罪 (パターン2)
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それからは日常が戻ってきた。
仕事へ行き、会える時には三井さんに会う日々。
だが、少し変わった事もある。
「あー…まなみ」
「ん?」
「その…好き、だぜ」
「ありがとう…私も好きだよ」
照れくさそうに言う三井さんを私は微笑ましく眺める。
いわゆる『愛の言葉』というヤツを口に出すようになった。
そしてもう一つはーー。
『たまには店おいでよー』
『そのうち行きまーす!』
そんなタケルさんとのLINEの画面を見つめる。
そう、カイザーへ行かなくなったのだ。
もちろん理由は一つ、リョータくんに会わないため。
最後の電話から3ヶ月たった。
三井さんからの愛情も今ではちゃんと感じているし、たまに喧嘩もするが幸せに過ごしている。
けれど、リョータくんには会いたくなかった。
会うとまた揺らいでしまう。
そう自分でわかっていたから。
心の奥底にリョータくんがいるのもわかっているから。
このまま時間が解決してくれる、、、
そう思っていた。
「あれーー?!まなみちゃん!!」
休日に買い物をしようと街に出ていた私は声をかけられる。
声をかけてきたのは、高校の頃からの友人のひろみちゃんだった。
学校は違うが、お互い彼氏がバスケ部という繋がりで仲良くなった。
大人になった今でも友達付き合いは続いていたが、お互い忙しく会ったのは半年ぶりだった。
それから私達は久々にゆっくりお茶でもしようということになり、近くのカフェへ入った。
「いやぁ、久しぶりだねぇ!」
「ね!元気だった?」
「うんうん!三井さんは?」
もちろん私と三井さんが付き合っていることも知っているひろみちゃん。
「あー…うん、元気だよ」
「……なんかあった?いや!言いたくないのなら無理にとは!!!」
ひろみちゃんは両手を顔の前でぶんぶんと振る。
「あはは、大丈夫だよ!あのね…」
私はここ半年の出来事を話した。
「…そっかぁ。色々あったんだねぇ」
「あ、でももう解決してるからさ」
「そうなの?まなみちゃんそんな顔してないよ?」
「えっ…」
「あのさあのさ!」
「ん?」
「今日私に会ったことどちらに言いたい?!三井さんと、宮城くん!」
「えっ?!なにイキナリ?!」
「深く考えちゃダメよ!2人とも付き合ってないとしてさ、どっちに言いたい?」
「……っ」
「まなみちゃんがどっちに言いたいかはわかんないけどさ、それが答えなんじゃないかなぁ?」
「答え…」
「だって好きな人には何気ない日常でも、お話したいじゃん?…ってまなみちゃん?!」
気づけば私はポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
『まなみ』
真っ先に浮かんだのは三井さんだった。
今まで考えもしなかった。
何気ない日常がどれほど大切なものなのかということを。
ひろみちゃんと会ったことを三井さんに話したらどんな反応をするか、、、
そんなのだいたいわかる。想像がつく。
けれど、それがどれだけ愛おしい事なのか。
私はそんな気持ちを忘れていたのだ。
「ご、ごめんひろみちゃん!私もう行くね」
「うん!また連絡するね!」
私は急いで自分の車に乗りこみ、エンジンをかける。
向かう先はただひとつ。
三井さんが練習をしている体育館だった。
私が体育館の駐車場につき、車から降りるとちょうど三井さんのチームメイトがゾロゾロと体育館から出てきた。
もちろんその中に三井さんの姿もあった。
三井さんに向かって私は走り出す。
「あ?どーしたお前…って、おい!」
私はガバッと勢いよく三井さんに抱きつく。
「おいおい、愛しの彼女のお出迎えかよ」
「にしても熱烈すぎんだろー」
周りにいたチームメイトから冷やかしの声があがる。
「っせぇよ!お前ら!」
『シッシッ』と手を振る三井さん。
「…まなみどうしたんだ?」
三井さんはゆっくりと自分の身体から私を離そうとするが、私は更にぎゅっと強く三井さんを抱きしめる。
「お、おい…ホントにーー」
「好き…」
「あ?」
「三井さんが好き」
ぎゅぅぅぅっと三井さんを抱きしめる。
「はぁ…あのなぁ…」
三井さんは1つ溜息をつき、バリッと私の身体を無理やり自分からはがし、私にキスをした。
「んな事知ってるっつーの」
「おーい三井ー!お前明日1人ダッシュ追加なー!!!」
「っざけんなよ!」
少し離れて見ていたチームメイト達の笑い声が駐車場に響く。
それから私たちは私の車で三井さんの家へと向かった。
「…なにも聞かないんだね」
「あ?」
「だって…」
私は運転をしながらしどろもどろになる。
「あー、お前が聞いて欲しいなら、いくらでも聞くぜ」
「三井さん…」
「あっ!だけど」
「だけど?」
「ようやっと戻ってきたって感じだな」
「?」
私は頭にハテナを浮かべた。それに三井さんも気づいたようだ。
「まなみが戻ってきたな、俺のところに」
赤信号で車が止まった隙に三井さんは私の頭へと手を持っていき、自分へ引き寄せキスをした。
「だから、早く家帰って愛し合おうぜ?」
ニヤリと笑う三井さんに私は後ろの車からクラクションを鳴らされるまで、信号が青になった事に気付かなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「久々だねぇまなみちゃん」
「ね!もういつぶりかわかんないぐらい!」
久々に私は1人でカイザーに来ていた。
時刻は夜中の1時過ぎ。
周りの客も1人また1人と帰り、私だけになっていた。
「まなみちゃんの愚痴が聞けなくて寂しかったよー」
「あはは!しばらくは大丈夫そうかな」
「……うまくいってんだね?三井さんと」
ホッとしたような優しい眼差しでタケルさんは私を見る。
タケルさん、心配してくれてたんだろうな……。
「うん、お陰様で」
「じゃあしばらくはまたノンアルコールだね」
「さすがタケルさん!よくわかってる!」
ガチャ
「タケルー、まだ大丈夫?」
店のドアが開き、1人の男性が顔を覗かせた。
「…リョータくん」
顔を覗かせたのはリョータくんだった。
「…まなみちゃん」
「いーよ!入んなよ」
「いや…でも…」
「入んなよ」
私はおいでおいでと手招きをする。
私の席から一つあけて、イスに座るリョータくん。
「さーて、俺はお客さんから歌ってって言われてた歌練習させてもらうかなー」
そう言ってカラオケを入れるタケルさん。
私もリョータくんもそんな彼の気遣いに気付いていた。
「どぶねーずみ、みたいにー」
「リンダリンダかよ…」
「あはは、わざわざうるさい曲にしたのかな」
「あ…のさ」
「ごめ、リョータくん。声聞こえない」
スっとリョータくんは私の隣のイスへと移動する。
「…てゆーか、偉そうに入んなよ、とか言っちゃったけど…嫌だったら私が帰るからね」
「ははは、嫌なわけねーじゃん」
リョータくんの変わらない笑顔を見て、少しだけ心臓が跳ねる。
だけど、あの時とは違う。
私の心にはもう揺るがないものがあるから。
「まなみちゃんさ、俺の事好きだった?」
「……教えない」
「あーあ!三井サンには適わなかったかー!!!」
天井に向かって叫ぶリョータくんに私はクスクスと笑う。
「…彼女は?元気?」
「元気だよ」
「そっか」
「まなみちゃん」
「ん?」
「次もし俺に連絡してきたら、どんな手を使ってでもまなみちゃんの事モノにするからね」
「ふふ、怖いから連絡しないね」
「ちぇ、まーた振られたよ」
「あ、私もう行くね」
携帯を見て、私は何枚かの1000円札をカウンターへ置き、席を立つ。
「三井サン?」
「うん。飲んでるからお迎え行かなきゃ」
「そっか」
「リョータくん」
「ん?」
「好き、だったよ。リョータくんの事……すごく」
そう言って私は手を振り、店を出た。
「あーーーもう!ずりぃなぁ!」
カウンターへ突っ伏すリョータ。
「朝まで付き合うよ」
歌い終わったタケルはリョータのグラスに自分のグラスを軽くぶつける。
「どーせ、どんな手を使っても俺は三井サンにゃ、適わねーんだよ」
「あはは、そらしゃーねぇわ」
「んだよ、ちょっとは否定しろよ」
「だってそんな事リョータが1番よくわかってんだろ?」
「…くそっ!」
グイッと酒を飲み干すリョータ。
「まっ、俺は世界で1番まなみちゃんが好きだったよ」
「だった?」
「こーでも言わねぇと踏ん切りつかねぇだろ!」
「あははは!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おう!お迎えごくろう!」
「ご機嫌かよ」
私が迎えに行くと、三井さんはすっかり酔っ払って上機嫌だった。
三井さんを助手席に乗せ、2人が一緒に住み始めた家へと車を走らせる。
「あ、三井さん」
「んーー」
三井さんは窓の方を向き、すでに眠りにつきそうだった。
が、次の私の一言で眠気も酔いも一気に覚めることになる。
「さっきカイザーでリョータくんに会った」
「?!?!?!」
ガバッと姿勢を正しくして、運転席の私の方へと体を向ける。
「あ、よかった。酔い覚めたね」
「は、話したのか?!」
「少しね」
「少しって…」
「リンダリンダ1曲分?」
「はぁ?」
三井さんは訳が分からないと言う顔をしている。
「三井さんには適わなかったって言ってたよ」
「たりめーじゃねぇか、アイツはわかってねぇんだよ」
三井さんは再び窓へと視線をむける。
「何が?」
「俺がどんだけまなみを好きか」
「?!?!」
「お、おい!前見ろ!!」
三井さんのイキナリの発言に慌てた私は蛇行運転をしてしまった。
「あぶねぇなぁ…ってなんでお前が驚くんだよ」
「いや…だって」
三井さんの口からそんな言葉が出てくるなんて驚くでしょ……。
「言ったじゃねぇか。どこにもやんねぇって」
恥ずかしそうにそのまま窓の外を見る三井さん。
私はそんな三井さんがおかしく、可愛く、愛おしく思うのだった。
「あーーー!もう!今でいいか!」
「は?何が?」
三井さんは後ろの席に置いてあった自分のカバンからガソゴソと何かを取り出す。
私は運転中のため、それを見ることができない。
すると三井さんはハンドルを握っている私の左手を掴んだ。
慌ててハンドルから離していた右手でハンドルを握る。
「え、ちょ、なに?!危な……」
三井さんの手から解放された私の左手にはキラリと光るもの。
左手薬指に光るもの。
それは紛れもない、指輪だった。
「…え、えっ?!」
「今日仕上がったから、ホントはもうちょい気の利いた場所で……」
チラっと運転席を見る三井さんは、目に大粒の涙を浮かべている私に気付く。
「おま、おいっ!」
「運転できないじゃーん!!!」
ボロボロと私は涙を流す。
「なら返せ!!」
「なっ、バカじゃないの?!」
私たちはこんな時ですら言い争いをしながら、どうにかこうにか家に着いた。
「で?」
私はリビングのソファに座り、隣にいる三井さんへと詰め寄る。
「あ?」
「あ?じゃなくて!」
私はスっと指輪がある自分の左手を三井さんに見せつけた。
「あ~…だから、だな」
「……」
「あれだ、その……」
「……」
「言わなくてもわかんだろ!」
「……ちょっとカイザー行ってくる」
私は立ち上がり三井さんに背を向ける。
「だぁー!!待て待て待て!」
慌てて後ろから私を抱きしめる三井さん。
「……結婚、しようぜ」
私はくるりと三井さんへ向き直し、そっと自らキスをした。
「喜んで」
恋とか愛とか、形が変わらない物はないのかもしれない。
良くも悪くもずっと同じものはないのかもしれない。
けれど、2人で歩んでいくのなら大丈夫。
2人らしく生きていけばそれでいい。
始まりは幼い恋心だった、大人になるにつれその気持ちは忘れてしまうだろう。
けれど、その時の気持ちは本物で今に繋がっている事だけは忘れないでおこう。
仕事へ行き、会える時には三井さんに会う日々。
だが、少し変わった事もある。
「あー…まなみ」
「ん?」
「その…好き、だぜ」
「ありがとう…私も好きだよ」
照れくさそうに言う三井さんを私は微笑ましく眺める。
いわゆる『愛の言葉』というヤツを口に出すようになった。
そしてもう一つはーー。
『たまには店おいでよー』
『そのうち行きまーす!』
そんなタケルさんとのLINEの画面を見つめる。
そう、カイザーへ行かなくなったのだ。
もちろん理由は一つ、リョータくんに会わないため。
最後の電話から3ヶ月たった。
三井さんからの愛情も今ではちゃんと感じているし、たまに喧嘩もするが幸せに過ごしている。
けれど、リョータくんには会いたくなかった。
会うとまた揺らいでしまう。
そう自分でわかっていたから。
心の奥底にリョータくんがいるのもわかっているから。
このまま時間が解決してくれる、、、
そう思っていた。
「あれーー?!まなみちゃん!!」
休日に買い物をしようと街に出ていた私は声をかけられる。
声をかけてきたのは、高校の頃からの友人のひろみちゃんだった。
学校は違うが、お互い彼氏がバスケ部という繋がりで仲良くなった。
大人になった今でも友達付き合いは続いていたが、お互い忙しく会ったのは半年ぶりだった。
それから私達は久々にゆっくりお茶でもしようということになり、近くのカフェへ入った。
「いやぁ、久しぶりだねぇ!」
「ね!元気だった?」
「うんうん!三井さんは?」
もちろん私と三井さんが付き合っていることも知っているひろみちゃん。
「あー…うん、元気だよ」
「……なんかあった?いや!言いたくないのなら無理にとは!!!」
ひろみちゃんは両手を顔の前でぶんぶんと振る。
「あはは、大丈夫だよ!あのね…」
私はここ半年の出来事を話した。
「…そっかぁ。色々あったんだねぇ」
「あ、でももう解決してるからさ」
「そうなの?まなみちゃんそんな顔してないよ?」
「えっ…」
「あのさあのさ!」
「ん?」
「今日私に会ったことどちらに言いたい?!三井さんと、宮城くん!」
「えっ?!なにイキナリ?!」
「深く考えちゃダメよ!2人とも付き合ってないとしてさ、どっちに言いたい?」
「……っ」
「まなみちゃんがどっちに言いたいかはわかんないけどさ、それが答えなんじゃないかなぁ?」
「答え…」
「だって好きな人には何気ない日常でも、お話したいじゃん?…ってまなみちゃん?!」
気づけば私はポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
『まなみ』
真っ先に浮かんだのは三井さんだった。
今まで考えもしなかった。
何気ない日常がどれほど大切なものなのかということを。
ひろみちゃんと会ったことを三井さんに話したらどんな反応をするか、、、
そんなのだいたいわかる。想像がつく。
けれど、それがどれだけ愛おしい事なのか。
私はそんな気持ちを忘れていたのだ。
「ご、ごめんひろみちゃん!私もう行くね」
「うん!また連絡するね!」
私は急いで自分の車に乗りこみ、エンジンをかける。
向かう先はただひとつ。
三井さんが練習をしている体育館だった。
私が体育館の駐車場につき、車から降りるとちょうど三井さんのチームメイトがゾロゾロと体育館から出てきた。
もちろんその中に三井さんの姿もあった。
三井さんに向かって私は走り出す。
「あ?どーしたお前…って、おい!」
私はガバッと勢いよく三井さんに抱きつく。
「おいおい、愛しの彼女のお出迎えかよ」
「にしても熱烈すぎんだろー」
周りにいたチームメイトから冷やかしの声があがる。
「っせぇよ!お前ら!」
『シッシッ』と手を振る三井さん。
「…まなみどうしたんだ?」
三井さんはゆっくりと自分の身体から私を離そうとするが、私は更にぎゅっと強く三井さんを抱きしめる。
「お、おい…ホントにーー」
「好き…」
「あ?」
「三井さんが好き」
ぎゅぅぅぅっと三井さんを抱きしめる。
「はぁ…あのなぁ…」
三井さんは1つ溜息をつき、バリッと私の身体を無理やり自分からはがし、私にキスをした。
「んな事知ってるっつーの」
「おーい三井ー!お前明日1人ダッシュ追加なー!!!」
「っざけんなよ!」
少し離れて見ていたチームメイト達の笑い声が駐車場に響く。
それから私たちは私の車で三井さんの家へと向かった。
「…なにも聞かないんだね」
「あ?」
「だって…」
私は運転をしながらしどろもどろになる。
「あー、お前が聞いて欲しいなら、いくらでも聞くぜ」
「三井さん…」
「あっ!だけど」
「だけど?」
「ようやっと戻ってきたって感じだな」
「?」
私は頭にハテナを浮かべた。それに三井さんも気づいたようだ。
「まなみが戻ってきたな、俺のところに」
赤信号で車が止まった隙に三井さんは私の頭へと手を持っていき、自分へ引き寄せキスをした。
「だから、早く家帰って愛し合おうぜ?」
ニヤリと笑う三井さんに私は後ろの車からクラクションを鳴らされるまで、信号が青になった事に気付かなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「久々だねぇまなみちゃん」
「ね!もういつぶりかわかんないぐらい!」
久々に私は1人でカイザーに来ていた。
時刻は夜中の1時過ぎ。
周りの客も1人また1人と帰り、私だけになっていた。
「まなみちゃんの愚痴が聞けなくて寂しかったよー」
「あはは!しばらくは大丈夫そうかな」
「……うまくいってんだね?三井さんと」
ホッとしたような優しい眼差しでタケルさんは私を見る。
タケルさん、心配してくれてたんだろうな……。
「うん、お陰様で」
「じゃあしばらくはまたノンアルコールだね」
「さすがタケルさん!よくわかってる!」
ガチャ
「タケルー、まだ大丈夫?」
店のドアが開き、1人の男性が顔を覗かせた。
「…リョータくん」
顔を覗かせたのはリョータくんだった。
「…まなみちゃん」
「いーよ!入んなよ」
「いや…でも…」
「入んなよ」
私はおいでおいでと手招きをする。
私の席から一つあけて、イスに座るリョータくん。
「さーて、俺はお客さんから歌ってって言われてた歌練習させてもらうかなー」
そう言ってカラオケを入れるタケルさん。
私もリョータくんもそんな彼の気遣いに気付いていた。
「どぶねーずみ、みたいにー」
「リンダリンダかよ…」
「あはは、わざわざうるさい曲にしたのかな」
「あ…のさ」
「ごめ、リョータくん。声聞こえない」
スっとリョータくんは私の隣のイスへと移動する。
「…てゆーか、偉そうに入んなよ、とか言っちゃったけど…嫌だったら私が帰るからね」
「ははは、嫌なわけねーじゃん」
リョータくんの変わらない笑顔を見て、少しだけ心臓が跳ねる。
だけど、あの時とは違う。
私の心にはもう揺るがないものがあるから。
「まなみちゃんさ、俺の事好きだった?」
「……教えない」
「あーあ!三井サンには適わなかったかー!!!」
天井に向かって叫ぶリョータくんに私はクスクスと笑う。
「…彼女は?元気?」
「元気だよ」
「そっか」
「まなみちゃん」
「ん?」
「次もし俺に連絡してきたら、どんな手を使ってでもまなみちゃんの事モノにするからね」
「ふふ、怖いから連絡しないね」
「ちぇ、まーた振られたよ」
「あ、私もう行くね」
携帯を見て、私は何枚かの1000円札をカウンターへ置き、席を立つ。
「三井サン?」
「うん。飲んでるからお迎え行かなきゃ」
「そっか」
「リョータくん」
「ん?」
「好き、だったよ。リョータくんの事……すごく」
そう言って私は手を振り、店を出た。
「あーーーもう!ずりぃなぁ!」
カウンターへ突っ伏すリョータ。
「朝まで付き合うよ」
歌い終わったタケルはリョータのグラスに自分のグラスを軽くぶつける。
「どーせ、どんな手を使っても俺は三井サンにゃ、適わねーんだよ」
「あはは、そらしゃーねぇわ」
「んだよ、ちょっとは否定しろよ」
「だってそんな事リョータが1番よくわかってんだろ?」
「…くそっ!」
グイッと酒を飲み干すリョータ。
「まっ、俺は世界で1番まなみちゃんが好きだったよ」
「だった?」
「こーでも言わねぇと踏ん切りつかねぇだろ!」
「あははは!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おう!お迎えごくろう!」
「ご機嫌かよ」
私が迎えに行くと、三井さんはすっかり酔っ払って上機嫌だった。
三井さんを助手席に乗せ、2人が一緒に住み始めた家へと車を走らせる。
「あ、三井さん」
「んーー」
三井さんは窓の方を向き、すでに眠りにつきそうだった。
が、次の私の一言で眠気も酔いも一気に覚めることになる。
「さっきカイザーでリョータくんに会った」
「?!?!?!」
ガバッと姿勢を正しくして、運転席の私の方へと体を向ける。
「あ、よかった。酔い覚めたね」
「は、話したのか?!」
「少しね」
「少しって…」
「リンダリンダ1曲分?」
「はぁ?」
三井さんは訳が分からないと言う顔をしている。
「三井さんには適わなかったって言ってたよ」
「たりめーじゃねぇか、アイツはわかってねぇんだよ」
三井さんは再び窓へと視線をむける。
「何が?」
「俺がどんだけまなみを好きか」
「?!?!」
「お、おい!前見ろ!!」
三井さんのイキナリの発言に慌てた私は蛇行運転をしてしまった。
「あぶねぇなぁ…ってなんでお前が驚くんだよ」
「いや…だって」
三井さんの口からそんな言葉が出てくるなんて驚くでしょ……。
「言ったじゃねぇか。どこにもやんねぇって」
恥ずかしそうにそのまま窓の外を見る三井さん。
私はそんな三井さんがおかしく、可愛く、愛おしく思うのだった。
「あーーー!もう!今でいいか!」
「は?何が?」
三井さんは後ろの席に置いてあった自分のカバンからガソゴソと何かを取り出す。
私は運転中のため、それを見ることができない。
すると三井さんはハンドルを握っている私の左手を掴んだ。
慌ててハンドルから離していた右手でハンドルを握る。
「え、ちょ、なに?!危な……」
三井さんの手から解放された私の左手にはキラリと光るもの。
左手薬指に光るもの。
それは紛れもない、指輪だった。
「…え、えっ?!」
「今日仕上がったから、ホントはもうちょい気の利いた場所で……」
チラっと運転席を見る三井さんは、目に大粒の涙を浮かべている私に気付く。
「おま、おいっ!」
「運転できないじゃーん!!!」
ボロボロと私は涙を流す。
「なら返せ!!」
「なっ、バカじゃないの?!」
私たちはこんな時ですら言い争いをしながら、どうにかこうにか家に着いた。
「で?」
私はリビングのソファに座り、隣にいる三井さんへと詰め寄る。
「あ?」
「あ?じゃなくて!」
私はスっと指輪がある自分の左手を三井さんに見せつけた。
「あ~…だから、だな」
「……」
「あれだ、その……」
「……」
「言わなくてもわかんだろ!」
「……ちょっとカイザー行ってくる」
私は立ち上がり三井さんに背を向ける。
「だぁー!!待て待て待て!」
慌てて後ろから私を抱きしめる三井さん。
「……結婚、しようぜ」
私はくるりと三井さんへ向き直し、そっと自らキスをした。
「喜んで」
恋とか愛とか、形が変わらない物はないのかもしれない。
良くも悪くもずっと同じものはないのかもしれない。
けれど、2人で歩んでいくのなら大丈夫。
2人らしく生きていけばそれでいい。
始まりは幼い恋心だった、大人になるにつれその気持ちは忘れてしまうだろう。
けれど、その時の気持ちは本物で今に繋がっている事だけは忘れないでおこう。