邪恋
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それから私たちは付き合いたての若いカップルのように、お互いを求め合った。
時間が合えば私の家で一緒に過ごす、そんな日々だった。
「家では敬語やめないか?」
「ダメです。そーゆー事すると会社でポロッと出ちゃうじゃないですか」
私たちは徹底した。
この関係は絶対に誰にもバレてはいけない。
正直に言うと、私は別にバレてもいい。
けれど、花形さんは絶対にダメ。
花形さんの人生を壊したくないから。
あなたの人生を奪うことはできない。
2人で会うのは基本的に私の家。花形さんの家は絶対にダメ。
いくら東京とはいえ奥さんが合鍵を持っている以上、いつ来るかわからない。
可能性が0ではないから。
外で会うのは2人の行きつけの飲み屋だけ。
それならもし誰かに見られても「偶然会った」で済ます事ができるから。
「……なら、名前で呼ぶこともダメなのか?」
私の家でリビングのソファに座りながら、花形さんは食器洗いをしている私に話しかけてくる。
「ダメに決まってます!どーするんですか、会社で間違えて呼んじゃったら!」
「そうか……」
……そのでかい図体でしょんぼりするのやめてください。可愛すぎます。
キュンとしちゃうじゃないですか。
「た、たまになら…」
「いいのか?」
「……私も呼ばれたいし」
食器洗いを終えた私は花形さんの隣へと腰をおろす。
その瞬間、フワリと頬に暖かな温もりを感じた。
その正体は花形さんの大きな手。
「まなみ…」
そしてそっと重なり合う唇。
「あまり可愛いことを言わないでくれないか」
そのまま花形さんは私をゆっくりと優しく押し倒した。
「……ダメなんですか?」
私は自分の手を花形さんの首の後へと回す。
「……ダメじゃないな、困ったことに」
私たちは笑い合いながらキスをして、そのまま愛し合った。
「幸せです…」
ポツリと言った私の言葉にあなたは言ったよね。
「オレも幸せだよ」
わかってる。
『幸せだよ』そう動く唇は嘘だってこと。
それでも抱き合い眠る。
気付いたら季節は冬になっていた。
どうやら今年は雪が少なくなりそうとの事で、札幌で積雪がこれだけ少ないのは40年振りらしい。
けれど、雪が少ないと余計に寒さを感じるのは北海道特有なんだろうな…。
街中にはイルミネーションが輝き、クリスマスソングが至る所で鳴り響いている。
今日はクリスマスイブ。
そんな日に残業する私を哀れな目で見ながら帰っていく同僚たち。
覚えてろよ。
ーーなんて冗談だけど、別に残業になろうがなかろうがどっちでもよかった。
花形さんとは約束もしていないし。
……なんだかクリスマスの話はできなかったんだ。
私たちは恋人同士と言っていいのかもわからない、曖昧な関係なのだから。
「さて…そろそろ帰るかな」
仕事がひと段落し、椅子に座ったままグイッと腕を天井へ向けて伸ばす。
「あれ、まだいたのか」
私しかいないフロアに聞きなれた声が響いた。
ドキドキと自分の鼓動が一気に早くなるのがわかる。
「花形さん…どうして?」
「会議が長引いたんだよ」
そう言いながら花形さんは私のデスクに手を乗せ、パソコンを覗いた。
「もう終わったのか?」
「……はい」
「それなら付き合ってくれないか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わ、綺麗……」
私と花形さんがやって来たのは大通公園。今時期はホワイトイルミネーションが行われているのだ。
青、紫、黄色とキラキラと光り輝く電飾に思わずため息が漏れる。
「毎年やってるんだろ?これ」
「そうですね…けど」
けどーー
『今年が1番綺麗です』
私はその言葉を飲み込んだ。
きっと花形さんには意味がわかってしまうから。
そんな恥ずかしいこと言えない……と思っていたのに。
「なんだか、佐藤と見ると余計に綺麗に見える気がするな」
私が言えなかった、そんな小っ恥ずかしい事でもサラッと言ってしまう花形さん。
恥ずかしがってた自分が逆に恥ずかしくなってしまう。
私は寒空の下で、頭から湯気が出ないか心配になってしまった。
「あれー?!まなみさんと…花形さん?!?!」
しまったーーー。
声をかけてきたのは職場の後輩だった。
私は何を浮かれていたんだろう。
こんな人目がある場所に2人で来て…目撃されたっておかしくない。
「やだー、2人でデートですか?」
後輩はにやにやしながら、私と花形さんの肩をバシバシと交互に叩く。
「あぁ、こっちにいる間に見ておきたくてな。一人で寂しいクリスマスだから佐藤に付き合ってもらったんだ」
花形さんは顔色ひとつ変えず、笑いながら答える。
「奥さんにチクってやろー!んじゃ、また明日会社で!」
後輩はそう言って楽しそうに一緒に来ている彼氏と手を繋ぎ、この場を去っていった。
「……全然本気にしてないですねアレ」
「そうだな」
日頃の行いがいいのか、私たちは1ミリも疑われることは無かった。
どちらかというと《花形さんが不倫なんてするわけがない》という事なんだろうけれど。
私は拍子抜けしてしまった。
「なぁ、佐藤」
「なんですか?」
イルミネーション会場を離れ、私たちは駅までの道を歩いている。
「この後……」
花形さんは言いかけて何かに気付き、言葉を止めた。
そしてポケットへと手を入れ、スマホを取り出す。
「すまない」
ひとこと私にそう告げて、花形さんは少しだけその場を離れた。
そしてスマホを耳にあて「もしもし」と話し始めているようだった。
奥さんだーーー。
私は花形さんに背を向け、その場に立ち尽くす。
その時、頬に冷たい何かを感じた。
ーー雪だ。
空を見上げるとチラチラと雪が降り始めていた。
「……涙かと思った」
頬に感じた冷たいモノが雪だとわかり、バカみたいだけれど少しだけ安心して苦笑いをする。
雪なんて珍しくもないのに、むしろ当たり前の事なのに私は手のひらを広げ空へと向けた。
雪はひらひらと手のひらに落ち、一瞬で消えてしまう。
私の中の色んな想いも消えてしまえばいいのに。
今の2人の想いも消えてしまえばいいのに。
そうしたら少しは楽になれる?
けど、ごめんなさい。
もう少しだけ…もう少しだけこの想いのまま一緒にいさせてください。
「すまなかった」
花形さんは足早に私の元へと戻ってきた。
そして私たちは地下鉄へと乗り込む。
少し混雑している電車の中、2駅分しか乗らない私たちはドア付近で立った。
「さっきの話の続きなんだが、、」
花形さんはひとつ咳払いをして話をし始めた。
私はギュッと花形さんのコートの裾をつかむ。
「花形さん……この後、うちに来てくれますか?」
私よりかなり背の高い花形さんを見上げると、一瞬目を丸くした後に優しく微笑んだ。
「それを言おうとしていた」
コンビニだけど、ケーキとチキン、スパークリングワインを買って並んで家まで歩く。
どこにでもいる恋人同士たちのようなクリスマス。
違うのは家までの道のりで手を繋げないこと。
彼の左手薬指には指輪があって、私にはないこと。
ーーーあなたは私だけのモノではないということ。
「……たいしたものではないが」
ケーキを食べ終えた頃そう言って、花形さんはラッピングされた小さな細長い箱を私に差し出してきた。
まさかーー。
私はしばらくその箱から目が離せずに、何も言えなかった。
「何か言ってくれないか」
照れくさそうに苦笑いをする花形さん。
花形さんの言葉にハッとしてあわてて「これ…」と小さく呟いた。
「迷惑だったらすまない……一応クリスマスプレゼント、という物だな」
「あけてもいいですか?」
「あぁ」
細長い小さな箱の中に入っていたのは万年筆だった。
「前にオレが持っていたのを見て『素敵』と言っていただろ」
それは以前に花形さんが職場で使っていたものだった。
周りの職員からは「今どき万年筆使う人なんてホントにいるんだ…」なんて言われていたっけ。
「ありがとう…ございます」
お礼を言った私に花形さんは頬に手を寄せ、そっと優しくキスをした。
……言えないなぁ。
ホントは万年筆を持つ花形さんの手が綺麗で思わず『素敵』と声が漏れたなんて。
けれど、素直に嬉しかった。
私の言葉を覚えていてくれて、私のために選んでくれたプレゼント。
嬉しくないわけがない。
「あの、私からも」
私はおずおずと包装された包みを花形さんへと差し出す。
渡せなくてもいいやと、半ば諦めモードで買ったクリスマスプレゼントだった。
「用意してくれていたのか……あけてもいいか?」
「はい」
花形さんは丁寧に包装を剥がしていく。
「マフラーか」
私が用意したものはマフラー。
「首元が寒いな」
いつかの花形さんの言葉だ。
それを思い出して買ったものだった。
私たちはお互いからもらったものを手に持ちながら、顔をほころばせた。
「あれー?花形さんそんなマフラーしてました?」
幸せなクリスマスイブを過ごした次の日、後輩の女の子が出社してきた花形さんのマフラーに気付き声をあげた。
「奥さんからのクリスマスプレゼントですよね?」
私はコートを脱ぎながらサラリと流れるように嘘を言った。
それにたいし花形さんも「あぁ」と肯定をする。
本当は私が花形さんにプレゼントしたもの、そんな事は私たち2人だけが知っている秘密でいい。
私たちが同じ時間に出社してきても、誰も咎める人はいない。
誰も疑う人はいない。
「わざわざ送ってきたんですか?!奥さん超素敵じゃないですかぁぁ!で!?花形さんは何を送ったんですか?!」
「いや…それが何も送ってなくてな」
ははは、と花形さんは苦笑いをした。
それが本当なのか嘘なのか私にはわからなかったけれど、少しだけ嬉しくて、ホッとした。
もちろん花形さんの事だ、私に気を使っての嘘かもしれない。
それでも嬉しかったんだ。
時間が合えば私の家で一緒に過ごす、そんな日々だった。
「家では敬語やめないか?」
「ダメです。そーゆー事すると会社でポロッと出ちゃうじゃないですか」
私たちは徹底した。
この関係は絶対に誰にもバレてはいけない。
正直に言うと、私は別にバレてもいい。
けれど、花形さんは絶対にダメ。
花形さんの人生を壊したくないから。
あなたの人生を奪うことはできない。
2人で会うのは基本的に私の家。花形さんの家は絶対にダメ。
いくら東京とはいえ奥さんが合鍵を持っている以上、いつ来るかわからない。
可能性が0ではないから。
外で会うのは2人の行きつけの飲み屋だけ。
それならもし誰かに見られても「偶然会った」で済ます事ができるから。
「……なら、名前で呼ぶこともダメなのか?」
私の家でリビングのソファに座りながら、花形さんは食器洗いをしている私に話しかけてくる。
「ダメに決まってます!どーするんですか、会社で間違えて呼んじゃったら!」
「そうか……」
……そのでかい図体でしょんぼりするのやめてください。可愛すぎます。
キュンとしちゃうじゃないですか。
「た、たまになら…」
「いいのか?」
「……私も呼ばれたいし」
食器洗いを終えた私は花形さんの隣へと腰をおろす。
その瞬間、フワリと頬に暖かな温もりを感じた。
その正体は花形さんの大きな手。
「まなみ…」
そしてそっと重なり合う唇。
「あまり可愛いことを言わないでくれないか」
そのまま花形さんは私をゆっくりと優しく押し倒した。
「……ダメなんですか?」
私は自分の手を花形さんの首の後へと回す。
「……ダメじゃないな、困ったことに」
私たちは笑い合いながらキスをして、そのまま愛し合った。
「幸せです…」
ポツリと言った私の言葉にあなたは言ったよね。
「オレも幸せだよ」
わかってる。
『幸せだよ』そう動く唇は嘘だってこと。
それでも抱き合い眠る。
気付いたら季節は冬になっていた。
どうやら今年は雪が少なくなりそうとの事で、札幌で積雪がこれだけ少ないのは40年振りらしい。
けれど、雪が少ないと余計に寒さを感じるのは北海道特有なんだろうな…。
街中にはイルミネーションが輝き、クリスマスソングが至る所で鳴り響いている。
今日はクリスマスイブ。
そんな日に残業する私を哀れな目で見ながら帰っていく同僚たち。
覚えてろよ。
ーーなんて冗談だけど、別に残業になろうがなかろうがどっちでもよかった。
花形さんとは約束もしていないし。
……なんだかクリスマスの話はできなかったんだ。
私たちは恋人同士と言っていいのかもわからない、曖昧な関係なのだから。
「さて…そろそろ帰るかな」
仕事がひと段落し、椅子に座ったままグイッと腕を天井へ向けて伸ばす。
「あれ、まだいたのか」
私しかいないフロアに聞きなれた声が響いた。
ドキドキと自分の鼓動が一気に早くなるのがわかる。
「花形さん…どうして?」
「会議が長引いたんだよ」
そう言いながら花形さんは私のデスクに手を乗せ、パソコンを覗いた。
「もう終わったのか?」
「……はい」
「それなら付き合ってくれないか?」
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「わ、綺麗……」
私と花形さんがやって来たのは大通公園。今時期はホワイトイルミネーションが行われているのだ。
青、紫、黄色とキラキラと光り輝く電飾に思わずため息が漏れる。
「毎年やってるんだろ?これ」
「そうですね…けど」
けどーー
『今年が1番綺麗です』
私はその言葉を飲み込んだ。
きっと花形さんには意味がわかってしまうから。
そんな恥ずかしいこと言えない……と思っていたのに。
「なんだか、佐藤と見ると余計に綺麗に見える気がするな」
私が言えなかった、そんな小っ恥ずかしい事でもサラッと言ってしまう花形さん。
恥ずかしがってた自分が逆に恥ずかしくなってしまう。
私は寒空の下で、頭から湯気が出ないか心配になってしまった。
「あれー?!まなみさんと…花形さん?!?!」
しまったーーー。
声をかけてきたのは職場の後輩だった。
私は何を浮かれていたんだろう。
こんな人目がある場所に2人で来て…目撃されたっておかしくない。
「やだー、2人でデートですか?」
後輩はにやにやしながら、私と花形さんの肩をバシバシと交互に叩く。
「あぁ、こっちにいる間に見ておきたくてな。一人で寂しいクリスマスだから佐藤に付き合ってもらったんだ」
花形さんは顔色ひとつ変えず、笑いながら答える。
「奥さんにチクってやろー!んじゃ、また明日会社で!」
後輩はそう言って楽しそうに一緒に来ている彼氏と手を繋ぎ、この場を去っていった。
「……全然本気にしてないですねアレ」
「そうだな」
日頃の行いがいいのか、私たちは1ミリも疑われることは無かった。
どちらかというと《花形さんが不倫なんてするわけがない》という事なんだろうけれど。
私は拍子抜けしてしまった。
「なぁ、佐藤」
「なんですか?」
イルミネーション会場を離れ、私たちは駅までの道を歩いている。
「この後……」
花形さんは言いかけて何かに気付き、言葉を止めた。
そしてポケットへと手を入れ、スマホを取り出す。
「すまない」
ひとこと私にそう告げて、花形さんは少しだけその場を離れた。
そしてスマホを耳にあて「もしもし」と話し始めているようだった。
奥さんだーーー。
私は花形さんに背を向け、その場に立ち尽くす。
その時、頬に冷たい何かを感じた。
ーー雪だ。
空を見上げるとチラチラと雪が降り始めていた。
「……涙かと思った」
頬に感じた冷たいモノが雪だとわかり、バカみたいだけれど少しだけ安心して苦笑いをする。
雪なんて珍しくもないのに、むしろ当たり前の事なのに私は手のひらを広げ空へと向けた。
雪はひらひらと手のひらに落ち、一瞬で消えてしまう。
私の中の色んな想いも消えてしまえばいいのに。
今の2人の想いも消えてしまえばいいのに。
そうしたら少しは楽になれる?
けど、ごめんなさい。
もう少しだけ…もう少しだけこの想いのまま一緒にいさせてください。
「すまなかった」
花形さんは足早に私の元へと戻ってきた。
そして私たちは地下鉄へと乗り込む。
少し混雑している電車の中、2駅分しか乗らない私たちはドア付近で立った。
「さっきの話の続きなんだが、、」
花形さんはひとつ咳払いをして話をし始めた。
私はギュッと花形さんのコートの裾をつかむ。
「花形さん……この後、うちに来てくれますか?」
私よりかなり背の高い花形さんを見上げると、一瞬目を丸くした後に優しく微笑んだ。
「それを言おうとしていた」
コンビニだけど、ケーキとチキン、スパークリングワインを買って並んで家まで歩く。
どこにでもいる恋人同士たちのようなクリスマス。
違うのは家までの道のりで手を繋げないこと。
彼の左手薬指には指輪があって、私にはないこと。
ーーーあなたは私だけのモノではないということ。
「……たいしたものではないが」
ケーキを食べ終えた頃そう言って、花形さんはラッピングされた小さな細長い箱を私に差し出してきた。
まさかーー。
私はしばらくその箱から目が離せずに、何も言えなかった。
「何か言ってくれないか」
照れくさそうに苦笑いをする花形さん。
花形さんの言葉にハッとしてあわてて「これ…」と小さく呟いた。
「迷惑だったらすまない……一応クリスマスプレゼント、という物だな」
「あけてもいいですか?」
「あぁ」
細長い小さな箱の中に入っていたのは万年筆だった。
「前にオレが持っていたのを見て『素敵』と言っていただろ」
それは以前に花形さんが職場で使っていたものだった。
周りの職員からは「今どき万年筆使う人なんてホントにいるんだ…」なんて言われていたっけ。
「ありがとう…ございます」
お礼を言った私に花形さんは頬に手を寄せ、そっと優しくキスをした。
……言えないなぁ。
ホントは万年筆を持つ花形さんの手が綺麗で思わず『素敵』と声が漏れたなんて。
けれど、素直に嬉しかった。
私の言葉を覚えていてくれて、私のために選んでくれたプレゼント。
嬉しくないわけがない。
「あの、私からも」
私はおずおずと包装された包みを花形さんへと差し出す。
渡せなくてもいいやと、半ば諦めモードで買ったクリスマスプレゼントだった。
「用意してくれていたのか……あけてもいいか?」
「はい」
花形さんは丁寧に包装を剥がしていく。
「マフラーか」
私が用意したものはマフラー。
「首元が寒いな」
いつかの花形さんの言葉だ。
それを思い出して買ったものだった。
私たちはお互いからもらったものを手に持ちながら、顔をほころばせた。
「あれー?花形さんそんなマフラーしてました?」
幸せなクリスマスイブを過ごした次の日、後輩の女の子が出社してきた花形さんのマフラーに気付き声をあげた。
「奥さんからのクリスマスプレゼントですよね?」
私はコートを脱ぎながらサラリと流れるように嘘を言った。
それにたいし花形さんも「あぁ」と肯定をする。
本当は私が花形さんにプレゼントしたもの、そんな事は私たち2人だけが知っている秘密でいい。
私たちが同じ時間に出社してきても、誰も咎める人はいない。
誰も疑う人はいない。
「わざわざ送ってきたんですか?!奥さん超素敵じゃないですかぁぁ!で!?花形さんは何を送ったんですか?!」
「いや…それが何も送ってなくてな」
ははは、と花形さんは苦笑いをした。
それが本当なのか嘘なのか私にはわからなかったけれど、少しだけ嬉しくて、ホッとした。
もちろん花形さんの事だ、私に気を使っての嘘かもしれない。
それでも嬉しかったんだ。