ戻ると、かけっぱなしにしていたテレビからは毎週ノブくんと一緒に見ているバラエティ番組のオープニング映像が流れ始めていた。
「……もう11時過ぎてんじゃん」
ノブくんとは私と同い年の彼氏で、名前を清田信長くんと言います。そんな彼とは同棲をして1年を過ぎている。
仕事から帰ってきた18時過ぎ頃にノブくんからLINEが来た。
『遅くなるからメシいらない』
……誰かとご飯行くわけじゃないのかな?
いつも誰かとご飯行くならちゃんと言ってくるし…。仕事が忙しいのかもしれないしと思い、私は「了解」とだけ返信をした。
いつもノブくんは遅くても22時には家に帰ってきている。
もし飲みに行くのであればその飲みの席の写メが送られてくる。でも、上司との飲み会なのかもしれないし……。
なんだかソワソワとモヤモヤが心の中で行ったり来たりして色んなことを考えていると、玄関先からガチャ、と玄関ドアの鍵が開く音が聞こえた。
玄関までお迎えに行こうと、リビングのドアを開けようとしたその時、先にドアがあけられた。
険しい表情をしたノブくんに。
「あ…おか、えり……」
「おう」
ノブくんは私とは目を合わさず、そのままネクタイを緩めながら私の横を通り過ぎて行く。
ーーなんかあったな。
もうノブくんとは付き合って3年、元々ノブくんは表情豊かで楽しいこと、嫌なこと、何があったかとてもわかりやすい人だった。
けれど、こんなに辛そうな表情は久しぶりだった。
「……お腹すいてない?チャーハンぐらいならすぐ作れるよ?」
「いや、いらねぇわ。風呂入る」
バタン、とお風呂場のドアがしまる。
こりゃあ仕事でなんかあったな。私は洗面所に行きドライヤーで髪の毛を乾かしながら、ノブくんが入っているお風呂場のドアを見つめた。
こんな時はむやみやたらに「どうしたの?何があったの?」なんて聞いてはいけない。
かと言ってほっといて先に寝るなんてありえない。
こんな時は…………
実際何年一緒にいたって戸惑うばかり。
どうしたらいいんだと悩む自分に不甲斐なさを感じ、大きなため息まで出てくる。
彼の力になりたい。いつまでたってもこの想いは変わることのない、ゆるぎないものなんだ。
私はソファに体育座りをして、自分の膝をぎゅっと抱きしめた。
その時ノブくんがお風呂から上がり、私の隣へと腰をかけた。
部屋の中にはテレビから聞こえるバラエティ番組の司会者の声と芸人たちの笑い声だけが響いている。
部屋の主たちの声は一切聞こえない。
しばらくの沈黙の後にノブくんが小さく言った。
「なぁまなみ、ギュッてしていい?」
そんな事を聞いた私は思わず泣きそうになったけれど、それを必死にこらえた。そして返事もせず私はギュッとノブくんを抱きしめる。
「ちげーよ!逆だよ!!!」
ノブくんはそう言いながらも私の背中に腕をまわした。少しだけ笑いながら。
そんなノブくんに私にも思わず笑みがこぼれる。
なんて簡単な女なんだろう…って思っていると
「オレってこんな簡単だったかなぁ」
なんて声が聞こえてきて私は思わず顔を上げてノブくんを見る。そこには私から目を逸らし、少しだけ顔を赤くしたノブくんの顔。
決してお風呂あがりだから、という火照った顔の赤みでは無く明らかに”照れ”の赤だった。
「……見んなっ!!」
ノブくんは私の両頬をぶにっと挟んで、勢いよくキスをしてきた。
「あにふんの」
「何言ってっかわかんねーよ」
ノブくんは私の頬から手を離し、カッカッカッといつものように豪快に笑う。
「やっぱ腹減ったなー。チャーハン……食いてぇな」
「……手伝ってね?」
「へいへい」そう言って先にソファから立ち上がったノブくんは私に手を差し出し、私はその手を掴みソファから立ち上がる。そしてそのまま後ろ姿のノブくんの腰に抱きつきながらキッチンへと2人で歩き出す。
「歩きづれぇな、これ」
そんな言葉とは裏腹にノブくんはとても楽しそうに言う。自分のお腹で組まれている私の手を握りながら。
ノブくんは表情豊かで楽しいこと、嫌なこと、何があったかとてもわかりやすい人。
でも、それを1番近くで見れるのは私だけの特権。
今までも、これからもずっと隣で。
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