罪 (パターン2)
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「はぁーー、愛されたいんだけどぉ!」
行きつけの小さな飲み屋<カイザー>のカウンターでマスターのタケルさんに私はくだをまく。
「まなみちゃん今日飲むねぇ」
「飲まなきゃやってらんない」
少し派手な見た目で、お酒が強いと思われがちな私だが、実は超下戸である。
「三井さんと喧嘩でもしたの?」
「タケルさぁん!!」
聞いてくれと言わんばかりに私はタケルさんに食ってかかる。
私には高校生の頃から付き合っている男性がいる。
名前は三井寿。
三井さんは2つ歳上で、私がマネージャーをやっていた湘北高校バスケ部の部員だった。
そして今ではバスケットの実業団に入っている。
付き合ってもう10年になるが、結婚の話もなければ、最近は忙しくて会う時間もなかなかない。
愛されている実感がまったく感じられなくなっている今日この頃、不満が大爆発しているのだ。
私達2人はここカイザーの常連客だった。
「たまに電話とかしてもさぁ?!用件だけ話してすーぐ切るし…もちろん甘い言葉なんてくれないし…」
「ははは、まなみちゃんたまってんねぇ」
その時店のドアが開いて、1人の男性が外から顔を出して覗き込んできた。
「タケルー、まだ大丈夫?」
「あ、いいよいいよ!」
私は入ってきた男性をじーーっと見て、大きな声を出す。
「リョータくん!!」
「え?!あっ!まなみちゃん!!」
「あ、そうか。2人とも湘北か」
「まなみちゃん来てるなら言ってくれよ!タケルー!!!」
「や、リョータここ来始めたの最近じゃん」
入ってきた男性は宮城リョータくん。
私の1つ歳上で、三井さんと同じく湘北高校のバスケ部員だった。
いそいそとリョータくんは私の席の隣に座った。
「久しぶりだね、この間試合で会ったのいつだっけ?」
リョータくんも三井さんと会社は違えど同じく実業団でバスケを続けている。
なので、試合で会うこともあるのだ。
「あれっ?まなみちゃん酒飲めたっけ?」
「飲めまっす!!」
「飲めないよね」
タケルさんは私にピシャリと冷静につっこむ。気持ちいいぐらいに。
「三井サンは?」
もちろんリョータくんは私と三井さんが付き合っている事を知っている。
「誰それ」
「わーお、荒れてんね」
私の答えにリョータくんは苦笑いをしている。
するとタケルさんがいきなり大きな声をあげた。
「あぁ!!リョータが言ってた『まなみちゃん』ってまなみちゃんの事か!」
「タケル!!お前っ!」
リョータくんは顔を赤面させ慌てている。
「……どゆこと?」
1人仲間外れにされたようで私は面白くない。
「いやー、リョータ酔っ払ったらすぐ言うんだよね『まなみちゃんはホントに可愛くて超好みなんだよなぁ~』って」
「……じゃあ私の事愛してよぉ!」
そう言いながらカウンターにふせると、急激な眠気に襲われた。
「なぁタケル、まなみちゃん大丈夫?」
「初めてだね、こんななってんの」
カウンターで突っ伏してすっかり眠ってしまったまなみを見ながらリョータとタケルは話をしている。
「大丈夫かよ…三井サン呼んだ方がいいんじゃね?」
そう言ってリョータは眠っているまなみを見ながら、携帯を取り出した。
「いや、俺送ってくよ」
「?!?!」
「俺まなみちゃんの家知ってるし、そろそろ店も閉めるーー」
「俺が!!!送ってく!!!タクシー呼んで!!!」
タケルの言葉を遮り、ガタッっと席を立ち大きな声を出すリョータ。
そんなリョータに目を丸くしたタケルは
「わかったよ、ククッ」と、肩を震わせて笑った。
「これ…ヤバくね?」
俺は大きなため息をつき、自分の家のベッドに横になっているまなみちゃんを見つめながら呟く。
タクシーに乗り、家の住所を頑なに言わなかったまなみちゃん。
「やだ。絶対言わない。帰りたくない。」
これを連呼するので、仕方なく自分の家へと連れてきた。
いや、仕方なく…っつーのは嘘だよな。
家を知っているというタケルに住所を聞くこともできたし、電話番号を知っている三井サンに連絡をする事もできた。
「…俺、三井サンに殺されっかな?」
そっとまなみちゃんの髪を撫でる。
「まなみちゃん?俺あっちの部屋で寝るから、なんかあったら呼んでね」
精一杯だった。
抱きしめたい衝動をどうにかおさえ、俺は部屋を出ていこうとした。
その時ーーー
「…やだ」
まなみちゃんのか細く、小さな声が聞こえて俺は慌てて振り返る。
「…行かないで…1人に、しないで…」
そんな涙声で俺の理性は一気に飛んでいく。
ギシッとベッドに手を置き、俺に背を向け壁向きに寝ているまなみちゃんの顔に手を寄せてそっと自分の方へと向ける。
「まなみちゃん…俺、もう無理だからね」
そう言って俺はまなみちゃんに荒々しくキスをした。
隣には小さく寝息をたて、眠っているまなみちゃんがいる。
俺は起こさぬようそっと髪をなで、その顔を見つめる。
「三井サンは何やってんだよ……」
俺は小さく呟いた。
「いや…俺こそ何やってんだよ…」
まなみちゃんの額にキスをして、俺はそのまま眠りについた。
ーーーーーーーーーーーー
ズキズキ響く頭の痛みで私は目が覚めた。
「ったぁ…」
ふと横を見るとリョータくんが寝ている。
一瞬慌てたが、深呼吸をして心を落ち着かせる。そしてそっとベッドから出て、何も身につけていない身体に服を纏い、音を出さぬよう部屋のドアを開け、寝室を出ていく。
「……」
無言でリビングを見渡すとテレビ台に置いてある写真立てが目に入った。
私はそれを手に取り写真を見る。
その写真には幸せそうな顔で笑っている2人の男女が写っていた。
「起きた?」
後ろから急に声をかけられ、驚いた私は写真立てを落としそうになる。
「リョー…タくん…」
「二日酔いは大丈夫?」
「大丈夫…じゃない」
「はは、だろうね」
リョータくんは私に近づき、ポンと頭に手を乗せる。
反射的にビクッと身体が跳ねた。
「……昨日の事、覚えてない?」
「……」
私は黙って、こくりと頷く。
「まじかぁ…」
リョータくんはそんな私に残念なような、ホッとしたような表情をした。
「や、でも…もう子供じゃないんで、何したかぐらいはわかるよね」
私は下を向き自分の手を握って話す。
「あ、ははは。そりゃそーだよね」
「リョータくん仕事は…?」
「今日休み。午後から練習だけど…」
「そ、そう…」
「う、うん…」
「……」
「……」
沈黙が続く。変な空気が部屋を漂う。
「わ、私帰るね!!」
「待って」
自分のバッグを持ち、逃げるように帰ろうとする私の手首をリョータくんは掴んだ。
「ねぇまなみちゃん…また会える?」
「……」
「連絡、するから」
私は小さく頷き、リョータくんの家を出た。
「嘘、ついちゃったな」
自分の家へと歩いてるなか、ポツリと1人呟く。
『昨日の事覚えてない?』
先程のリョータくんの言葉が頭の中によぎる。
本当は覚えていた。
自分が泣きながら「行かないで」と言ったことも、最中にうわ言のように必死で私の名前を呼んでいたリョータくんの事も。
そんなリョータくんを愛おしく思ったことも…。
全て覚えている。
「なーにやってんだか…」
初めてではなかった。
リョータくんと身体の関係を持つのは。
昔に1度関係を持ったことがある。
三井さんが高校を卒業して、半年ほど経った頃。
なかなか三井さんに会えず、連絡もほぼ取っていなかった私は寂しさに耐えられなくなっていた。
部活が終わり、片付けの後1人部室で泣いていると、忘れ物を取りに来たリョータくんと鉢合わせた。
泣いている私をリョータくんはきつく抱きしめ、今までの想いを吐き出すかのように
「俺にしなよ…」と言いキスをする。
それを拒むこともせず、そのまま私は受け入れた。
けれど、三井さんとは別れられなかった。
なぜ?
それは単純だ。
三井さんの事を好きだから。それ以上でもそれ以下でもない。
リョータくんとの関係はその1回きりだった。
~♪~♪~♪~
「うわっ!」
その時の事を思い出していた私は自分の携帯の着信音で声が出るほど驚いた。
画面には『三井寿』の文字。
「どーゆータイミング…」
出るべきか出ないべきか…
少しだけ悩んでーー
「はい」
私は電話に出た。
『よぉ、お前今どこにいんの?今日休みだろ?』
「あー、昨日友達んち泊まって今帰ってるとこ…」
バクバクとうるさい心臓を抑えながら、冷静を装い話をする。
嘘をつくってこんなに緊張するっけ…。
『それなら後で行くわ』
「えっっっ?!」
『今日練習早く終わりそうなんだよ』
「いや…あの、私二日酔いで…」
『二日酔い?!なんだよ、お前飲めねぇくせに飲んだのか?!』
「あはは…た、たまには」
元々はあんたのせーでやけ酒だよ!とはさすがに言えない。
『別に寝てていーぞ』
「え」
『……久々に顔だけでも見てぇし』
なによ。
そんな事このタイミングで言わないでよ…。
いつもは言わないじゃん。
私が欲しい言葉なんてーー。
心がキュッと苦しくなる。
10年付き合ってきて、三井寿がどんな男かはわかっている。
甘い言葉なんて滅多に言わないし、「好き好き」言うのもいつも自分から。
連絡だって用事がある時にしかしてこない。
髪を切っても気付かない。
私が職場の人に口説かれてると言っても「俺よりカッコイイやつなんているかよ」と、自信満々。
だけど、、、
ここぞという時に私が喜ぶ事を言ってくれる。
髪を切った事に気付かなかったら結局後から「わりぃ…」と申し訳なさそうにちゃんと謝ってくる。
ホントは心配性で、ヤキモチ妬きなのにソレを隠そうと必死なことも知っている。
そんな三井さんが好きだったのだ。
ガチャ…
家に帰り、シャワーを浴びてベッドに潜り込んでいると玄関から鍵があく音が聞こえてきた。
そしてゆっくり音をたてないように、寝室のドアが開かれる。
入ってきたのはもちろん三井さん。
合鍵で私のアパートの部屋へ入ってきたのだろう。
「寝てんのか?」
三井さんは気を使ってなのか、小さな声で尋ねる。
「……うん」
「起きてるじゃねぇか」
そっとベッドに腰をかける三井さん。
「どーせなんも食ってねぇんだろ?なんか適当にゼリーとか買ってきたから、後からでも食えよ」
三井さんは、手に持っていたコンビニの袋をガサゴソとあさる。
そして1つのゼリーを取り出した。
「ほら!お前好きだったろ!みかん!」
「……私が好きなのは桃です」
「うっ…そ、そうだったか?」
気まずそうに目が泳ぐ三井さんに、私の顔は自然と緩む。
「でも、ありがとう」
「おう、俺あっちにいるからな」
「うん……ごめんね…」
「気にすんなって」
私の頭を雑にわしゃわしゃと撫でる。
「ちょ…頭痛いんだって!」
「あ、わ、わりぃ」
三井さんはバツが悪そうに部屋を出ていく。
1人、寝室に残された私は
「痛いのは頭より心かも…なんてねー」
と呟くのだった。
ー数時間後ー
まだ気だるい身体を起こし、私は寝室を出てリビングへとやってきた。
「お、起きたか?」
三井さんはソファに座り、テレビを見ている。
「三井さんお腹すいたでしょ。何か食べたいものある?」
「いや、さっきコンビニで買ったやつ食った。それよりもお前は食欲あんのか?」
「うーん……あんまりないかも」
いろんな意味で。
なんて言えるはずもない。
そっと三井さんの隣へと腰を下ろす。
「頭痛は?」
「だいぶいい…かな」
「お前酒飲めねぇんだから、あんま飲みすぎんなよ」
「うん……」
今はそんな優しさにも心が痛くなる。
「珍しいよな、なんかあったのか?まっ、お前にゃ悩みなんかねーか」
ニヤニヤと笑う三井さんにいつもなら「あんたのせーだよ!」と腹を立てるのだが、今回ばかりは複雑な気持ちでどのような顔をしていいのかわからない。
「……」
「まなみ?」
三井からの呼びかけに私はハッとする。
「三井さんさぁ…」
「あんだよ?」
「なんでもなーい」
「なんだそりゃ」
三井さんはそう言って笑いながら私の頬をつねるのだった。
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