一転
空欄の場合は「まなみ」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うーみーはひろいーなーおーきぃーなぁ」
時刻はただ今、朝の5時。
1人で海に来た私は砂浜に体育座りをして、
大きな声で歌う。
夏休みの海とはいえさすがにこの時間はそんなに人もいない。
サーフィンをしている人は多数いるが、サーファーに知り合いなんていないし、と再び大きな声で歌い出す…が、涙がポロポロ出てきて歌えなくなった。
昨日半年付き合った彼氏にふられた。
私は自分の膝に頭を付けて泣く。
「佐藤?」
頭の上から声がして驚いて顔を上げると
背の高い色黒の男の人がサーフボードをかかえて立っていた。
「牧…」
声をかけてきたのは、クラスメイトの牧だった。
牧はバスケ部キャプテンで、ついこの間の
全国大会では全国2位という素晴らしい成績をおさめたと、友人から聞いていた。
「海からお前の姿が見えてな。」
「よく気づいたね」
「まぁな…泣いているのか?」
私は慌てて涙をふくが、時すでに遅し。
おそらく目も鼻も真っ赤になっているに違いない。
そもそもこんな時間に1人で海に来ている時点でちょっとヤバい女だよね。
「朝の海は気持ちいいよな。泣けるぐらい」
牧はそう言って私の隣に座る。
何も聞いてこない牧の優しさに私はまたポロポロと涙が出てきた。
「重いんだって…私…」
ぐずぐずと鼻水をすすりながら私は牧にふられた事を事細かに話していた。
牧はあまり話さず「うん」とか「そうか」と頷いてくれていた。
「ぐすっ…重いって…なんだよう…」
すると牧は少しだけ考え込んで
「それだけ好きだったって事だろ?」
私の目を見て真剣な顔で言ってきた。
そんな事言われたら…言われたら…
「わーーーーん!!!」
私は牧の胸にドンっ!と頭をつけて子供みたいに大声で泣いた。
そんな私を牧は抱きしめるわけでもなく、
頭を撫でてくれるわけでもなく、抵抗もせずただ黙っていた。
「落ち着いたか?」
「うん…ありがとう」
しばらく泣き続けた私はようやく落ち着きを取り戻した。
と、同時に恥ずかしくなる。
牧とは特別に仲がいいわけでは無かった。
もちろんクラスメイトだから、話した事は何度かあるけれど、バスケ部のスターである牧は別世界の人だった。
そんな人に泣きじゃくるなんて…。
「しかし、お前をふるなんてもったいないことをするな」
牧は立ち上がりながらそう言った。
そんな発言に少しだけ私の心臓はドキリとする。
「俺ならお前を泣かせはしないけどな」
ーーーえ?!
それってそういう意味でとらえていいの?
え、あの牧が?!
私は驚きのあまりスッカリ涙が止まった。
そして何も言えない。
「俺がなぜお前に気付いたか、ここまで言ったらわかるだろ?」
私は座ったまま牧を見上げている。
きっとマヌケな顔をしていたんだろうな。
「なんて顔をしているんだ」牧はそう言って再び海へと歩いて行こうとした。
「牧!!!」
思わず私は大きな声で牧を呼び止める。
牧は立ち止まり、私へと振り返った。
「どうした?」
「み…見ててもいい?」
すると牧は私の頭をポンと軽くたたき
「ゆっくり見てるといい」
優しく笑い、そう言って海へ入っていった。
なんであんな事言ったんだろ。
見てていい?なんて。
そんな疑問を自分に投げかけても、答えは
わかってるはず。
でもまだ認めたくないから…
なんて自分は単純なんだと私は頭を抱えた。
けど、そんな事何も考えたくない。
ーーーただ、今だけは彼を見ていよう。
1/1ページ