切望
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「なんだよ、2人してカンケーないとか言いやがって……」
ブツブツと部活の練習前に独り言を言うリョータ。
「なにブツブツ言ってんの?」
そんなリョータに気付いたヤスが近づいてくる。
「今日帰りまなみちゃんとこ行かない?ラーメン」
『まなみ』という名前にピクリと反応したのはリョータだけではなかった。
「いいな、俺も行く」
近くにいた三井がリョータとヤスの会話の中へと入ってくる。
「……っ!俺は行かねぇ!」
そう言ってリョータは2人から離れていった。
明らかに面白くなさそうに、イライラしながら。
「どうしたんですかね?リョータ」
「さぁな」
三井は困ったような顔で笑い、リョータは不貞腐れる。
そんな2人を不思議そうにヤスは見ていた。
夏休み初日、私はバイト。
それでいい。
バイトしまくってリョータの事なんて考えないようにするんだ!!
一週間後のリョータの誕生日の事なんて忘れるぐらい、働きまくってやる!!
「いらっしゃいませー……あ」
「よお」
店に入ってきたのは三井さんだった。
「部活帰りですか?」
カウンターに座った三井さんへお水を運ぶ。
「あぁ、お前今日何時上がり?」
「えっと、あと30分ぐらいですね」
「なら、送ってく」
「え…でも」
「いーから」
私はそれ以上は何も言えなかった。
そしてラーメンを食べてる三井さんを厨房から眺める。
まだ会って間もないけど、悪い人では無いことはわかった。
ぶっきらぼうだけど、優しいところもある。
「あんだよ、見んな。食いづれぇよ」
三井さんは私に見られている事に気付き、少しだけ照れくさそうにして悪態をつく。
そんな三井さんに私の顔は緩んだ。
「いよいよ来週からインターハイですね」
「お前見にこねーの?」
「……さすがに広島までは」
バイトが終わり、家までの道を歩く。
三井さんと並んで。
ホントは広島まで行こうと思えば行ける。
なぜなら、私の両親がリョータの両親と共に応援に行くからだ。
何度も「ホントに行かないの?」とお母さんに聞かれた。
「バイトだから」と私は断っていた。
バイトなのは本当だけれど、休もうと思えばいくらでも休める…。
「……宮城じゃなくて、俺の応援に来いよ」
三井さんは歩きながらキュッと私の手を握ってきた。
「……そうしようかな」
私はそう言って三井さんの手を握り返した。
一瞬三井さんはこちらを見て驚いた顔をしたけれど、キュッと再び力を入れて私の手を握った。
「……うち寄ります?」
「いいんだな?」
「はい」
そんなやり取りをして、三井さんを家へと招く。
偶然にも今日親は共に帰ってくるのが遅くなるため、家の中は誰もいない。
トントンと階段を登り、私の部屋へと向かう。
その間も私達は手を繋いでいる。
部屋に入ると三井さんは私の部屋の窓へと目を向ける。
窓の先には、灯りがついてるリョータの部屋の窓が見える。
カーテンは閉まっているが、窓は開いていた。
「暑いから開けるぞ?」
そう言って三井さんは私の部屋の窓を開ける。
するとリョータの部屋のテレビ音がうっすらと聞こえてきた。
「けっこう音聞こえんのな」
「そう……ですね」
きっと三井さんは向かいの部屋がリョータの部屋だってわかっている。
けれどあえて聞かないのは三井さんの優しさなのか、それともーーー。
そんな事を考えているといつの間にか私は三井さんの腕の中にいた。
「み、三井さ…」
「まなみ、好きだ……」
2人の顔は近づき一瞬だけ唇が触れて、思わず私は三井さんの胸を押して身体を離してしまった。
ーーまずい。
「ご、ごめんなさい…」
すると三井さんは「やっぱりな」と言って、私を抱きしめている手を離した。
そして何を思ったのか、手で私の口を塞ぐ。
「別にキスぐらいいいじゃねぇか」
「?!んー?!んんーー?!」
三井さんは大きな声で話し出す。
いきなり何言うの?!
私は口を塞がれているため言葉を発することはできない。
三井さんの手をどかそうとするが、力でかなうわけもない。
「今日親いねぇんだろ?」
「んんーー?!?!」
ちょっと何言ってんの?!三井さんは!!
「キスだけじゃとまんねーな」
三井さん誰に向かって言ってんの?
そんな大っきい声で言ったら外に聞こえ……
もしかしてーーー?!
その時ピンポーンと、家のインターホンが鳴り響いた。
「まなみ!!おい!!!三井サン!!開けろよ!!」
ドンドンと鍵がかかっている玄関ドアを叩く音と、何度も鳴るインターホンの音が家に響き渡る。
「きたきた」
三井さんは私の口から手をどかし、部屋から出ていき階段を降りて行った。
私はその場から動けずにいる。
ガチャ、と玄関ドアの開く音と共にリョータが怒鳴り込んでくる音が聞こえた。
「三井サン!あんたまなみに何してんだよ!!!!」
やばい!
咄嗟にそう思った私は慌てて階段を降り、玄関へと向かう。
案の定リョータは三井さんの胸ぐらを掴んでいた。
「待って!!!リョータ!!」
私は2人の間に割って入った。
それでもリョータは三井さんの胸ぐらを離そうとはしない。
そっと私はリョータの手の上に自分の手を乗せた。
「離して」
私の言葉を聞いて、リョータはしぶしぶ三井さんから手を離す。
「インターハイ前に怪我させられたら、たまったもんじゃねーから俺帰るわ」
三井さんはヒラヒラと手を振りながら私の家を出た。
私とリョータは黙って閉まるドアを見ていた。
どうして……。
リョータの顔を見ようとした時、私の視界は真っ暗になる。
「……」
リョータは黙って私を抱きしめた。
私はこのありえない出来事にそのまま動けない。
するとリョータは小さく話し出した。
「三井サンと付き合うとか…やめてよ…」
やめてって…。
なにそれ。
「……リョータこそやめてよ!そうやって私を振り回すの」
私はリョータから離れようとしたが、再び力強く抱きしめられる。
私の心もぎゅっと締め付けられる。
「ちょっと、なんでこーゆー事すんの?!」
思わず声を張る。
どういうつもりでこんな事をするのか…。
今のこの状況に頭がついていかない。
「わかんねぇよ!」
「は?!」
「……離れてくなよ」
「え…」
「やなんだよ!こうやってどんどんまなみが俺から離れてくのが」
「何言って…」
リョータの心臓の音が聞こえる。
私に負けず劣らず大きな音をたてている。
「……私の事好きなの?」
「?!」
リョータは少しだけ身体をビクつかせた。
私はその隙にリョータから少しだけ身体を離し、顔を覗く。
すると真っ赤な顔のリョータ。
私はもう一度聞く。
「私の事好きなの?」
「……っ!」
「言ってよ」
「待って!!!待って!!!」
リョータは下を向きながら、私の顔の前に手のひらをむけ、『ストップ』とジェスチャーをする。
「ふぅ」と一息ついたリョータは意を決したように私の顔を見たが、一気に驚きの表情へと変化した。
「え?!まなみ泣いてんの?!」
私は泣いていた。
しかもボロボロに。
泣かないわけないじゃない。
涙が出ないわけないじゃない。
そんな私を見てリョータはそっと指で私の涙を拭う。
その指は優しく、壊れ物を扱うかのように。
「好きだよ。俺、まなみが好きだ」
「……っ、遅い!私がどれだけっ……どれだけリョータの事っ……」
私はリョータの胸に自分の拳をぶつける。
そしてリョータの背中に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「好き……大好き」
リョータの胸の中に顔を埋める。
「あぁ、もう!なんでそんな可愛いんだよ!」
可愛い?!
リョータが私の事を可愛いって言った?!
驚いた私はリョータの胸から顔をあげたー、と同時にキスをされる。
「好きだよ」
そう言ってリョータはもう一度私にキスをする。
何度も、何度も。
ドキドキし過ぎて、心臓が壊れてしまいそうだった。
そして、幸せすぎる幸福感でこのまま溶けてしまいそうでもあった。
「ねぇ?」
「ん?」
抱き合ったままリョータは私に問いかける。
「ホントになんもされてない?三井サンに」
「えっ…」
「…その反応、なんかされたな?」
ジッと私の目を見るリョータ。
そっと視線を逸らす私。
なんでこーゆー時は鋭いのかなぁ…。
ずっと私の気持ちには気づかなかったくせに。
「あぁー!!やっぱりなんかされたな?!なにされたの?!?!」
「ききききキスだけ!しかもホントに一瞬ふれるだ……んっ」
私はリョータから深い口付けをお見舞いされる。
呼吸が苦しくなるほどの口付けを。
「っはぁ…」
ようやく解放された私は大きく息を吸い込んだ。
「くそっ!三井サンめ……ま、でも俺はそれ以上の事これからたくさんするし」
リョータは少し不貞腐れた後にニヤリとする。
それ以上ーーー。
私は言わずとも顔が熱くなっていくのがわかった。
リョータはそっと私の頬に両手を寄せる。
やさしく包み込むように。
「たくさんしような?」
低く、優しい声に私は何もかも許してしまいそうだった。
再び私達はそっと目を閉じ、顔を近づける。
と、その時
「ただいまー!」
玄関ドアが開き、家に入ってきたのは私の両親だった。
慌てて私はリョータから離れる。
と言ってももう遅い。
「やだー!あんた達やっとくっついたのー?!」
「「や、やっと?!」」
お母さんの言葉に私とリョータは声を揃えた。
「お母さんようやく安心できるわー。まなみ変な男の人ばっか連れてくるんだもーん」
……お母さん?
言わなくていい事言ったよね今。
「変な男ばっか……って?」
そう。
リョータは私に彼氏がいたことは知らないのだ。
ジロリとリョータは私の目を見てくる。
「リョータのせいじゃん!!」
「俺?!」
「だってリョータは私の事なんとも思ってなくて、だからリョータの事忘れようとして…」
「……そーゆーことかよ」
リョータは私の手を両手で握る。
「ごめんな、気付くの遅くて」
「ホントだよ…」
「はい、そこまで!!!」
パン!っとお母さんが手を叩いた。
「さすがにお父さんショック受けてるっぽいからさー、イチャつくのは2人になってからにしてもらえる?」
「「?!?!」」
そっとお母さんの後ろにいるお父さんへと目をやると、、、
呆然として黙ったままだ。
「お、おじさん!俺、ちゃんとまなみの事大事にすっから!!!」
お父さんの肩をばしばしと叩くリョータ。
その手をパシッと掴み、お父さんは一言だけ言った。
「あたりまえだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いらっしゃいませー!」
私は今日もバイトに励む。
今日とてもは繁盛している。
なぜなら……
「じゃじゃーん!俺の可愛い可愛い彼女でーす!お前ら手ぇ出すなよ!!」
湘北バスケ部勢揃いなのだ。
前回来ていなかったキャプテンと副キャプテンまで来ている。
なんなの、このお披露目会。
ザワザワと物珍しそうに私を見てるいる部員達。
ヤスくんは「よかったね」と笑ってくれた。
カウンターの席からリョータは私の隣に並び、みんなに紹介している。
「おめーアヤコはどーしたんだよ」
ムスッとした顔で三井さんはリョータに問い詰める。
「アヤちゃん?アヤちゃんは超可愛いよ」
「店長、ありったけのネギもらえます?」
私はくるっと後ろを向き、スタスタと厨房へ入る。
「まなみ!!違う!違う!違う!」
リョータは慌てて厨房まで追いかけてくる。
「俺が死ぬまでそばにいたいと思うのは、まなみだけだから!」
……そ、そんな恥ずかしいことみんなの前で言わなくても。
私は恥ずかしくなり、恐らく真っ赤であろう自分の顔を両手で覆う。
「くそ!!リョーちん!俺より先に大人になるなよ!!」
「うははは!わりぃな!花道!!」
「つか、まなみに彼氏できた事わかってたらもっと早くくっついたんじゃねぇの?」
カウンターに肘をつき半分呆れ顔で三井さんは言う。
三井さんの言う通りなのかなぁ。
あれ、もしかしてーー。
「三井さんその役を買ってでてくれたんですか?」
私は三井さんに聞く。
「はぁ?!んなわけねぇだろ!俺はいつでも奪う気満々だぜ?」
私に向かってニヤッと笑う三井さんに顔がボッと赤くなる。
「ダメだって!!ダメダメ!!!三井サンあんた何言ってんの?!で、まなみもなんで顔赤らめてんの!!!」
リョータは横から私に抱きつき三井さんを牽制した。
「ちょっと、仕事中だから」
私はペシペシとリョータの腕を叩く。
周りからは「はぁ~~」と、ため息が聞こえた。
……呆れたようなため息がね。
「いよいよ来週からインターハイだね」
「おう!もちろん来てくれんだよね?」
バイト帰り、私はリョータと手を繋ぎながら歩いている。
こんな日が来るなんて思ってもいなかった。
未だに夢見心地だ。
「うん!行くよ、応援!なんか久々だからドキドキしちゃうな」
1年ぶりぐらいの応援に私は熱が入る。
「あー、でもリョータの誕生日は当日にお祝い出来ないね……」
インターハイの緒戦は8月2日で、リョータの誕生日である7月31日にバスケ部は、開催地である広島へ出発するが、私たち家族は8月1日に広島へと出発する。
なので、当日はお互い別々の所にいるのだ。
少し寂しいけど、仕方ないよなぁ…。
「前もってお祝いしよっか!何欲しい?」
「そんなもん1つに決まってんじゃん」
「え?なに?」
リョータは軽く私の頬にチュッとキスをした。
「まなみ」
「え?!」
「俺が欲しいのはまなみだけだよ」
「なっ、何言ってんのー」
私は途端に照れくさくなり、繋いでいる手を離し、バシバシとリョータの肩を叩いたが……
その手を掴まれ、リョータは立ち止まる。
「いや…まじで」
リョータの少し赤みが増したその顔は真剣そのものだった。
「……そんなの、誕生日じゃなくたって……」
私はハッと、自分の発言に慌てて手で口を塞ぐが、もう遅い。
「え?!まじ?!いいの?!」
「ちが!!……いや、違くはないけど!」
私はそのまま早足で進んでいく。
「おい、まなみ待ってよ!!」
それを後から追いかけてくるリョータ。
そしてパシッと私の手首を掴む。
「はい、つかまえたー!このまま俺んちね!」
「……離さないでよ」
私はキュッとリョータの腕に絡みつく。
「離さねぇよ、絶対」
これからもずっと離れることはない。
誰よりもいちばん近くにいさせてね。
大好きなキミの近くに。
ブツブツと部活の練習前に独り言を言うリョータ。
「なにブツブツ言ってんの?」
そんなリョータに気付いたヤスが近づいてくる。
「今日帰りまなみちゃんとこ行かない?ラーメン」
『まなみ』という名前にピクリと反応したのはリョータだけではなかった。
「いいな、俺も行く」
近くにいた三井がリョータとヤスの会話の中へと入ってくる。
「……っ!俺は行かねぇ!」
そう言ってリョータは2人から離れていった。
明らかに面白くなさそうに、イライラしながら。
「どうしたんですかね?リョータ」
「さぁな」
三井は困ったような顔で笑い、リョータは不貞腐れる。
そんな2人を不思議そうにヤスは見ていた。
夏休み初日、私はバイト。
それでいい。
バイトしまくってリョータの事なんて考えないようにするんだ!!
一週間後のリョータの誕生日の事なんて忘れるぐらい、働きまくってやる!!
「いらっしゃいませー……あ」
「よお」
店に入ってきたのは三井さんだった。
「部活帰りですか?」
カウンターに座った三井さんへお水を運ぶ。
「あぁ、お前今日何時上がり?」
「えっと、あと30分ぐらいですね」
「なら、送ってく」
「え…でも」
「いーから」
私はそれ以上は何も言えなかった。
そしてラーメンを食べてる三井さんを厨房から眺める。
まだ会って間もないけど、悪い人では無いことはわかった。
ぶっきらぼうだけど、優しいところもある。
「あんだよ、見んな。食いづれぇよ」
三井さんは私に見られている事に気付き、少しだけ照れくさそうにして悪態をつく。
そんな三井さんに私の顔は緩んだ。
「いよいよ来週からインターハイですね」
「お前見にこねーの?」
「……さすがに広島までは」
バイトが終わり、家までの道を歩く。
三井さんと並んで。
ホントは広島まで行こうと思えば行ける。
なぜなら、私の両親がリョータの両親と共に応援に行くからだ。
何度も「ホントに行かないの?」とお母さんに聞かれた。
「バイトだから」と私は断っていた。
バイトなのは本当だけれど、休もうと思えばいくらでも休める…。
「……宮城じゃなくて、俺の応援に来いよ」
三井さんは歩きながらキュッと私の手を握ってきた。
「……そうしようかな」
私はそう言って三井さんの手を握り返した。
一瞬三井さんはこちらを見て驚いた顔をしたけれど、キュッと再び力を入れて私の手を握った。
「……うち寄ります?」
「いいんだな?」
「はい」
そんなやり取りをして、三井さんを家へと招く。
偶然にも今日親は共に帰ってくるのが遅くなるため、家の中は誰もいない。
トントンと階段を登り、私の部屋へと向かう。
その間も私達は手を繋いでいる。
部屋に入ると三井さんは私の部屋の窓へと目を向ける。
窓の先には、灯りがついてるリョータの部屋の窓が見える。
カーテンは閉まっているが、窓は開いていた。
「暑いから開けるぞ?」
そう言って三井さんは私の部屋の窓を開ける。
するとリョータの部屋のテレビ音がうっすらと聞こえてきた。
「けっこう音聞こえんのな」
「そう……ですね」
きっと三井さんは向かいの部屋がリョータの部屋だってわかっている。
けれどあえて聞かないのは三井さんの優しさなのか、それともーーー。
そんな事を考えているといつの間にか私は三井さんの腕の中にいた。
「み、三井さ…」
「まなみ、好きだ……」
2人の顔は近づき一瞬だけ唇が触れて、思わず私は三井さんの胸を押して身体を離してしまった。
ーーまずい。
「ご、ごめんなさい…」
すると三井さんは「やっぱりな」と言って、私を抱きしめている手を離した。
そして何を思ったのか、手で私の口を塞ぐ。
「別にキスぐらいいいじゃねぇか」
「?!んー?!んんーー?!」
三井さんは大きな声で話し出す。
いきなり何言うの?!
私は口を塞がれているため言葉を発することはできない。
三井さんの手をどかそうとするが、力でかなうわけもない。
「今日親いねぇんだろ?」
「んんーー?!?!」
ちょっと何言ってんの?!三井さんは!!
「キスだけじゃとまんねーな」
三井さん誰に向かって言ってんの?
そんな大っきい声で言ったら外に聞こえ……
もしかしてーーー?!
その時ピンポーンと、家のインターホンが鳴り響いた。
「まなみ!!おい!!!三井サン!!開けろよ!!」
ドンドンと鍵がかかっている玄関ドアを叩く音と、何度も鳴るインターホンの音が家に響き渡る。
「きたきた」
三井さんは私の口から手をどかし、部屋から出ていき階段を降りて行った。
私はその場から動けずにいる。
ガチャ、と玄関ドアの開く音と共にリョータが怒鳴り込んでくる音が聞こえた。
「三井サン!あんたまなみに何してんだよ!!!!」
やばい!
咄嗟にそう思った私は慌てて階段を降り、玄関へと向かう。
案の定リョータは三井さんの胸ぐらを掴んでいた。
「待って!!!リョータ!!」
私は2人の間に割って入った。
それでもリョータは三井さんの胸ぐらを離そうとはしない。
そっと私はリョータの手の上に自分の手を乗せた。
「離して」
私の言葉を聞いて、リョータはしぶしぶ三井さんから手を離す。
「インターハイ前に怪我させられたら、たまったもんじゃねーから俺帰るわ」
三井さんはヒラヒラと手を振りながら私の家を出た。
私とリョータは黙って閉まるドアを見ていた。
どうして……。
リョータの顔を見ようとした時、私の視界は真っ暗になる。
「……」
リョータは黙って私を抱きしめた。
私はこのありえない出来事にそのまま動けない。
するとリョータは小さく話し出した。
「三井サンと付き合うとか…やめてよ…」
やめてって…。
なにそれ。
「……リョータこそやめてよ!そうやって私を振り回すの」
私はリョータから離れようとしたが、再び力強く抱きしめられる。
私の心もぎゅっと締め付けられる。
「ちょっと、なんでこーゆー事すんの?!」
思わず声を張る。
どういうつもりでこんな事をするのか…。
今のこの状況に頭がついていかない。
「わかんねぇよ!」
「は?!」
「……離れてくなよ」
「え…」
「やなんだよ!こうやってどんどんまなみが俺から離れてくのが」
「何言って…」
リョータの心臓の音が聞こえる。
私に負けず劣らず大きな音をたてている。
「……私の事好きなの?」
「?!」
リョータは少しだけ身体をビクつかせた。
私はその隙にリョータから少しだけ身体を離し、顔を覗く。
すると真っ赤な顔のリョータ。
私はもう一度聞く。
「私の事好きなの?」
「……っ!」
「言ってよ」
「待って!!!待って!!!」
リョータは下を向きながら、私の顔の前に手のひらをむけ、『ストップ』とジェスチャーをする。
「ふぅ」と一息ついたリョータは意を決したように私の顔を見たが、一気に驚きの表情へと変化した。
「え?!まなみ泣いてんの?!」
私は泣いていた。
しかもボロボロに。
泣かないわけないじゃない。
涙が出ないわけないじゃない。
そんな私を見てリョータはそっと指で私の涙を拭う。
その指は優しく、壊れ物を扱うかのように。
「好きだよ。俺、まなみが好きだ」
「……っ、遅い!私がどれだけっ……どれだけリョータの事っ……」
私はリョータの胸に自分の拳をぶつける。
そしてリョータの背中に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「好き……大好き」
リョータの胸の中に顔を埋める。
「あぁ、もう!なんでそんな可愛いんだよ!」
可愛い?!
リョータが私の事を可愛いって言った?!
驚いた私はリョータの胸から顔をあげたー、と同時にキスをされる。
「好きだよ」
そう言ってリョータはもう一度私にキスをする。
何度も、何度も。
ドキドキし過ぎて、心臓が壊れてしまいそうだった。
そして、幸せすぎる幸福感でこのまま溶けてしまいそうでもあった。
「ねぇ?」
「ん?」
抱き合ったままリョータは私に問いかける。
「ホントになんもされてない?三井サンに」
「えっ…」
「…その反応、なんかされたな?」
ジッと私の目を見るリョータ。
そっと視線を逸らす私。
なんでこーゆー時は鋭いのかなぁ…。
ずっと私の気持ちには気づかなかったくせに。
「あぁー!!やっぱりなんかされたな?!なにされたの?!?!」
「ききききキスだけ!しかもホントに一瞬ふれるだ……んっ」
私はリョータから深い口付けをお見舞いされる。
呼吸が苦しくなるほどの口付けを。
「っはぁ…」
ようやく解放された私は大きく息を吸い込んだ。
「くそっ!三井サンめ……ま、でも俺はそれ以上の事これからたくさんするし」
リョータは少し不貞腐れた後にニヤリとする。
それ以上ーーー。
私は言わずとも顔が熱くなっていくのがわかった。
リョータはそっと私の頬に両手を寄せる。
やさしく包み込むように。
「たくさんしような?」
低く、優しい声に私は何もかも許してしまいそうだった。
再び私達はそっと目を閉じ、顔を近づける。
と、その時
「ただいまー!」
玄関ドアが開き、家に入ってきたのは私の両親だった。
慌てて私はリョータから離れる。
と言ってももう遅い。
「やだー!あんた達やっとくっついたのー?!」
「「や、やっと?!」」
お母さんの言葉に私とリョータは声を揃えた。
「お母さんようやく安心できるわー。まなみ変な男の人ばっか連れてくるんだもーん」
……お母さん?
言わなくていい事言ったよね今。
「変な男ばっか……って?」
そう。
リョータは私に彼氏がいたことは知らないのだ。
ジロリとリョータは私の目を見てくる。
「リョータのせいじゃん!!」
「俺?!」
「だってリョータは私の事なんとも思ってなくて、だからリョータの事忘れようとして…」
「……そーゆーことかよ」
リョータは私の手を両手で握る。
「ごめんな、気付くの遅くて」
「ホントだよ…」
「はい、そこまで!!!」
パン!っとお母さんが手を叩いた。
「さすがにお父さんショック受けてるっぽいからさー、イチャつくのは2人になってからにしてもらえる?」
「「?!?!」」
そっとお母さんの後ろにいるお父さんへと目をやると、、、
呆然として黙ったままだ。
「お、おじさん!俺、ちゃんとまなみの事大事にすっから!!!」
お父さんの肩をばしばしと叩くリョータ。
その手をパシッと掴み、お父さんは一言だけ言った。
「あたりまえだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いらっしゃいませー!」
私は今日もバイトに励む。
今日とてもは繁盛している。
なぜなら……
「じゃじゃーん!俺の可愛い可愛い彼女でーす!お前ら手ぇ出すなよ!!」
湘北バスケ部勢揃いなのだ。
前回来ていなかったキャプテンと副キャプテンまで来ている。
なんなの、このお披露目会。
ザワザワと物珍しそうに私を見てるいる部員達。
ヤスくんは「よかったね」と笑ってくれた。
カウンターの席からリョータは私の隣に並び、みんなに紹介している。
「おめーアヤコはどーしたんだよ」
ムスッとした顔で三井さんはリョータに問い詰める。
「アヤちゃん?アヤちゃんは超可愛いよ」
「店長、ありったけのネギもらえます?」
私はくるっと後ろを向き、スタスタと厨房へ入る。
「まなみ!!違う!違う!違う!」
リョータは慌てて厨房まで追いかけてくる。
「俺が死ぬまでそばにいたいと思うのは、まなみだけだから!」
……そ、そんな恥ずかしいことみんなの前で言わなくても。
私は恥ずかしくなり、恐らく真っ赤であろう自分の顔を両手で覆う。
「くそ!!リョーちん!俺より先に大人になるなよ!!」
「うははは!わりぃな!花道!!」
「つか、まなみに彼氏できた事わかってたらもっと早くくっついたんじゃねぇの?」
カウンターに肘をつき半分呆れ顔で三井さんは言う。
三井さんの言う通りなのかなぁ。
あれ、もしかしてーー。
「三井さんその役を買ってでてくれたんですか?」
私は三井さんに聞く。
「はぁ?!んなわけねぇだろ!俺はいつでも奪う気満々だぜ?」
私に向かってニヤッと笑う三井さんに顔がボッと赤くなる。
「ダメだって!!ダメダメ!!!三井サンあんた何言ってんの?!で、まなみもなんで顔赤らめてんの!!!」
リョータは横から私に抱きつき三井さんを牽制した。
「ちょっと、仕事中だから」
私はペシペシとリョータの腕を叩く。
周りからは「はぁ~~」と、ため息が聞こえた。
……呆れたようなため息がね。
「いよいよ来週からインターハイだね」
「おう!もちろん来てくれんだよね?」
バイト帰り、私はリョータと手を繋ぎながら歩いている。
こんな日が来るなんて思ってもいなかった。
未だに夢見心地だ。
「うん!行くよ、応援!なんか久々だからドキドキしちゃうな」
1年ぶりぐらいの応援に私は熱が入る。
「あー、でもリョータの誕生日は当日にお祝い出来ないね……」
インターハイの緒戦は8月2日で、リョータの誕生日である7月31日にバスケ部は、開催地である広島へ出発するが、私たち家族は8月1日に広島へと出発する。
なので、当日はお互い別々の所にいるのだ。
少し寂しいけど、仕方ないよなぁ…。
「前もってお祝いしよっか!何欲しい?」
「そんなもん1つに決まってんじゃん」
「え?なに?」
リョータは軽く私の頬にチュッとキスをした。
「まなみ」
「え?!」
「俺が欲しいのはまなみだけだよ」
「なっ、何言ってんのー」
私は途端に照れくさくなり、繋いでいる手を離し、バシバシとリョータの肩を叩いたが……
その手を掴まれ、リョータは立ち止まる。
「いや…まじで」
リョータの少し赤みが増したその顔は真剣そのものだった。
「……そんなの、誕生日じゃなくたって……」
私はハッと、自分の発言に慌てて手で口を塞ぐが、もう遅い。
「え?!まじ?!いいの?!」
「ちが!!……いや、違くはないけど!」
私はそのまま早足で進んでいく。
「おい、まなみ待ってよ!!」
それを後から追いかけてくるリョータ。
そしてパシッと私の手首を掴む。
「はい、つかまえたー!このまま俺んちね!」
「……離さないでよ」
私はキュッとリョータの腕に絡みつく。
「離さねぇよ、絶対」
これからもずっと離れることはない。
誰よりもいちばん近くにいさせてね。
大好きなキミの近くに。
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