罪 (パターン1)
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それからは日常が戻ってきた。
仕事へ行き、会える時には三井さんに会う日々。
けど、少し変わった事もある。
「あー…まなみ」
「ん?」
「その…好き、だぜ」
「ありがとう…私も好きだよ」
照れくさそうに言う三井さんを私は微笑ましく眺める。
いわゆる『愛の言葉』というヤツを口に出すようになった。
そしてもう一つはーー。
『たまには店おいでよー』
『そのうち行きまーす!』
そんなタケルさんとのLINEの画面を見つめる。
そう、カイザーへ行かなくなったのだ。
もちろん理由は一つ、リョータくんに会わないため。
リョータくんと最後の電話から3ヶ月たった。
三井さんからの愛情も今ではちゃんと感じているし、たまに喧嘩もするが幸せに過ごしている。
それでもリョータくんには会いたくなかった。
会うとまた揺らいでしまう。そう自分でわかっていたから。
心の奥底にリョータくんがいるのもわかっているから。
このまま時間が解決してくれる、、、
そう思っていた。
「あれーー?!まなみ!!」
休日に買い物をしようと街に出ていた私は声をかけられた。
「アキさん!!!」
声をかけてきたのは、高校の頃からの友人のアキさんだった。
彼女は私の2つ歳上で、海南高校出身だ。
高校は違ったがお互いバスケ部のマネージャーをしていた事もあり仲良くなった。
大人になった今でも友達付き合いは続いていたが、最近はお互いが忙しく会うのは半年ぶりだった。
「にしても久々だねぇ、元気だった?」
「ね、アキさんも元気だった?」
私達は近くのカフェへ入り、久々の再会を楽しもうということになった。
「元気だよー!三井くんは?もちろん続いてるんでしょ?」
アキさんはもちろん私と三井さんが付き合っていることも知っている。
「あー…うん。元気だよ」
少しだけ濁した私の言葉をアキさんは聞き逃さなかった。
「…なんかあった?」
「……」
「言いづらい?」
「ううん…あのね」
私はここ半年の出来事をアキさんに話した。
「…そっかぁ。そんなことがあったのか…」
「うん…あ、でももう今は解決したからさ」
「その割には浮かない顔」
スっとアキさんは人差し指を私の顔に向ける。
「え?!」
「まだ悩んでんでしょ?」
「そんな事なーー」
「一つ質問でーす」
私の言葉を遮りアキさんは話し始めた。
コホンとひとつ咳払いをして。
「今日私に会った事どっちに言いたい?三井くんと、宮城くん」
「えっ」
「あ、今の現状は無視してね。どっちとも付き合ってないと考えて」
「……っ」
「まなみがどっちを先に思い浮かべたのかは聞かないけど、それが答えなんじゃない?」
「……」
「何気ない日常を話したくなる相手。それがそばにいて欲しい人なんじゃないかと、私は思うのよ」
ウンウンと腕を組みながら頷くアキさん。
「なんて偉そうな事言えないんだけどねー、…ってまなみ?!」
気付いたら私はポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
『まなみちゃん』
真っ先に浮かんだのはリョータくんの笑顔だった。
リョータくんの笑顔を見て、人の笑顔ひとつでこんなにも幸せな気分になれる事を知った。
離れたことで、その笑顔が見れない事の辛さも知った。
どこまで自分に嘘をつけばいいのだろう。
いや、言い聞かせてただけだ。
時間が解決…なんて甘いこと思って…。
私は他の誰でもない…
リョータくんに愛されたいんだ。
アキさんと別れた後、私が真っ直ぐに向かった先ー。
それは三井さんのマンション。
きっともう練習は終わって、家に帰ってきているはず。
すると、ちょうどマンションの前に三井さんがいた。
「お、珍しいな、連絡なしに来るなんて」
「三井さん…」
「お前…泣いたのか?」
私の顔を見て何かを感じ取った三井さん。
「とりあえず、入れよ」
三井さんの部屋に入ってテーブルを挟み、向かい合わせに座る2人。
「…なんか飲み物でも飲みながらって、感じじゃねぇな」
「三井さん…」
きっと三井さんは今から私が言う言葉をわかっている…
私はそう思っていた。
少しの沈黙の後、私は喉の奥から絞り出すように声を出す。
「三井さん、私と別れてください」
頭を下げながら言った。
再び少しの沈黙が続き、三井さんが口を開く。
「無理だな」
バッと私は顔をあげる。
「言ったじゃねぇか、どこにもやんねぇって」
「そ…れは…」
私は自分の拳をぎゅっと握った。
「ーーなんてな」
「えっ?」
「いけいけ、俺モテるしよ。他の男想ってるやつとなんかいられっかよ」
「み、ついさん…」
「だぁー!泣くな!それ以上泣いたら…」
「……」
「まじでどこにもやんねぇぞ……だから、ほら、早く行けよ」
そっぽを向き片手はテーブルに肘をつき、もう片方の手で『早く行け』と手振りをする。
「三井さん…今までありがとう」
「……おう」
まなみはそう言って、家を出ていった。
一人部屋に残された俺は「あーあ」と言いながらそのまま大の字で床に寝そべる。
そして手を組み、その手で自分の目を覆った。
浮かんでくるのはもちろんまなみの顔だ。
10年間俺の隣で見せてきた、笑った顔、怒った顔、泣いた顔、喜んだ顔。
今となっては全て愛おしい。
「ははは、キッついな、これ…」
ーーーーーーーーーーーーーーー
私は足早に歩きながら携帯を取り出し、電話をかける。
出るかどうかもわからないが、今すぐにでも話がしたかった。
リョータくんと。
「……お願い、出て…」
長いコールのあと、ようやく「もしもし」と声が聞こえてきた。
「リョータくん?!」
『……どうしたの?』
「…っ、会いたい。リョータくんに会いたい」
『……無理だよ』
素っ気ないリョータくんからの返事。
『今、彼女といるから』
「……私より彼女とるの?」
『当たり前じゃん。じゃあ、もう切るーー』
「…っ、リョータくんは…」
『え、何?』
「リョータくんは!私だけを愛してよ!!!」
私は大きな声でそう言って自分から電話を切った。
「…バカみたい。超自分勝手だし。もう終わってんじゃん」
ぽたぽたと歩道に涙を落としながら自分の家へと帰った。
真っ暗な部屋で着替えもせず、ベッドへと身体を放り投げる。
そして声を出して泣いた。
こんなにあとからあとから出てくる涙は初めてだった。
もうどれだけ泣き続けたのかわからない。身体中の水分がなくなってしまうんじゃないかと、そう思うぐらい泣き続けたその時ーー
ピンポーン
部屋に響き渡るインターホンの音。
そのままにしていると、ピンポンピンポンと何度となく鳴り響く。
「まなみちゃん!俺だよ!リョータ!!」
外からの声にガバッと身体を起こす。
そしてベッドから転げ落ちるようにして、玄関へと走った。
そしてゆっくりと玄関の鍵をあけ、ドアをあけようとドアノブに手を近づけた時、先にドアがあき、グイッと身体が引き寄せられる。
もちろんリョータくんの腕の中に。
「な…んで。彼女は?」
「別れてきた」
「は?!」
「だって言ったじゃん俺、世界で1番まなみちゃんが好きだって。それにさ…」
リョータくんは抱きしめている手をゆるめ、私の目を優しく見つめる。
「まなみちゃん、かなり好きでしょ?」
「え?」
「俺の事!!」
ニヤリといたずらっぽく笑う。
そんなのーーー
「好き……」
「えっ」
「大好き…リョータくんの事が世界で1番好き…」
そう言いながらぎゅっと抱きつき、リョータくんの胸へと顔を埋める。
「ご、ごめん…待って」
リョータくんは私を自分の身体から離す。
「リョータ…くん?」
そんなリョータくんを私は不安そうに見つめた。
するとリョータくんは私から視線をはずし、真っ赤になりながら自分の口元を手で抑えた。
「…は、破壊力ありすぎ」
リョータくんのそんな言葉に私は思わずプッと吹き出し笑ってしまい「なにそれ」とクスクスと笑った。
「そんなに恥ずかしが…んっ」
リョータくんのキスで私の言葉は遮られる。
「まなみちゃん、もう絶対離さないからね…」
「離れないよ…絶対…」
そう言いながら私達はきつく抱きしめあったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あーーあ!『まなみちゃん』には勝てなかったかぁ!!」
カイザーで嘆いているのはリョータの彼女だった子だ。
「え、まなみちゃんの事知ってたの?」
タケルは驚いて、グラスを洗っていた手を思わず止めた。
「知ってましたよー!付き合う前から」
「そうなんだ」
「だってリョータうるさかったですもん、『まなみちゃん、まなみちゃん』って」
「…わかってて付き合ったの?」
「……それでもいいって、私から言ったんだもん」
「え?!そうなの?」
「一緒にいたら、いつか私の事本気で好きになってくれるって…そう思ったんです」
目に涙を浮かべグイッとグラスに入ったお酒を飲む。
「でもちゃんと好きになってくれたよ?」
「…そうだね」
「『まなみちゃん』の次に、ね!」
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リョータくんと正式に付き合い始めて半年がたった。
「今日俺、バスケの飲み会だから遅くなるね」
「了解!楽しんできてね」
「ありがと!」
そう言って私達は触れるだけのキスをする。
「あ、そろそろ出なきゃヤバいね」
「そうだね」
「「いってきます」」
私達は一緒に住んでいた。
朝の出勤時間が同じな為、同時に家を出る。
会社への道のりは違うので、家を出てすぐお互い別の道へと進む。
けれど気持ちの方向はいつも同じ。
2人とも先程のキスを思い出してニヤけるのだった。
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「宮城、お前ホントに最近ニヤけてるよなぁ!」
「だって幸せなんだもーん!」
仕事と練習が終わったあと、俺は居酒屋でバスケの仲間とほろ酔いで楽しんでいた。
最近の幸せそうな俺を見てチームメイトは面白くないらしい。
「おっ!お前らも飲んでんの?!」
そこへやってきたのは別チームの選手たちだった。
俺は1人の人物に気づき思わず「げっ…」と声をもらす。
別チームというのは三井サンが所属するチームだった。
コソコソとその場を離れようとする俺はガシッと肩を組まれる。
もちろん三井サンに。
「よぉ、久しぶりだなぁ??」
「み、三井サン……」
「ちょっと俺コイツとサシ飲みしてくるわ」
「はぁ?!」
三井さんのイキナリの言葉に俺は大きな声を出して驚く。
「おぉ、お前ら同じ高校だもんなー」
「あ!それならよー、宮城のヤツ最近幸せそうだからヤキ入れといてくれよ!」
周りのチームメイトからの言葉を聞いた三井サンは…「任せとけ」とニヤリとしてチームメイトに告げて、俺を連行した。
「カイザーかよ…」
俺が三井サンに連行されてきた場所はカイザーだった。
「まなみ元気か?」
「あ、はい…」
「安心してんじゃねぇぞ?」
「は?」
「俺はいつでも取り戻す気満々だからな」
「ちょっと!!やめてよ!!」
「ぶわっはっは!冗談だっつの」
「笑えねぇよ」
「泣かせたらぶっ殺すけどな」
「……わかってますよ」
「なんでコイツなんだよ。絶対俺の方がカッコイイじゃねぇか。なぁ、タケル!」
「あははは、俺はなんとも言えないっすねー!!」
俺は何よりも誰よりもまなみちゃんの事が大切だ。もう誰にも渡したくねぇ。
けど、この人から奪ったことは事実だ。
大切な人を。
「……三井サン」
「あ?」
「俺、カッコ悪くても…何がなんでもまなみちゃん幸せにするから」
「………たりめーだろ」
三井サンはそう言って目の前のグラスに入っている酒をグイッと飲み干した。
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「ただいまー」
「おかえりー!」
家に帰ってきたリョータくんは、ソファに座りながらテレビを見ていた私をぎゅっと抱きしめた。
「ちょっとぉ?テレビ見えないよぉ?」
クスクス笑いながらもリョータくんの背中へと手を回す。
「まなみちゃん…」
「なぁに?」
「俺を選んでくれてありがとう」
「……え?どうしたの?」
「この先さ、喧嘩したり、不安にさせたりする事もあるかもしんないけど…」
「……」
私は黙ってリョータくんの真剣な言葉、一つ一つに耳を傾ける。
「これだけは覚えといて、俺は世界で1番まなみちゃんが好きだよ」
「……知ってるよ」
「バレてたか」
「超昔からバレてるよ」
私達はクスクス笑い合いながら額をくっつける。
「俺、諦めないでよかったな…」
愛する人に愛される。
人はそれを幸せな事だとわかっているのだろうか。
それが日常になっていく。
当たり前の生活になっていく。
けれど、忘れちゃいけない。
それは軌跡のような事だという事を。