成人式
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一年前から選んだ振袖。
何冊も雑誌やインターネットを見て決めた髪型。
今日は一生に一度の大切な日。
成人式ーーー。
「おい、用意できたか?!」
「できたー!」
私がパタパタと洗面所から歩いてリビングへ行くと、私を見て目を丸くしている男がいる。
私は「どぉ?」と言いながらくるりと回ってみせた。
「タコにも衣装だな」
「……マゴだよ、バカ」
成人してまでこんなバカな事を言っている男は、清田信長。私の家の隣に住んでいた、いわゆる幼なじみというやつ。
信長はもう家を出ていた、大学生として。
私は社会人になったが、まだ実家に暮らしている。
そんな信長のスーツ姿に少しだけ昔のトキメキが蘇る。
同い年の男女の幼なじみ。
そんなのベタに好きになるよね?
私は物心ついたときから信長の事が好きだった。でもそれも中学生まで。
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「だから付き合ってないってば」
「ホントにぃ?まなみと清田って幼なじみなんでしょ?」
中学2年生、思春期真っ只中。
友達とこんな会話なんてしょっちゅうだ。
誰と誰が付き合い始めた、誰が誰に告白をした。みんな興味津々だもの。
この日も放課後の教室で友達数人とこんな感じで楽しく話をしていた。
私がよく友達に聞かれることーーー
『清田と付き合ってないの?』
信長とは小学生の頃から学校は同じだが、1度も同じクラスになった事はなかった。けれど、たまに一緒に登下校したり教科書の貸し借りなどもしていて、周りからよく誤解をされていた。
私は好きなんだけどね、信長のこと。
だから、いつも聞かれる度に正直切ない気持ちがある。
それがホントならどんなに幸せかって。
そんな気持ちをギュッと押し潰しながらいつも答えるんだ「違うよ」って。
「でもさ、清田って絶対まなみの事好きじゃない?!」
「わかる!!私も清田はまなみの事好きだと思う!」
……こんな事を言われるは実は初めてではない。周りにこうやってはやし立てられる。
だから、少しは期待しちゃうよね。
もしかしたら信長も私の事を好きなんじゃないかって。
でもそんな期待をしていた私がバカだった。
数日後ーーー
「は?今なんて言ったの…?」
「だーから!オレ彼女ができたって!同じクラスの美樹本!お前知らない?」
突然の爆弾だった。
朝、偶然家を出るのが一緒になった信長と登校中に落とされた爆弾。しかも本人から。
「か、のじょ……」
上手く声が出せない。足も動かせない。
「ん?どーした?まなみ」
ピタリと歩くのを止めた私に信長は不思議そうな顔で私を見てくる。
「……忘れ物したみたい。先、行ってて」
喉の奥から言葉を絞り出した私はそう言って、くるりと信長に背を向け歩き出す。
「バカだなー」なんて笑いながら言う信長の声を背に。
なんで?
どうして?
……違う。
そういうんじゃない。
バカみたい。恥ずかしい。
私はきっとどっかで図に乗ってたんだ。信長に1番近い存在の女の子は私だって。
きっともう少ししたら付き合えるって。
周りからの意見にいい気になってたんだ。
ーーほんっとに大バカ野郎だ。
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「……!まなみ!!」
私は大きな声でハッとする。
その大きな声の主は回想していた初恋の人だ。
信長は私の顔に近づき少しだけ怒ったような顔で覗き込んでくる。
中学2年生の信長から一気に20歳の信長の顔に私は少しドキリとした。
「なにボーッとしてんだよ。オレもう行くからな」
「あ…う、うん」
回想に浸っていると、いつの間にか式の会場に到着していた。会場までは信長のお父さんに車で送ってもらったのだ。
一緒に来たからと言って、共に行動する訳では無い。
お互い友達と待ち合わせているので、私たちは車から降りた場所で解散をした。
「まなみー!久しぶりー!!」
久々に会う友達との再会を喜び、式が行われる会場の外で撮影会が始まる。もちろん今でも頻繁に会う子もいるし、地元を離れてしまった子もいた。
みんなとあーだこーだと近況報告なんてしていると、私の視線の先に偶然信長の姿があった。
男女関係なく、大勢の人に囲まれて「カッカッカッ」と変わらない笑い声がここまで聞こえてくる。
「よーやく付き合い始めたんだね?清田と」
1人の友達がにしし、と笑いながら私に言ってきた。
「……は?!」
「だってさっき一緒にいたじゃない?やっと付き合い始めたんじゃないの?」
「付き合ってないよ。しかもやっとってなに…」
「えぇー?!違うんだ…残念」
友達はガックリと肩を落とす。
「だって小学生の頃からあんたらを見てきた私としてはさ、やっぱりお似合いなんだもん。清田とまなみは」
この子は小学生からの同級生で私とは高校まで一緒だった。それ故に私の恋愛事情は全て把握している。
「アレあったじゃん!!あんた達の4角関係!!」
友達は思い出したかのように大きな声で言う。……実際いま思い出したんだろうけど。
「あん時にまなみは清田とくっつくかなぁと思ったんだけどね」
「はいはい、期待に応えられなくてごめんね」
私は軽く友達の言葉を受け流したが、頭の中ではあの日のことが鮮明に思い出されなんとも言えない気持ちになっていた。
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高校1年生ーーー。
「……はい?」
「だから!オレはまなみが好きなんだよ!」
季節は冬。外では珍しく雪が降っている中、私の部屋には幼なじみの清田信長と私の2人きり。
ちょっと話があるとアポなしで信長は私の部屋へとやってきた。
こんな事は一年以上ぶりだ。信長に彼女ができてから私の部屋になんて来たことは1度もなかったのに。
いきなりどうしたんだろうと思ったら、突然の告白だった。
「いや…信長彼女いるよね?美樹本さんとまだ付き合ってたよね?」
「別れた!」
「えぇ?!……てか、私に彼氏いるのも知ってるよね?」
「知ってる!けど、オレはアイツよりお前のことが好きだぜ」
ーーなんでちょっとドヤ顔なの?
じゃなくて……
「なんで今さら…」
私は思わず思ってたことを口に出してしまった。
どうして、今、なのか。
「……お前と学校離れて気付いたんだよ。まなみがどんだけオレに必要だったか」
信長は今まで見たことの無いような真剣な顔で私の目を見て話す。
そんな事を言われて強く見つめられて、気持ちを揺さぶられないわけが無い。けれどーーー
「ごめん…私、彼氏いるから」
「………そっか、そうだよな!」
無理に笑顔を作って笑う信長に心が潰されそうだった。けど、私には夏から付き合っている彼氏がいる。中学の頃の同級生で、信長も知っている人だ。
そんな彼を裏切ることはできない。
自分にそう言い聞かせて信長に謝った。
そう……自分に言い聞かせたんだ。
私が今好きなのは信長じゃないーーって。
「時間とらせて悪かったな」
信長はそう言って立ち上がり、私の部屋のドアノブへと手を伸ばした。
「……これだけは覚えといてくんね?」
信長は私に背を向けたまま小さく話す。
「オレに必要なのは…きっとずっとお前だけだよ」
そうして私の部屋のドアはパタン…と小さく音を立て閉まった。
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「あったあった!そんなこと!」
「けっこう噂になったよね!」
「そうそう!まなみが清田を奪ったとかね」
「そんときの清田の彼女誰だっけ?」
「えーとね…確か、あー!そうそう!
美樹本さっ……んぐっ」
私は慌てて大きな声を出した友達の口を手で塞いだ。
理由はひとつしかない。本人がこの場所にいるからだ。
式が終わり、今は中学の同窓会が行われている居酒屋に来ている。
クラス関係なく、学年の同窓会だ。
そのため今話した思い出話の登場人物は全員この個室の中にいる。
いくら少し離れたテーブルの場所にいるとはいえ、さすがに今の話を当事者に聞こえたらまずい。私たちみんなは人差し指を口元へ持っていき、「シーーっ」とジェスチャーした。
「なんで清田にいかなかったの?その時」
1人の友達がぐびぐびとグラスに入っているお酒を飲みながら、先程よりも少し小さめの声で聞いてきた。
すると、周りの友達も目をランランと輝かせ私へと視線を集中させる。
「な、なんでって…彼氏いたし……」
「その彼氏は俺のことかな?」
上からの声でその場にいた全員が顔をあげた。
視線の先には1人の男性。
信長をフッた時に付き合っていた元彼だ。そして彼はそのまま空いている私の隣へと座った。
「久しぶり。今働いてんだろ?」
「うん。そっちは?」
「俺も社会人」
そんな他愛もない会話をしていると私はふと気づいた。周りの友達が変な気を効かせ、なんとなく私たちの会話には入ってこないことに。
……余計な事を。
この彼とは結局高2の夏頃に別れた。
別に信長が原因ではないけれど…なんとなく一緒にいる気になれなくなってしまったのだ。
そしていつも私の心の奥底には信長の言葉があった。
『オレに必要なのはお前』
私たちはどこで間違えたんだろう?
……いや、間違えなのかどうかすらもわからない。結局お互いの気持ちがすれ違って今に至っているのが正しい道なのかもしれない。
「…ちょっとトイレ」
私はそう言ってカバンを持ち、席を立った。
個室を出る前にチラリと向こう側にいる信長を見ると、美樹本さんと隣同士に座り話をしている。
チクリと小さな痛みを心に感じながら私は個室のふすまを開け、廊下へ出た。
「はぁ…」
なんとなく出てきた小さなため息に軽く苦笑いを浮かべ、私はトイレから出て店の個室へと戻ろうとした。
ここの居酒屋はビルの中にあり、トイレへ行くには店から一旦出なければならない。
暖房がきいていない寒い廊下を早歩きで進み出したその時、目の前に現れたのは先程の元彼だった。
「あれ、トイレ?」
「待ってた」
「……私を?」
「そっ」
彼は私に近づき、手に持っているものを私へ差し出した。
それは私が今日着てきたコートだった。
「ぬけよーぜ」
よくある話だ。
付き合っていた男女が同窓会で再会して、2人で抜け出すーー。
けれどそんなことが自分の身に降りかかるなんて思ってもみなかった。そのため、私はもちろん戸惑った。
「え…いや、えー??!!」
いま私には彼氏はいないし、この人の事が大嫌いになって別れた訳では無い。だからこのまま2人で抜けたって別にいいのだ。
けれど、2人で抜けるということはそれなりに何かあるかもしれない……もう子供じゃないんだ、それぐらい分かる。
チラつくのは1人の男の顔。
久々に会って、昔のこと思い出して、今日1日その人のことばかり考えている。
そう、向こうから歩いてやってくる私の幼なじみ。
清田信長。
「…なにこのタイミング」
私はそう言って苦笑いを浮かべるしかなかった。
「タイミング、じゃねーよ」
信長はつかつかと近づき、元彼がもっている私のコートを奪った。そしてそのコートを私に渡し、グッと、軽い痛みを感じるほどに強く私の手首をつかんで歩き出した。
チラリと後ろを振り向くと、口をあけてマヌケな顔をしている元彼が1人で佇んでいた…。
「ちょっと、信長…どこ行くの?」
辺りは華やかな飲食店街から離れ、静かな住宅街へと変わっていた。
いつの間にか手首ではなく、私は信長と手を繋ぎながら歩いている。
かれこれ10分以上黙って歩く信長にいい加減我慢ができなくなり、私は問いかけたが返事はない。
すると、目の前に小さな公園が出てきて信長は公園へと足を踏み入れた。そしてピタリと歩くのをやめた。
「……だからやだったんだよ、お前と会うの」
私に背を向けながらボソッと信長は言った。
聞こえるか聞こえないかぐらいの声だったけど、ハッキリとわかった。
私に会いたくなかったーーと。
「あー、もう!どうすりゃいいんだよ!」
信長は頭をガシガシとかきながら、私へと振り返った。
「…ようやくお前への気持ちに踏ん切りつけたと思ってたのに」
「え…踏ん切りって」
「オレやっぱり忘れらんねーよ、まなみの事」
真っ直ぐに私の目を見て話す信長は、あの日の時のようだった。
私の事を好きだと言った日と。
「それって……」
「……好きだよ。アイツなんかより、お前の事がずっと好きだ」
なによ、なんで今さら。
あの時と同じ言葉がが頭の中に浮かぶ。
けどーーー
私はぎゅっと信長に抱きつく。
「え?!おい!!」と慌てる信長なんて気にもせず、ぎゅっと。
「好き」
「え?!」
「私も信長が好き」
信長は抱きついている私の肩を押し、「本当か?!」と私に必死になって聞いてくる。
それがおかしくて、私はクスクスと笑いがこみ上げる。
「本当だよ…だって私は小さい頃か」
私の思いの丈は信長のキスによって遮られた。
……言わせてよね、最後まで。
なんて思いながらも、私たちは何度もキスをする。
今までの想いをぶつけるかのように。
ゆっくりと信長の顔が離れると、信長はキュッと私の手を両手で握った。
そしてもう一度あの真剣な表情で私を見つめる。
「まなみ」
「はい…」
「オレと結婚してください!」
「うん…………って、は?!結婚?!」
イキナリのプロポーズに私の頭はパニックになり、可愛くない大声を出してしまう。
「さすがに今すぐじゃねーけどさ…」
信長は照れたように唇を尖らせて言う。
そして軽く私にキスをした後、ニカッと笑いながらこう言った。
「オレに必要なのはまなみだけなんだよ、ずっとな!」
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