罪 (パターン1)
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「うーん、暇だな」
時刻は夜の9時過ぎ、寝るのにはまだ早い時間。
何より明日は仕事が休みなので、寝るなんて勿体ない!!!
そう思い、私は座っていたソファから立ち上がり洗面所へと向かう。
顔を洗うため……ではなく、化粧をするために。
1人、歩いてやってきた先はーーー
「おっ、まなみちゃん!」
「こんばんはー」
行きつけの飲み屋、カイザーだった。
ドアを開けると、マスターのタケルさんが笑顔で声をかけてくれる。
ーが、店内は大勢の人でほぼ満席状態だった。
「あらぁ、厳しいね」
「大丈夫、あいてるよ!」
タケルさんは忙しそうにしながらも、ひとつの空いている席を指さす。
そこに目を向けると、隣の席には1人の男性が座っていた。
その男性がこちらを向いた時、私はその場から動けなくなった。
そしてその男性も同じく私を見たまま動きが止まっている。
「あ!まなみちゃーん!」
突如別の男性に肩を組まれ、はっと我にかえる。
……げっ。
私に近づき、肩を組んできたのは職場の先輩だった。
何かと絡んできて、一時期LINE等もしつこかった人だ。
「ほらほら!一緒に飲もうよ!」
グイグイと私の腕をひっぱり席につかせようとする。
「い、いや!人いっぱいだし帰ろうかなぁ…」
やんわりとその腕を離し、私は先輩から離れる。
「え?!なら俺も帰るー!送ってくよ!」
ーーーは?!
まじで無理なんだけど。
「大丈夫」と言う私と「いいからいいから」
と言う先輩の攻防戦は続く。
ホント勘弁して。
と、その時私の左腕がグイッと引っ張られる。
「おい、おせーよ」
そう言って私の腕を引っ張ったのは、先程私が動けなくなった原因の人物。
三井さんだった。
三井さんは再度私の腕を引っ張り、グイッと自分の体へと寄せる。
私の体は三井さんの体と軽くぶつかり合う。
「お兄さん、わりいね、コイツ俺と飲むんだわ」
そう言って先輩の前へと立ちはだかる三井さん。
自分よりかなり背の高い三井さんにたじろぎ、先輩はそそくさと自分の席へと戻って行った。
そのまま三井さんは私の腕をつかみ、自分が座っていた隣の席へと私を座らせる。
「モテモテじゃねぇか」
皮肉めいた三井さんの意地悪な言い方。
なのに、胸がときめくのは気の所為なんかじゃない。
……だから会わないようにしてたのに。
私はギュッと自分の左薬指に付けている指輪を握った。
「宮城は?」
「え?」
店内にはカラオケの音がうるさく響き渡り、会話をするため私と三井さんの顔の距離は自然と近くなる。
「おめーの旦那はどうしたんだよ」
「あ…今日友達の結婚式で北海道行ってる」
そうなのだ。
今日リョータくんは遠く北海道へと行っている。
家に1人でいるのも…そう思ってカイザーに来たのだった。
まさかこんな再会があるなんてーー。
「なんだよ、しばらく顔合わさねぇうちに随分しおらしくなってんじゃねーか」
三井さんは私の鼻をつまみながら、にししと悪い顔で笑う。
「お前ここ数年俺の事避けてたろ」
「そ、そんな事は……」
大いにあります。
試合会場で見かけても、私は三井さんを避けていた。
三井さんと別れてから直接話をした事はこの3年間で1度もない。
その間に私はリョータくんと結婚した。
そして三井さんもーー。
「三井さんこそ、今日奥さんは一緒じゃないの?」
三井さんの左薬指に光る指輪を見ながら、私は問いかけた。
「あー、今日実家に帰ってんだよ」
「ついに逃げられたか」
「なわけあるか」
わしゃわしゃと雑に私の頭を撫でる。
まるで昔のように。
「ちょ、雑!!!」
私は三井さんの動く手を止めるため、パシッ!と彼の手を掴んだ。
その瞬間2人の視線はぶつかり合う。
2人の間だけ時間が止まったかのように、場の雰囲気が一気に変わる。
そして三井さんは私の手を掴み、カウンターの下でキュッと握りしめた。
「え、ちょっと……」
「誰も見てねぇよ」
三井さんは私を見ない。
私も視線を目の前のグラスへとうつす。
「そんなに俺に会うのが怖かったか?」
「何言って……」
「俺は怖かったぜ」
そう言って三井さんは私の手を再度強く握りしめた。
そして今度はゆっくりと私の目を見る。
「会ったら…また惹かれちまうからな」
私は何も言えなかった。
「お前もじゃねぇの?」
私は何も言わず、三井さんの指に自分の指を絡め握り直す。
それが応えだった。
三井さんはそれをわかったようで、ガタッと席をたち何枚かのお札をカウンターに乗せ、タケルさんに「また来るわ」と言って私の手首を掴みながら店から出た。
それから私達は無言だった。
無言のままやってきたのはもちろんホテル。
先に部屋に入った私は後ろから三井さんに抱きしめられる。
「10年なんてそんな簡単に消せるもんじゃねぇだろ……」
三井さんの絞り出すような声に私はゆっくりと振り返ると、お互い必死でキスをする。
心の底から求めるようなキスを。
2人が酸素を取り入れるため少しだけ離れたその瞬間ーー。
~🎶~🎶~🎶
私のカバンの中から聞こえてきたのは携帯の着信音。
相手は見なくてもわかる。
リョータくんだ。
そんな予感は的中する。
「……出ろよ、宮城だろ?」
「でも……」
「出ない方が怪しいだろ」
三井さんはベッドに腰掛け、私はその場に立ったまま1つ大きく息を吸って電話に出た。
「もしもし」
『あ、まなみちゃん?!ごめん、寝てた?』
「うん……」
『声だけ聞きたくてさ』
「そ…」
次の瞬間、携帯を持っていない方の腕を引っ張られ、ベッドへと押し倒される。
三井さんに。
『まなみちゃん、どしたの?』
「な、なんでもないよ」
私はパニックだ。
電話口からはリョータくんの声、目の前には天井を背負っている三井さん。
慌てた私は三井さんの胸を押す。
けれど、私の力じゃ押し返せない事はわかりきっている。
『まなみちゃん?』
その間にもリョータくんは電話口から話しかけてくる。
三井さんはというと、私の首筋や頬にキスを落とす。
何度も何度もー。
「ご、ごめん。ちょっと体調悪くて…」
『え?!大丈夫?ごめん切るね!お大事にね』
「……うん」
電話を切り、私は思いっきり三井さんの胸を下から叩くが、もちろん三井さんはビクともしない。
変わりに噛み付くようなキスをしてきた。
「んっ…はっ…み、ついさっ……」
「お前、宮城からの電話で踏みとどまれると思ったろ」
真っ直ぐに私を見つめながら言う、三井さんの言葉は私にとって図星だった。
「んな事させっかよ」
「……だから会いたくなかったのに」
私はそう言いながら三井さんの首へと自分の手をまわした。
神様、あなたはこんな2人を裁くのでしょうかーーー。
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